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双黒のアルケミスト ~転生錬金術師の異世界クラフトライフ~  作者: エージ/多部 栄次
第一部四章 錬金術師の波瀾万丈録 王国侵略編
156/214

4-10-8.大収穫終盤戦 ―SMASH at DAWN―

よくわからない化学っぽい描写がそこそこありますのでご注意ください

4章第10話、完結。


 呪文を唱えるように、あえてそう声に出した。


「――"開始(クリック)"!」


 プラズマ漏れる掌の中で行われる"物質創成"・"物質構築"・"物質分解"能力の同時並行発動。

 それによる物質(ライブラリ・)設計(シミュレーション)と、高速選別(ハイスループット)、そして最適化(オプティミゼーション)。そして導き出した物質(デザイン)を、単器(ワンポット)ならぬ手中(in Media)合成する。

 複数の元素を創成、そして構築した。 


("開環発動(リングオープン)"――"多元系複合共重合体(MCBC)"を"重合(ポリマリゼーション)"!)


 "木命素(プロティフ)"と"燧方素(サイレックス)"、そして"卑素(シュケティニウム)"。

 それらを主骨格に組み込んだ、"有機無機(ハイブリッド)複合高(マルチブロック)次分子(コポリマー)"。6種以上のユニットを整然に組み込まれた高分子構造は、あらゆる機能性(ファンクション)を兼ね備えている。


 それは彼の両腕を侵食し、プラズマの熱によって黒銀の刺々しい鱗と化す。だが、それは副産物。主成生物は手中にあった。

 弾ける創造の雷越しの漆黒の瞳に、見るも輝く光が帯びる。


("精製(リファイニング)"・"大量合成(スケールアップ)"……成功(よし)。重合率99.6を確立、分散度(ディスパーシティ)も1.1以下。"生長(リビング)"を維持して――)


「"解放(インジェクション)"!!」


 両手を左右にバッと大きく広げ、放たれたのは透明な粘性物。それはプラズマとともに滝のように無尽蔵に吐き出される。樹のように、下流へと下る川のように、枝分かれしては意志を持つように重力に逆らった。

 地を駆け、空を翔るそれらはまるで、メルストの腕が無数に生える触手となったかのようだ。


(どこまで俺の意思が通じるか次第だけど、やるしかねぇ!)


 やがてメルストに迫っていた触手にまとわりつき、そして全体を覆うようにその粘性体の手を伸ばしていった。

 鬼手に触れた途端、実体化したかのように無色透明から白色に固化し、より一層細かい繊維と化す。それらも互いが絡み合い、そして鬼手の纏う黒に染まった水を吸い上げる。


「あいつの腕からスライムみたいの出てきてるぞ、それも大量に!」

「召喚魔法か!?」

「それとも水魔法……?」

「でも、あいつの魔力ってほぼないはずじゃ」

「なんだあの魔法は……!? あんな山みたいなやつを抑えたぞ」

「怪物の動きが鈍くなってる! なんだか痺れてるみたい」


 メルストが創成した物質は、高精密かつ複雑な有機無機(ハイブリッド)高分子(ポリマー)だけではない。ある物質も共に創ってはいた。


(思ったよかしっかり効いてるみたいだな。水相の皮膚しかないおかげで、他の薬剤の混合や可溶化剤のことを考えなくてよかったよ)


 テトラカイン誘導体。Na+(ナトリウムイオン)チャネル阻害作用、いわば局部麻酔の効果をもたらす物質が分子の架橋(ヒドラゾンリンカー)を通じて、無数の巨大な腕を形成する"複合共(マルチブロック)重合体(コポリマー)"の側面に装填されていた。


『錬金術師の両腕より召喚した水系魔物のような無数の腕が、超巨大魔物を包み込み、縛り上げているようにも見えます!』


 鬼手を守る水の層は比較的低いpH(ピーエイチ)――反応を促し活性を与える水素イオン(プロトン)の濃度が高い状態、いわば酸性寄りであった。


 絡みついた高分子がその領域に含浸したことで発生する極性の差。溶解度の差。pHの差。それらが刺激として錬成高分子の構造をスイッチのように切り替える。架橋(リンカー)を切り離すことで毒物を放出させた。


 鋭敏な感覚が失われた今、幸い暴れることなく勘ぐるように触手をゆっくりと動かしていた。その間にも高分子の腕は(ツタ)のようにその巨体に絡みつき、架橋(つなが)り合い、網のように捕縛される。


(大体抑えたな――)


