#7 [遺跡]RTAの女王だって感慨には耽る[盗掘]
隔日くらいにペース落ちます
古戦場のためにかきだめというのをしてみる
「戻った!」
八角の台座と八つの扉が並ぶいつもの空間にシェリーは帰還。腕を振り上げ背筋を伸ばしストレッチ。真の肉体はカプセルの中で徹底的に保全されているが、精神的にはやはり伸ばすと落ち着くのだ。メンタルだって凝り固まるんだから。
>なぁシェリはんウチのこと簡単て言うたよな?
>無視されてますね…クォレは
>俺でもファインダーになら勝てるか…?
「あははは、無理だよファーちゃん強いし」
シェリーは変態である。色々な意味で。性癖がおかしい話はさて置くとして、ゲームに対するプレイスタイル全般が。そもそもゲーム界隈全体の人口から見てTAと配信の両刀はそう多くないし、記録を上げるため配信を面白くするために色々な技術を磨いている。時には外法も運命操作も辞さない。
>でもさっき簡単や言うたよな
>うーん二枚舌
>配信者はみんな舌多い
それと比べてファインダーは普通のゲーマーだ。基礎に則り、組み合わせを学び、反射神経を燃やして戦っている。そんな"普通“は"変態"からすると雑魚もいいところ。相手の行動が読めたならそれに合わせた勝ち方を組むだけで勝ててしまうのだから。
「ははは」
>笑って誤魔化すなや
>うーんコレはクズシェリー
>たまに出てくるよね小悪魔シェリー
そういう点で野生の勘だけで殴ってくるアリサと自分以上に無駄に洗練された無駄のない無駄な技術を用いて戦ってくるバレッティーナはかなりの難敵。対応できたと思ったら行動を変えてきて再び対応を強いられる。それ故に3人は同格なのだ。
「それじゃー……次だね」
お隣まで数歩。テクテクテクテクと歩いて到着。森林、洞窟、墓地と続いた4つ目のダンジョンは遺跡ダンジョン。マヤなのかエジプトなのかまたまた別の文明なのか。様々な時代の意匠がごちゃ混ぜに叩き込まれたサラダボウルな遺跡が次の舞台だ。
>はぁ………
>あ、ファインダー諦めた
>可愛いね
>可愛いないわ
「細剣使ってみるけど、期待しないでよ?慣れてないし」魔法杖を格納。細剣をスラリと抜いて振るう。案の定そう重くはない。
>そういって使いこなすんだろ、知ってる
>な
>シェリーが使えなかった武器あんの?
「んー……」
>そこで悩むなww
>もうこれ万能だろ
>全く使えなくて困ったって話は知らないしなぁ
武器に対しての好き嫌いや、状況によっての向き不向きはあったが全く使えない武器に心当たりはない。というよりは使えるようになるまで使うのが当然だったから…と、ここで一つ思い出した。ボツになった企画を。
「……マイク、かなぁ」
>マイク…??
>それは武器なのだろうか
>殴るんでしょ(適当)
自分がアイドルになって歌い踊るアイドルエキスパートという音楽ゲームだけは何度練習しても満足で来るタイムが出せなかったため一度も配信していない。コレからも予定はない。閑話休題。
「ま、そんなのはどうでもいっか。はいはい、進むよー」
>いぇーい
>のりこめー
>わぁい^
遺跡ダンジョン、第一階層。一見した感想はシンプルかつ単純な直線の石レンガの通路一本といったところ。脇道もなく、ただ真っ直ぐに松明が5対並んでいるのみ。ただし奥は見通せないが。
「……異変どこ?」
>第一階層にはないから
>草
>コレどこが変化するんですかね……
視聴者らも困惑するほどに単純"すぎる"のがこの遺跡ダンジョンの難易度を引き上げてる。とにかく覚えるべきランドマークが少なすぎるのだ。
「えー、横の壁画とか?」
>床も怪しくね?
>壁からなんか出てくるかもだぞ
>親方!天井から罠が!
何かに乗っている人の図、目のデカイ仮面を付けた人の図、反対にはツタンカーメンとスフィンクス。天井には……太陽と月が星の周囲を回っているような図が記されている。
「まぁ……装飾は豪華だね」
墓場はホラーゲームもかくやという恐怖のダンジョンだったがそれと比べるとここの遺跡は平和だ。きちんとしたダンジョンアドベンチャーをしているように思う。
>なーんか静かですねぇ
>第一階層だからな
>これは……嵐の前の静けさ?
