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双黒のアルケミスト ~転生錬金術師の異世界クラフトライフ~  作者: エージ/多部 栄次
第一部四章 錬金術師の波瀾万丈録 王国侵略編
136/214

4-8-8.双黒の錬金術師 対 紅爆の煉金術師

 誰一人、男に近づくことができない。近づけば最後、その身が木端微塵になるからだ。

 敵わない。そう誰もが直感する。アコードの剣であり、盾でもある騎士団でさえも一切の手出しができない状況にあった。


 時が止まったように凍り付いた雰囲気。

 だが、その静寂をけたたましいスチーム音が打ち壊す。


 それは単純な機械の力。ジェットによる小さな爆発はバンの眼前までの距離を殺し、握るソードブレイカーを伸ばす――それと交差するように、バンの腕が伸び、ルミアの眼前で指を鳴らそうとしていた。途端、ルミアの飛ぶ軌道は直ちに下へと逸れ、懐に沿ってはバンから距離を取った。

ギィン! とその時に生じた金属音はソードブレイカーと腕に生じた真空刃(ソニックブーム)との剣戟だろう――そのとき。


 ドドドドゥン! とバンの体のあちこちから爆発が起きる。一瞬で設置されたルミアの時限式爆弾だ。だが、仕込まれていたのは爆薬だけではない。絡みつくように展開した有刺鉄線が万力でバンの四肢を束縛し、肉をめり込ませる。


「おお。やるねぇお嬢ちゃん」

 凡人ならば痛みに耐えられない。だがRDX(ヘキソーゲン)特有の甘味とビリジリスの精(アセチルアシッド)を含んだ煙を吐きつつ、罪人は平然と振る舞う。爆撃銃で6発、ルミアは追撃をする。


「メル君!」

「っ、ああ!」

 風を切る速さで駆けつけたメルストはその拳を白く光らせ、焔と雷を纏う。

 どんな怪物でも、無に還す無限のエネルギー。それを力に変換したが最後、言葉通り原子レベルで塵へと分解されるその拳を振りかざした。


 だが、爆炎から出てきた腕が、メルストの上腕を掴んだ。そこは光が纏っていない部位。焼け落ちた有刺鉄線が視界に入った時、


「"Julius-Reaction"――"炉心(ROSHIN)"」


 メルストの胸部は赤く融け、弾けるような爆発が起きる。バゥン! と轟音共々、要塞の鋼鉄の壁にぶつかり、凹ませる。彼の両腕は元の肌色に戻った。


「ああもう! こないだの訓練で注意したばっかりなのにメル君のバカ!」とルミアは歯ぎしりする。この程度で大したケガなど負わないとわかったうえでの発言だろう。


「十字団ッ、君たちは兵器を――」

「どーせあんたら瞬殺されて追いつかれて終わりなのが見え見えなのよさ! 騎士団(そっち)はそっちなりのやり方で効率いい戦術でも立ててきて! あたしら特攻型は戦略的にこいつを炭に変えてやんよ!」


 ピン、と抜き、投げ捨てた手榴弾。再び生じた爆発……も意味を為さず、寒波の風により流された煙から悠然とした様子でバンが顔を出す。

「耐爆性はメル君並ってとこね」と流石のルミアもむしろ笑いが出てくるほど。だが、罪人はルミアに関心を示さず、メルストのいる方向へと目を向けた。


「今のエネルギーは凄まじいね。久しぶりにゾッとしちゃったよ。はじめてみるケースだ」

 鋼鉄の壁に埋もれたまま、メルストは両手を壁に当て、要塞の壁を融かす。

 物質構築能力。万物の物理状態ないし構造を自在かつ瞬時に変化できる力は、要塞の壁を無数の射出する鋼鉄の熱杭へと化す。触手のように多方角からバンを貫こうとするが、


「"Glass-Dahlia Process"――"配向晶多層化(ウィンドウズ)"」

 バリアでも張られたように、熱された数多の鉄触手はある場所を境に粉砕する。

 それが分かった途端、メルストは鋼鉄に自身の創成した大量の金属および無機物を融合させた。


("冶金(メタラジー)複合術(コンパウンド)"……"固溶微細合金(ナノアロイ)"・"超塑性化(ハイプラスティシティ)"・"結晶再配置(リロケーション)"――)


