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帰宅部の探偵  作者: 黒岩京華
9/30

超能力者の問答―解決編―

 夜の校舎は、やはり不気味なものだ。

 ぼんやりとした蛍光灯の白い光が、廊下を照らし出している。

 だが、教室にも廊下にも、俺以外に生徒は誰も残っていない。

 まぁ、テスト期間に残っている方がおかしいんだけどな……。



 俺は今、手品部のある西校舎一階の廊下を歩いていた。

 その目的は、手品部の部長、月岡竜大に会って、雪子の手紙を奪い取る……もとい、貰うことである。

 手品部は、廊下のいちばん奥にあるらしい。


 窓の外には、大きな月が輝いている。

 時間は……もう七時を過ぎているのか。


「……まったく、なんで俺がこんなことを……」

 ため息が出るのも、無理はない……。


 本来なら、俺が手品部に行く必要はなかったんだ。

 恵介と加々島が月岡竜大の出した謎を解いていれば、今頃は帰路に就いていたのに……。


 まぁ恐らく、月岡竜大はまた手品の種明かし勝負や、謎解き勝負を仕掛けてくるだろう。

 謎解き勝負はいいとして、問題は手品の種明かし勝負と、ダーツ勝負だ。


 俺が陽神調査委員会のメンバーだと分かれば、奴はさっきとは違った手品を見せてくるだろう。

 その手品を暴いたとして、ダーツ勝負はどうするべきか……。

 俺だって、ダーツなんかやったことはない。


 負けると分かっている勝負を、わざわざ挑むのは時間の無駄だしなぁ……。

 ここは、一勝一敗で最後の謎解き勝負に賭けてみるか……。



 そんなことを考えているうちに、どうやら手品部に到着したようだ。

 しかし、手品部には明かりが点いていない。


「あれ……? まさか、もう帰ったのか? おいおい……勘弁してくれよ……」


 いや、そんなはずはない……。

 わざわざ自分から勝負を仕掛けてきたぐらいだ。奴には、相当な自信があると思っていいだろう。

 逃げ出したとは考えにくい。


 とにかく……中に入ってみるか。


 手品部の扉に手を掛け、ゆっくりと開けて中へと足を踏み入れる。

 窓から射し込む月の光だけが、唯一の明かりだ。

 しかし、部屋の中は薄暗く、人の気配を感じない……。

 まさか……本当に帰ってしまったのか?


「ようこそっ! オレ様の手品部へ!」


 その時、突然暗闇の中から甲高い声が響き渡り、ボッ、ボッと音を立て、四方の壁に取り付けられていたたいまつに、火が灯ったのである。

 さらに、部屋の蛍光灯にも明かりが点いた。


 いきなりの変化に、俺は驚いて顔を手で覆い、周りを見渡してみた。


「……くっ、なんだ? 一体何が起こったんだ……?」

「それにしても、今日は来客の多い日だな……」


 その声の主は部屋の中央に座り、部屋に入ってきた俺をジッと見つめていた。

 口元には、ニヤニヤとした不敵な笑みを浮かべている。


「よう! オレ様は月岡竜大……手品部の部長にして、偉大なる超能力者さ!」

「あんたが……月岡竜大……」


 髪は金髪で短め。耳には星形のピアスをし、服装は金と銀に彩られたスーツのようなもので、とても派手だ。

 まさしく、マジシャンだな……。


 さっき、一瞬でたいまつや蛍光灯に明かりを灯したのは、遠隔操作によるトリックだろうが……。

 それにしても、さすがは手品部の部長、やることが大掛かりだ。


 部室の中にはいくつもの棚が並び、その中には様々な手品道具などが入っていた。

 壁には、ダーツの的もいくつか掛けられている。

「ねぇ、君……この部屋に見とれるのは結構だけど、まずは扉を閉めて、椅子に座りなよ」

「えっ? あ、ああ……そうだな」


 男なのか女なのか分からない中性的な声が、優しく俺に語り掛ける。

 扉を閉め、近くの椅子に座りながら、もう一度月岡竜大の顔を見た。


 こいつ……本当に女なのか?

