第6話「始動」
マイアの瞳に映ったそれは、彼女が知っている者とは異なっていた。過去に確認された鉄屑ではない。鈍く光る紅の体に、自然と後退する。
「随分、躊躇がない。まるで私の知る妹でないな」
『?』
相手が少し首を右に傾けた瞬間、黄色に光る二つの瞳が目の前に現れた。両手をクロスさせ、防御態勢をとるが、その威力に、いとも簡単に吹き飛んだ。
さらに休む事なく2発の銃弾が放たれ、後方へと追いやられた。そして茂みの中へと逃げ込んだ。
「メロぺ!仮に私を退けたとて、何れ神々がオマエの命を絶つ。それでもオマエは」
『――』
「っ!」
さっきまで、前方に居た筈の深紅は、亡霊のようにマイアの後方へと移動していた。
「いつのま」
彼女が言葉を言い終える前に、右足からの上段回し蹴りが頭部に直撃し、回転しながら転がり、青の機体に勢いよくぶつかった。
「クッ!」
無言を貫き通すそれは、ゆっくりと彼女へと歩み寄る。彼女の頭部に、銃口を向けたままだった。
「な、何故」
既に心が折れたかのような言葉に、再び首を傾げ、そのまま、右手に装着された銃口を彼女の頭部に標準を合わせながら、近付いていく。
「わかった、降参する」
その言葉に歩みを止めるも、銃口はそのままにマイアの後方を見つめる。彼女は、その視線を追うと。
「ッ!」
――そこには全く同じ深紅の機体が現れた。
「何故、2体目が」
『いや、2体じゃない』
ようやく相手は言葉を発するも、その声はマイアの知る声とは違う、ノイズの混じった男の声。それと同時に、黄色の機体を狙撃された方向から。
――3体目が現れた。
「どういう事だ?」
『答えは簡単だ、この中に貴女の妹はいない。ここにいるのは、別の存在』
「そんな筈はない、ここに彼女の反応が」
『その反応は、ルミナ システムが使用されたからではないのか?』
「?」
『成程、それさえも知らないとは、予想以上に貴女は格下とみた』
「何?」
『アトランティス。いや、メロぺだったか?彼女が最初に襲われた動物を模した機体と、彼女と相打ちした最初の刺客。そして、貴女たち5体。
そのヒントを繋ぎ合わせると、1つの単語が導かれる。その単語は“プレアデス”』
その言葉に呼応して、言葉を発していた機体の頭部が撃ち抜かれた。その背後に、橙の機体が銃口を向けて震えていた。
「ケライノ」
「マイア姉さま、て、てったい」
橙の機体は、言葉を言いきる前にマイアの背後にいた者に頭部を撃ち抜かれ、力尽きた。
『愚かだ。推測の領域を、核心に変える言葉を残すとは』
「オマエ。いや、オマエたちは何者だ!何故、仲間が討たれて平然――と」
彼女が言葉に詰まったのは、撃たれた筈の機体が、何もなかったように起き上がったからだった。
「核を撃ち抜かれた筈なのに」
『さっきも言ったが、それは別の存在』
「別?」
『いや、今は知らなくていい。今は――ね』
◆
2009年2月23日。
彼女の脅威は一時的とはいえ去ったと言えるだろう。だが、実際はここからなのだろう。なんせ、相手は神。今回のように上手くいくとは限らない。
ただ、今回活躍した3機については、時代の一つ二つ先の大発明として、自分自身を讃えたい。が、それも彼女の素体があったからである。
それにしても、ルミナ システム、別名「世界無線システム」は、かつてニコラ・テラスが実現しようとしていた代物。まさか元々あったモノだったとは――。
違いは原動力が電気ではなく、光。この仕組みを解明するには一体どれ程の時間がかかるか。
『システムオールグリーン。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。全ての反応も問題なし』
いや、それこそ今考えるべき事ではないか。
「見た目も――問題なし」
そこには、女性の姿を模倣した1体のロボットが寝台の上に横たわっている。
「マイアさんに感謝だ」
『ルミナ システムとの接続確認』
あの夢との整合性が、彼女のおかげで分かった。あの9名の男女が神を名乗る者であり、あの涙した女性がメイだった。そして、自分が見た視界の人物。それが――。
「今回は、鉄屑じゃないようだな?」
彼女は相変わらず、捻くれた言葉を言いつつも、笑みを浮かべ、自身の体の動作を確認する。
「気に入った?」
彼女は何も言わず、ただこちらに不敵な笑みを浮かべた。
後に彼女は「深紅の彗星」と呼ばれる。これはその軌跡の物語。
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