 "組成鑑定(マテリアルオピニオン)"より要塞壁を形成する鋼鉄を物理化学的に構造解析。無拡散変態――すなわち準安定結晶構造(ガラスマルテンサイト)を為すは鉄と炭素と微量魔素の固溶結晶。細かい結晶粒ごと流し込んだエネルギーで分散・分解させては"電離化(イオニゼーション)"。

 そこに創成した悪魔銅(クフェルニッケル)の単離物や色鉱(クロミウム)を添加し"還元(リダクション)"および"超速急冷(クエンチ)"――超微細規模(ナノスケール)で設計・再形成された合金の結晶粒は、メルストの与える相互作用(エネルギー)も手伝って、強靭性を保ちながらもゴムのような柔軟性を示す。


 より強く、しなやかに。配合率を最適化した合金の触手は、バンの反応性結界に耐え、突き破った。それでも、すべて手で捌き切られてしまい、弾かれた瞬間、爆砕したが。


「"F2-Reaction "――"電伝圧射(エクス・プレス)"」


 伸びた合金触手に纏う、数多の蛍のような仄かな光。それはバンの指先から放電が発した瞬間、爆発が伝播する。それらはすべてメルストの元へ。

("融解(メルティング)"!)

 だがその隙に壁から這い出るように抜け出したメルストは、再び融けかけた雪原を駆ける。


(こりゃマジで兵器と大して変わんねぇぞ……ッ、でも、パラビオスほどじゃない――!)

 まくった両腕から爆発的に水蒸気を発し、連鎖的爆破を消火する。得た大量の熱は瞬時にメルストの手中に収まり、同時に水蒸気はバンを覆い、凍結へと昇華させた。


 伝播的絶対零度。だが、凍り付いたのは表面上に過ぎない。それでも一瞬だけ身動きが取れなくなったバンの胸部に、右手を押し当てる。


("エネルギー変換(トランス)"――"力学(メカニカル)波動(インパクト)"へ!)


 ドグン、と。

 先ほど手中に吸収した熱量を強い振動として一気に流し込む。砕け落ちた氷片。はがれた氷の仮面の先、とうとう罪人は苦悶の顔を浮かべ、血を溢れさせる。


「っ、やったか――!」という騎士の声。

 罪人の視線は眼下――メルストの右腕。融けかけた腕を伸ばし、メルストの体を地面に組み伏せた。

 背中に固い地面の衝撃。眼前に突き出された掌。それは砲口を向けられたも同じ。

「しまっ――」


「"Wilbrand-脱離(Elimi)反応(nation)"」


 ゴゥン! と地面にクモの巣状の大きな放射状のヒビと、直下数十メートルの深い穴を手のひらから発した噴爆が穿(うが)った。それはメルストの頭が受け取り損ねた分の威力。意識が揺らぎ、視界がぼやける。


「ッ……!?」

「余裕の目をしていたか? いけないねぇ、ここはもう戦場なんだから」

 凍てつくような目。奈落につき落とすような声。バンの体勢は変わらない。

 もう一発放つ気だ。


「――撃て!!」

 バンの頭部や背中に砲弾が直撃する。怯んだとき、カギ爪がメルストの脚を掴み、伸縮性のワイヤーによって引っ張られた。ルミアの腕から発射されたそのもう一つの腕は、メルストをバンの足元から離れさせた。


「メル君無事?」

「錬金術師、大丈夫か!」

「――ぅげほっ、はい、なんとも」

「うぉっ、なんで無事なんだ!」


 むくりと起き上がったメルストは焦げた顔をこすりながら、炭を吐くためにせき込む。それには周囲の騎士も驚きを隠せない。ジルも目を丸くした。

 メルストに与えられた一撃は、地面を伝播し、要塞に深い罅が刻まれたほどの威力。頭が消し飛んでもおかしくないどころか、血の一滴も流れていない。

 しかし、大した怪我でないのは、罪人も同じであった。


「ふふ、おじさんも落ちぶれたもんだ。けっこう効いたぜ、少年」

 爆煙が晴れ渡り、口から漏れた血を指で拭いたバンが顔を見せる。先ほどよりも目元が疲れているようにも見えるが、致命傷には至っていないことに、またも騎士たちはどよめいた。


「君は材料錬成プロセスマテリアル系のアルケミストか。その若さなら教授に教えを説いてもらってるか、実験室に籠って薬品と向かい合いつつも論文を書いている頃だろう。非常に秀でた才能だ」