 言葉遣いは男っぽいが、顔には化粧を施している。

 なんとも……不思議な雰囲気を漂わせた奴だな。


「それで? 手品部に何か用事か? 入部希望なら歓迎するけど……」

「……月岡先輩、単刀直入に言います。俺は、雪子の手紙を貰いに来たんです」

「ほぅ……雪子の手紙……ねぇ……」


 俺の言葉を聞いた瞬間、月岡竜大の表情が少し固くなった。


「なるほど……君も、陽神調査委員会とかいう奴らの仲間って訳か。ははは、懲りないねぇ……さっき来た奴らもオレ様の超能力に負け、すごすごと退散して行ったというのに……」


 月岡竜大は得意気になって話しているが、何も知らないというのは幸せだな。

 加々島たちはお前の超能力に負けたんじゃない。わざと答えを言わず、すべてを俺に押し付けただけだ。


「奴らの仲間だったら、もう事情は聞いているな?」

「ああ。三回勝負で俺が二回勝てば、雪子の手紙を貰えるんだよな?」

「ははは、その通りだ。話が早くて助かるよ。それじゃ……さっそく始めるとしようか!」


 月岡竜大はその場に勢いよく立ち上がり、懐から一組のトランプを取り出した。

 最初は、手品の種明かし勝負か……。


「そうだ……一応、名前を聞いておこうか」

「俺か? 俺は、神奈備暁斗だ。一応、陽神調査委員会の副部長を務めている……」

「なっ! か、神奈備……だと?」


 俺の苗字が珍しく、自己紹介をする相手はほぼ確実に驚くというのは、これまで何回も経験してきた。

 しかし、月岡竜大の驚き方は、ただ単に苗字に驚いた訳ではなさそうだが……。


「ははは、なるほどな……君が、“先生”の言っていた神奈備家の末裔ということか」

「先生? おい、先生って……一体誰のことだ?」「いや、君には関係のない話だ。では、さっそくオレ様の超能力をお見せしようか!」


 月岡竜大は言葉を濁し、箱からトランプの束を取り出して、慣れた様子でシャッフルを始めた。

 くそっ、このタイミングで気になることを言いやがって……。


 まぁ、先生とは普通に考えて、手品部の顧問のことだろう。

 これ以上は余計なことを考えず、月岡竜大の手品に集中するんだ。


「さて、今回の超能力に使用するのは、この三枚のカードだ!」


 そう言って月岡竜大が俺に見せたカードは、ハートのA、2、3の、合計三枚のカードだった。

 やはり、さっきとは違う手品を見せてきたか。


 月岡竜大は、三枚のカードを揃え、束のいちばん上に裏向きのまま置いた。

 今、束のいちばん上はハートの3である。


「この三枚のカードを、今からテーブルの上に置いていくぞ」


 慣れた手つきで、月岡竜大は束のいちばん上から裏向きのまま、カードを一枚ずつ並べていった。

 左からハートの3、2、Aの順にカードが置かれたことになる。


「さぁ! ここからが超能力の始まりだ!」


 そう叫び、月岡竜大は右にあるハートのAを手に取り、束のいちばん下に置いた。


「よく見てろよ、この状態でオレ様が指を鳴らせば、ハートのAが束のいちばん上に上がってくるんだぜ?」


 月岡竜大が華麗に指をパチンッと鳴らし、束のいちばん上にあるカードをめくって見せた。

 そのカードは紛れもなく、さっきいちばん下に置いたはずのハートのAである。


「ははは! どうだ、驚いたか! だが、まだまだオレ様の超能力は終わらないぜ?」


 テンションが段々上がってきた月岡竜大は、次にテーブルに置かれたハートの2のカードを手に取り、今度は束のいちばん上に置いた。


「オレ様が指を鳴らすと、今度はハートの2が下がるんだ!」


