第1話 悪魔召喚
あらすじの通り、ただの微エロコメディです。
お嫌いな方は黙ってブラウザをお閉じ下さい。
『悪魔』とは、人間界と次元を異にする『魔界』と呼ばれる世界に住んでいる者たちの総称であり、契約を交わした人間から対価を得る代わりに超常の力を振るう存在である。
この悪魔という存在は、民間伝承にのみ多数登場する空想上の物でしかなかった。
特に中世ヨーロッパなどでは、悪魔との契約者を『魔女狩り』と称して殺害する事件も多発したと言われている。
その被害者の多くが冤罪によるものだというのが、20世紀までの常識であった。
しかし21世紀初頭、とある日本人の悪魔学研究者が大真面目に数十年もの歳月を掛けて調べ上げた研究成果と、天文学的確率の偶然が重なったことにより、人間界と魔界とのチャンネルを短時間ながら開くことに成功する。
そして翌年、長年空想上の存在と思われて来た悪魔とのコンタクトを経て、魔女狩りによって歴史の裏側へと追いやられていた悪魔との契約を交わす方法を復活させるに到る。
それを期に悪魔の実在とそれが振るう超常の力を目の当たりにした当時の日本政府は、何をトチ狂ったのか核兵器に代わる抑止力として悪魔の力を利用することを決める。
大量の予算を投じて太平洋上にメガフロートを建設して特別自治区に認定し、全国から悪魔と契約を結ぶ才能を持つ者を掻き集め、悪魔の能力を詳しく知る為に『悪魔学』として学校を設立したのだった。
それから半世紀ほどの時が流れ、渡瀬凛という名の少年が全寮制の悪魔学科の高校に入学したところから、歴史は再び動き出す。
「ご入学おめでとうございます。私は1‐A担任の倉橋希望です。1年間よろしくお願いします」
希望はそう言って自分が1年間受け持つことになる生徒たちを見回すと、つい先ほど入学式を終えたばかりの生徒たちが、大人しく席に着いている様子が見て取れた。
希望は自分の話を生徒たちが居眠りをしたりせず、ちゃんと聞いてくれていることに安堵しつつも、心の片隅では溜め息を付いていた。
教師暦1年目の身ではあるが、この光景が恐らく二度と見れなくなってしまうであろうことが予見出来ていたからだ。
十中八九、まず間違いなく放課後のホームルームは騒がしくなるだろう。
希望は自分がここの生徒だった当時の有様を思い出して、フフッと生徒には気付かれないように笑った。
「さて、本来ならそれぞれ簡単に自己紹介をして貰う所なんだけど、その前にみんなには『契約』をして貰います。召喚の間に移動するので、廊下に2列で並んで下さい」
お互い初対面同士である生徒たちは、無駄なおしゃべりをすることなく次々と席を立ち上がり、希望の声に従って廊下へと出て行った。
しかしそんな彼らの表情からは、僅かな緊張と共に隠し切れない興奮が垣間見えた。
「召喚の間は、普段は立ち入り禁止となっている地下フロアにあります。私たち1‐Aが終わったら、BCD……と順番に召喚を行う予定です。のんびりしていると他のクラスに迷惑が掛かるので、余所見をしててハグレた!なんて事が起きないように、しっかり付いて来て下さいね?それと、召喚の間には複数のセキュリティを突破しないと入れません。説明を聞き逃さないようにも注意して下さい」
希望は教室を覗いて全ての生徒が廊下に出たことを確認し、1‐Aの生徒全35名を連れ立って歩き始めた。
大きなトラブルもなく生徒を無事召喚の間に案内した希望は、生徒が召喚した悪魔の種族をクラス名簿の補足欄に記載していった。
「東雲くんの悪魔はスライム族のようですね」
希望は目の前の男子生徒が召喚した悪魔の姿を見て呟き、さっと名簿に記入する。
「ス、スライムっすか……あのぉー先生?これって、やり直しとかって出来ないんすかね?」
一方少年は、目の前でうにょうにょと蠢く手の平サイズのゼリー状の物体を見た瞬間、思わずやり直しを要求していた。
「フフッ、そう言いたくなる気持ちも分からなくはないけれど、スライム族はゲームの最初に出て来るような弱い存在じゃないわよ?」
「そ、そうなんですか?」
「スライム族の最大の特徴でもある粘体は、衝撃をほぼ完全に吸収出来るのよ?だから殴ったり蹴ったりしたぐらいじゃビクともしないし、ナイフとかで斬ってもすぐにくっ付いて元通りになるわ」
希望は落胆した様子の生徒を慰めるように、スライムという悪魔の特徴を簡単に説明してあげた。
「マジすか?それって無敵じゃね?すまん!お前、実は凄かったんだな?」
少年は床の上でプルプルと震えているスライムの真の実力(?)を知り、返事が返って来る筈もないのに思わず声を掛けていた。
『確かに我らスライム族には打撃や斬撃は効かないが、だからと言って無敵という訳ではない。万が一にも体内にあるコアに傷を負うようなことになれば修復にかなりの時間を要するし、完全に砕かれてしまった場合は身体を構成出来なくなって、消滅してしてしまう』
「……っ!?い、今の声は?」
少年は突如頭に響いた『声』に困惑した。
「……あぁ!それは恐らくスライムの思念ですね。彼らには発声器官が存在しないので、思念を送ることで契約者と意思疎通を行うんです。念話が出来ているということは、早くも経路が繋がっているみたいですね。詳しい説明は彼(彼女?)に聞いて下さい」
「は、はい!」
少年は希望に促されるまま次の者に場所を譲るべくスライムの前に両手を差し出して手の平に乗せ、その場を後にした。
「……さて、次で最後ですかね。えーっと……渡瀬凛さん。召喚陣の中に入って下さい」
「はい」
希望の声に誘われ、壁際に立って次々と悪魔を召喚するクラスメイトの様子を観察していた中性的な顔立ちの少年が召喚陣の中心に立った。
「……あ、あれ?ごめんなさい。男の子だったんですね。てっきり女の子かと……」
希望は前に出て来た凛の顔を見てからそのまま視線を下げ、スカートではなくズボンを履いていることに気付き、自分が凛の性別を勘違いしていたことを謝罪した。
「いえ、よく間違われるんで気にしないで下さい」
「そ、そお?それじゃー改めまして、渡瀬くん。これをどうぞ」
希望は凛がその言葉通り、特に気分を害した訳ではなさそうだと安心し、召喚の儀式を始めるべく小さな針を凛に手渡した。
「ありがとうございます」
何度もクラスメイトが悪魔を召喚する様子を見ていた凛は、針を受け取るや否や迷うことなく左手の人差し指の腹に軽く突き刺し、その血を召喚陣にポタポタと数滴垂らす。
すると次の瞬間、床に描かれた召喚陣に吸い込まれるように血液が消失し、それに呼応して陣が発光し始めた。
「…………………………………………あ、あれ?」
凛以外のクラスメイトは10秒前後で召喚に成功していたのに、1分近く経っても召喚陣が光るだけで悪魔が出て来る様子が無い。
「……おかしいですね?召喚陣が発光しているので、魔界とのチャンネルが繋がっているのは間違いありません。にも拘らず、こんなに長時間音沙汰が無いなんて……」
まさかの開校以来初の召喚失敗者になってしまうのだろうか?と、凛の心が不安で一杯になった矢先、目を開けていられない程の一際眩い光と共に、漸く待ちに待った悪魔が召喚されたのだった。
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