「こう見えて、散々教授陣やら顧客先やらに可愛がられてたんで」

「ほぉ。そいつはさぞかし恵まれてもらえたようで」


 くわえていた煙草を深く吸い、しずかに煙を吐く。凍える空気は、鮮明に白い息を白煙とともに見せた。

 明らかに隙だらけだ。それでも手出しできないのは、意味がないからと本能から理解しているからだろう。その間、こちらで次の対策を準備した方が賢明だ。


 だが、それは相手も同じことだろう。この数秒の間に、彼の頭の中ではいったいどれほどの魔法を展開しているのか。

 煙草の吸殻を落とし、靴底で火を消す。


「さて、ここから本戦ともちこんでいこうか。この一服が最期にならないように、おじさんも頑張っちゃおうかな」

 重い腰を上げるような一声に、全方位に配置した騎士は身構える。


「……ん?」

 瞬きをひとつ。前方にいた金髪の機工師の少女と黒髪の錬金術師の少年がいない。

 どこからともなく飛来した銃弾はバンの四方に着弾する寸前、パチュン、と高音を奏で弾け飛んだ。結界ではない。目と耳でとらえ、銃弾直接に爆破魔法を展開したに過ぎなかった。

 腕を後ろにかざす。捕えたのはルミアの手首。手に持っていたソードブレイカーがバンの首元を掠る――カチッと音がしたと同時。


 バシュン、と刃が射出され、罪人の首に赤い一線を描いては一滴の血を流させた。間髪入れずに薙いだ左蹴りを屈んでは避ける。ルミアの手首をひねっては華奢な体躯を回し落とした。だが、ルミアの裾から顔を出した銃口がバンの額を掠り、発砲。

 首を仰いでは間一髪で爆撃を避けるも、掴んだ手首から力を感じなくなった事に気付く。視線を落とすと、そこに残っていたのは白い手首だけ――否、模造された義手しか残っていないことに気付く。そしてもうひとつ気付いた。背後。


「"甲陽(Slunk)-効果(Effect)"」


 振り向きざまに右腕に流動性の高い衝撃波を纏い、真空刃として斬撃音が雪原に響く。黒い刃。黒い瞳。白い外套。それが捉えたのは一瞬であり――同じ気配が背後に感じた。指を鳴らす間もない。

 だから、己の背にあらかじめ魔法陣を設置していた。生じた青い爆発はメルストを吹き飛ばし、雪まみれにする――瞬間に再びバンの前へと距離を潰した。


 両の手足にまとうは淡い白光。触れれば最期(チェックメイト)。繰り出す拳と蹴り。振るう四の武は剣として、鎚として、そして槍としてバンを追い詰めようとする。それに対抗するはたった両の腕のみ。見切られているのか、肩部や関節部に打撃を与えられ、メルストの会心の一撃を毎度塞がれている。


 恐ろしいのは、対応しているのがメルストのラッシュだけでなく、周囲の鋭い風にも対処を施している点にあった。それはワイヤーとジェットにより最大限の加速を発揮しているルミアの双刀や弾丸。だが、それらは衝撃波を連続的に発し続ける罪人の両腕と脳内詠唱によって爆破型防御を成し遂げている。

 一旦離れ、放たれた爆撃魔法を避ける。


「さっきから一歩も動いてねぇとか余裕ありすぎんだろ」

「余裕は大人のアクセサリーってやつだ少年。見習うといい」


 カーボン製の黒い刀を創成し、再びバンに挑む。罪人の武器は素手と魔法のみ。剣と拳が交じるも、剣の方が劣勢であった。

 背後から飛びかかるルミアの影。だが、バンは両者の腕を弾いては腹部に手をかざし、


「"E-I-S(エイズ)"」


 心臓部に衝撃波を与えた。骨身が軋むような音はルミアからだった。メルストは転げ、ルミアは血を吐き、後方へ吹き飛ぶ。だが、

「あらら」

 ずしりと重い感覚。手足を金属タングステンの塊が固定し、動きを封じられている。


「……ッ、"Redox-Reaction"――授受転換(LEWIS)