 再び華麗に指を鳴らし、いちばん下のカードをめくって見れば、それは、いちばん上に置いたはずのハートの2。


「さて、仕上げだ! 残るは、ハートの3のみ……」


 机に残った最後のカードを手に取った月岡竜大は、そのカード、ハートの3を束の真ん中あたりに差し込んだ。


「指を鳴らせば、真ん中に入れたはずのハートの3が、上がってくるんだ……」


 そろそろ飽きてきた月岡竜大の指鳴らしのあと、いちばん上のカードをめくれば、それは、真ん中に入れたはずの、ハートの3であった。


「くくく……カードを自在に操るこの超能力! さぁ、神奈備暁斗! 君は見破れるかな?」


 そう、得意気な顔でビシーッと指を指されてもなぁ……。

 というかこれ……超能力じゃなく、ただの手品だし。


 そして、この手品の種は、案外単純なものである。

 手品部の部長なのに、この程度の手品しか出来ないのか?

 もしくは、最後の謎解きに自信があるから、あえて手品は簡単なものを見せているのかも知れないな。


「……月岡先輩、トランプを貸して下さい。今から、手品の種を暴いてご覧に入れましょう」

「えっ!? も、もう種が分かったのか?」


 驚きを隠せない月岡竜大からトランプを受け取り、手順通り三枚のカード、ハートのA、2、3のカードを相手に見せた。


「使うカードはこれに加えてあと一枚、適当なカードを用意したんですよね? 月岡先輩」


 俺は、カードの束からジョーカーを一枚抜き出し、三枚のカードと共に束の上に重ねた。

 これで今、順番として束の上からジョーカー、ハートの3、2、Aとなっている。


「最初、月岡先輩が俺にカードを見せた時、四枚目のカードを隠して三枚に見せてたんですよね? そして、このままカードを机に並べていくと……」


 束の上から順番に、左から一枚ずつ机の上に並べていく。

 月岡竜大は、どことなく動揺したような表情を浮かべ、その様子をジッと見ていた。


「さて、準備は完了だ。机の上に並べられたカードは左から順に、ジョーカー、ハートの3、2……。束の上には、ハートのAが残ったままだ。そして、相手にハートのAだと思い込ませている、実際にはハートの2を束の下に置いて、指を鳴らせば……」


 指をパチンッと鳴らす……振りをして、いちばん上のカードをめくる。

 当然、それはハートのAだ。


「相手から見れば、下に置いたハートのAがまるでエレベーターのように上がってきたと思うだろうが、仕掛けは単純なものだ」


 ハートのAを机の上に置き、今度はハートの2だと相手に思わせている、実際にはハートの3を束のいちばん上に置いた。


「さっきと同じく、これで指を鳴らせば、今度はハートの2がいちばん下に移動したように見える。上がったり下がったり、まさしくエレベーターだ」


 ハートの2を机の上に置き、最後のカード……相手にハートの3だと思わせている、実際にはまったく関係ないジョーカーを、束の真ん中あたりに差し込んだ。


「今、いちばん上はハートの3だ。真ん中に入れたのはまったく関係ないカードだから、指を鳴らしてカードをめくれば……」


 いちばん上のカードをめくり、ハートの3を机の上に置いた。

 相手から見れば、ハートの3が真ん中から上がってきたように見えるだろう。


「……とまぁ、これが今回の手品の種明かしだ。どうですか? 月岡先輩」

「は、ははは……正解だ、神奈備暁斗。先生が言っていた通り、相当な洞察力みたいだな」


 先生が言っていた通りって……その先生は、俺のことを知っている人物なのか?

