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双黒のアルケミスト ~転生錬金術師の異世界クラフトライフ~  作者: エージ/多部 栄次
第一部四章 錬金術師の波瀾万丈録 王国侵略編
188/214

エピローグ後編 双黒の英雄譚

いつも読んでくださり誠にありがとうございます。

「えー王都修復の件で長引きましたが、本日は改めましてー! 王都と国王様、すなわちアコード王国を救ったアーシャ十字団! 国民の数多の命を救済された蒼炎の大賢者エリシア様! ラザード王に並ぶ"三雄の軍王"ロダン団長殿! 我らが天才機工師のルミアに誇り高きハイエルフ騎士のフェミル嬢! 不死身のクズ野郎ジェイク!」


 ひとりの若者――駅逓局勤めのチェッカーが得意の司会を、壇上で取り仕切る。それを数多くの冒険者や町民らが見上げている。誰もが手に持つはビールジョッキ。バルクの酒場の看板メニューだ。

 ここは満席。人が入りきらなければ、店の外で席を作るまで。カンテラや漂う魔法の光が先の見えない(みらい)と不安を吹き飛ばすくらい、その場と周りを照らしていた。


「そして、大怪物フレイル・コーマを打ち倒した期待の新星! 世界最強の錬金術師メルスト・ヘルメスらの栄光を讃えまして! かんぱーい!!」


 打ち付け合い、響き合うジョッキと歓声。打ち鳴らす楽器は民の踊りと蛇腹楽器(コンサーティーナ)、そして吹奏楽器(バグパイプ)。カウンター前、店の中央に座るアーシャ十字団に向け、全員がジョッキを掲げていた。重なる笑い声に、会話が届かないことも。

 千歓万悦の様子に、誰もが今日を生きる喜びと、感謝を噛みしめているようにも感じられる。


「いやー見たかったぜ、おまえらがバケモノと戦うところ。俺たちの想像を絶した光景だったんだろうな!」

「バカ、ンなこと言うもんじゃねェだろ。それにあそこにいたらまず毒ガスで死んでる」

「地震だけでこっちもそれどころじゃなかったしな。それこそ、世界が終わるんじゃないかってほどによ」

 そんな冒険者の声が十字団に向けられる一方、別の方からも会話が聞こえてくる。


「アレックスさんも本当によく闘ってくれたよ! この場にいないのが残念だけどな、どうしたんだろう」

「確か療養中って聞いたぞ。まだ意識がないって」

「ロダン団長でさえも瀕死に追い込んだバケモノの一撃をもろに喰らったっつー話だ。五体満足で命があるだけ奇跡だよ。普通なら骨一本も残らない」

「メルストにはいつも敗けてたが、さすがは英雄だな。頑丈さが人間じゃねェよ」

「とはいえ酷いケガなんだろ? ゆっくりしてた方がいい」

 後日、アレックス・ポーラーは己の非力さを痛感し、ルマーノから発ったという。もう一度世界を旅し、またも竜王殺しに続く伝説を作るのだが、それはまた別のお話。


「だ、大丈夫かな? 変な目で見られないかな?」

「平気だって! メルスト様はやさしいから、その想いぶつけてきなって」

「う、うん……」

「わ、私も話しかけてみようかな……? 手紙も書いてきたし」

 酒場に勤めるメイドたちが手紙(ラブレター)を手に、そわそわとしている。若い錬金術師にすっかり惚けている様子だ。そんなこともつゆ知らず、男どもは飯だ酒だと飲んでばかり。盛りだくさんの料理は食欲をそそらせ、回る酔いは会場を活気にさせる。


「今日は飲め飲め! 飲みまくれー! ははははは!!」

「おお!? ここで飲み比べか!?」

「いいぞ~、やれやれー!」

 それをカウンターからあきれた目で届けるメルストも、ビールを一口つける。


「結局、みんな飲みたいだけじゃん」

 途端、大きな笑い声が間近で聞こえてくる。店長の大柄な獣人バルクだ。


「だっはははは! そう言うなって、これでも感謝はしてるんだぜ? お前らがあんとき王都にいなかったら、こうやって宴なんてやってねェよ。今頃ここは魔国の領土になってるか、焼け野原になってるって話だ」

