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2-1-5.一歩前に進むこと、なんてことない日を過ごすこと

読んでいただきありがとうございます。

※加筆したお話の続きとなります。

   *


 金属同士が激しくぶつかり合う重い音が快晴の空に響く。

 家の裏には機械工房と隣接するガレージのような建築物があり、そこを出た先に小さな土手の広場がある。青い雑草が混じり、一本の植林された木が緑燃える枝葉を広げていた。

 

「きゅうひゃくきゅうじゅう、はち……っ、ぜぇ、はぁ……ああ゛ッ、きゅうひゃくきゅうじゅう……きゅう!」

 縦向きに固定された円柱型の太い鉄材。そこに10kgは越えるバーベルシャフトの如き鉄の棒を振りかぶり、縦へ、斜めへ、そして横へと斬りつけるようにメルストは息を切らしながら叩きつけていた。


 汗で濡れる黒い髪は白いタオルで巻かれ、黒いインナーも汗と砂でこびりつき、首周りや肩、背中から白い蒸気がうっすらと出てきている。伝う汗が地面を濡らす。ズボンも下着も汗でぐしょぐしょだ。全身を膨らませるように大きく呼吸し、ジンジンと痛み、震える手に力を入れる。

 あと一回。もう腕が動かない。痛いという感覚も失いかけている気がする。

 重い(まぶた)が見つめるはただ一点。呼吸を斬り、地を蹴る。


「――千!」


 ガァン! と横薙ぎ。だが、その幹のように太い鉄の柱はびくともしない。むしろ自分の腕がしびれていた。とはいえ、何百回も打ち込んだからだろう、多少あちこち凹んではいる。

 ようやく終わった、と鉄の棒を地面に落としたとき。


「はい、あと一回」

「千一だこんちくしょうめ!!!」


 鬱憤を晴らすかの如く、拳で柱を思い切り殴りつけた。そこには創成された分厚い鉄で覆われており、柱の正面を拳の形に凹ませた。そのままメルストは倒れ、ごろんと仰向けになる。


「ナイス鉄パン! しっかり恨みがこもってたね☆」

 顔をのぞかせたルミアは眩しいほどの笑顔を向けている。かわいらしくもなんとうざったい顔だと、彼は半ば睨む。

 そのとなりにエリシアが歩み寄ってきた。美しくもなんと慈愛に満ちた顔だと、彼の目は穏やかになる。


「おつかれさまです」と手渡されたのは水剤(ポーション)が入ったガラスボトル。吐く息だけで感謝を告げては手を伸ばし、それを取るも、そのまま地面へと手が落ちる。起き上がるほどの体力は尽きたようだ。


「作り出した金属を腕にまとう魔法も使えるんですね。でも、魔法にしてはなんだか……」

 なにか疑問を感じているエリシアだが、独り言だろう。メルストは切れる息を整えるので精いっぱいだった。このまま寝てしまいたい気分だ。

「メル君おつおつー。いい汗かいたんじゃない?」

「も、もうむり。筋肉痛残ってるのに連日はきついって」

 必死の抵抗で首をゆっくり横に振る。


「こんなんでへばってちゃまだまだなのよさ。せめて20分で千本ヒット終わらせないと次のメニューいけないっしょ」

「まだあんの!?」

 絶望に瀕した顔。エリシアも「噓でしょ……」と何気に顔を青ざめていた。それを嬉しそうにルミアは見つめては、腰に手を当てあまりない胸を張る。


「とーぜんのとーちゃんよ。これ基本中の基本なんだから」

「悪鬼羅刹の餓鬼畜生め……」

「あたしらの業界では褒め言葉でーす!」とグッドサイン。

 そんなぁ、と脱力する彼。ルミアにまぁまぁとなだめるエリシアはメルストの前で腰を落としては正座する。


「ですが、剣術のご経験がないにもかかわらず1001本打ち込んだのはなかなかできないことですよ。つらくなっても諦めずに最後まで頑張れたのですから、素晴らしいです。いまはゆっくり休まれてください」

「女神……」

 その微笑みで、このまま天に召されるのではないかと錯覚したほどだ。もう人生に悔いはないかもしれないと大袈裟なことを考える。


「あたしにしたら7日のうちに技とか体得してほしいけどねー」

「そう一朝一夕で身につかないだろ。ていうかルミアがスパルタすぎるんだよ。凡人なめんなコノヤロー」

「ダメな方に自信満々じゃん」

 気が付けば、息も整っていた。起き上がった彼はポーションに口をつける。乾いた喉が潤う。蜜のようなわずかな甘さ。芳香さが鼻腔を撫でるが、水分を欲していた彼にとっては気にならずに一気に500mLを飲み干した。