「いやいやそんなことはない……ないよね?」
>わからんぞ
>騙されんぞ
>殺されんぞ
視聴者の煽りに体を震わせつつ前進。すると今回の被害者がお出まし。じわり、じわりと地面から染み出してきたソレは…青色の液体か。いいや、ねばっとしている。ドロっとしている。何よりも蠢いている。ピキーと鳴くその正体は……
「スライムかぁ〜」
>悪いスライムだなこいつ
>定番といえば定番だがここでか
>今更感はある
スライム。ファンタジー世界に偏在するド定番。過去の日本では最初の雑魚敵や可愛らしいマスコットとしてのスライムが人気だったそうだが……フルダイブVR全盛期である今はそうではない。
「洋スラだね」
>な
>今更ぷるぶるしてる和スラはキツいよ
>今はリアル感が高まりすぎた
これぞまさに粘性生物。核を持ち揺らめく青いソレらは、喋るシェリーの方へと蠢き這い寄ってくる。
「じゃ、一撃で潰そうね」
>知ってた
>まぁスライムだし
>でも油断してるとやられるんだよなー
コイツ相手ならレイピアは幸運だった。よーく狙って──
「──今」
見事一撃必殺。青色の粘体に浮かぶ核はシェリーの細剣よって貫かれ、粘性の身体を丸ごとポリゴンへと還元。同時に先への道が開かれた。
>お見事!
>宣言通りだ
>まぁこれくらいはやってもらわないと
「ふふん。もっと褒めてくれてもいいのだよ?」
なんて調子に乗りつつ前進。第二階層に到達。同じ壁画がシェリーを出迎える。
>ガバれ
>かっこいいシェリーは解釈違いです
>ミスった時の顔が好き
「お前らさぁ〜〜っ……」
>へへへ
>まぁみんなシェリー好きだから悪戯したくなるんだよ
>すまねぇなぁ
松明、松明、松明、松明、松明。道を照らす照明に変わりはない。というか何も変わっていない気がす
カチッ。
「…………」
>……?
>誰か核爆弾でも押した?
>待て、この聴き慣れた金属音は…?
シャララララララララララ──。
「…………うっそ、ぉ」
シェリーはぎこちなく、後ろを振り向く。あぁ、なんてことだ。遺跡の遺産を狙う不届き物を出迎える為に、前後の壁からメッカメカな回転鋸が迫り出しているではないか!!!
>オファニエル=サン!?
>うっっっ耳が……痛くねえな
>普通回転鋸ってこんなもんなんだよな
「今オファニエルの事なんつった!?」
キレ芸を見せつつ、認識してからの動きは速かった。完全に迫り出し、三分割せんとスライスを開始した回転鋸。それをスライディングで避け…ないっ!
>跳んだぁ!?
>マジかよ
>死ぬくない!?
「うぉぁぁぁぁ──っ!」
体を極限まで細く、薄く。回る刃らの間を幅跳びの要領で通過。去った鋸は壁の中に戻っていくらしい。これ一難去った。
>よしよしよし!
>避けれるんだソレ
>きも…(
「あっやべ」
そしてさらにまた一難。ピキー、と染み出してくるスライム。しかも位置は着地予定地点ど真ん中。製作者の悪意が感じられる位置。
>草
>これが着地狩りってワケ
>シェリー死んだな!
「な訳あるかぁ〜いっ!」
細剣抜刀。目をかっ開いて前を見据え、核を発見。回転しながら腕を引き。
>待って対応する気???
>いやいや死ぬだろww
>生き残るに10ペリカ
下を向いた瞬間、腕を放って刺突──命中ッ!またまた核は貫かれた!
「っしゃい!」
>?
