#3 [洞窟]RTAの女王が今更蝙蝠に負けるわけがない[探検]
ギリギリ毎日投稿ヨシ!
「んじゃ続きやってくよーっと」
軽い雑談と水分補給だけ済ませたシェリーは立ち上がってゲートの方へ歩いていく。
>で、装備は?
>気になるな
>はよ
「ん〜、いいけどそんなに種類ないでしょ…」
メニューオープン。No,1に銅の剣、No,3に鉄の剣が並んでいる。
「気になるなこの隙間……」
>わかる
>ナンバーついてると埋めたくなるよね
>周回配信クルー?
「しないから……多分」
多分である。内心すごく回りたい。回りたいし走りたいが今回は無し。鉄剣があっただけマシだと思いながらスクロールして……見つけてしまった。隠し実績で解除されるEX武器欄を。試しに実体化。
「……なにこれ」
>草
>笑う
>ひでぇww
簡単に言えば、その武器の形状は串刺しにされた宝箱。軽く開き舌がだらーんっと垂れた状態で絶命した彼?が殺意マシマシの槍に貫かれ、固定され、ハンマーにされてしまっているのだ。なんというか……作者の強い恨みを感じる逸品である。
「使うのは鉄剣だけどさぁ……」
とはいえこのミミックハンマーもといスレッジハンマー[グレイブオブアドベンチャー]はシェリーの専門外。さっさと戻して鉄の剣と銅の剣を装備。いつもの二刀流である。振り心地を確かめて、いざ洞窟。
>使わないのかー
>残念
>楽しみにしてたのに……
「使いやすいように軽くなってたからね……私が好きなのは本当に重くて、使いにくくって、それでも威力という一点だけは最高に誇れる浪漫が大好きなだけだから!!」
>早口
>これは浪漫中毒
>助かりませんね
「なんだお前ら」
優しくない視聴者を脳内で挽き殺しながら踏み入れた洞窟の第一層は凸凹とした岩肌をしており、ところどころから綺麗な色付き水晶状の鉱石が露出している。下を覗けは地底湖が広がっていて魚が泳いでいるのを確認できた。あと落ちたら死ぬ気しかしない。ちなみに、光るキノコのおかげで松明がなくても明るさは保証されている。
「暗視がなくても安心だね」
>は?
>今なんつった
>ファインダー=サイバンチョ 判決は
>えっ ほな 死刑で
「やめて??」
シェリーは前科百犯、不届千万。とりあえず出会い頭に殴ってもまぁそこそこ許される存在である。特に格ゲーだと全力でハメていい。その勢いでやらないと分からん殺しでハメられる。
>いつもウチをボコってくるんや たまには死にや
>親友からの殺意が一番高いの笑う
>友人露出増えてから尚更面白くなったな
>それ
「なんだよ、私にエンタメ性が足りないってのかよ」
悪態をつきながら鉄と銅の双剣を構え、シェリーは前より羽ばたいてくる3つの黒影を睨む。バサバサとした羽音がうるさいそれは……当然というか、またお前かというべきか、コウモリである。
>そうだよ
>だからもっとガバって♡ガバれ
>さっさと異変ミスってほしい
>さっさとカプチューされろ
「あんな、不浄な生物に、触れたく、なんってぇ──」
俊足して肉薄。羽を切り落としワンキル。脳天を引き裂いてツーキル。青いポリゴンが二条天に還っていく。しかし後一体は推定3m上にある天井近くにぶら下り、生えた苔を啄んでいる。もちろん剣では届きそうにない。だったらとシェリーは壁に向かって全力で走った。
>コウモリかわいそう
>実際病原体の地域もあるしなぁ
>探検家はフンでしぬし
>世界最弱っすよその洞窟探検家
>誰も動きに触れないの草
「──ないっ──」
そして、跳んで、もう一度、跳んだ。いわゆる壁キックや三角跳びとは違う。壁に対して垂直に飛んでいるのだ。もちろんこれもノンフィクションエンジンの癖から生じる技術の一つ。
>うわぁ
>か、壁を登っておる
>あー、なんか俺もなったことある
>まーたこいつはゲーム壊してる
「──わぁーッ!」」
再上昇したシェリーは今度こそ横っ跳び、距離も高度も不足なし。見事に蝙蝠を二刀両断。着地の勢い余って地底湖に落ちかけたがギリギリセーフ。カメラに向かってVサイン。
>下綺麗っすねぇ
>まぁ地底湖だし
>光る石でライトアップされてるの好き 観光したい
「……お前ら私がピンチを提供したのに反応は?」
ジト目。構ってくれないと拗ねるのは配信者の性か。納刀してシェリーはカメラに近寄って指差しツンツン。
>はいはいドジっ子カワイイネー
>いつものことでは?
