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13.インターン

 リオたちが会見場に着くと、(おごそ)かな雰囲気の壇上で上品な椅子が並んでいた。スーツ姿の男と民族衣装のような服を着た男が向かい合いながら、記者の質問に次々と答えていた。


「わかると思うけど民族衣装側がターゲットよ。彼の感情を常に把握するように」


 リオは会場の端の方でほかの官僚やスタッフに紛れた。アンジェから脳内に通信が入る。


『あくまであなたの体験学習だから、私もちゃんと彼の感情を監視してるわ。失敗しても大丈夫だからね』

『正直プレッシャーがきつかった。ありがと』


 アンジェの言葉にリオは安心しつつターゲットに集中する。記者たちの質問を答えるたびに、彼の心の中が激しく波打つ。表情は穏やかでも、嫌悪感や軽蔑が渦巻いていた。


 外交ってこわ……


『次に質問するのが仕込みの記者よ。注意して』


「ルナピジョン社のクズハです。現時点でのアフリカ東部戦線におけるセラン警備部隊の駐留期間延長要請は、アフリカ同盟側の総意なのでしょうか? それとも貴国独自の判断でしょうか?」

「……正式な決議はまだですが、実質的に同盟全体としての要請といえるでしょう」


 リオには会話の詳細や真意まではわからない。アフリカ東部戦線の話もニュースの中の世界でしかない。しかし返事をするときターゲットの男は苛立ちと焦り、動揺の感情が溢れていた。


『アンジェ、焦って苛立ってそう。動揺もしてる』

『上出来よ。私よりもよっぽど明確に感情を読み取れてるのね』

『こんなんでいいの?』

『完璧よ。この結果を一応分析官に伝えるけど、おそらく『要請』はあの国の独断ってところね。知りたいことは知れたわ』


 その結果からどういった外交が始まるのか想像が難しいが、嘘を見抜かれたあの国にとってよくない結果になるのだろう。さきに会場を抜けようとするアンジェの手招きに従い、リオも静かにその場を離れてた。


――――――――――


 昼食はふたりで外務省内のカフェで過ごすことになった。アンジェはコーヒーだけ、リオはパフェを口にしている。その味はVT(ヴィーティー)の作るデザート並みに美味しかった。


「これが外交における超能力の使い方よ」

「意外とあっけなかった」


 精神感応(テレパシー)がそこそこ得意なリオにとって、今回の仕事は大した負担ではなかった。


「そうね。でも中には精神感応(テレパシー)対策で感情がぜんぜん読めない相手もいるし、相手側のスタッフに超能力者がいてカウンター的に介入されることもある」

「カウンターって何をされるの?」

「私はできないけど感情を読んでる相手に、強い感情を意図的にぶつけてめちゃくちゃにする感じらしいわ。実際そんな能力に出会ったことはないけど存在は確認されてる」

「へえー、そんなことができるんだ」

「外交官は基本的に感情を隠すのが上手い。だからそれを相手にするには高度な技術がいる。あなたはここでも上澄みの存在といえるわね」


 リオは素直に褒められ、照れを隠すようにパフェを頬張った。


「感情を読むのがそれだけ上手ければ、マクシィの訓練と違ってこっちはそれほど苦労しなさそうね」

「よかった」


 その言葉に安堵した。正直に言えばマクシィの訓練レベルのことなんてごめんだったからだ。


「次はSPDの留置所に行くわ。正直こっちのほうがきついかも」

「そうなの?」

「ええ、ある意味ね」


――――――――――


 外務省の正面入り口から出て、アンドロイドが運転する公用車に乗り、近隣のSPDの犯罪者収容施設へ着いた。いつものことなのかスムーズに中に案内され、取調室のような場所へ向かった。


 ここでの仕事は簡単だ。SPDの刑事が取り調べを行い、相手の言葉が嘘だったら手に持ったリモコンのボタンを押す、それだけ。リモコンを押すと目の前の刑事に伝わる仕組みだった。


 だが想像以上に辛かった。強盗犯、麻薬常習者、暴力犯。彼らの感情はどす黒く汚れており、感情が直情的なものばかりだ。自分やアンジェの姿を見て下衆な感情が突き刺さることも多々あった。あまりの不愉快さに苛立ちが高まる。悪意や嘘まみれで、人が汚いものだと感じさせられた。


 一時間近い流れ作業が終わり、刑事はリオとアンジェに深々と頭を下げた。


「助かりました。……きつかったでしょう、あんな連中の感情を読むなんて」

「大丈夫、です……」


 本当はぐったりしていた。気持ち悪い。


――――――――――


 帰りの車の中でアンジェに問われた。


「どうだった?」

「人間不信になりそう。むき出しの汚い感情にいっぱい触れて……」

「まあ、そうね。あの留置所の犯罪者はああいうタイプが多いわ。でも冤罪も混じってるからね。それを拾い上げるためにこれも大切な業務なの」

「わかるけど……正直、精神的にはこっちの方がくるね。外交より」

「同意するわ。セランでは外務省が超能力者を多く囲ってるから、その分こうやってほかの行政組織に力を貸さざるを得ないの」


 車の窓から都市の風景を見ながら受け答えをする。綺麗な人工の夕暮れの都市で心を癒されるためだ。視界の端では、路地で誰かが誰かを蹴とばしてるのが見えた。


「悪意に慣れる訓練でもあるのよ。ミール先生の指示でね」

「やっぱり」

「でも、私もそう思うの。あなたには悪意に潰されない心が必要よ。感情が読めるのなら必須だわ」


 窓から目を離しアンジェの方に顔を向けた。


「ミール先生はよっぽどあなたに強くなってほしいのね。心も体も」

「アンジェのときはこういった訓練はなかったの?」

「なかったわ。普通の超能力の教育訓練だった。……あなたは特別扱い。完全にお気に入りね。私とマクシィがする訓練だって一生徒に与えられる環境としては異常よ。シャイアンのことだって、大学卒業後にセランへ帰属する意思を表明してからしか教えてもらえなかった」


 なら……自分は政府じゃなくてミールが個人的に望んでいる? それなら嬉しいが、ミールの意図が読めない。まだわからないことが多すぎた。彼の目的はなんなのか? ただのお気に入りなのか? 自分がミールに対して本当はどう思っているかすら――。


――そばに居たいのは確かだが。


 それに、自分自身の能力は別に特筆してるわけじゃない。感情を読むことはアンジェだってできる。マクシィなんて、訓練のあとに直感を使い銃弾避けを披露していた。大学時代の彼らの能力が低かったとは思えない。でも自分は当時のふたりより優遇されているらしい……それはなぜ?


 考えても答えは出ず、初の外務省インターンの日は終わりを迎えた。

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