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10 前世・モブ(だったらいい)の受難は続く


 放課後、理子さとこは教室で借りていた本を読んでいた。

 幼なじみの二人と距離を置く作戦その二『下校時間をずらそう』を、とりあえず実行し続けていたのだ。

 とはいえ、最近は二人と登下校することは滅多にない。それは転入生の聖女さんの存在が大きい。登校時に実は同じバスで通っていることが判明し、バスに乗ればすぐに聖女さんが近づいてきて話しかけてくるようになったのだ。

 陽斗はるとれいは、とくに態度は変わらない。聖女さんに親しくするわけでもなく、素っ気なくするわけでもない、普通に対応しているようだ。

 自分はいない方がいいかなー、いいですよねー、と何度か離れた席に座ろうとしたのだが、陽斗と玲は必ず側にひっついてくる。


 もうモブなんか放っておいてくれ。

 魔王と勇者と聖女で楽しく前世を語りあえばいいじゃないか。

 ……いや、魔王と勇者という時点で仲良くは無理か。


 そういえば、理子が一緒にいるときには、前世の話は出なくなったようだ。

 聖女さんが何度か、「あの、覚えてますか…?」と潤んだ目で陽斗と玲を見上げていたが、二人は「「何が?」」と揃って返していたものだ。

 あの三人の態度からすると、三人で話を合わせているわけじゃなさそうだ。でも、だったらなぜ、聖女さんは陽斗と玲が『勇者』と『魔王』であることを知っていたのだろう。


 ……もしかして、本当に前世とやらで…?


 いやいや、ないない。

 それはない。たぶん。


 こっちまで前世の事を考えてしまいそうになり、慌てて首を横に振った。

 理子は読みかけの本を閉じて帰り支度をする。そろそろ帰ろう、と廊下に出て一人で歩いていたときだった。


「――なんで、邪魔するんですか?」

「のわっ」


 いきなり背後から声を掛けられて、理子は変な声を上げてしまった。

 人気の無い放課後の廊下でいきなり声を掛けるのはホントやめてほしい、と慌てて振り返れば、そこにいたのは聖女さんだ。

 相変わらずの美少女ぶりだったが、何だか様子がおかしい。

 鬼気迫るというか、妙な迫力を感じ取って、理子は思わず後ずさる。


「え、えと、聖女…じゃなくて新城しんじょうさん、どうしたの?」

「なんで邪魔するんですか」

「いや、邪魔って、何の…」

「とぼけないで。いつもいつも、ジークハルト様とヴォルフレイ様の側にいて、私の邪魔をしているじゃないですか!」


 今度は強い口調で言い切られてしまい、理子は戸惑った。というより、引いた。

 陽斗と玲の前世の名前を知っているのにも『様』が付いたのにも驚きだが、少し行き過ぎた被害妄想が怖い。そんなことないよ、と否定の言葉を軽々しく口に出すこともできないくらいだ。


「そうやって、いつも……あのときも、私の邪魔をして」

「あのとき…?」

「『リコ』『リコ』って、いつもいつもヴォルフレイ様は……ジークハルト様だって、私に見向きなんかしなくて…」

「ちょ、ちょっと…」


 じりじりと迫ってくる聖女さんに、理子は一歩、一歩と下がっていく。

 背を向けてとっとと逃げたいが、何だか怖くてできない。


「大体、何でジークハルト様とヴォルフレイ様が現世でも仲が良いの?本来なら、敵対し合ってないといけないのに……あなたがいるから、御二人は本来の姿に戻れないのだわ」

「は?」

「あなたがいなくなれば、御二人の縁は切れるわ。そうして敵対したヴォルフレイ様とジークハルト様を救うのが、私の役目なのよ」

「ちょ、ちょっと待って」


 ぶつぶつと呟く聖女さんの言葉に、理子は恐怖を忘れて思わず口を挟んだ。


「それって、つまり、わざわざあの二人を仲違いさせてから、仲介役に入るってこと?」

「そうよ。それが前世でも現世でも、本来の姿で…」

「馬鹿じゃないの?」

「……え?」

「正直言って、私は前世なんて知らないし、あんまり関わりたくないんだけどさ。…だけど、今の陽斗と玲のことは知っているから、二人が仲悪くなるのは嫌だ。あなたがそんなことを考えているんだったら、私は二人から離れないようにするよ」

 

 理子がきっぱりと言えば、聖女さんはしばらくぽかんとしていたが、やがて綺麗な顔に怒りを滲ませる――どころか、歪んで般若のように恐ろしい表情を見せた。


「……やっぱり、そうやって邪魔ばっかり…!」


 怒りの形相の聖女さんに、理子はしまったと焦る。

 より怒らせることはわかっていたが、でもあの場で黙って聖女さんの言うことを聞きたくなかったのだ。

 ああ、でも、やっぱり怖いものは怖い。

 逃げよう、と背を向けようとしたところで、身体を強く押されれば――


「え」


 そこは、階段で。


「あ――」


 落ちる。


 落ち――






『ただの負け犬風情が聖女わたしに逆らうからよ』


 嗤う声が、降ってくる。


『安心なさい、亡骸は魔物がすっかり喰らってくれるわ』


 傷だらけの身体は、抵抗できずにあっさりと蹴り落とされ。


『これで、あの御二人は私のものよ』


 夜の闇の中で、高い崖から落ちる小さな身体。


 落ちて、落ちて。

 硬い地面に、叩きつけられ――






「リコ!!」


 階段を数段落ちた理子の身体は、誰かに受け止められていた。




コメディのはずが若干サイコでホラーな展開に…

…いや、最後はコメディな終わり方になるので、コメディのジャンルで続けたいと思います。


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