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光の距離  作者: 鈴音サラ
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8/12

8なんで?

 月曜の朝。俺は通学路の十字路に立っていた。日曜日、怜が中村部長とどうなったか気になったからだ。かと言って、教室で聞くのも誰かに聞かれたら困るし。そんなわけで怜を待っている。

 5分ほど立っていると、怜が家から出てきた。そして俺に気づき走ってくる。


「何してるの?」

「昨日どうなったかと思って」


 怜は何度か瞬きすると、目を伏せ顔を赤らめた。


「え?なに?」


 どういう反応なのかいまいち分からない。怜は躊躇いがちに、なにか言いかけ口を開け閉めする。


「付き合ってくれるって……」

「はあ!?」


 思わず大きな声が出た。部長の感じからして、そんな展開になるとは思ってもみなかった。


「陽介、あんまり大きい声出さないでよ。いいから行こう」


 怜が慌てて周囲を確認すると、俺の背中を押して歩かされる。


「告白したってこと?」


 俺の言葉に怜の肩が一瞬跳ね、にやけそうなのを我慢しているような顔で見上げてきた。目が合うと、すっとそらされる。


「映画の後に海沿いを歩いたんだけど、夕方だったし人気がなくて……」


 最後に何かボソボソ独り言のように喋っていたが、急に怜が押し黙った。

 そして小声で「ごめん」と呟いた。


「何が?」

「陽介からすると気持ち悪いかもって……」

「そんなこと思わないけど、やっぱそうなの?」


 さすがに直球で「男が好きってこと?」とは聞けなかったが、怜は無言で頷く。


「陽介にはちゃんと言っといた方がいいかなって……嫌なら離れてもいいよ」


 怜は俺の顔を見ずに、両手でカバンをにぎりこんで歩いている。


「だから、嫌なんて言ってないだろ。そうじゃなくて、心配してんだよ」

「心配って?」


 怜は本当に分からないようで、困った顔をしてきた。それもそうか。部長は元々怜のことを弟ぐらいにしか思ってなかった……下手したら女子扱いしてるかもなんて俺しか知らないわけだし。


「もういいよ。上手くいったならよかったな!」

「うん。…早くまた会いたいなぁ」


 怜の浮かれた様子にため息が出た。


 


 俺は放課後、急いで部活に向かった。早めにグラウンドに来たので人はまだ少ない。周囲に誰もいないとを確認すると、ゴールポストのそばで靴紐を結んでいる中村部長に話しかける。  


「部長、怜と付き合うってマジなんすか?」

「なんだよ急に」


 俺にいきなり後ろから質問されて部長は飛び退いた。


「怜のこと好きなんですか?」

「え?」


 俺がストレートに言いすぎたのか、部長は急に目を泳がせて周囲を見回した。


「いや、好きっていうか……一緒にいたいって言うから、まぁいいかなって」

「そんなんでOKしたんですか?」

「あんな言い方されたらそうなるだろ……」

「断れますよ、普通」


 まさかこの頼りがいがあると思っていた、中村部長がそんな適当な理由でOKするなんて信じられなかった。安易に怜が傷つきそうな展開なのが許せない。


「普通ねぇ、そうか……加藤はよっぽどモテんのか」


 部長が俺のことを冷めた目で睨んできた。


「え!いや…」

「お前には関係ないだろ?ほっとけよ」


 部長は面倒くさそうに言った。その態度に何となくムカついた。


「たとえ部長でも、友達傷つけたら許さないすからね」

「一年のくせにお前は生意気だな」


 そういうと立ち上がり、先輩は俺の腹を軽く殴った。相変わらず痛い。

 部長は本当に怜と付き合うってどういうことか、わかってるんだろうか?怜の方は浮かれてるし、先が思いやられる。


 


 中村部長と怜の関係を知って一週間、美化委員の集まりの日がやってきた。こっそり二人の様子を伺う。

 

「先輩これ見てください」


 なにかあったのか、怜が部長の服の裾を掴んで軽く引っ張っていた。部長もそれに従い視線を合わせる。

二人とも肩が触れそうな距離まで近づいていた。なんとなく落ち着かなくて、俺はそのまま目を逸らした。

 かわりに津田先輩の方に視線を向けるが、普通に他の委員と話していて、二人のことはまるで見えていないようだった。そもそも津田先輩は知らなそうだし、当たり前だが付き合ってることは誰にも言っていないようだ。


「中村、ちょっといいか?」


 部長は他の三年に呼ばれてその場をはなれようとした。怜もそれについて行こうとしたが制止される。


「北河原は作業続けといて」


 そう言い残して、部長は怜を置いて行ってしまった。怜は仕方なく残りの花壇の手入れをはじめた。

だが、部長はなかなか戻って来ない。

結局ひとりで片付けまでさせられていて、少し可哀想に思えた。


   


 それから数日して、昼休みに怜と人気のない中庭の花壇に来た。俺は木に寄りかかりながら、座って花を見る怜に問いかける。


「なあ、もうすぐ中間テストだけど部長とはどうなの?」

「テスト勉強もあるし会わないよ」


 怜は抑揚のない声で淡々と答えた。


「じゃあ夜に通話とか?」

「しないよ」

「なんも変わってないじゃん」


 俺の言い方が気にさわったのか、怜は少しむっとしたような感じで俺を見上げる。


「テスト終わったら会ってくれるって言ってたよ」

「それなら良かったな」


 怜の気迫に押される。付き合ってるって、もっと何か変わるもんだと思ってた。まあ、怜の予定が空いてるなら遊べるしいいか。


「予定ないなら一緒に勉強しようぜ」

「いいよ」


 怜の方も予定が埋まって嬉しかったのか、土日は怜の家で一緒に勉強して過ごした。あまり会話はないけれど、誰かと一緒にやると不思議と集中できた。

 そうしているうちに、あっという間にテスト期間に入る。

 一人でやる時よりサボらなかったおかげか、俺はなんとか80点台と普段のサボりを取り返すことができた。まあ上出来だろう。

 一方怜の方は平均60点台で、結果を見たあと少しだけ黙り込んでいたのが気になった。俺達は揃うと遊んでばかりだから、これからもたまには一緒に勉強するのもいいかもしれない。

 教室でお互いのテストの点を見せあって一喜一憂していると、西岡が通り過ぎ、横目で一瞬こちらのテストを覗き見て「低っ」と小声で言ってきた。俺が睨み返すと、顔を逸らして去って行った。

 

「大丈夫だよ」


 言葉とは裏腹に怜は俺から顔を背けた。


「気にすんな」


 まったく、西岡は余計なことしか言わないな。


「次はもっと点取れるように一緒に頑張ろうぜ」


 励ましに意味があったかは分からないが、怜は黙ってうなずいた。

 

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