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双黒のアルケミスト ~転生錬金術師の異世界クラフトライフ~  作者: エージ/多部 栄次
第一部四章 錬金術師の波瀾万丈録 王国侵略編
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4-8-2.ルミアのお手伝い

 工房棟一階はルミアの工作室として機能している。大きな空間にいくつもの防爆板の仕切りがあり、各種切削加工機や溶接装置などが並べられていた。


 中央には歩行型戦車と思わせる鉄の塊が天井のクレーンから伝うチェーンに吊るされており、その隣には凶悪そうな砲身の残骸が置かれている。歩行兵器の傍に脚立を設置し、登っているルミアは、歩行兵器の大腿部ともいえる部位の軸受や油圧シリンダの状態をそのアメジストの瞳で見極めていた。


 腰に提げたベリリウム銅合金製の工具を駆使し、手術の執刀医のごとく巧みな手さばきで分解している。下にいるメルストは機械のことをあまりしらないので、余計なことをせず指示に従うだけだった。


(だろうと思ってたけど兵器のメンテナンスか)


 3度の飯より工作が好きな彼女の頼みごとの大半はこれだろう。作業時はさすがにタンクトップ姿ではなく、作業服をしっかり着ており、防爆ゴーグルも装着している。


「あっちゃー、オイル真っ黒だ。曲がりきらないし騒音もするわけだ。パッキンも劣化してるし。メル君、備品庫から円柱フィルタとA107パッキン6つもってきて。あと新しい油圧作動油も。裏口の倉庫にあるし」


 ルミアの手伝いや共同作業をすることはここに暮らしている間、たびたびあった。そのためメルストもどこに何があるかくらいはなんとなく覚えている。


「はいよ」

 一斗缶を置き、手に持った部品を、脚立に座るルミアに渡す。


「てんきゅー。やっぱり人手(マンパワー)は偉大だね。作業が捗るにゃ」

「俺の研究も人手があればなぁ」と視線を斜めに落とす。

「でも学術機関とは関わってるんでしょ?」

「あっちにはあっちの研究があるからさ。国の権限利用して先端技術推進事業所と研究施設の新設をしようと考えてるけど、まず学者を説得させるくらいの研究結果を出さないと。ある程度は集まってきてるけど」

「いうてメル君、錬金術業界じゃすごい有名じゃん。弟子入り希望も何通か来てたんでしょ? それ利用すればいいじゃん」

「ありゃ直接的な指導を望んでる。今のバラバラな研究課題と十字団の本業で手がいっぱいなのに、人材育成まで面倒見きれないよ」

「でもメル君の思い通りになるように研究してくれる人手を増やしたいんだったら、そういうことも必須になるっしょ。あ、一本舐めちゃったな……そこのM6-10ボルト1本取ってくれない? SUS(サス)の18……あぁステンレスで六角のやつ。魔銅(クフェルニケル)多めの方ね」


 それもそうなんだけど、とぼやきながら沢山ある木箱の中からM6と書かれた箱の中へと手を伸ばし、六角ボルトを下から渡す。

「ルミア、これか?」

「ありがと。さっすがだね、素人で材質見分けられるのセンスありありさね」

(まぁ"組成鑑定能力"があるからね)


 ねじの取り付けや部品の取り外し……ひとつひとつの手作業が素人目で見ても気持ちがいいくらい速い。必要最低限の動きはまるで機械の腕だ。

「それとW1SL……ウォームギア、モジュール5.0の左回りの両軸を2本。たぶんサス4しかないと思うから」

 すぐに動き、はい、と棒状の小さい歯車を手渡す。手袋越しでそれを摘まんだ途端、


「あー、これ違うギアね。似てるけど」

「ええー、一緒じゃん。その箱から取り出したし」

 そう返すと、ゴーグル越しでルミアが確認を取るようにギアを見る。


「長さが0.03ミリ、幅が0.01ミリ違うでしょ? 加工忘れだろうね」とメルストに投げて返した。彼はふたつのギアを舐めまわすように見比べる。どこからどうみても同じにしか見えない。組成鑑定で成分比は精密に見極められても大きさまでは不明確だ。

「そんだけの差で?」

「そんなにの差だよメル君。百分の一ミリのずれでも機械は悲鳴を上げるんだにゃ」

「うっそだー、そんなの目に見えねぇぞ」と冗談交じりに言う。

「いや、メル君も目に見えないもの扱ってるじゃん。そこは共感しようさ」


 そうツッコんではあきれつつも、脚立から降りては一斗缶を開蓋(かいがい)する。ふと目に入った、別の作業台に置かれた、対竜式装着型火砲の残骸。新兵器だろうか、と思う。しかしひとつではない。台の足元やその奥にも複数台あった。


