01 前世・魔王の告白
「いや、マジで本当なんだって」
頭を掻きながら困ったように言うのは、久賀陽斗。
理子の家の左隣の洋館に住む、幼なじみの男の子だ。
所々跳ねた癖のある栗色の髪と、緑がかった茶色の目を持つイギリス人のクォーターで、どちらも天然ものだ。
目鼻立ちがはっきりとしながら、少し垂れた目尻が人懐っこく、よく動く表情が快活な印象を与える。
背が高く細身ながらも筋肉はついており、中学生の頃はバスケ部のエースで、高校では部活に入っていないが運動部に助っ人として度々呼ばれるほど運動神経がよい。
さらには生徒会に所属し、その人柄の良さと人望の厚さで、次期生徒会長と目されている。
いわゆる、白馬の王子様系のイケてる男子だ。
そのイケてる男子が、休日の午前中、唐突に家に尋ねてきて「前世が魔王だった」とのたまった。
とりあえず理子は、リビングのソファに彼を座らせ、熱いコーヒーを出す。濃いめのインスタントコーヒーだ。
「まあ、落ち着こうよ」
「いや、落ち着いてるって」
理子の冷めきった目線に、陽斗は頬を引き攣らせる。
「お前、全然信じてないだろ」
「うん」
「だよなー」
素直に首肯する理子に、はは、と陽斗は乾いた笑いを零した。
何か諦めたように肩を落としながら、こちらを見つめてくる。
緑がかった色素の薄い目は、昔と変わらず宝石のように綺麗で、暖かな陽だまりを思わせる。
一切の邪気がない、澄んだ優しい瞳。
どこもふざけた様子が無いのが、逆に心配になった。
ああ、これはかなり重症かもしれない。
陽斗の前に座り、理子は真面目に言う。
「あのさ、何か悩みがあったら言って。解決できないと思うけど、聞くだけ聞くから。あ、おじさんおばさんには言わない方がいいよ」
「……」
真剣に言ったのに、陽斗は困ったように苦笑を返すだけだった。
とりあえず、思ったこととしては。
――陽斗は魔王というより、勇者が似合いそうだ。たぶん。