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07 前世・魔王と勇者とモブの登校

 翌朝。

 いつも通りの時間に出れば、示し合わせたように幼なじみ二人が門の前に立っていた。


「おはよ、リコ」

「おはよう、リコ」


 元気に挨拶する陽斗はるとに、静かに微笑むれい

 いつも通りと言えばいつも通りの光景なのだが、今の理子の頭に浮かぶのは『魔王』『勇者』の文字。朝っぱらから、モブ(仮)の前に魔王と勇者が揃い踏み。どんなRPGだ。

 とはいえ、背後の景色は住宅街の一角で、晴れ渡った空にちゅんちゅんと雀の鳴き声が響く長閑な朝である。なんて違和感だ。


「……おはよう」


 とりあえず挨拶を返してから、並んで最寄りのバス停へと向かう。

 その間、陽斗と玲はいつも通りにテレビ番組や週刊少年雑誌や何やらの話で盛り上がっていた。五割は陽斗が話し、三割は玲、残り二割で理子が相槌を打つ。

 変わらぬ光景ながらも、理子の頭からは相変わらず『魔王』『勇者』の文字が消えない。アイコンのように二人の頭上に浮かんでいるようにさえ見えてくる

 いや、それにしても陽斗が魔王で玲が勇者というのは、本当にしっくりこないものだ。いっそ逆だったら、ちょっと理子も信じたかもしれない。


 …そう言えば、この二人は知っているのだろうか。

 互いに、前世が魔王と勇者であることを。

 もし、二人とも互いの正体を知らないとしたら――


「……」


 さあっと汗が流れた。

 

 二人が、相手の前世が魔王やら勇者やらだと知ったらどうなるのだろう。

 理子の頭の中に、「お前が勇者だったなんて…」「まさか魔王だったとは…」と硬い表情で対峙する二人の映像が思い浮かぶ。

 仲良くなれそうもない組み合わせ、いわば宿敵同士である。


 ――もしかしたら、二人の仲が悪くなるんじゃなかろうか。


 理子が危惧するなか、バス停に並んで待つ二人は至って呑気に、


「やっぱりゆで卵がいいって」

「いや、煎り卵の方がいい」

「ばっか、お前、白身と黄身が分かれてる方が食感の違いってもんがあるだろうが」

「マヨネーズと混ぜた時の相性は煎り卵の方がいいと思うよ」


 と言い合っていた。

 ……どうやら、パンに挟む卵マヨの話のようだ。平和である。ちなみに私は厚い卵焼きとケチャップと辛子マヨネーズの組み合わせが好きである。


 それはさておき。

 到着したバスに乗り込みながら、理子は決意する。


 二人には互いの前世のことは話さないようにしよう、と。

 前世なんかのせいで、二人の友情が壊れてしまうのは嫌だ。

 

 空席に座った理子の前に並んで立つ二人を見ながら、そう思っていたが――


「黄身のぼそぼそ感をマヨネーズで誤魔化しているだけだろう。なら最初から混ぜておけば問題ない」

「ちっげーよ。黄身があることでマヨネーズの中につぶつぶのしっとりとした食感が生まれて、さらに白身のぷりぷりとした食感の違いが引き立ち――」

「……」


 あれ。まだ続いていたんだ、卵マヨ論争。

 次第にヒートアップする二人を半目で見上げながら、さっそく友情崩壊か、と呆れる理子であった。





 二人に気を取られていた理子は、気付くことは無かった。


 バスの後部座席の方から向けられる、強い視線に――


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