「あれ全部、失敗作?」

 呟くように訊く。

「そだよー」と明るい声が返ったきた。


「設計図の通り作ってんだろ? やっぱり理論上正しいけど実際は思うようにならないことってあるのか」

「ザッツライトだよメル君。失敗が当然だし、運が善ければ改善のヒント、悪ければ大怪我をもれなくゲット。メル君の分野と同じさ」


 確かにな、とメルストは前世の研究の日々を思い返す。数えきれない失敗や小さな事故。火災未遂で実験台と髪の毛が燃えたことや液体酸素によるガラス器具の破裂も今では懐かしい思い出だ。入院しなかっただけ奇跡だろう。


「おふたりとも、少しよろしいですか?」

 工作室に顔を出したのはエリシアだ。ふたりは時刻を見ては首をかしげる。


「あれ、先生もう出る時間じゃなかったっけ。それって依頼書?」

「ええ、まだ読んでませんが」

 工作室と隣接するリビングへと移る。封を開き、中身を読む。上質な紙だったので、貴族かあるいは国政の役人か。


 依頼先はアコード王国の軍事機関――騎士団からだった。軍からの依頼は珍しくない。メルストはまた新兵器の開発依頼か魔物の討伐依頼かと肩を落としたとき、読んでいたエリシアの目が丸くなる。

「第一区駐屯所で爆発事故!?」

「爆発キター!」

 大きく両腕を掲げ、雄叫びよろしく爆発愛好家のテンションがぶち上がる。


「ルミア、ケガ人が出ているんですよ。喜ばないでください」

「けど、なんでわざわざ俺たちに。しかもこの時期(タイミング)で」

「事故ですので襲撃ではないみたいですが……。詳しくは現地に行って訊いてみましょう」

「でもエリちゃん先生、時間は大丈夫?」

「あっ、そうでした! で、でも皆さんを転移魔法で送るのは一瞬ですので」


 いつも時間に余裕で行動しているので、多少の想定外も対応できるのだろう。しかしエリシアの親切に、メルストは断った。

「こっちも準備で少し時間かかるし、エリシアさんは自分の仕事しにいってていいよ。第一区だし騎竜借りればすぐだろうから」

 自分の目で読み返した依頼書をカバンに入れ、準備を急いだ。

 自室に戻っては白い外套を羽織り、鉄剣や手記等が入ったポーチ、携帯用採収器具などを身に着ける。とはいえ活動のほとんどは能力に任せれば大体解決するので軽装だが、それに反してルミアは機動(ライト)装束(パワードスーツ)から携帯兵器と、いろいろ装着する必要があった。

 エリシアが拠点を後にし、準備が整ったふたりは、フェミルに留守番を頼むようにと告げる。


「メル君、第一区の駐屯地はいま寒冷期らしいから、あったかい格好の方がいいさね」

「え、もうそんな季節なのあっち」

ルマーノ(ここ)が局所的におかしいだけさね。第一区とか第九区とかの西部方面は寒くなってるにゃ」


 着込んでいた理由もそのためか。承知した彼は着ていた外套をいったん脱ぎ、さするように襟から裾へと手を何度か流す。一瞬のプラズマが発生したのち、防寒性かつ保温性のある堅い生地へと錬成された。物質創成と物質構築能力の組み合わせも、ここまでのクオリティにまで成長しているのを見、ルミアは感心の声を漏らす。


「だいぶ制御(コントロール)できるようになったみたいじゃん」

「本当は着たままできればいいんだけどな。まだ直接的に触れないとうまく発動しないよ」


 この場所では暑いが、エントランスへと向かう。それで、と確認するようにルミアの横に歩き並んだ。


「目的は爆発の原因と改善。怪我人の安否は報告されていないのが不安なところだけど」

「派遣罪人に警戒しろって言われた傍から別件の依頼が来るのもどうかと思うにゃ。爆発事故くらい自分らで処理できるっしょ」

「文句言うなって。これが本来の仕事なんだから。最悪人命に関わる一大事だろうし」

「はいはい真面目だにゃあメル君は」


 風が強い。雲が良く流れる空を見上げる。一瞬だけ走るスピードを弱めたメルストだが、「おっさきー」と追い抜いたルミアの背を見て、すぐに後を追った。


リアルのことで多忙になりつつあるため、次回の更新は少し間が空くかと思います。

誠に申し訳ありません。

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