>ざーこざーこ
>さっさと解説よろ
「……なんか気が向かないからヤダ」
プイッとそっぽを向いた彼女が先ほど新たにしでかした技術は跳躍と呼ばれるもの。通常壁に向かって跳ぶと当然ぶつかるが、ここで工夫をひとつまみ。壁に対して足裏を垂直に向けたまま最初にぶつけると、ほんの一瞬だけ接地判定が生まれる。この一瞬の手前でもう一度跳ぼうと入力していた場合、処理の関係上壁から任意の方向にもう一度上昇できるのだ。ただしゲームの処理方法によってできるできないがあるので特に不安定な技術とされている。
「ちなみに、今の跳躍できないと話にならないRTAあるからね」
>なん…だと…?
>ああ、名前聞いたら思い出した
>他のゲームでもできるんか草
>シェリーが配信でやらないの?
「ゴメンだけどアレ走る気にはならないかなー。ゴキブリみたいな速度で空中前転しながら壁を連続で跳ねてるの見てドン引きしたもん」
>重力バグってて草
>ノンフィクションってなんだっけ
>"過去に現実にあった出来事、或いはそれに基づく物語"
>これ現実なのかよ、こわ……
そもそもシェリーは壁一枚では一回跳ねるのが限度。たぁ、そもそも色々なタイトルを走り回っているのに一線級を保ち続けているコイツの方がおかしいのだが。
「ほらほら、次いくよー」
>はいよー
>ういー
>あくしろよ
雑談を切り上げて暗闇へ前進すれば第二階層。ここからがダンジョンの本番である。
「今度の異変はなーにかなっと」
襲いかかる蝙蝠をバッサバッサバッサと切り捨て観察開始。一度倒したやつに苦戦などしようがない。
>うーん、雑魚。
>よわよわすぎて草生えますワー
>死ぬが良い!
「ね」
壁に床、天井は相変わらず岩と鉱石。キノコは変わらず青白い。耳を澄ましても変な音は聞こえない。
「うーん、目視確認できない奴かー」
>下は?
>これ地底湖もあるんじゃね
>めんどくさそう…
「ああ、森林の鹿ポジね」
見逃すと二度と確認できない異変というのもあることだろう。移動して覗いてみる。
「……魚……多くない?」
>ドクターフィッシュかな?
>どう見てもピラニアなんだよなぁ
>落ちたら骨になりそう
するとなんということでしょう。あんなに綺麗で閑静だった地底湖は、魚口密度が爆上がりしたせいで濁ってしまっていた。ついでに魚も可愛いものからギザ歯の肉食魚に。共食いしていないのが不思議なくらい。
「…………押すなよ?ぜっっったいに押すなよ?」
ジト目。あの中に飛び込んではタダじゃ済まない、というかあからさまに即死だろう。
>[承知しました]
>私が押すわ
>いや俺が押す
>待ちやシェリはんはウチが押すから
>どうぞ
>どうぞ
>どうぞ
>こうなるって知ってたわ!
「ファーちゃん……!盛り上げてくれてありがとう…!」
お涙ウルウル。胸の前に手を。祈るような感謝を捧げて。なるほど確かに、シェリーは(黙って可愛い仕草をしている分には)美女の類だ。
>キマシ?
