戦友の熱気ーある軍人の手記ー
凄まじい轟音が鳴り響き身体を揺らす。
壕で意気消沈していた皆が体を震わせる。
今のは近かった。少しだけ頭を出すと目先の地面に大きな穴が空いているのが見えた。
壕に篭って見えない我々の周囲を手当り次第に砲撃しているようだ。
鳴り止まない敵の砲撃音が疲弊しきった心を蝕んでいく。
森の中でこうやって常に一刻は過ぎていたであろう。
このまま壕で潜んでいても、囲まれるか砲撃が直撃するかのどちらかだ。
装備の中から双眼鏡を取り出し、壕から頭を上げ偵察する。
土煙が舞っていて視認しずらいが、どうやら敵から距離が開いたままだ。
地図を広げ通信手の死体から通信機を借用する。
地図と自分が持っていた方位磁針とを照らし合わせる。
「こちらは第二歩兵大隊、二等兵の【ノイズ】である。ホ-29からチ-29にかけての砲撃を要請する。」
無線機を置いてうな垂れる。
はたして当たるのか?
地図の読み方は士官学校で習ったが砲撃の要請について習わなかった。
肝心の砲もこの前線に配備されいているようには思えない。
しかし、砲撃さえすれば敵を一網打尽にできる確信のようなモノがあった。
それが例えば当てずっぽうの地点に砲撃を要請したとしても。
ふと、静けさがやってくる。
敵の銃声と砲撃は止んだ。
ほんの一瞬だけ偶然が重なっての静けさかも知れない。
敵は常に我々を囲んでいて射撃の必要はないからかも知れない。
壕をよじ登り地面に立つ。
周囲に敵はいない。あるのは、砲撃による穴だけだ。
風も完全に止んでいてそこに一人立つ私がこの戦場を操っているような錯覚さえした。
そこに後方から爆発音がする。
風を切るその幾つもの砲弾は敵地の射程まで届いていないようでこちらに飛んでくるように見えた。
後方にいる戦友達に感謝。
私の感動に応えるかのように凄まじい追い風が吹く。
前にたじろいでしまいそうになるが耐える。
この風は私の後ろに立つ戦友の熱気なのだろう。
その風は少しずれた砲弾を敵地に届け全てを玉砕してくれる気がした。