「凡人だろうと剣術は必須さね。自己防衛として、学校行ってる子たちや一般市民の大体は剣扱うし、お国を守る騎士団もこのくらいのトレーニングは軽くこなしてるのよさ」

 ぷはっとボトルの口から離れた彼は顔を引きつらせる。


「うそ、みんなそんなレベル?」

「信じられないなら一回あたしと一本勝負してみる?」

 と、転がっていた鉄の棒を足で引っ掛けては、引き込まれるように手に渡った。あんな華奢な体のどこにそんな力があるのか、片手で軽々しく持つ機工師はうずうずしているようにも見える。


「いや、なんかいやな予感するから基本に倣うよ」

「えぇーそこは乗るとこだよメル君。これじゃ話が展開しないじゃん。主人公降格させられちゃうぜ?」

「何の話だよ」

「たまに不思議なこと仰るんですよね、ルミアって」

 文学作品や小説が書斎に並んでいたことを思い出す。それに影響されているのだろうと勝手に予想づけた。エリシアに空のボトルを回収され、ぼーっとした頭のまま空を見上げる。


「とにもかくにも、これじゃあ先が思いやられるな」

「あの、思うのですが、いまのメルストさんの段階で既に――」

 ビッとエリシアの顔の前に人差し指を立てて、左右に振ったのはルミアだ。思わず大賢者は口をつぐんだ。

 

「エリちゃんノンノン。世間一般の普通に留まってちゃ人生つまんないっしょ。先生の世界だって、メル君と相性がよさそうな錬金術師の世界だって、そこそこの枠にいたらそこそこのまま終わっちゃうさね。やるならとことんやって世界取ろって話」

「それをいうのでしたら、ルミアのお仕事の方もサボらずとことんやるべきかと」

「やりたいことで生きていく。それがあたしの座右(Go)(My)(Way)

「頼まれ事はちゃんとやってください!」


 ふたりの会話を聞き流す。思うところがあったのか、彼は地面へ視線を向けて一息。

「……そうだな。やるなら最後まで筋を通さないと」

 膝を立て、よっと立ち上がる。ポーションの効果が即効性だったのか、体の痛みや疲れが多少軽減されていた。


 人並み以上の気力と体力。そして根性。それは研究にだって求められてきた。前世だって運動はからっきしだったわけじゃない。ここでやめたらずっとやらない気がする。次も言い訳を正当化してやらない理由を探す未来が直感的に見えたのもあろう。


 二度目の人生はやれるだけのことをやる。一歩でも前に進むことを例え躊躇しようとも後退しない。この世界を知らない彼なりの挑戦の形だった。

「ルミア、残りのメニューはどれだけある?」


   *


 日が暮れ、すっかり夜を迎えたころに訓練はようやく終わった。


 剣の扱い方の復習はじめ、体重移動と呼吸、瞬発力の発揮と制御の仕方を、体を動かしながらルミアに教わる。後、決められたルートを全速力で駆け抜けながら、点在した水入り樽を毎度抜刀して斬りつける稽古。居合斬りで薪を両断する稽古。投げつけられた石や泥玉を避けたり、斬りつける稽古。鉄の廃材を抱えて丘を上り下りする稽古……数種類の基礎訓練を経るが、まだまだ初心者の域だ。


 だからこそ、投げ出したり、倒れたりすることだけはしなかった。

 だが、訓練が終わった瞬間、とうとう握り続けていたダグラスの鉄剣を鞘に納める力すら出ず、そのまま倒れた。土まみれの体と顔。そのまま地面にキスして倒れているメルストの前に、ルミアはちょこんと膝を曲げてしゃがんだ。


「いやー粗はありまくりだけど本当にやりきるとは思わなかったにゃ。あたしのやってきたメニューの倍だもん」

「ぶっとばすぞおまえ」

「めんごめんご。ほら、肩貸すから。立てるかい」


 手を掴み、起こされる。「あとは歩けるよ」とひとりでガレージの屋根下にある腰掛まで足を運んだ。


(前世じゃここまで動けなかったよな。それに力の強さも全然違う。そういやあんときもエリシアさんを軽々担いでダッシュできたし、特別な能力以外にも基礎的な運動能力や筋力も高かったりするのかな)


