十三話
八月上旬、丘ノ上高校は夏休みに入っていた。
けれど受験生の高校三年生に夏休みはない。毎日毎日補習が行われており、普段通り登校している。
補習が終わった午後の帰り道、藍は陽炎が揺れるコンクリートの道路に目を細めた。
「やっと補習終わったね」
隣を歩くみなみが、う~ん、と腕を上に伸ばした。
「私たちはね」
補習の最終日は明日。だが二人は明日、藍の第一志望校のオープンキャンパスに参加するため、今日で補習は終わり。みなみは美容専門学校を志望しているけれど、「オープンキャンパス参加は補習を欠席扱いしない」ということを利用して、藍と一緒にオープンキャンパスに参加することにした。
「緩い制度だよね。オープンキャンパスに行けば欠席扱いにならないなんて。だってずっとオープンキャンパス行ってる人いるよね。本当に行ってるのかな?」
「レポート出さないと行ったことにならないから、一応行ってるんじゃない?」
「あーあ、私もいっぱいオープンキャンパス行けばよかった」
みなみは入道雲が浮かぶ空を見上げた。太陽光が眩しかったのか、大きな目を半分ほどに細めた。夏空は見ていられないようで、視線を地上に戻した。
「明日って何時からだっけ?」
「九時半から受け付けで、十時半から体験授業」
「OK。電車で行くんだよね」
「そうだよ。寝坊しないでよ」
「ちゃんと目覚ましかけるから、大丈夫」
みなみは白い歯を見せながら、親指をぐっと立てた。
翌日、藍とみなみは電車に乗って大学に向かった。
大学の校門で職員からキャンパスマップをもらい、敷地内に足を踏み入れる。
マップを見る。大学は、校舎が一棟しかない高校とは違い、建物が三十棟はあった。二人は迷わないように、マップとにらめっこしながら目的地の文学部棟に向かった。
大講義室の前で受け付けを済ませ、部屋の中に入った。
五〇〇人収容できる階段状の大講義室は、すでに制服姿の若者たちとその親でいっぱいだった。後方に二人並んで座れる席を見つけ、腰を下ろす。
この中の何人が入試のライバルになるのだろう。藍は部屋の少し高い位置から、参加者たちの後頭部を眺めた。
十時半、定刻になるとオープンキャンパスが始まった。
在校生のキャンパスライフを聞いたあと、体験授業を受けた。
絶対にこの大学に通いたい。パンプレットだけでは分からない生の体験をした藍の気持ちは、確かなものとなった。