>キマシ。
>ぃや急にやめやシェリはん褒めんでええよウチが好きで
「お礼に今度の休み百本勝負しようね♪」
からのバチコンウインクwithミリオンスマイル。美女は鮮度が命。容易く失われるからこそ女は儚く美しいのだ。
>はよ落ち
>草
>キマシ……
>笑いすぎて腹筋割れたわ 家具も壊れた
>ヒューマギアおるな
「あはははっ……」
親友からの裏切りに腹を抱えながらさらに前進。第三階層。蝙蝠の歓迎がやってくる。
「あーだめだ、面白っ…w」
止まらぬ笑い声に行動を阻害され俊足が不発。前傾姿勢になってすっ転ぶ。
「ヤベっこけ──」
>やったか!?
>やったぜ。
>この程度で死んだら苦労せんわ
「──てられっかぁ!」
からの手をついて一回転、肘をバネにしてジャンプカウンター。さらに宙返りしながら追撃。蝙蝠は赤いポリゴンになって消えた。
「もー……ファーちゃん笑わせないでって…あははっ」
>な?
>信頼が厚い
>俺たちの信頼が、シェリーを強くする…!
>勝てなくなるからNG
「ふーっ……よしっ。先に進もう!」
笑いも殺してクアドラキル。深呼吸すれば元通り。
>異変どこ?
>シェリーが転けるのは異変
>割といつもでは?
>ガバの女王だからな
「いや普通に今の見てなかったの?殺害後のポリゴンの色」
軽く血振りして納刀。当然でしょ?なんて顔色で語る。
>んなもん見るかよ
>草
>細けぇ…w
「最初からずっと気にしてたんだけどこのゲームで魔物殺すと青のポリゴンになるんだよね」
>はえー、そうなのかー
>興味ないね
>あぁ……俺のわからんかった異変それだったか…
「ま、そんなわけで異変だよ異変。確認の必要なし!」
自信満々でシェリーは進撃。無論正解で第四階層。
「しかし変わり映えしないねぇ」
>なーんか静かですねぇ
>異変は軒並み簡単なのかもな
>シェリーも頑張ってるし
第四階層も相変わらずの凸凹な岩壁に、綺麗な鉱石たちが生えている。キノコらが相変わらず照らしているお陰でこの洞窟は明るいままだ。シェリーのいう通り大きい異変でもなければ常に同じままだ。ピラニアも特に危険なわけでもなかったし。
「いやー、このゲーム簡単すぎない?もうこれノーミスで──」
>ん?
>どうしたシェリー
と、シェリーが気付く。自分が抜刀していない事に。自分は自他共に認める熟練、というか長年の廃人ゲーマーである。目前に敵がいれば、腰に武器があればいつでも戦えるように無意識に抜いてしまう癖がある。なのに……
「──武器なぁい!?敵いなぁい!?」
>草
>最弱じゃん
>ざーこざーこ!
つまり今のシェリーは丸腰。魔物に抵抗などできようもない。
「丸腰になる異変なんて簡単だよね〜……まじで楽勝……って、なにこの音?」
バサバサバサバサ。バサバサバサバサ。バサバサバサバサ──。
>あれ?
>うわ草
>あっ、ふーん……
「あ、ま、っじぃ……?」
嫌な予感がして、後ろを振り向く。すると、ああ、見えている。来てしまっている。あれは……
「蝙蝠の群れだァァァ!!??」
>草
>ゾンゴブ「代わりの人員送っといたよ^」
>い ら な い
「逃げろァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
シェリ、即、逃げ。見事なクラウチングスタートを決めて駆け出した!ついでに洞窟が伸びた!
「うっそぉぉぉ!?」
>ぎゅいーんで草
>ゲームを煽ったから…w
>調子に乗るからすぐオチる〜^
「こんなクソ異変で死んでたっまっるっかぁ〜〜っっっ!!!」
大爆走するシェリーの絶叫は、洞窟中に響き渡ったのだった──。
Tips ノンフィクションエンジンのグリッチ その2
跳躍
壁に設地する直前にジャンプしながら壁(突起ならその面)対してに垂直に足を立てると自由な方向に壁キックできる。バージョンやゲームによって使えたり使えなかったりする。
例:キッククライム