「それは否めませんね。聖騎士団様でも一時的に抑え込まれていましたし」

 メルストの隣でミルクを飲むエリシアはうなずく。傍のテーブル席でどっかり組んだ両足を乗せるジェイクは、酒瓶を片手にぼやく。


「こーいうときだけ役に立たたなくてどうすんだってーの」

「ですが、コーマを倒した後に来てくださったのは本当に助かりました。彼らのおかげでより多くの民も救えましたし、瓦礫の撤去も捗りましたから」

「にしてもよ、あんたらここにいていいのか? 英雄として国民に讃えられて、第一区のアローノア王宮でパーティやってもおかしくはねェだろ。他の国からあんたらの活躍っぷりを聴きに来る貴族だって少なくないんだろうし」

 ステージで踊っていたはずのルミアが席に戻ってくる。バルクの質問を聞いていたのか、ジョッキを片手にメルストの右側に寄りかかった。酒の匂いが、彼女の金髪から漂う金木犀のそれと混じる。


「パーティや式典はやったさね。けどメル君とフェミルんが人前に出たり話したりするのすごい苦手だから、そんな馬鹿騒ぎには付き合ってられないって――」

「そこまで言ってねぇよ! 変な風に言い換えんなって」

 勲章親授式と同時に行われた盛大なパーティ。とはいえ、王都の現状もあるので、エリシアの提案の元、後に国外から頂いた食糧やお祝い品等は資金として復興と難民に分け与えたという話もあるが、それを世間が知るのはもう少し後になる。


「でも、あのすさまじさに大変な思いをするのは私も同意します」

「大勢の前ってのは何度経験しても案外慣れないもんだよ。悪い気はしないけど、救世主とか英雄って言われるのはなんか変な気持ちになるし、気が疲れる」

「それがいいのにメル君へんなのー。褒め称えられて嬉しくない人間この世にいるの?」と口をとがらせる機工師。

「わかってねェなバーカ。英雄ってのはテメェを差し置いて人のために何かする奴のことだ。テメェの人生犠牲にするほどアホらしーことはねェってのに、そのアホ呼ばわりされんのは虫唾が走るに決まってんだろ」