>ちゃんと対応できてるね
>ハイ掛け金2倍〜♪
細剣がそのまま地面にまで突き刺さったのをいいことに回転終了。そのままベクトルを前へ転換、跳躍して着地。そしてシェリーは叫んだ。
「ここ異変じゃねえ!罠で殺しに来てる!?」
>ですね
>草
>この先もこんなのが続くのかな、こわ…
これぞまさに遺跡探索。いつでも死と隣り合わせのドキドキワクワクは、冒険野郎の心に火をつけた。
「っ、ふふふ……あははははっ……よしっこのまま進むぞ!」
>調子乗り始めたぞ
>まぁこれくらい元気な方が調子いいし…
>そうかな?そうかも…
活気ついたシェリーはさらに勇足で前へ、前へ。第三階層も目に見える変化はなし。今度は異変なしか、あるいは罠が潜んでいるのか。その変化をここから見通すことはできない。故に進む。
「…………普通にスライム出てきたねえ」
ただのスライムが現れた。
シェリーの急所突き。
ただのスライムの息の根を止めた。
シェリーのテンションが元に戻った。
シェリーは1の取れ高を獲得。
>作業で笑う
>再放送
>全く同じ動きで笑うわ
「え〜〜…………これ異変ある?」
エリア移動の直前まで徒歩で歩いてみたが何も起こらず。何もわからない。仕方ないので引き返してみるが……うん。何も起こらない。
>ないなこれ
>まぁ序盤だしガンガン進め
「だね……」
試しに壁をぺたぺた。壁画を撫で、不揃いの石レンガを押し、罠が発動しないことを確認。異変がすごくわかりにくいという罠ではないことを確認して引き返す。
「なんでテンション上がった時に限ってピンチにならないのかなぁ!」
>これも全て運命石のせいだぜ
>おのれゴルゴム
>秘密結社来たな
結果としてシェリーは第四階層に到達。壁画松明チェックとりあえずヨシ、前方確認……ヨシ、くない。
「なんかぁ……見えるね?」
薄ーく引き延ばされた銀色の線が、通路のあちこちに走っているのが見える。
>これは……ワイヤートラップ!
>ミスったら死にそう
>触ったら即死!遺跡で昇天!
「いち、にー、さん、しー、ご臨終〜、じゃないよ馬鹿」
ジト目でツッコミを入れつつ通路を観察。8層ダンジョンというゲームの中盤にあたることもあり、カンタンなルートは見つからない。
「さーて、どうしよっか」
匍匐をしようにもシェリーの胸部装甲はそこそこ豊満である為難しい。ファインダーなら簡単だっただろうか。
>なぁ今誰かウチに対して失礼なこと言わんかった?
>いえ滅相もない
>何も言ってないが??
となれば通れるのは上のみか。慎重かつ大胆なスパイアクションが再び求められる。仮想チャートを立て、イメトレがてら軽く準備運動。手をぶらぶら足をぶらぶらとしてフォーム形成。
「よーし習うより慣れろ、シェリーいっきまーす!」
>はーい
>ミスるに1兆ジンバブエドル
>いくら?
>もう廃止されたから0円
>草
>フリマで札そのもの売った方が高いまである
助走をつけて駆け出すシェリー。先ずは正面の斜め線をはさみ跳び、速度を維持して着地して。
「関係ない話で笑かさないでっ!」
口角の上がる顔を強引に制御。叫ぶことで発散。左足の着地と同時に地面を突き、斜め上に俊足。壁に向かって一直線。
>仕方ねえだろコメント流さないと寂しいんだから
>\[スパチャです]/
>こういう奴もいるし
>シェリはん愛されとるなぁ
「そうだねありがとぉっ!」
屈みながら壁に着地、速攻で跳躍。真横に跳んでから壁に手を触れ少々ベク変、床を走る銀色の隙間に足を差し込む。
>あぶなぁーい!
>そのまま踏めば撮れ高だったのに…
>クソロボは帰れ
「んーでやっぱりそこに居たよねぇ!」
>うわでた
>やらしいのうこのギミック
またまた染み出してきた粘性野郎。しかもやけに隙間が空いていると思っていた位置からのアンブッシュだった。なお、出現場所はシェリーの着地座標からは一歩ほど離れていたものとする。つまりカモ。
「シュート!」
>ぐさーっ
>よく当てられるな
>剣道の突きは怖い………
出てくれたのならば話は早い。核に細剣をぶん投げれば討伐完了。あとはじっくりと進むだけでいい。そしてシェリーは残りの銀色を確実に、着実に避けていくのだった……
「……………絵面地味」
>受け入れろ
>仕方ねえだろ
>自爆して♡
「絶対しない!!!!」
Tips:シェリーの武器評価 細剣編 まぁ嫌いじゃないよ。嫌いじゃないんだけどね〜、使い方が限られるから好んでは使わないかな。 細剣って基本『受け流し』なビルドが多いから、相手に攻撃させず倒すRTAとかだとタイムを競うプレイスタイルだと中々機会にも恵まれないんだよねー
オファニエルは地面走るしなんでも倒せるしデッドイーターと合わせれば実質無敵になるしでマジで最強。 能動的な相棒って最高だよね