 そして、制御下の全分子に熱を与えた。


「"完全熱分解(TDハンドレッド)"!」


 一瞬の発火は、この夜を照らす夜明けの一筋かの如く。絡み合ったメルストの合成腕は瞬く間に炭化し、さらなる加熱でそれすらも大気中へと分解されて消えていく。それは鬼手から流動性と保水性を奪った。


『あぁっと! 覆い尽くさんばかりの白い網が、一瞬、だが一斉に燃え上がった!? 泡沫に散りゆく火の山に思わず見とれてしまったが、これには相手もひとたまりもなさそうだ! 見るからに水分を奪われ、枯れています!』


 驚きと感嘆の声を上げる司会(チェッカー)とそれに続いて鳴く鴉竜(ストライプス)。なんだあれはといわんばかりに観衆もざわついていた。


 だが、錬金術師の攻撃はこれで終わらない。分解したばかりの創成物(コポリマー)なら、まだ大気に広く分散されていない。制御は利く。再度構えた手が放電する。


("得られた気相材(プリカーサー)非晶(アモルファス)へ。"構造制御"を維持、そのまま徐々に結晶化(クリスタライズ)――窒化ケイ素と炭化ケイ素の多結晶体を焼成!)


 燃焼を起こし、光を放ちつつ鬼手の表皮に形成されるは焼結体(セラミックス)。もがき、全触手をうねっては抵抗するも、やがて凍り付くように石と化していく。

 もがくばかりが抵抗ではない。自己壊死を行い、新たな腕を分化して生やし、枝分かれして成長していく。せめてものと、地面を掘り進めた触手はルマーノを、冒険者らを、そして空にいるチェッカーらを捕食せんと腕を伸ばした。


「――え」


 それを、一枚の分厚い陶磁器(とうじき)のような高い壁が妨げる。盛り上がったそれは土魔法でもない。メルストの脚部から流れ出た物質を通じて形成したものだ。

 守られた。助かった。しかしその一方で別の意をもって驚く戦士もいた。


「嘘だろ、壊れねぇ……土魔法じゃないのか?」

「しかも溶けねぇぞ。でも鉄じゃなかったらあれは何だ?」

「バカな! 魔法でもなければあれは鉄ですらもないんだぞ」

「常識外れもいいとこだ……なんなんだあいつは!?」


 焼結体は非常に硬く、しかし脆い。衝撃には不向きだとされていることは、陶磁器を取り扱う住民ならば誰もが知る常識のはずだ。現に、伸縮自在の鬼手も動いている以上、焼結しつつあるそれはすぐに粉砕するはずだ。だが、侵食が凄まじいのか、ゴムのように伸びるのか、ひび割れることはない。


「"物質(プレビアス)覚醒(・ブレイク)"。これまでの理論(じょうしき)に革命を」


 それは、高精密かつ超微細(ナノスケール)に分子構造と結晶粒子の径が制御されたことで可能とする、材料の革命ともいえる。それを、錬金術師は覚醒させた。


「"超塑性変形(ハイプラスティシティ)"――"硬化(ロック)"!」


 ぶつかった乾燥触手は速度を殺され、ついには石化が行き届いていく。まるでオブジェのように固まったそれは、天上の神に奉る巨大な土人形のようにも見えた。


「と……とまった?」

「信じられねぇ、たったひとりでやりやがった」

「ありえないわ……だって、あの英雄のアレックス様でも一振りで倒せなかったのに、どうして錬金術師クラスが圧倒してるの……!?」

「だって普通こんな強くねぇだろ錬金術師って! バケモノにもほどがあるだろ!」


 "常識"、"普通"、"ありえない"……後ろで聞こえてくる驚愕の声の中に何度か混じっていたその言葉に、先ほどから何度も思うことがある。彼はついに振り返り、息を大きく吸った。


「どんな英雄でも、怪物でも、彼らが強いとは限りません。でも、無名の凡人が弱いかと言えば、そうでもありません。『強い』人ってのは、皆さんが思っているような常識(いみ)とは少し離れています」


 映る世界は、広がる平原で思わず足を止め、釘付けになっていた数々の冒険者たち。そして奥に見える守護の壁と見守る民。黒い目で訴える先駆者の声はひどく若く、しかし芯があった。力強さを感じさせるそれは、遠くへと響き渡る。


「錬金術師だろうが冒険者だろうが関係ありません。年齢も種族も、レベルも役職(クラス)経歴(キャリア)も重要じゃない。知能や腕っぷしだって同じです。そういう常識に囚われずにこの世界ぜんぶ疑った中で、たった一本の信念の槍を見つけた奴のことを『強い』って言うんでしょう!」