「……英雄は、人に、食べ物、分け与える人。わたしは……たくさん、たべたい」

「なんでここで意見一致してるの。てか君らの英雄の基準どうなってんの」

 そうツッコミを入れたところで、さらに盛況な声が店の中央で湧いた。


「きたきたきたぁ! これで5人抜きだぁ!」

「さすが我らがロダン団長! 飲みっぷりも最強だぜ!」

「はっはっは、まだまだいけるぞ!」

 ばたーん! と倒れる屈強な男の前に立つ老兵――ロダンは顔を赤くして大きく笑っている。そこのテーブルには十数本の酒瓶、そして床には酒樽が転がっていた。


「おいテメェら!! 旦那にムリさせんじゃねぇぞ!」

「ロダンさん! まだ病み上がりですのにそんなに飲んではなりません!」

 これにはバルクとエリシアも一喝した。


「す、すまん……」と大きな体をしゅんと縮こませた。それを一瞥したジェイクは骨付きの肉をかみちぎりつつ、

「ホントに死に損ねェジジイだぜ。あれだけ喰らってなんでくたばらねェんだ」

「おまえも大概だけどな」

 メルストは彼の上着一枚越しのはだけている引き締まった胸部や腹部の包帯へと目を落とす。

「テメェに一番言われたかねェ」

 ジェイクの一言に軽く笑って返したところで、ルミアが猫のように体をすり寄せてはメルストに訊いてきた。だいぶ酔っているようだ。


「ねーねーなんでちやほやされるの苦手なのー? コミュ障ー?」

「きつい一言だな」

「自信もちなよ少年~。あんだけ王都でたくさん地震(・・)起こしてきたんだから自身(・・)自信(・・)もつくらいラクラク連()網っしょ――ぶふっ」

「いや自分で言ってツボるなよ」

 酔うとツボの浅さが水たまり程度になる彼女に、ため息を一つ。


「はぁ……つーか、フェミルもあのとき涙目で縮こまってて意識朦朧だったの見たらヤバいって思うだろ」

 ぴくりと反応したハイエルフは、小刻みに震えた。無に近い表情は変わらずとも、青ざめ、瞳の奥が渦巻いているのは明らかだった。


「視線……たくさん視線を感じる……おも、思い出すだけで……」

 人見知りもここまでくるとどうなのか。ルミアは同情どころか、からかった。


「こりゃ奴隷時代のトラウマなのかフェミルんの元からの性格なのかわかんないとこだね~。あ、だから目立ちたがり屋のジェイクも頑なに帰ろうとしてたんだ。あれてっきりお持ち帰り目当てだとばかり思ってたにゃ」

「テメェだろ目立ちたがり屋は。フェミルちゃん、つらかったらいつでも俺に声かけてくれ。いいようにすっからよ」

 懲りない男である。しかしそれを邪険に扱うことはなく、下心ある翡翠の三白眼を、フェミルはじっと見つめた。


「だいじょうぶ……先生や、団長に、メルが……いる、から」

(あっ、これ死んだな)

 察したメルスト。ガシャアン! と完食した皿やグラスごとテーブルをひっくり返したジェイクは、怒鳴り散らす。


「おいメルストォ! やっぱりテメェだけはぶっ殺さなきゃ気が済まねェ!」

「俺だけピックアップされんのなんで」

「ちょっとアンタ! 私ら双子以外の女を物にするなんて、やっぱり隅に置けない変態ね!」

「おまえ話に割り込んでくんなよ!」

 その獣耳に入ったのか、メイドのエレナもさりげなく想いをカミングアウトしつつ、嫉妬による矛先を半ば理不尽に向けた。

「あわわっ、お、おねえちゃんおちついて!」と妹のセレナは止めようとするが、このうるさい酒場では届かない。


「ダメよ、酔っ払いさん。怪我人なのにお店の中で暴れちゃ」

「ひがぼっ」

 カツン、と靴の音。薬師の白い服を羽織る白髪の幼女が、暴獣の包帯に巻かれた腹部にメスをピッと入れていた。麻痺薬でも刃に塗布されていたのか、変な断末魔を最後に、ビターン! とジェイクは白目をむいて倒れる。


「ほら、傷が開いちゃった」

(今のはアナタが開けたんじゃ……)