 まぁ、とりあえずこれで一勝だ。

 手品のレベルが、この程度で助かったな……。


「だが、いい気になるなよ。勝負はまだ始まったばかりだ! さぁ、次の勝負を始めるぞ!」


 月岡竜大は、机の上に置いてあったトランプを片付け、今度はダーツの矢を数本取り出した。

 思った通り、ニ戦目は自らが得意なダーツ勝負を仕掛けるつもりか。


「……何を隠そう、オレ様はダーツをたしなんでいるのだ。ということで、今度はダーツで勝負と行こうじゃないか!」


 そう言ったかと思うと、月岡竜大は指の間に四本の矢を挟み、そのままの姿勢で腕をスッと後方へ引き、壁に掛かっていた的に向かって一斉に矢を放ったのである。

 矢は見事、四本ともすべて的に突き刺さった。


 さすがは、大会で優勝するだけのことはある。恐ろしいほどの命中率だ。

 その姿は、まるでクナイを投げる忍者のよう。

 これは……とてもじゃないが素人の俺が勝てる相手じゃなさそうだ。


「はははは! 見たか、オレ様の腕前を! さぁ、今度は君の番だよ! うまく、的に当てることが……」

「あっ、すいません月岡先輩……。俺、この勝負棄権します」


 言葉を遮られた月岡竜大は、俺から放たれた意外な言葉に驚きを隠せない様子で、ポカンとした表情を浮かべた。


「はっ? 棄権? それはつまり……オレ様の不戦勝ということでいいのかな?」

「ああ、そういうことだ。とてもじゃないが、月岡先輩には勝てそうもないんでね」


 わざわざ、負けると分かっている勝負をしているほど暇ではない。

 ここはさっさと負けて、次の謎解き勝負で決着を付けるんだ!


「は、ははは! そうかそうか。どうやら君は、身の程をわきまえているようだな。せっかくおもしろい勝負を期待していたんだが……棄権ならば、仕方がない。これで、一勝一敗だな」


 月岡竜大はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、スッと懐に手を入れた。


「……それじゃあ、最後の勝負と行こうか。勝負内容は……もう分かっているだろ?」

「ああ。お前の心の中を読むことが出来れば、雪子の手紙を渡してくれるんだよな?」

「おっと、態度が変わったな……そう、その通りだ。見事、オレ様の考えていることを当てられれば、こいつをくれてやる!」


 月岡竜大が懐から取り出した一枚の古ぼけた紙切れ。

 あれこそ、俺の先祖である神奈備雪子の残した、火宝に関する手紙か……。


 やれやれ……ようやくあの手紙を手に入れて、家に帰ることが出来る。


「……一つ、確認させてくれ。俺がお前の考えていることを当てたら、本当にその手紙を貰えるんだな?」

「ああ、それは約束してやる。まぁ、そう簡単には当てられないだろうがな!」


 俺はニヤリと笑みを浮かべ、その場に立ち上がって月岡竜大を睨み付けた。

 月岡竜大も、負けじと睨み返してくる。


「さぁ! 今、オレ様が何を考えているのか……当ててみやがれ!」

「ああ、当ててやるさ! 今、お前が考えていることは………」

 校舎から出て、夜空に浮かぶ月を見ながら、大きく深呼吸をした。

 今夜は爽やかな風が吹くな……なんとも、清々しい気分だ。

 まぁ清々しい気分なのは、やっと帰れるからなんだけどな。


 無事、月岡竜大から雪子の手紙を貰うことが出来た。

 それにしても、相当な年代物だな……。


 手紙は一枚で、文字もあまり書いてなかったが、その文字が……なんというか、古文、というのだろうか?