 芯に、轟く声。彼の瞳に(いきどお)りはない。真摯に、しかし好奇心を抑えられない子どものような、輝いたそれだった。


「メルストさん……」

 それを、エリシアはただ見守る。彼の望むものが何か、彼の言葉の裏の叫びが、胸を締め付けるように伝わってくる。それはロダンらも同様だろう。共に感じる思いを抱いているがゆえに、だからこそ、口を開くことはなかった。


「常識ってのは俺たちが勝手に決めた本能的なルールです。そこを疑って疑って疑いまくって、(ことわり)に耳を傾けまくって、そんでまったく新しいもんを作りたいって願望(ゆめ)信念(ねつ)をぶつけ続けない限り、万象(マテリアル)の真骨頂ってのは顔を見せないんです!」


 不時着したチェッカーの拡散器が転がり、メルストの声を拾う。彼の思いが、意志がルマーノに伝わった。


「皆さんは、それぞれの『強さ』を心に秘めているはずなんです。これまでの常識を尊重した上で、それを打ち破るだけの強さが、皆さんにはある。俺は、ひとりの理を研いで究める者(アルケミスト)として自分の『強さ』と、周りからいただいた『力』で、そんな"常識(ルール)"をぶち壊して、変えていきたいんです!」


 彼が異世界に来た理由は分からない。冒険者や錬金術師どころか、この世界の人間でもなんでもない、他所の非力な人間。何も持っていない中、偶然にも神に匹敵する力を授かり、出会った人々に恵まれたことを実感していた彼は、そんな自分だからこそできることを探し求めた。


 生まれ変わる前、無力だと勘違いしてしまっていた"無知を知り、研究する力"。それは今や、唯一残された武器(しんねん)として、授かったものと合わせて駆使すれば、何かできるかもしれない。それが、転生した意味だと信じている。


 余所者だからこそ気付けるものがある。余所者だからこそ、変えられるものがある。それが彼らの築いたバベルの塔であろうと、神に罰されず、かつ誰かを救う希望になるためには、批判されようとも鉄槌を手放すことなく崩さなければならない。


 それはきっと、彼だけではどうにでもならない。だからこそ、この場を借りて伝えたかったのだろう。一人だけでもいい。その心に何かが引っかかるのであれば、本望だ。


「それが誰かの役に立つなら、不治の病でも山のような怪物でも、なんだって相手してやります。明けない夜はないってことを、今ここで証明してみせます!」


 刹那、声を遮るような地鳴りが轟く。振り返ると、硬化した鬼手のオブジェが光を漏らしながら内側から砕かれていた。


「なんだありゃあ!?」とジェイク。

「本体です! 窮地に追い詰められたときにしか見せないと云われ……あれを見た瞬間、すべてが終わるともいわれています……!」


 その巨大さはそこらの大屋敷や城を超える程だろう。出でた紅い眼玉がメルストを睨んだかと思えば、瞳の中央が花開くように裂ける。花弁のように並んだ無数のクリスタル色の扁平牙(へんぺいが)は、先ほどのおぞましさとは打って変わり、一種の芸術だと思えるほどの美しさだ。

 八千の夜に住まう鬼の千手に潜んでいた鬼の貌は、まるで巨大な氷の薔薇。その中央、つまるところ喉奥には黄金のようにきらめいて――。


「ッ、メルストさん危な――」


 その身を焼き溶かさんばかりの強い光が放たれる。

 あらゆるものが分解され、ただの消化物として溶かされてしまう。そんな話も、古くから伝えられていた。極楽に咲く花のように美しい光を見た瞬間、死を迎えるという。歴史に伝わる絶対的な事象であった。


 だが、その光さえも屈し、散り散りに分解されたのは鬼手の方だった。

 放電の如くプラズマを放ち、巨大な余波が町ごと大きく大地を揺らした。莫大なエネルギーは万物を融かす熱と影をも焼き切る白炎の光、そして無に還す衝撃波と化し、ひとつの巨山を跡形もなく消し去った。


「――ァァアアアアアアッ!!」


 猛る錬金術師の拳。それは夜の鬼を、そして闇夜を撃ち払った。


 轟音は音を殺し、静寂へ。そして雲一つない快晴。さきほどの夜が嘘かのように、太陽がまばゆく土色の大地を、そしてルマーノを照らした。

 終始見届けた誰もが、口を開けていた。何が起きたのかまだ理解できていない状況。その一方で、十字団は笑みを向け、竜王殺しは鼻を鳴らした。


「おい、司会の者よ! 状況を伝えなければ民は戸惑ったままだぞ」


 ぽかんとしていたチェッカーはすぐさま地面に転がっていた音響変換石を手に取り、静寂を切り裂いた。


『――あの怪物を、あの夜を! な、なんとたったひとりの男の拳が打ち砕いてしまいました! まるで明けない夜はないと言わんばかりに、この男は目の前の立ちふさがる脅威をすべて! 切り拓きました! 先ほどの宣誓を希望ある真実に変えた彼の名前は……メルスト・ヘルメス! 俺たちに夜明けを見せ、そしてルマーノのこれからの安寧を約束した、アーシャ十字団の錬金術師(アルケミスト)だァ!』


 ――ワァアアアアァアアアアッ!!!