 そう全員が思うのも無理はない。カウンターに座るエリシアの元へ歩いては声をかけた。


「ちょ、メディさん、こっちも止めべばばばぱばば!」

 助けの声は叶わず、ひとつの稲妻がメルストを襲った。


「決まったぁー! エレナの電撃魔法! 痺れるぜー!」

「さすがの英雄もめんこい女子(おなご)には敵わねぇってな! ぎゃっはははは!」

 俺が何をしたんだと呟きながら床に身を委ねるも、あの終焉の渾沌獣に比べれば大したことないだろと一部の酔っぱらいたちは笑う。


「おお、メディじゃねぇか! 酒場ここに来るたぁ珍しいな!」

「国の英雄様がここにいるなら、感謝の言葉ぐらい用意してなきゃ。アーシャ十字団のみなさん、私たちと王国を救ってくれて本当に、ありがとう」


 深く頭を下げる。それをしかと、十字団全員は受け止めた上で、謙遜の声を出したのはエリシアだ。

「いえ、私たちもメディには感謝しています。怪我人やガスで苦しんでいたみなさんの治療にご協力してくださいましたし、あなたがいなかったらどうなっていたことか」

「そーだよー! メディさまさまなのよさ! だから感謝のハグを」

「気持ちだけ受け取っておくわ」

 両手を広げて飛びついてきたルミアをするりとかわす。ドンガラガッシャンと騒がしい音が後ろで聞こえた。


「せっかくだ、一杯つけるぜ」とバルク。

「あら、じゃあお言葉に甘えて」と一言を返した矢先、店長は怒鳴るような声でテーブル席を一つ開けるよう冒険者の常連に言い渡す。席一つどころか、テーブルひとつ空いた。


 入口でばたつく足音。若い声は耳に届きやすい。

「ほらもう! バカ兄のせいで遅れちゃったじゃん!」

「いいだろ別に! まだ真っ最中だから実質間に合ったようなもんじゃん」

「間に合ってない!」

「まーまー、おかげで私と合流できたんだからさー」

「ポホ~」

「そりゃそうだけど――ってメルストさん!? なんで焦げてるの!?」

「おっ、我らが洋裁師のリーアちゃんが来たぞ!」

「「「うぉおおおおおっ!!」」」

「郵便屋のユウちゃんもだ! いつも新聞と牛乳あんがとなー!」

「おら席空けろあけろ! バルク店長! ふたりに早く飯と酒だ!」

「あんたらリーアとユウをたぶらかす気ならあたしが許さないよ!」

「ルミア、ここで爆発させたら一生出禁にするぞ」

「……あれ、俺の席は?」


「まったく、いつも以上に騒がしいわいここは。工房まで聞こえてきたぞ」

「へい店長! 俺たちの席はとってやすかい!」

「ダグラスの親方にリンケル! おまえらまで来たか!」

「あたぼーよ! メルストの兄貴にゃガラス材や鋼材で世話んなったからな!」

「バルク、あとから追加で工房の野郎どもがくるが、酒はまだあるか?」

「この日のために腐るほど仕入れてきたんだ。どんどん連れてこい!」


「な、なんだか緊張しますね……私、一度もこういうところには行ったことなくて」

「すごい人の数だなぁ。なんとも熱気がすごいね」

「おいおい理髪師のロザリー姉さんにファーマの旦那まで! しかもガキまで連れてどうしたんだよ!」

「いやはや、この子らに一緒に来てほしいってお願いされてな」

「ホルム君とシャロルちゃんだにゃーっ! やーん今日もかわいいのよさ!」

「あ? なんでこいつらがいるんだよ」

「駄犬は引っ込んでな。ロリとショタを怖がらせるだけの害悪な存在はとっとと夜の町の女とよろしくやっていくんさね」

「テメェも似たり寄ったりじゃねーか」

「あ、あの……! メルストさん、い、いますか?」

「ケイビスダンジョンでわたしたちを助けてくれたメルストさんと十字団が、王国を救ってくれたって話を聞いたので、ありがとうを言いに来たんです!」

「なんて健気……!」

「……うれしい」

「まぁお礼と言うなら僕も改めて十字団の皆様と、メルスト君に言いたかったんだ。不作の件も大変助かったからね」

「私も、放火事件のことで一度お世話になりましたし」


「よければ私もよろしいでしょうか」

「シェリア嬢まで! おいおい中央ギルドの仕事は大丈夫かよ」

「ギルドの皆様の代わりに、十字団にお礼を伝えに来たまで。長居はしません」

「せっかくだし一杯くらいどうだ。ツケはこいつらが払っとくからよ」

「「おい店長(マスター)!?」」

「いや女の一杯や二杯くらいいくらでも払うけどさ!」

「アレックス・ポーラーとの決闘の件で彼が勝ったときは常識を覆された気分で、いまもあの戦いを鮮明に覚えています。しかし、まさか歴史的大打撃を与えたあのフレイル・コーマを討伐したことには私を含め、ギルドの誰もが驚きを隠せなかったものです。今度ギルドに顔を出してください。皆様がお礼にいろいろと用意しているようですので」


