08 前世・聖女の登場
唐突だった。
「二人に付きまとうの、やめてくれませんか」
「……は?」
いきなり廊下で声を掛けられて振り向いた理子の前に立つのは、それはそれは可憐な美少女だった。
緩くウェーブのかかった長い髪は綺麗な茶色で、ふわふわさらさらと流れて華奢な肩を包む。
白い小さな顔は両手にすっぽりと収まってしまいそうな卵形。こちらを見てくる大きく円らな目は淡い茶色で、長い睫毛にびっしりと覆われている。通った鼻筋は滑らかで、淡い桜色の唇が艶やかだ。
小柄な理子より少し背が高いため、軽く見上げる形になりながら、理子は首を傾げる。
モデルやアイドルのような風貌の美少女は、なぜか違う制服を着ていたのだ。紺色を基調としたワンピース型の制服は、確か有名な名門お嬢様学校の制服だったはずだ。
「……他校の生徒ですか?」
「違います。私、四日前に二年一組に転入してきたんです。制服がまだできていなくて……って、話を逸らさないで下さい」
「あ、二年なら同学年かぁ。敬語使わなくていいよ」
「だから話を逸らさないで下さい!」
美少女は整えられた細い眉をきりりと吊り上げて、理子を睨んでくる。怒った顔は綺麗だなあ、と思いながら、理子は反対側に首を傾げた。
「名前を聞いてもいい?私は佐藤理子です」
「だからっ……」
「それから、『二人』って誰?」
二人に付きまとうのを云々は、今までに何回か聞いたことがある台詞なので、大体の見当は付くつもりだ。しかし、初対面の人間、しかも一週間前に転入してきたばかりの彼女から言われると少し戸惑う。
確認のつもりで問いかければ、美少女は非難するように顔を顰める。
「しらばっくれないでくれますか。私、知っているんですよ」
いや、そんな。初対面の人にそう言われても。正直意味が分からない。
困惑しながらとりあえず黙って見上げれば、美少女は少し落ち着きを取り戻したのか、小さく咳払いして口を開いた。
「……私は、新城優梨愛です」
「……」
うん、知らない。
ユリアでぱっと思いついたのは、劇画調の漫画に出てき某ヒロインくらいだ。
「前世の名前は、ユリア・イーリス」
「……」
前世?
なんだか、思いっきり、既視感。
理子が思わず目を見開けば、目の前の彼女はふっと口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「私の前世は、聖女ユリア。勇者と魔王の戦いを終わらせる、唯一の存在なの」