 沸き上がる歓声。町民も、冒険者も、誰もがメルストに圧巻され、そして感謝と称賛が降り注ぐ。再び上げられる祝砲の花火は心なしかルマーノの町そのものから祝福されているかのようだ。


「お、終わった……おわった、よな?」

「メルストさん、お疲れさまです」


 蒼炎魔法が消え去ったと同時、エリシアがメルストの元へと来る。それをみて安心したメルストは、腰が抜けたように乾燥した土の上に尻もちをついた。彼女の後から十字団らとアレックスが歩み寄る。


「メル……おつかれ」

「ま、こうでなくっちゃね。これでメル君のすごさが改めて知らしめることができたと思えば、こっちも胸がスカッとするさね。だーけーど! 目立ちすぎだにゃーっ!」

 普段のお返しだろうか、嫉妬したルミアはメルストのこめかみをぐりぐりと拳で押し付ける。


「ちょっとスポットライト当たったからって調子に乗ったこと言いすぎだお説教野郎。だから童貞なんだよ」とジェイクも不服そうだ。

「いででででで! なんだよ、ルミアはともかくジェイクが妬むことはないだろ」

「俺ぁちやほやされるのも、それを見るのも腹が立つってだけだ。つーか本体をチリひとつ残さずぶっ飛ばすんじゃねェよ! カネになる素材が腐るほどあったってのにテメェ何やってくれてんだ!」


 そう苛立ちを見せては、剣の柄を頭に向けてガンガン叩いたりゲシゲシと蹴ったりしてくる。

「捕獲できるような相手じゃなかっただろうが!」「そんでもやるんだよクソ童貞!」と、ぼこぼこケンカを始めた。

「ふたりともそんなことしちゃいけません!」

 エリシアに制止されたとき、同じく不服そうな声がメルストの上から聞こえてくる。


「メルスト・ヘルメス」

「……アレックスさん」

「貴様は本当に気に喰わないやつだ」

「それはお互い様ですよ」

 見下す竜王殺しに、錬金術師はいたずらな笑みを浮かべた。それを鼻で笑っては、


「とはいえ、今回は貴様の勝利だな。これだけ民の声が貴様に届いていれば、負けを認めざるを得ない」


 そう言っては、手を差し出した。

「立て。今回の栄光を冠した者が腰を抜かす姿をさらすんじゃない」

「……はは、それもそうですね」


 目を丸くした錬金術師。しかしすぐに照れくさそうに笑って、英雄の手を掴み、起き上がる。途端、再び歓声が彼らを祝福するように巻き込んだ。

 一歩後ろからそれを見つめる軍王は、微笑んだ。広がる焼け野原と魔物の残骸を見渡し、苦笑交じりに鼻でため息をついたが。


 これにて、"大収穫(ハーベスト・フィナーレ)"は無事、幕を閉じた。そう司会の声を最後に、大きな拍手が戦士たちを出迎えてくれた。


   *


 "大収穫"は狩って終わりではない。むしろ、ここからが本番だった。


「おーい、そっちはどうだー」

「こりゃ繁盛もんだ! 乾季が来てもしばらくは食うもんに困らねぇし、いい素材も手に入ったから、いい商売ができそうだぜ」

「それにしたってこの量は余るわね。足が速いのもあるし、どうしようかしら」

「それなら教会に提供するといいわよ。大賢者様や聖職者の方々が貧困の土地に配ってくださるらしいわ」


「あの爆弾魔……これじゃ商品どころか食糧にすらならねぇ」

「畑の土に使ったらどうじゃ。よく育つだろうさ」

「オーライオーライ、引き上げてー」

「いやでっけぇな。ドラゴンだけでも大目玉だってのに、こんなバケモノまで出てくるたぁ、ちょっとちびっちまった」

「むしろそいつをぶっ飛ばした錬金術師に俺ぁちびったけどな、わはは」


 ギルド会員、非会員の町民問わず、焼け野原と化したオリザリア草原には人々が散在し、テコや滑車のクレーン、荷台を駆使して、魔物の残骸や素材を回収していた。これらが後の食糧や売り上げにつながる商品、他の地域への輸出品として活用される。