「おいおい次から次と来るじゃねェか」とジェイク。

「ほらメル君、そこでのびてないで壇上にいくんだにゃ。せっかくこうやってみんな来てくれてるわけなんだし大英雄のスピーチのひとつやふたつ話さないと盛り上がりに欠けるっしょ」

「おいちょ、ルミア、引っ張るなって。いやジェイクやフェミルまでなんでそーいうときだけ乗り気なんだよ!」

「よっ、ビシッと一発かましてこい! メルスト君!」と言っては大きく笑った。

「ロダン団長まで何言ってるんですか!」

「みんなーっ! 盛り上がってきたところで、今回の主役がみんなに向けて言いたいことがあるんだってさー!」

「おっ、なんだなんだー!」

「いい飲みっぷり見せてくれるのかァ!?」

「いいぞ! やれやれー! ぎゃはははははっ!」


 壇上に引っ張られ、背中を押される新世代の若き大英雄。それを遠くから見届けるのはエリシア。彼を見つめる彼女の隣に、メディがカウンター席を登っては腰を下ろした。


「おつかれ、エリシア」

「はい、ありがとうございます」と小さく乾杯を交わす。

「相変わらずお酒が飲めないのね」

「悪酔いが激しいので」

 そう苦笑交じりに言う。


「あなたの酔い方は可愛らしいのだけれどね。むしろ酔った時の方が硬さがほぐれてちょうどいいかも」

「もう、冗談はよしてください」

 少し顔を赤らめると、鈴を転がすように、笑い合う。淑女と幼い少女だが、お互いの関係は歳の(たが)わぬ親友であることに変わりはない。


「変わったわね。この町も、あなたも」

「ええ。今は、皆さまがいます」

「ルミアやジェイクと出会ったときからかしらね、変わり始めたのは。でも、なんだかんだ統率力はなかったわよね。いっつも私のところに悩みを抱え込んできてたのが懐かしいわ」

 くすりと笑うメディに、エリシアは半ば申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「はい……私に至らない点がいくつもありましたので、どこかバラバラでした」

「今はそんなことないようにみえるけれど。また一段と大きく変わったわ」

「皆様のおかげですよ。私自身は変わっておりません」

 そう言いつつも、嬉しそうな表情。その視線は白髪の少女から奥の黒髪の青年へ。惚けるように見つめる彼女に、メディは問う。


「彼のこと、どう思ってる?」

「どうって……メルストさんは尊敬できる方です。強くて、博識で……いっしょにいると安心できて。彼と出会ってから、変わったんです。十字団をひとつにしてくれたのも、メルストさんがいてくれたから」

 ロダンが早く帰ってきてくれたのも、まだ完全に心は開いていなくとも、奴隷だったフェミルが友人方と楽しく過ごしているのも、犯罪者だったジェイクやルミアが町の一員として友好的に溶け込めるようになったのも。

 飲んでいたドリンクも口をつけることはなく、その両手で包むように握っていた。


「メルストさんが、私たちを変えてくれました。そして、この国の運命も。……本当に、素晴らしい御方です」

「あなたの口ぶりだと、まるで神様として拝んでいるみたいね」

「ふふ、そうかもしれませんね」

 遠くを見る目。それはこの先の未来を見ているのだろう。闇に沈みかけた世界に差す、夜明けのような希望ある未来を。


「彼はきっと、この世界を救ってくださる神様だと。そんな気がするのです」


 尊敬の眼差しを向ける親友の姿に対し微笑する。しかし、どこか寂しそうな目を浮かべていなくもない。返事がなかったことに、エリシアは気づく。


「メディ?」

 だが、それを淑女のような笑みで返すだけ。


「なんでもないわ。そんな神様に対して、随分と好意的なのね」

「へっ!? そっ、そんなことは」

 顔を真っ赤にし、あたふたと弁解を唱えようとする。またからかわれてしまうと思った矢先。


「ほら、行ってあげなさい。傍にいたいんでしょ」

 意外な一言に少しだけ戸惑うも、すぐに花咲くような満面の笑みを浮かべた。少し照れくさそうにしながらも、はっきりとした返事だった。


「……はい!」

 その返事を最後に、壇上に立っておろおろしている想い人の元へと駆けていく。その遠ざかる背中を寂しそうに見つめた。ブルドッグのカクテルを口につけ、こぼすようにつぶやいた。


