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04 前世・勇者の告白は続く

 二人の幼なじみに衝撃的な告白をされた休日の翌日。

 理子さとこがまず取った行動は、早起きだ。


「あら、今日は早いのね」

「うん、ちょっとね」


 支度を終えて、いつもより一時間も早く家を出た。母には早朝自習を行うと言ってある。

 まあ、本当の狙いは登校時間をずらして、二人の幼なじみと顔を合わせないようにするためなのだが。


 そう、理子はさっそく実行していた。

 前世が魔王だの勇者だの言い出した幼なじみと、距離を置く作戦を。

 やっぱり関わらないのが一番、と昨晩寝る前に決心し、目覚まし時計を一時間早くセットしたのだ。

 まずは一緒に登校というのを無くせば、次第に距離が……家が隣同士の物理的な距離はまあどうにもならないので、会う機会を減らして心の距離から置いていこうと言う作戦である。


 早く起きるのが少し辛いが、頑張って続けていこう。

 早起きは三文の徳と言うのだし。


 さあ、玄関を思い切り開けて、朝の清々しい空気の中へ飛び出そ――


「ああ、おはよう、リコ」

「……」


 ドアノブを握ったまま、理子は固まる。

 玄関から数歩先にある門柱の前を通りかかったのは、さらさらの黒髪と漆黒の目を持つ美しい少年――右隣の日本屋敷に住む、幼なじみのれいだ。


「え?なんで…?」

「今日は挨拶運動があるからね」

「……」


 だったー。そうだったわー。

 毎週月曜の朝に門の前に立って挨拶し、同時に服装の点検や注意を行うのは、風紀委員の活動の一つである。今さらそのことを思い出して、遠い目をする理子であった。






 通学にはバスを使う。高校までは、徒歩だと五十分以上かかるのだ。自転車で通えなくもないが、もっぱらバス通だ。

 いつもより早い便の、人が少ないバスに揺られながら、窓の外を眺めやる。

 一人掛けの席に座ろうとしたのに、玲から「話があるから」と二人掛けの席の窓側に追いやられていた。

 話聞きたくない聞いてない聞かない、とひたすら窓の外を眺めることに専念していた理子だったが、玲が唐突に声を掛けてくる。


「ヴォルフレイっていうんだ」

「へ?…ぼる?」

「ヴォルフレイ。正確には、ヴォルフレイ・ベアル=ゾル・ガゼルギース。それが前世の俺の名前だよ」


 あ、やっぱりその話か。

 窓から顔を離しておそるおそる振り返る。

 相も変わらず、玲の表情は至って普通に涼しげで、冗談なのか本気なのか見当がつかない。できれば冗談であってほしいのだが。


「えーと……昨日の話の続き?」

「うん。昨日は途中で話を切られたからね。ちゃんと話しておきたくて」


 うーわー、普通に返されたー。

 内心で思い切り頬を引き攣らせる理子を、玲はじっと見つめてくる。

 やばい、引いているのが空気で伝わったか。拗ねたかな。拗ねると玲は長引くんだよなぁ。

 どうやって誤魔化そうと考える理子であったが。


 むに。


 玲の細長い指が伸ばされ、理子の頬を摘んできた。


「……」

「……」


 むにむに。


「……どうしたの?」


 玲の親指と人差し指と中指で頬を摘まれ、むにむにされながらも、理子は冷静に聞いた。

 玲が理子の頬を摘んだり触ったりしてくることは、別段珍しいことではない。小さい頃から、玲は丸顔の理子の頬が気に入っているようで、「餅みたい」「手触りがいい」と時折ふいに触ってくるのだ。

 とはいえ、高校に入ってからはとんと減ったものだが。

 小さい頃とは違い、指先は太く硬い。男性にしてはほっそりとしているように見えるのに、理子よりも一回り以上大きな手はすっぽりと頬を包んでしまうのだろう。


 見上げると、玲は真剣な眼差しで見つめ返してきた。


「ねえ、リコ。……覚えてない?」

「……何を?」


 小さい頃にこうやって摘んできたことだったら、覚えているけれども。

 玲が聞いているのは、そう言うことじゃないような気がして。

 首を傾げた理子に、玲はふっと苦笑したのだった。


 それからしばらく、むにむにぷにぷにと丸い頬を満喫していた玲を横目で見ながら、理子は思う。

 ヴォルフレイ何たらと言う濁点の多い禍々しそうな名前は、勇者と言うより魔王っぽいなあ、と。


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