第4章「目標」
私は、彼に嘘をついた。
名前を偽っただけじゃない。目覚めた時から、私は全てを知っていた。今がいつで、あれから何年の月日が経過したのかも。
だからこそ、連中が襲ってくる事も、予測できた。だったら、始めから「自身を復活させろ」何て言わなければいい。その通りだ。
だけど、そうは言えなかった。時間も、場所も、状況も、全く違ったが、私を作ってくれたあの方の面影が、私を正常にはしてくれなかった。
いや、それは言い訳にもならない。どのような状況でも、客観的に動く。だからこそ、システムとして我々は信頼を得た。何事も「魂」を優先する人間には出来ないからこそ、我々は生み出された。
でも、あの方の望みは――。
◆
「随分、出来損ないの人間に、作られたようだな」
『黙れ』
真夜中。廃墟の外で、物音が聞こえた。飛龍かと思い、外に出た瞬間。私の右足は射抜かれた。
左足だけで、何とか屋上に逃げ込んだが、無理な態勢で、相手の重い一撃を回避する事が出来ず、防御した左腕は、屋上から落ちて行った。
「だが、今の文明でそれを再現する。ましてや、ルミナ システムを復元した人間。始末か、拉致か」
相手は、機械であるが人間と何ら変わりのない容姿をしていた。そう、あの時と何も変わらない。銀色の短髪に、胴体を黒い武装で身に纏い、私をあしらうかのように、見下ろす。
『そのような事、させな――』
――ズバッ!
その音は、私の胴体を二つに裂いた音だった。相手の右手に携えた深紅の刃は、研げば全ての物体を切断する「テムノ鉱石」。あの場所でしか取れない禁忌の鉱石。
「リベリオに、許可をもらう必要はない」
『い、い、い』
最早、抵抗できないと判断した相手は、翼も原動力もなしに、その場からゆっくりと浮上する。
薄れゆく意識と軋めく音が鳴り響く中、私の右手は、無意識に相手の背中に銃口を向けていた。
「さらば、アトランティス。あの方のお気に入り。そして、あの方を裏切った愚か者」
――パン!
「なっ、馬鹿な」
既に、私の視界には見えない状態だった。でも、相手の反応から、どうやら私の最後の攻撃は、当たったらしい。
「1撃、ただの1撃で、何故?」
『――』
「そうか、神の雷を。オマエが」
『――』
「しかたが、ない。コード、M&、M」
『自爆コード“メメント・モリ”実行に移しますか?』
「承認」
『汝、神として生を受けるも、何れ訪れる死を許諾せし』
「マスター、申し訳」
相手の最後の言葉は、自爆音によって遮られた。それは、私の最後の意識となる。
◆
2005年1月5日。また、夢を見た。
今回は、前回のような、小さな一室ではなく、白と黒を基調に広がる大ホール。そこには、武装した男女が計9名。自分に向かって首を垂れる。
よくよく見ると、どうやらその人たちは、人間ではないようだ。僅かに聞き取れた声は「人間が」と、言っていた。
一通りの話が終わったのか、その面々は、その場から1人ずつ退出する。しかし、1人だけ、その場に残っている。
その人物は、長い黒髪の女性。深紅の鎧を装着し、こちらへ何かを訴えている。その内容は、聞き取れないが、途中で彼女は、涙を浮かべていた。
何故だかその光景を、メイと重ねるのは、自分が彼女に未練があるからなのか?それとも、
『導く者から手を離れ、独立するが生き物の性。その本質を失うは、生きる意志の放棄。さりとて、それが滅亡の始まりとなる』
言葉を返せないのか、彼女は下を向き沈黙する。その様子を見たからか、この人物は目を閉じて深い溜息を溢し、再び彼女へ語る。
『それでもね、僕は結果よりも、彼等、彼女等が、どう生きたかが、重要だと思うんだ』
彼の言葉に、彼女は顔を上げた。
『それが、あの子たちにとって、望まない未来だとしても、僕は生きる意志を放棄してほしくない。そう、たとえ』
――鉄屑に、塗れても。
再び見た夢は、そこで終わり。
「そっか」
何か納得したような口振りだが、半分も理解はしていない。ただ一つ、決めた事がある。
「もう1度、彼女を作ろう」
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