0時 目覚める
「目覚めるのだ、妾の忠実なる僕よ」
その声はとても威圧的で、かなりの上から発言だった。
だが今の俺にはとても遠くに聞こえる。何故なら凄く眠たいのだ。
「後1分……だけ……ムニャムニャ……」
「…………」
~1分後~
ジリリリリリリリッッッッ!!!!
突如、俺の頭上より目覚まし時計が鳴ったかの様な音が聞こえだした。
そして、なにより痛いのだ。
俺の体の一部が、俺の体の別の部位を交互に叩く感覚。
「痛いっ!?いたっ!?いてっ!?ちょっ!?マジ、勘弁!!」
俺は抑える様に頭の上に手を置いた。すると叩く感覚もなくなり、音もしなくなった。
「いって~……マジなんだったんだ?」
仕方なく俺は起き上がろうとしたが、上手く起き上がれず、そのまま尻餅をついた。
「あれ?変だな……?」
今度は四つん這いになり、慎重に立ち上がろうとした時だ。俺の目に異様な光景が飛び込んできた。
「んなバカな……」
地面を着いてる俺の両腕がおかしい。手は丸っこく、白いグローブを嵌めており、腕自体も細く棒みたいだった。みたいと言うより完全に棒だった。
ただ意識して動かすと違和感無く動かせる。関節は無さそうなのにグニャっと曲がるのだ。気持ち悪い。
それは足も同じだった。体の感覚の割に大きめな靴を履き、これまた棒みたいな足をしていた。
そして恐る恐る体を触ってみた。
「…………マジかよ」
笑いすら出てこない。
一言で言うなら「平ら」だった。確かに割りと細身の体をしているが、今現在の体は明らかにおかしい。本当に平らなのだ。胸筋も腹筋もない。
と言うより寧ろ、綺麗なほど滑らかだった。
俺はペタペタと体のあちこちを触りだした。
「おいおい……マジか、マジかよ……!?」
ペタペタタッチ終了。
「お、落ち着け……落ち着くんだ俺……」
俺は自分の体の状況を整理してみた。
まず、顔から股間にかけて正面は平らだ。だが平らなのに目と口の感覚はある。
そして腕と足は棒。白いグローブを嵌め、大きい靴を履いている。
更に頭の上に鉄製の突起物らしきものが付いている。その横にも左右に何か丸っこい物が付いている。
何よりビックリなのが……み、認めたくないが……そう、俺の外郭は丸いのだ。
決して太ってて丸っこい、と言ってる訳ではない!
本当に記号の○みたいな形をしているのだ。
「い、一体どうなってんだ?」
「ふふっ、やっと目覚めたか妾の忠実なる僕よ」
不意に前方から声がした。
よく見たら俺がいる場所もおかしかった。
俺が座り込んでいる場所には綺麗な真紅の絨毯が敷かれており、辺りは暗く、ほんのり蝋燭の火が灯っているだけだった。
「だ、誰だ!?」
俺は声を荒げて、声の主に何者か尋ねた。
「ふふっ」
声の主が笑った瞬間だった。暗い部屋が一気に明るくなったのだ。
「なっ……!?」
そこはとても綺羅びやかで、まるでお伽話やライトノベルに出てくる王様が住むお城みたいだったからだ。
何より目を引くのが、前方で玉座らしき椅子に足を組んで腰掛けている美少女だ。
金髪紅眼で普通に綺麗で可愛い美少女だが、残念なことによく見たら背中に羽が生えていた。角らしきものも生えていた。
痛いコスプレイヤーだった。
「え、えっと……聞きたいことがあるんだけど……?」
今度こそ俺は立ちあがり、恐る恐る美少女に向かって歩き出した。
「グレート・○ーン!!」
怒声と共に彼女が手を翳すと俺は地面に触れ伏せた。
「げふっ!?」
痛い。見えない圧力が俺を押し潰そうとしている。だが絨毯はフワフワで気持ちいい。だが痛い。
「頭が高いわっ!魔物如きが、魔王である妾に馴れ馴れしく話し掛けてくるでないわっ!!」
今この娘何て言った?本当に痛いコスプレイヤーだったのか。でもだったらこの重力負荷は何なのだろうか……?
てか本当に痛い。俺は床とキスする趣味はないので、いい加減勘弁して欲しい。
ここは話を合わせておくか。
「す、すみません……魔王……様……い、以後……気をつけますんで……か、勘弁して下さい……」
「ふむ、分かれば良いのだ」
「……あ、ありがとうございます……」
自称・魔王様(笑)の美少女は満足したのか、変な圧力を解いてくれた。
くそっ!何で俺は尋ねただけなのに、謝って感謝までしないといけないんだ!絶対間違ってるだろ!!
「そういえば父上が言っていたな……時たま、自分の事が理解出来ない癖に妙に物分かりの良い魔物が産まれると……」
何言ってんだコイツ。だいぶ拗らせてるな、可哀想に。
「おい、お前!」
「は、はい……何でしょうか……魔王様……?」
俺は正座したまま姿勢を正した。
「お前自分の事は理解しているか?」
ストレート過ぎんだろっ!バカかコイツ?
「え~まぁ~……はい、理解は出来てるつもりです……」
本当は理解度5%くらいだけど、適当に話を合わせておくか。
「……ふふんっ、ならコレならどうだ」
自称・魔王様は不敵な笑みを浮かべると指をパチンと鳴らした。
「へっ?」
突如、轟音と共に俺の目の前に巨大な鏡が猛スピードで降ってきた。……死ぬかと思った。
マジ勘弁しろよと言いたくなったが、言えば再び床キスが待っているので沈黙を保つ。
そして俺は仕方なく、鏡に写る自分を見つめた。
晴天の霹靂だった。そこに写っていたのは人間である筈の俺の姿ではなかった。
「な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁあああ!?」
俺の声は響き渡った。
どうやら俺は目覚し時計の化け物になってしまったようだ。