 異臭を感じたバンは解毒魔法を唱えたのち息を止め、メルストを一瞥する。

 だが、視界に映ったのはそれだけではない。竜の頭部――と思わせる銅色の巨砲が蒼い炎にまみれながら口をあけている。

 それも一門じゃない。九門が八方に並べられている。


「あたしの芸術もしかと味わうんさね! ドラゴンブレス"九頭竜号"――点火(ファイアー)!」

 着地に成功したルミアの手に持つのは起爆スイッチ。甲高い声を合図に、転移魔法で出現した対巨竜迎撃砲が一斉にバンに向け火を噴いた。

 山のような鯨や巨竜を仕留めるほどの威力は熱風と黒煙、爆風を起こし、周囲の距離を取っていた騎士や要塞をも襲う。


「うわぁあああぁあっ!」

「二段以下の騎士は撤退しろ! 団長の命令だ! 外部の連絡と負傷者の手当てを優先するんだ!」

「援護どころじゃねぇ! あんなバケモノ同士の戦いなんて、命がいくつあっても足りねェぞ!」


「なんて火力だ……!」と服と赤髪をなびかせるジルも舌を巻くほど。

 あまりの破壊力の代償に、九頭竜号も木端微塵に崩れ落ちる。


 瞬間、爆炎が消し飛び、黒く赤い火の粉纏う世界はかつての白銀の世界をも霧散させ、土色の大地と青い空へと一気に晴れ渡った。

 攻城要塞都市に囲まれる戦場(ステージ)の中央。メルストの拳を変わらぬ体制で受け止めるバンの姿が、全員の目に映った。


「な、んで……!?」

 驚愕していたのはメルスト自身だ。創成したエネルギーを力学的作用――破壊に変換することで爆発的な力を与える、無へと還す一撃。それを今、ただのパンチとして受け止められてしまった。


「教えてあげようか。おじさんはね、爆発程度のエネルギーなら変換して伝播(でんぱ)させることができるんだ。だから並大抵の爆発はへっちゃらなんだよ。爆発に愛されているってわけだ。そう聞くと、なんだかロマンを感じやしないかね」


 スッと出された手はメルストの胸部へ。時空転移しようともなぜかすぐに発動しなかった。そのため、胸部に打ち付けられるような衝撃を免れることができなかった。右拳を掴まれたまま、膝を崩す。


「ッ、メル君!」「ヘルメス博士ッ!」

「あとね、おじさんはちらちらとエネルギーも感じ取れる体質になっちゃってね。"乾き"と"潤い"、"熱"と"冷気"を促す程度のものは"妖精国(シェイミン)"のやつらでも感じ取れるんだから、進化系統的に"魔族(オストロノムス)"もそーいう感覚が身につくのは何らおかしくないだろう」

「それはそうと、これでも死なないって時点で君、相当の怪物だね」と侮蔑したような乾いた笑いを吐く。


「君が怪物である所以の、莫大なエネルギーを放出する力。ん~、どういう原理でエネルギーをこんなちっぽけなとこに貯蔵しているのか、それとも恒常的に生み出しているのか。これはおじさんの仮説にすぎないが――」


 先ほどの衝撃によりぼろぼろになった上衣を破り捨てる。

 露わになる胸部。そこには太陽のような丸い傷跡が刻まれており、そこから仄かに光を漏らしている。

 メルストの無限エネルギーを生み出しているであろう器官。拳を離した代わり、右手で首を掴み、軽々と持ち上げては胸部を凝視する。


「君の心臓部が、莫大なエネルギーを制御していると思ってね。ここに何かしらの強烈な作用を与えれば、多少は影響に来すはず。現に、君は完全とまではいかなくても思うほどの力を出力できなくなった。おかげでこのパンチも、ここら一帯消し飛ばす程度のエネルギーまでに抑制されたわけだ。そうでなかったら、おじさんは煙草の消し炭といい勝負の姿になっていただろうね」