 そう思いながら、ルミアに投げて渡されたボトルを手でキャッチ……しようとしたかったが、指すらまともに動かせなかったために、素通りし腹で受け止めた。「ふぐっ」と空気が出るような声を漏らす。それにはルミアも吹き出した。笑ってんじゃねぇ、と恨めし気に見ながら、ボトルに口を付けた。


「ふたりとも、訓練を終えたみたいですね。おつかれさまです」

 リビングのドアからエリシアが顔を出す。


「エリちゃんもお仕事おつかれー」とルミア。「メル君すごいよ、あたしのメニューぜんぶこなした」

「えっ、そうなのですか!? よくあの非人道的な練習量を……ああいえ、想像以上です。メルストさんは体もお強いのですね」

「一瞬私情はさんだ本音聞こえたけど」

「ポーションは足りますか? お怪我がありましたら魔法で治癒いたしますので」

 手厚い彼女の言葉に温かさを感じながら、遠慮する。ぽぅ、と蒼い炎を灯し、仄かに光った彼女の両手。しかし、「そうですか」と少し残念そうに光を鎮めた。蛍光灯やネオン光、ガス炎とは違う、幻想的な光を見つめていたメルストは、ふと大賢者に問いかける。


「エリシアさん、その蒼い光って……」

「へ? あ、蒼炎魔法のことですね」


 右手を差し出して、(てのひら)を上に向けたとき。

 ボゥッと青い炎が夜を照らした。揺らめくそれはひとりでに飛び出し、3人の周りを尾を引いては泳ぐように一周する。それはまるで小さな彗星。照らされる草花や一本樹にサファイア色の火の粉が飛び、蛍のように明滅しては踊っている。

 泳ぐそれは果たして3人の頭上へと、夜空へと向かって――波紋を描くように青い焔と光を散らせた。その先に広がる満天の星空に目が行く。月に負けず劣らず、星々がこの地にやさしい光を与えていた。


 なんとも不思議だ。熱さも感じなければ、煤が出てきているようにもみえない。それでいて、引き込まれるような引力を感じる。

 これが魔法なのか、と改めて大賢者の手に未だ燃え続けるその幽玄さに虜になりそうになっていた。


「火炎魔法の類ではなく、どちらかといえば魔を浄化する魔法に近いと思います。もちろん、火炎魔法としての役割も果たしますし――」

 手に持っていたボトルが蒼い炎に包まれ、思わず手放すメルスト。それは炎が消えるとともにボトルも消え去り、同時、エリシアの手から燃え出した蒼炎からボトルが現れた。


「転移魔法も蒼炎をベースに発動することもできます。様々な魔法に転用できますので、汎用性は非常に高いです」

 嬉しそうに、そして自慢げに披露した彼女の声は届いているのか、メルストはただ、それを見つめて、


「綺麗だな……」

 ふと、そんな一言をつぶやいた。一瞬把握しなかったエリシアだが、理解した途端、ボッと顔を赤くした。だがそれは自身の勘違いだと分かり、さらに顔を熱くしたが。


「へっ!? ……あっ、あぁ、ええそうですね。どこか幻想的な色合いだと私自身も感じてます」

「いま絶対自分のことだと思ったでしょ先生」

「そこ触れないでください」

 両手の人差し指でビッと指し、にやにやしているルミアに、赤らめた顔を俯けながらむきになる大賢者。対してメルストはすぐにフォローという名の本音を駄々流した。ストレートな言葉に、慣れていないのか彼女はますます紅潮した。


「あ、いや! もちろんエリシアさんもお綺麗ですよ。十分どころか次元が違うレベルで」

「はぇっ!? そ、そそそそんなことは……さすがに、褒めすぎ、かなと」

 両の人差し指を大きな胸の前でぴとぴと当てては、もじもじとする。


(リアクションの次元がちげぇ)

「そこで敬語を使うあたり、社交辞令のお世辞でよく言ってるとみたにゃ」

「揚げ足とらないと死ぬ体質なの君?」

「こほん」とかわいらしい咳を一つするエリシア。


「話を戻しますが、このように蒼炎魔法のような特殊な魔法は、人間である私にとって、世界の均衡を保ち、人々をお救いするために必要なものです。このお力を授かっていなければ、私はここにいなかったでしょう」