 そして、この後の"食夜祭(ナイト・フェスティバル)"の料理の材料に使われる。それで飲み明かし、夜明けを迎えるまで祝福するのが収穫祭の醍醐味だ。


「こうしてみると、むしろ町の人たちがメインとして頑張ってるようにも見えるな」


 彼らの働きを、南区の入り口から見眺める。メルストが呟いた一方で、背をうんと伸ばしたルミアはルンルンと機嫌よさそうだ。


「今季も大漁だったね! こりゃ夜の宴も楽しみだにゃ。うー……んっ、飲み明かすぞーっ!」

「あの、そのことなんですが」とエリシアが茶を濁す。


「お父様から今夜、王城に来てほしいとご連絡が入りました。魔王軍の動向に関してお話があるようで」


 十字団全員、それぞれの形で驚きとブーイングを示す。このことはとうにロダンは知っていたようで、腕を組んで頷いていた。


「えー!? なんで今日に限って?」と露骨にルミアは肩を落とす。

「けっ、まじめな話かよ」

「……――」

「ってフェミルん! 無言のまま死なないで!」


 立ったまま魂が抜けたフェミルの肩を揺らす。相当、夜の宴を楽しみにしていたようだ。


「魔王軍に動きがあったってこと?」とメルストは真剣に返す。そうとなれば祭どころではない。エリシアは頷く。


「詳しくは行ってみないと分かりませんが、重々承知の上でのお願いだそうです。そのお詫びに、派遣罪人とパラビオスの駆逐の労いを含めご馳走と温泉も今夜、ご用意してくださるようですよ。特別にご友人も連れてきてよいみたいです」


 ぴくん、と団員3人全員、電撃が走ったように固まる。


「ご馳走……!」

「温泉……!?」

「友人……っ」


「いやなんで友人のワードが響いたの今」

 メルストの一言を聞き流し、ジェイクは呟く。

「ついにこの時が来たか……!」

「え、なに? 何が来たの?」

 一般市民以下の彼らのことだろう、王族のご馳走に対し無上の喜びを感じているのかもしれない、と勝手にメルストは捉えた。

 彼らの満場一致に、エリシアは口を開く。


「それでは、皆さんをお手伝いして回収を終えましたら、出発いたしましょう」

 その仁徳的な発言に、またも全員嫌そうな顔を浮かべた。


ようやく収穫祭終わりました。長々と書いてしまい申し訳ありません。


次回

ルミア「この間の秘湯巡り、楽しかったね!」

エリシア「ええ、景色も素敵でしたし」

フェミル「(こくこく)」

メルスト「えっ、いつの間に温泉行ってたの!? 俺も行きたかったんだけど」

ルミア「メル君はだーめ♪ 女の子だけのお楽しみなんだから」

フェミル「(こくこく)」

メルスト「えー、それなら仕方ないか……ジェイク、俺たちもどっかいくか? ロダン団長やミノたちと温泉とか」

ジェイク「は? そんなむさくるしいだけの野郎の湯浴みなんか誰が行くか。ひとりで秘湯巡りしてた方がまだましだってーの」

エリシア「あっ、それで温泉にいらっしゃっていたのですね! あのときジェイクも見かけましたから、偶然かなとは思ってましたが、女性だけの集まりでしたのでお声をかけようにもかけられなくて」

ジェイク「……」

ルミア「……」

フェミル「……」

メルスト「おまえ……覗き、してただろ」


次回「湯けむり大騒動」


【補足】(随時更新)(以下、飛ばしても本編の理解に影響はありません)

・"木命素(プロティフ)"…炭素

・"燧方素(サイレックス)"…ケイ素

・"卑素(シュケティニウム)"…窒素


参考文献(ザッと目を通した程度です)(気になった方は一読してみていただければと思います。おもしろかったです)

・刺激応答性によるDDSおよび架橋に関して

1) Younsoo Bae, 片岡一則, 炎症と免疫, 13, p.131(2005)

2) DOI: 10.2174/13816128113199990406

3) https://www.seikopmc.co.jp/tech/intro/ra_Core.html

4) https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/pola.24190

・局部麻酔に関して

5) http://plaza.umin.ac.jp/~beehappy/analgesia/analg-nach-bloc.html#tetra

6) http://www.gakkenshoin.co.jp/book/ISBN978-4-7624-0168-8/098-099.pdf

・超塑性変形に関して

7) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jilm1951/32/8/32_8_421/_pdf

8) https://doi.org/10.1016/S1359-0286(99)00053-4

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