 このままでは、内容を確認することが出来ないな……。

 とにかく、手紙は手に入れたんだ。まずは、加々島たちと合流して……。


「おっ! アッキーが戻ってきたぞ! おーい、アッキー!!」


 手紙を眺めながら歩いているうちに、校門へ着いたようだ。

 南雲が真っ先に気が付き、東と共に俺の所へ駆け寄ってきた。

 そのうしろから北条と恵介、さらに加々島と西沢が続く。


「あれ? 樹がいないみたいだけど……」

「ああ、樹なら先に帰ったよ! 樹も、相当疲れてたみたい」


 そりゃそうだろ……俺だって疲れてるんだ。

 樹も眠そうだったし、早く帰れて何よりだな。


「ふふふ……その様子だと、雪子の手紙を手に入れたようだな、暁斗」

「ああ、ここにあるよ。たくっ、お前たちのせいで二度手間になっちまったぜ……」


 ため息をつきつつ、雪子の手紙を加々島に手渡した。

 その瞬間、南雲と東が加々島の周りに集まってきたのである。


「ヒューッ! さっすがアッキーだぜ!」

「ホントホント! 暁斗は頼りになるわねぇ~!」

「それにしても、よく雪子さんの手紙を入手出来ましたね、暁斗さん……。どうやって、月岡さんの心を読んだんですか?」


 手紙を眺めながら、北条が不思議そうな表情を浮かべ、俺に尋ねた。


「いや、別に月岡の心を読んだ訳じゃないよ。そんなことが出来たら、本物の超能力者だ」

「それじゃあ……一体、どうやって雪子さんの手紙を?」

「ポイントは、月岡の考えていることを当てるんじゃなくて、奴が必ず手紙を渡さなきゃいけない答えを言うことなんだよ」

「手紙を渡さなきゃいけない……答え?」

「そう。俺が月岡に対して言ったことは……“お前は、俺に雪子の手紙を渡す気はないと考えている”」


 俺の答えを聞いて、北条はさらに不思議そうな表情を浮かべ、首をかしげた。

 南雲と東も答えの意味が分かっていないようだな……二人とも、揃って首をかしげている。


「つ、つまりだな? お前は手紙を渡す気がないという答えが合っていたら、当然手紙を貰えるだろ?」

「は、はい……」

「だが、もし手紙を渡す気がないという答えが間違っていたとする。そうすると、月岡は手紙を渡す気があるということになるだろ? 結局、どちらにしろ俺は雪子の手紙を貰えるんだ」


 しばらくの沈黙が続き、北条たちはポカンとした表情を浮かべた。

 そして、やっと俺の言った意味が分かったのか、南雲と東がお互いに向き合って笑顔を浮かべた。


「な、なるほどぉ~! そういうことだったのか!」

「な~んだ! 月岡って奴は、本物の超能力者じゃなかった訳ね? ちょっとガッカリかも……」


 たくっ、昔から南雲と東はこういう謎解きが苦手だったよな。

 二人とも、武道の腕は役に立つのに……。


「でも、よく月岡さんの出した謎が分かりましたね! わたし、全然分かりませんでしたよ!」

「まぁ、冷静になってよく考えれば分かる問題だ。そんなに難しいものじゃない……そうだよな、恵介?」

「うん、まあね! 僕も、一瞬で解けちゃったよ!」


 だったら、俺に任せずに自分で解けっての……。


「でもよ~……この手紙、まったく意味不明だぜ?」

「そうね……恐らく、江戸時代……ううん、もしかしたら、もっと昔に書かれた手紙じゃないかしら?」

「そうだな……まずはこの手紙を解読しなければ、火宝の隠し場所は分からないだろう。優衣、解読を頼んでもいいか?」

「ええ、問題ないわ」


 加々島は、雪子の手紙をそのまま西沢に手渡した。

 西沢の奴……古文の解読まで出来るのか。


「では今後の活動について、私から一つ提案がある」

「今後の?」

「ああ。さっき皆とも話をしたんだが、これから期末テストも待っているし、手紙の解読もしなければならない。そこで、期末テストと手紙の解読が終わった段階で、私が皆に集まる場所をメールで知らせる。暁斗も、それでいいか?」