 小さな拳を胸にそっと当てる。落とした紅い瞳は彼女自身の内を見つめているようで、彼は軽々しく返事をできなかった。幸い、ルミアが明るく振る舞い、話を繋げてくれたが。


「ま、こればかりは世界でエリちゃん先生しか使えないから、ある意味代名詞ともいえるんだにゃ」

 そういいながら、夜の闇に漂う蒼炎の残り火を指でつつく。煙のように揺らぎ、泡のように消えてしまった。


「そうなんだ。にしてもどうやってこの魔法を」

「それは教えられません。秘伝の術として受け取っていただければ」

 人差し指を立て、いたずらな笑みで返すエリシアにどきりとする。大賢者の専用魔法だ、そう易々と教えるわけにもいかないのだろうと自己完結させた。


「それよりも、お夕飯にいたしましょう。頑張っているおふたりがもっと元気になるようにスタミナが付く"火山脊亀(セロニオボルノ)"のステーキを作ったのです」

 えっ、と驚いたのはルミアの方だ。「まさかもう作ったの?」とひきつった顔に、メルストは察する。反し、エリシアは嬉し気に返事するだけだが。

「もちろんサラダもスープもありますし、腕によりをかけてドリンクも作っちゃいました!」

「ない腕前を振るってもね」とあきれるルミアの小言をメルストは聞き逃さなかった。


「あっ、それに、ここではあまり手に入らないお魚を町の方よりいただいたんです! それもなんと"銀の灯(アジリア)"丸々一匹です! こちらはまだ手を付けておりませんが、おふたりが召し上がっている間に調理いたしますね」

(エリシアさんの料理って俺だけじゃなく一般の口にも合わないみたいだな)

 見かけは良くとも味付けや火の通しが悪かった印象。あまりいい思い出がないメルストの前にルミアが出た。


「あー! いいよいいよ全っ然大丈夫! それはあたしが作るし!」

「え、でも……」

 妙に必死な小さな機工師。手を煩わせたくないのか、エリシアは少々困っていたが、ルミアは誇らしく胸に手を当てた。

「魚料理はあたしの十八番さね。魚を捌くために生まれてきたといっても過言ではないのだよ諸君!」

「過言だよ」

「そ、それでは私は、なにをいたせば」

 おろおろする彼女を見て、小さく笑ったメルストは立ち上がる。


「じゃあいっしょに作るのもいいかもな。ルミアも料理が得意なら、エリシアさんに教えるとかしたりさ。俺も見学したいし、というか俺もここに住まわせてもらっている以上は、なにか手伝わないと気持ちが落ち着かないし」

「てかまず体洗いなよ少年。あ、せっかくだし一緒に入ろ!」

 そう言っては彼の手を引っ張る。


「ちょっ、ルミッ!?」と顔を赤らめ驚愕するエリシアに対し、唖然とするメルスト。だが、引っ張られるがままにされることなく足を止め、次第に顔を曇らせる。

「……なにもしないよな?」

「しーないって! それともこんな美少女といっしょに体洗いっこするのはいや?」

 上目遣いになり、顔を近づける。あざといのは苦手だがド単純故に弱い彼は、逃げるように目をそらし、

「掌返して法で訴えたりしないよな」

「メル君、先に病院いこっか」

「なんで!?」

 極めて心外な一言だったろうが、それは相手にしても同じ。ろくな交際経験がないままこじれるとこうもめんどくさい男ができあがる。


「ま、まぁまぁ! お料理冷めちゃいますし、お体の汚れは魔法で落としますので、まずは家に上がりましょう」

「魔法でやっちゃ意味ないのよさこのハプニング殺しめ」

「やっぱり企んでたじゃねぇか! てかルミアだって腹減ってるだろ、エリシアさんがせっかくつくってくれたごはんだし、早く食べないと」

「メル君正気かい? 先生の手料理って――」

「わ゛ァー!! 美味いに決まってんだろ!」

「急にどうされました!?」

「メル君おもしろいなー」


 またしてもからかわれたことに、メルストは肩を落とす。でも、悪い気はしなかった。

 そういえば、時間を気にしない生活を送れるようになったのは久しぶりな気がする。こんなに汗まみれになって、泥まみれになってまで動いたのもいつ以来だろう。

 疲れていても、解放感はあった。喉奥に詰まっていたものが取れたような。頭のもやつきが洗い流されたような。

 寂しい気持ちは相変わらずだ。だが、どうしてか温かい。

 家から漏れる光を背に、楽しそうに話すふたりと、背後に広がる夜空。


(なんだかんだ、馴染んでいくんだろうな)

