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双黒のアルケミスト ~転生錬金術師の異世界クラフトライフ~  作者: エージ/多部 栄次
第一部四章 錬金術師の波瀾万丈録 王国侵略編
160/214

4-11-4.楽園と修羅場の表裏一体

若干の下ネタ描写に注意

 やばい。やばいやばいやばい。

 成り行きとはいえ、弁解も言い訳も通じないろう。他の男たちのように手放しで喜べるほど、彼は楽観的ではなかった。


 女湯に男一人。それが何を意味するのか。一瞬のハーレム、そして社会的人生の終わり。どんなに気のいい彼女らでも、裸同士で語れるほど気を許してはいないはずだ。前世の世界なら一発アウトだろう。

 男メルスト、ここに散る。そう言わんばかりに彼の表情は諦めと不安と恐怖、そして男としてのわずかな期待感を悟っていた。


("時空転移"で逃げるのもひとつだけど……いまルミアに触れられてるからリスクは高いな。まさかこんなどっかのラノベかギャルゲーみたいな展開があるなんて思わねーよ……あぁ、ドキドキするけどその後が怖い……)

「あ、ちなみに転移とか使って逃げたらこのこと、外にバラすね」

 まるで思考を読み取ったうえでの発言。びくりと体を震わした。


「そこまでして俺をここに連れていきたい理由を知りたいんだけど」

「メル君のことが大好きだから」

「……からかうなって」

「あ、ドキってしちゃった? かーわいいー! メル君しゅきしゅきだーいしゅきー」


 そう言ってまたも左腕に抱き着いては肩にほおずりする。猫なで声で甘えてくるも、メルストは感情を殺し、俯瞰的な視線になっていた。これは罠だと思い込ませることで、理性を保っている。彼なりの清く正しい対処法なのだろう。


「あんまりそういうこと軽く言うなって」

「もぉおカタいなぁメル君は。硬くするのは下だけに――」

「うるせぇなってねぇよ」


 腰に巻いてるタオルを気にしながら、ただルミアの手に引かれる。湯気でよく見えない。とはいえ、何もみえないわけではない。妖精の仄かな明かりがなければ慎重に歩かなければならなかっただろう。

 女性の声が聞こえてくる。一気に心臓が締め付けられ、高揚感と冷や汗が同時にくる。


 湯気から出ると、確かにそこは男にとっての憧れの地だっただろう。美少女が裸体で湯に浸かり、無防備な様子でくつろいでいるのだから。

 ちょうど傍の温泉には胸あたりまで浸かっているユウと、膝までしか入らず、石に座っているリーアが談笑していた。ルミアに気付き、そして異常事態(メルスト)に気付いた。


「きゃあっ!? ななななんでメルストさんが――ってなんで連れてきたの!?」

 短い悲鳴と同時、バシャンと飛び込むように裸体を湯に隠した。火照った体がさらに熱くなっている。


「ごめん。これはマジでごめん」と顔を逸らして謝る。この状況でどう謝ったところで大して意味はないだろうが、とりあえず女性の悲鳴で傷心を負った彼は、それを隠すように彼女たちから顔を見られないようにした。


 ただ、問答無用で男を排除する思考ではなく、すぐにルミアに問題がある事を察知した彼女に尊敬の念を覚えるメルストであった。それも時間の問題だろうが。


「まぁいいじゃないの。メル君はそこらの獣とは違って安全だにゃ」

(要は奥手のチキンか異性として見られてないということか)

 彼女の弁解に安心と複雑な気持ちを覚える。

 リーアが紅潮し慌てふためく一方で、「んー?」とゆっくりと振り返ったユウはいつもどおりの様子でのんびりと手を振った。


「あ、メルストさんだ~やっほ~。通報しとくね」

「そこはちゃんとのんびりしてなくて安心したけどそれだけはやめてくれ。こればかりは不可抗力だったんだ」

「とかいっちゃって~、まんざらでもなかったんでしょ~」

「いや、それは……」と口ごもる。それにはユウとルミアはにたにた顔だ。


「め、めっ、メルストさんの変態!」

「うぉっと!?」

 お約束かの如く投げつけられた桶がメルストの顔面を直撃――することはなく、片手で受け止めてしまう。しかしその隙に、耐えきれなくなったリーアはざばぁと上がり、あわただしい足音を立てて逃げていった。

 一瞬だけ目に映ってしまった彼女の健康的な肌色の締まった(でん)部に、思わず鼻血が出そうになる。それに気づいたのか否か、ルミアは、


「いやー面白そうなことになりそうだね、こりゃ」

 そうケタケタと笑った。


「おまえ……」

(俺とみんなの反応を楽しむためだったか)