「ああ、俺は別に問題ないぜ」


 加々島も一応、期末テストのことを考えていたか。

 確かに手紙の解読が終わるまで、火宝伝説の謎は追えないだろうな。

 正直、俺も少し休みたいし……。


「うむ……皆、今日は夜遅くまでご苦労だったな。本日の活動は、これにて終了とする。家に帰って、早めに休んでくれ!」


 加々島の一声で、陽神調査委員会は解散となった。

 やれやれ、今日は一日長かった……。さっさと帰って、早めに眠るとしよう。


 一つ気になっているのは、月岡の言っていた先生という人物が、なぜ俺のことや神奈備家のことを知っていたかということだが……。

 しかし、さすがに今日は疲れていてこれ以上頭が働かないな。

 まぁ、そんな真剣になって考えることでもないか……。







「くそっ! くそっ! あの野郎……よくもあの手紙を!」


 暁斗がいなくなった手品部でたった一人、月岡が髪を乱しながら暴れていた。

 自らの鬱憤を晴らすため、机や椅子に八つ当たりし、部室はすでに荒れ放題となっている。


「あの問題は、先生に教わった最高に難しいもの……なぜ、神奈備はいとも簡単に解いてしまったんだ!」


 再び床に転がっていた椅子を蹴飛ばそうとした時、月岡の携帯が突然鳴り響いた。

 月岡は、息を切らしながら携帯に出る。


「なんだ!? 今、オレ様は機嫌が悪いんだ! つまんねぇ用事だったら……」

《おやおや、随分と荒れてますねぇ……。その様子だと、神奈備暁斗に、手紙を取られたようですね》

「あっ、先生……す、すいません!」


 声の主が先生だと分かった途端、月岡は急に態度を改めた。

 電話の向こうからは、優雅に笑う先生の声が聞こえてくる。


《ほほほほ! 思った通り、神奈備暁斗は、あの謎を解き明かしましたか》

「わ、笑い事じゃないっすよ先生! あいつは、先生の教えてくれた最高に難しい問題を、いとも簡単に解いちまったんですよ? それに、手紙は持ってかれるし、散々っすよ!」

《ああ、あの問題ですか? あんなもの、冷静になって考えればすぐに解ける問題ですよ。そんなに、難しいものじゃありません》

「うぇ? む、難しい問題じゃ……ない?」


 月岡は、思わず素頓狂な声を上げた。


《ええ。神奈備暁斗が雪子の手紙を手に入れることは、初めから想定済みです。まぁ、第一試練……合格といったところでしょうか》

「な、なんだ……ただ、神奈備の奴を試しただけだったんすか? もう、先生も人が悪いなぁ! それならそうと、最初に言っておいて下さいよ!」


 月岡はホッと胸を撫で下ろし、倒れていた椅子を直して腰掛けた。


《あれくらいの問題、解いてもらわなければ困りますからね。ああ、そうそう……。月岡さん、よく雪子の手紙を書庫から持ってきて下さいましたね。礼を言わせてもらいますよ》

「いやいや、大したことねぇっすよ先生! ただ……書庫の鍵を無断で開けたことがバレれば、厄介なことにならないっすかねぇ?」

《ほほほほ! 月岡さんあなた、意外と心配性ですね。大丈夫ですよ。あとの処理は、すべてわたくしがやっておきますから》

「そ、そっすか……それなら、一安心すよ、先生……」


 心配していたことが解決し、月岡は深い息を吐き出した。


「それで、これからどうするんです? 雪子の手紙は神奈備の奴に取られましたし、火宝の隠し場所は、まだ分からず仕舞いっすよ?」

《ほほほほ! 火宝の隠し場所は、陽神調査委員会が解いてくれるでしょう。わたくしは、盗むのが専門です。隠し場所が分かったら、彼らより先に、火宝を頂けばいいんですよ》

「なるほどぉ~! そいつは楽でいいっすねぇ! あっ、でもでも……約束通り、火宝が手に入ったら山分けですよ、先生」

《ええ、約束しますよ。ただ、神奈備暁斗の実力をさらに試したいので、再び月岡さんに協力を求めたいのですが……よろしいですか?》

「もちろんっすよ! きっと、また面白いことを考えているんでしょ、先生!」


《ええ……神奈備暁斗にも楽しんで頂きましょうか。このわたくし……“怪盗・青玄”の遊戯を……》

第二章 超能力者の問答 完

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