「メル君を離すにゃ変態!」


 銃から放たれる榴弾。ドゥン! と爆発が起きても、呑まれるようにすぐに消え、罪人の足元から焦げるような煙が漂う。


「まぁ落ち着きなってお嬢ちゃん。おじさんさっき言ったよ? ある程度の衝撃や高反応性に伴うエネルギーを受け流すことができるって。爆発を操れるんだ」

「かっこいいだろ」と冗談交じりにわずかに口角を上げる。

「くっ、なんて羨ましい……!」という爆弾魔の弾んだ呟きをメルストは聞き逃さなかった。おい、と心の中で呟く。


「といっても、直撃は普通に怪我するし全く効かないわけじゃないから、まぁあれだ、幸い君たちの捧げた火力は無駄にはなってない。よかったじゃあないか」

「ふざけやがって……!」と漏れる声はジルのものだろう。


「てゆーか、なんでこいつ魔人種ミル・ハロングのくせにあの魔霊種(イグ・リーハン)より強いのよさ……」

 ルマーノを襲撃したBn.レッキーという派遣罪人の存在。種族的には魔霊種が魔族中最強と謳われている。次いで厄介とされる魔獣種の派遣罪人も大きな被害をアコードにもたらしたが、聖騎士団によって鎮静された。故に、魔人種は最も対処がしやすいという認識が、アコードの人間族の中ではあった。


「……君達、いくつだ?」

 唐突にバンは訊いた。当然ルミアやメルストはおろか、誰も答えることなく警戒を解かない様子に、勘弁してくれと言わんばかりにため息をつく。


「悪いが、こっちにも都合ってのがあるんだ。ひとつのミスでぜんぶ失うとこうも人は堕ちていくもんだ。妻も娘も、人脈も権力も金も何もかもね。あるとすれば知能(ここ)とこの技術(うで)くらいか」

 何かを思い出したように息をつく。反抗しようにも、思うように力が出ないメルストは、段々と自分の首が締め付けられていることに気が付く。


 しかし能力そのものは奪われていないため、無限エネルギーを制御するための剛体は維持されたままだ。窒息することはないが、込められた力に対し、何かを感じたメルストはバンの顔を見ようとする。


「まぁ、なんだ……おじさん疲れてるんだよ」

 息を吐く音。途端。掴まれている首が熱くなる。


(おいまさか、さっきのを首にやるわけじゃねぇよな……)

 脱力しかけた瞳も力を戻し、危機に対し抵抗しようとする。


「おじさんの推測が正しけりゃ、君は死ぬことはないだろう。だが失神はするはずだ」

「な、なにを……っ」

「ちょいと大人しくしてもらうぜ。君ほどの逸材……いや、おもしろいサンプルか。まぁ御国の土産にはちょうどいいだろう」

 まずい。そう感じたルミアは次の装置(マシン)(トラップ)を発動しようと遠隔スイッチに手を伸ばす。ジルもついに携える剣を掴み、視線で他の騎士に合図を送る。



「――"四空掌握"ゥ……」


 ぎりぎり、と。

 荒々しい青年の声色。柄を強く握る音。矛盾にも頑強な筋肉を収縮させ、膨張させる。それは、甚大なる破壊を一点に集中するため。

 眼光をぎらつかせ、収める先は獲物一人。


 情けはないと剥き出す牙はまるで笑みを浮かべているようで――


「"爆崩蛇(バッポゥダ)"ァ!!」


 それは斬撃というにはあまりにも凶暴で、狂っていた。

 鋼鉄の要塞のひとつに風穴が穿たれ、大地は抉り、罪人を喰らった。


 直前、勘付いたバンは爆破魔法により襲い掛かる魔力の塊と空間のねじれを軽減させ、流した。それでも体のあちこちが切り付けられ、じわりと赤く服を染めたが。

 バンの手から解放されたメルストは斬撃の威力によって巻き添えを喰らい、弾き飛ばされたが、ようやく力を取り戻した。


 何が起きた。

 新たな敵か、と警戒する騎士一同。バラバラに吹き飛ぶ要塞の残骸。目に見えない大蛇が大地を貪った跡かと思うばかりだ。


「この技って……」

 空間魔法を有り余る力で使った、めちゃくちゃな魔法と筋力。そして耳に届いた声。ルミアとメルストはまさか、と斬撃が飛んできた先――要塞が崩れ落ちた先へと視線を届けた。


「べらべらべらべらとォ……いい年こいたおっさんが愚痴ってんじゃねェよ。潰すぞゴラ」


 不死の暴獣(ジェイク・リドル)が牙を剥く。火薬の(くすぶ)る匂いはもう、感じない。

まさかの3日連続投稿には僕自身びっくりしております。

※騎士団等のアコード王国の軍事階級や爵位制度についてそう言えば述べていなかったので、この話の終わりに記載しようかと思います(予定)

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