 感じた安心感を胸に、ふたりの元へ歩を進める。

 エリシアの手料理はもちろん、3人で調理した魚料理はどうしてか微妙な味だった。ただ、しっかり火は通っていたことに気づいたメルストは「うまく焼けてるね」と一言添えた。

 

2-1話、完結


メルスト「へぇ、(異世界でも)小説置いてあるんだな」

ルミア「最近は英雄伝とか逆境サクセスストーリーが新ジャンルとして流行ってるさね。まぁあたしはミステリーものが好きだけど、メル君は?」

メルスト「勧善懲悪ものとかかな。悪い奴を倒して困っている人を助ける展開とか好き」

ルミア「あー、好きそう」

メルスト「露骨に微妙な反応するんじゃねぇよ」

ルミア「いやあたしも好きだよそういうの。うん、いいと思う」

メルスト「何一つ共感できないけどとりあえず変な空気にしたくないからフォローしておこうみたいなムーブやめてくれない?」


次回:酒場と盗賊団


【用語補足】※読まなくても本編を読むにあたって支障ありません


火山脊亀(セロニオボルノ):魔法生物ことファーディの一種。大きく二種類存在し、大半はC型の種、いわばウミガメ型であり、その中でも海底を這うCU型、海面を泳ぐCL型がいる。陸上にいるタイプはT型と呼ばれている。一般的には全長1~3m程度であり、扱いに気を付ければそこまで危険ではない。ただ、いずれも脊椎周囲に超高温の熱源を生成・蓄積しており、ときに排熱・防御性を高めるために甲羅から油状の老廃物を排出し、外気に触れて冷却固化させては外敵を守る鎧へと成長させる特性を持つ。それままるで噴火し流れ出る溶岩の如く、触れれば人体など容易に炭化する。ここまで体熱が金属を融かす並みに高い理由は明らかにされていないが、もともとは海底火山付近に棲んでおり、鉱物しか摂取できなかったこと、極低温環境とそこにいた天敵から身を守る必要があったことから、鉱物からエネルギーを得、かつ体温を保ち、食われないようにする体構造へと変異していったと考えられている。現に、甲羅は非常に硬く、断熱性が高い。

 伝説では、島規模の個体がいるというが目撃例は未だない。大地を生み出した化身として神格化している集落があるが、都会は食用として扱われている。生食だと筋っぽさと脂っぽさが混じり、食えたものではないが、ミルクと少量の果汁で浸した後、煮潰した豆と塩、A型15号イースト剤を混ぜて三日ほど発酵させてから焼くと噛み応えがあるも呑みこみやすいステーキが出来上がる。工程上、味はしょっぱくなり、磯のような香りが鼻腔を通るので、肉らしいジューシーな味わいを期待して食べない方がいい。


銀の灯(アジリア)

 銀色の焔のような模様をもつ鱗や楯状鱗を有した、全長2,30センチ程度の紡錘型の魚型魔法生物。しかしそれは幼体の姿であり、成体にまで発達すると胴体が長く伸び、リュウグウノツカイ属に近似した体長を誇るようになる。驚くべきことに、成長の際に脊骨の個数が増えるという。魔物って不思議だね。

 しかし、成体になると食べられる部分はほとんどなくなり、嚙みちぎれない体組織になるため、食べるなら脂ののった幼体のときが良い。ただ、成体が宿す卵は珍味として貴族には人気。鱗は光沢があり、かつて灯台の光を反射したものを漁師が目にしたため、銀の灯と呼ばれるようになった、らしい。

 ちなみに鱗は鋭いので落とすとき手を怪我する主婦が後を絶えない。鱗を粉末状にし、研磨剤の原料として利用されている。


※注意(読まなくても問題ありません)

 この先、ほぼずっと青色を蒼と記述していますが、後々調べてみると蒼色(R:0・G:118・B:85)が自分の思う色ではありませんでした。誤解を招きましたら大変申し訳ありません。修正するのに膨大な時間がかかる可能性があるので、このまま「蒼」の表記にさせていただきます。サファイアに近い色と若干の蒼色の混合色イメージしていただければ幸いです。

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