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2-2-4.もう一人の仲間

「奴隷? 先代国王が即位して以来廃止されたんじゃなかったの?」

 セレナが提供してくれた、バルク店長お手製のデザートを食べながら物騒なネタを聴く。ハチミツシロップとミルクソースがかかったパンケーキ。生地自体にはそこまで味がないも、ハチミツの甘さがスポンジのおいしさを引き出している。


「国は廃止したと宣言してる。けど、一部のクソ野郎共が組織結成して、他の国の闇市と手を組んでいるらしい。珍しい種族の人種や、容姿も魔力も長けた貴族の子どもとか攫われてんだと」

「奴隷市場って、やっぱり異世界にはつきものか」と物を飲み込んでからメルストは呟く。


「どういう意味?」

「いや、どこの場所にも奴隷商売ってあるんだなって意味」

 そう誤魔化しては、腕を組むバルクの話を引き続き聞いた。


「そんな市場が今度、オークションを開くらしい。いろんな貴族がそこに集まるそうだが、この国で人身売買は法外行為だってのは分かるな?」

(法律以前に倫理的にアカンでしょ)

 しかし口にせず、最後の一枚のパンケーキにフォークを突き立てようとしたところ、横からルミアに取られ、彼女の口へと運ばれてしまった。


「で、場所は?」

「ここからかなり遠いぞ。第9区の代表都市"ディスケット"の地下だ。詳細は知らんが、一番王都から離れていて、国境に隣接している。密輸してるし、入口は国内にはないだろうな」

「安定の大転移魔法エリちゃんテレポート使うしかないね。じゃああたしは国内から入れるに賭けるにゃ」


「なんでもいいが、相手はただの商人とかじゃあない。全員、亜人族リニアのような獣人奴隷を捕まえるだけの実力はある兵士級ソルジャークラスだ。もしかしたらその区の騎士団でも手こずるような――」

「兵力に被害が出るなら、尚更あたしたちの出番ね。応援要請は……後始末程度でいいか」

「ま、これで言う事は全部だ。この情報は結構高いぞ~。そいつら抜け目ない分、情報入手するのに苦労したんだからな」


「じゃ、それもツケに回しといて」と言いながら席立つ。ごっくんとパンケーキを飲み込んでは、

「サンキュー店長。先生にそれ報告しなきゃだね」


「なぁ……まさかその奴隷オークションに行くのか?」

「そだよー♪ 久しぶりの大きな仕事になりそうだし、メル君もがんばってね。さっきの見る限り、戦える実力はありそうだし。剣はまだまだだけどねっ」

 ウインクし、ニッと笑うルミアは、メルストの力を買っている。どこか楽しそうだ。


 しかし、戦い、という言葉にメルストは物怖じしていた。

 スポーツを通じての武力なら多少なりかじってはいるが、ケンカなんてしたこともない。暴力を受けた経験はあるも、人どころか物に八つ当たりさえしない彼には酷な話だ。

「『裏社会で暗躍する仕事をしてるのかこの人たちは!?』みたいな顔をしてるけど、正確にはそれも含む、ただのエリちゃん先生の"慈善活動"をしてるにすぎないよ」

「……? つまりどういうこと」

 訊き返した言葉が耳に入ってなかったのか、バルクが遥かに大きな声でルミアに尋ねる。


「小さくねぇ規模の仕事だが、3人で足りるのか?」

「足りないことはないけど……やっぱ厳しいだろうから"アレ"呼ばなきゃいけないのがねぇ」

「ああ、アレか」

「あれ?」

「ん? メルストはまだ"アレ"には会ってねぇのか」


 ルミアとバルクは半ばあきれた、いや、若干嫌そうな表情で誰かのことを思い出している。セレナをはじめとしたメイドたちや、周りの客人たちもその人物のことを知っているのか、「あれはちょっとな」と言わんばかりの表情だ。


「言ってなかったんだけど、いや言う必要ないんだけどね、実はもう一人いんのよ。あたしらの家に一応住んでるやつ」

 そう言われ、若干驚くのもそのはず、家にはエリシアとルミア以外に誰かが住んでいる形跡もなければ、個室すらなかった。

「ホントに? 今まで見かけなかったけど、どんな人なんだ?」

「どんな人も何も、女と金に目がない寄生ヒモ男。中身がもう純粋なくらい不純で、人として終わってるゲスの――」

「待て泥棒ーっ! 金返せェー!」


 急に外が騒がしくなった。怒号が店の外から聞こえ、気になったメルストは入口で様子を見てみる。

 酒場前の通りの坂下から一人の青年が慌ただしく走ってくる。その後ろには赤の配色がメインの団服を着た2人の男たちが青年を追いかけていた。

「先月返しただろーが! 今月ぐらい大目に見たっていいだろ!」


 大声で叫ぶ20代前半の青年。近づくにつれ追いかけられている彼の特徴が鮮明になる。短い髪は赤茶のツーブロック・ネープレスで、瞳はエメラルド。190cm前後だろうか、長身の割にがたいはよく、革鎧を着ていても分かる引き締まった体に、勇猛さ漂わす整った顔。だが、今の叫び声の荒々しさといい、粗野で短気そうな雰囲気だ。


 店の前で踵を返し、青年と赤い団服の壮年の男たちが向かい合う。酒場の窓から覗く野次馬の声を横から聞き、追いかけているふたりは町の中央区から来た治安ギルドの団体だと知る。いわゆる町の警備隊だ。