「エリシアも素直になったわね。ちょっと()いちゃったかも」

 そう笑う一方。

 中心で蒼髪の少女らと笑う、黒い双眸をもつ漆色の髪の青年。それを青い瞳が見つめる。


「"双黒"の錬金術師(アルケミスト)……ね。彼の存在によって"時代"と"世界"は大きく動くでしょうね。貴方の望んだ"未来の希望"は、彼に託されたのかしら」

 その顔つきは、とても少女のそれではなかった。頬杖をつき、浮かべるニヒルな笑みは何かを懐かしむようなそれだった。


「ねぇ――ヴェノス」


 死した魔王は、彼を……双黒者の行先を見ているのか。

 ただ一つ言えることは、今を生きる者たちが時代を切り拓き、世界を作っていくのだと。時や記憶も留まらず、流れていくものだと。

 薬師は、白いウォッカと共にその思いを肚の奥底へと飲み込んだ。


第一部、完結。


ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

化学と戦闘と熱くクサい台詞が大好きな中二病の僕が趣味全開で書いたものですので、読者の皆様を置いてけぼりにしているだろうといつも考えていました。しかし、思いのほか多くの方々に読んでいただいている上、誤字等のご報告もいただいていますので本当に嬉しいです。大変励みになります。


そのうえでこのことをいうのは差し出がましいかと思いますが、ほんの少しでも面白い、続きを読んでみたい、目は通したよ、まぁ悪くはないかなと思いましたら、感想やメッセージでコメントくだされば幸いです。いいね感覚で一言くださるだけでも、作者の執筆意欲どころか生き永らえる糧になります(割とマジ)。


お気に入り登録やご評価も、よければしてくださると大変うれしく思います。評価される人数や登録される人数が一人増えるたびに感謝を声に出すくらい喜んでいます。


次回からは第二部一章に入りますが、プロットの見直しやある程度のストックを作っておきたいので、しばらく準備中といたします。(個人的に)おもしろいと思えるストーリーをこれまで通り全力で書きたいと思います。文字数にはなるべく気を付けます(汗)


その間、代わりと言っては何ですが、本作の世界観設定や用語集、資料的な回を設ける他、可能でしたら番外編のお話を(気が向いたら)投稿しようと考えています(予定(未定))。


それでは、第二部"ミステム錬金学会編"をお楽しみに…!(楽しみにしている人がいるかわかりませんが、少なくとも僕は楽しみにしてます(笑))


追記:

あけましておめでとうございます。

設定集(一部)を除き、プロット構成のメドが立つのは2021年2月以降になるかと思います。事故等、作者自身の身に何か起きない限りはエタることはありませんが、新章の投稿はまだまだ先になりそうですので、ご了承願います。読者の皆様が読みたいのは設定ではなく物語であることは重々承知しております。拙作を楽しみにしている方がいましたら、誠に申し訳ありません。


追記(R3.1.8):データが入っていたPCのハードディスクがクラッシュしてしまい、設定集含め、執筆していた分のほとんどが消え去りました。再執筆のため、設定集および第二部の投稿はさらに時間がかかると思います。私の不手際でこのような事態に陥ってしまい、誠に申し訳ありません。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い! いつになるかわかりませんが次の更新を楽しみにしてます。
[良い点] 祝!一区切り!! 一時期どうなるかと思ったけど、大体みんな助かってよかったよかった [一言] 面白くて長編のエタってない小説って本っ当に貴重 作者さんには感謝感謝
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