 そのとき感じた、刺さるような殺気。いつもなら背後を確認し、周囲を見渡すだろう。だが、今回はそれをしたが最後、死を迎えると察した。目を瞑り、手で隠し、下を向いては見てませんよアピールを繰り出す。


 案の定、殺気の正体はフェミルだった。ひたり、という足音と彼女から香るいつもの森林の匂い。メルストが一番警戒していた対象が、いま目の前にいる。


「……ルミア」

 一段と重い声。ひっ、とメルストの体がびくんと恐怖に慄く。しかしルミアはいつもの調子だ。懲りる様子が微塵にも感じられない。


「いーじゃぁんフェミルぅん。これも立派なスキンシップだにゃ」

「……メル」

「な、なんでしょう」

「こっちみたら……刺す」

 サァ、と血の気が引いていく。これは本気だ。


「殺意で十分胸に刺さってるのですが、いやなんでもないですかしこまりました痛ァ゛!?」

 ルミアが掴んでいたメルストの手を、そのままフェミルの抱き余るほど豊満なふところに押し付けようとしたのだろう。反射的な速度でフェミルは無表情のままメルストの腕を叩き落として男との接触を防いだ。

 なにも見ていないメルストにとっては突然の理不尽な痛みに訳が分からない状況だっただろう。


「えー見ないの? フェミルんのスタイル抜群で鼻血待ったなしなのに。ほらほらぁ、このすべすべの柔肌に精霊族ならではのふんわりした森の香り。女のあたしでも扇情的に感じちゃうほどだし。フェミルんの抱き心地最高よ?」


 メルストから手を放し、彼女と肌を重ねては、正面からフェミルの各上下に富むふたつの双丘をその小さな手で堪能し始める。両手いっぱいに広げてもあふれ出る様は弾力があるも柔らかい性質を実にきわどく体現している。

 むにゅむにゅともみくちゃにされ、好き放題いじられているにも関わらず、フェミルは無反応。されるがままではあるが、どこか同情の目を向けてなくもない。ただ、そこに殺意がないことは確かだ。


「……」

「おまえはいいよな! そんな言動しても許されるんだから!」


 そう目をつぶったまま声を上げるメルスト。だが、フェミルも仏ではない。

 ガツンと痛そうな音が傍で聞こえ、遠ざかる足音と殺気に、ゆっくりと目を開ける。案の定、叩かれた頭を押さえるルミアしかいなくなっていた。

「あたたぁ、ちょっと味わいすぎちゃったにゃ」

「そりゃ同性だろうと嫌なもんは嫌だろ」

「じゃあ次いってみよー!」


 コロッと切り替わり、またも引っ張られる。辛うじて、聞き覚えのある声を湯けむりの中から聞こえる。またも心臓に悪そうな相手だと予想する。

 男湯にもあった、壺湯。そこに小柄な双子が狭くも仲良く入っているのを目にした。異性として以前に、ペット感覚で見てしまっているのか、癒される感覚を抱いてしまう。


「……狐なのに風呂好きなんだな」

 だが男がどう思おうが、問題は彼女らがどうとらえるかだ。案の定、両者――妹セレナと姉エレナ――は頓狂な声を発し、顔を真っ赤にしては胸元を両腕で隠した。


「めめめめめメルストしゃん!」

「は!? ちょ、バッ、じろじろ見てんじゃないわよ変態!」

 ハッとした彼は後ろを向く。

「ああいやごめん! しかもふたり一緒に壺風呂って……和むというか、なんだかんだ仲いいんだなって思って」

「よ、余計なこと言わないでよ! ていうか、あんたって……頼りなさそうなくせに、その、いい体……してるのね」

「じろじろ見るなよ変態」

 顔を赤らめ、まじまじとメルストの裸体から目が離せないエレナ。

 壺から顔だけを出すふたりに、ルミアは閃いた顔を浮かべる。


「ふたごちゃん、せっかくのメル君なんだからもっとスキンシップしてみたら? 例えば背中を流すとか。普段見られないメル君の一面が見られるかもよ~♪」

 そう言いながら、メルストに密着し、頬をぷにぷにつつく。


「ちょ、おまえ何を言って――」

「そいじゃ」

 メルストから手を放し、湯けむりの中へと消えていった。とはいえ、遠くで様子を観察して楽しむのだろう。ついに解放されたと刹那安心したが、ふたつのまなざしがメルストを捉えた。


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