「馬鹿言うな腐れ外道! 盗賊共の首と魔物の死体だけギルドの入口に山積みしてなーにが借金返済だ!」

「バーカ! あの首ぜんぶで懸賞金30万C(セイン)するだろうし、魔物もまとめて売れば獲得金20万C! 合計50万Cで大返済じゃねぇか!」

「100万越えてんだよ貴様の借金総額は! いいからさっさと返せ!」

「……くそっ、構ってられるかってーの」


 彼らの声を無視した青年はそのまま石橋へと逃げようとした――が、「あ」とぽつり言っては突然踵を返す。

「こいつら殴った方が早く済んだな」

 物騒な一言を呟き、ギルド団員の方へ迫っていく。その唐突な気の変わりように一瞬だけギルド団員は呆気に取られていた。


「おい、くるぞ!」

「刃向ってきたなら仕方ない――"石縛・リガーロック"!」

「うぉっ!?」

 壮年男性の一人が杖を構えては魔法詠唱し、突如青年の身体が石のように硬直する。走っているポーズのまま地面に倒れた。


「"英銃士ジュネイルの火砲・シャワーボーライド"!」

 続いてもうひとりの詠唱。眩く発光した手から無数の火球が青年めがけて放たれる。横殴りの雨の如き火球が、着弾した途端に小さな爆発を連発させ、爆風が渦を巻いた。


「うわっ、職業組合ギルドも派手にやったねー。平和の町の看板はどこへやら」

 目の前で花火を見ているようだ。爆発が好きらしいルミアは活き活きとその様子を見ている。今の彼女に心配という文字は一切ない。日常茶飯事なのだろうか。

 対しメルストは絶句し、唖然とする。

(正当防衛とはいえ、ただの借金背負った人間にあそこまでしなくても――)


「あ゛ぁぁあウザッてぇ!」

 爆炎の中から青年が矢のように飛び出てくる。ギルド団員はもちろん、メルストも目を丸くした。

「なっ、効いてないだと!?」

「効いとるわ加減知らずが! 痛ってェんだよ!」


 怒鳴り散らし、抜刀することなく薙いだ剣の鞘と、ブレーンクローからの投げ飛ばし。ほぼ同時に繰り出された早業を前に、民家や酒場の壁へ団服の男たちはそれぞれ吹き飛ばされた。強く激突したのもあってか、彼らの意識は失っている。


「……まさかと思うけど、アレ?」

「うん、アレ」

 ふたりして青年の方へ指をさす。「エリちゃん先生青ざめるだろうなぁ」と半ばあきれ笑いながら彼女がつぶやく。予想外の人員に冗談じゃないぞ、と物申したくなる彼だった。


「あ~くそったれ。お、いいところに。酒場にいるってことはそれなりに持ってるってことだよな?」

 鞘を腰に差し、気安くルミアに声をかけたと思えばカツアゲ発言。近くまで来ると、バルクほどではないが少し見上げる形となる。背の低いルミアと並べば、まるで大人と子供だ。

「人間失格下賤野郎に貸すお金なんてないね」と腕を組んだルミアはじと目を向け冷たくあしらった。

 全く物怖じしていないあたり、彼女も相当の肝が据わっている。対し男は舌打ちを鳴らし、


「黙って有金出せばいいものを。……おい、そいつ誰だよ。見ねぇ面だな」

 ガンを付けられ、メルストは少し脅えてしまう。先程の盗賊の比にならない威圧が押しかかってきていた。

「新しくいっしょに住むことになったメル君。詳しいことは後で話すから、いっしょにウチまで来て」

「あぁ? 仕事でも入ったか」

「まーね。アンタにとっちゃ、結構なお金になる話だし」

「まぁた馬鹿賢者の慈善活動か? ったく、面倒だが……金になるならいつものボランティアよりマシだな。いいぜ、その話ノッた」


 ニッと歯を見せては嗤い、傍でのびていた団服の男の懐から財布袋を抜き取っては石橋の方へ先行く。やはり大賢者の家に住む一人だというのは本当のようだ。

「ルミア、あの人って……」

「ジェイク・リドル。ただのチンピラだよ」

メルスト「嘘だろ…美少女ふたり、それもひとりは王女という! そんなハッピーライフ待ったなしの異世界生活! かと思ったら既にDQNみたいなチンピラが住み着いていたなんて! 聞いてねぇぞ!」

エリシア「どうかなさいましたか?」

メルスト「エリシアさん、あの男になんかされてない? 怖い思いしてない? てかなんであんなのいるの!?」

エリシア「え…? あぁ、ジェイクのことですね。確かに目に余る行動はありますし、更生には手を焼いていますし、短絡的な一面もありますが、彼にもそれ相応の事情はありますので私たちのもとにいさせていただいているんです」

メルスト「半分犯罪者みたいな人が町中にうろついている時点で訳ありなのはわかるけども」

エリシア「お気持ちはわかります。ですが、今は丸くなった方ですよ」

メルスト「あれでか」

エリシア「それに、大体はルミアが爆撃で何とかしてくれていますね」

メルスト「そこまでやらなきゃいけないタイプなの!? あとよく生きてるねそいつ!」

エリシア「さてと、次回は本格的にお仕事をしますので、しっかり準備してくださいね、メルストさん」

メルスト「え、準備って、何を? まだ初期装備な気がするんだけど何のアイテム買えばいいの俺」


【補足】

1 Cセイン=0.96 円

ほぼ日本円と同じ扱いで大丈夫です

※尚、奪われた財布は抜かれることなく持ち主のもとに返されました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 正義を振りかざす賢者様に義憤から厄介事に首突っ込む主人公もいるのに 借金して開き直ってるようなクズを更生させる事もなく、このままの性格でメインキャラとして居座るんだろうなぁと思うと続きを読む…
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