#23 [速攻]RTAの女王対再生怪人[攻略]
「いぇーいピースピースっ!」
銀の髪を靡かせながらシェリーは星海に沈んでいく。余裕綽々なる表情を見せながら。
>こいつ余裕だな
>フルボッコされればいいのに
>魔王が分身してシェリーに襲いかかるんですねわかります
「ラスボスが増えるのはチートだと思うの」
>変な技使ってるお前も大概定期
>人のこと言えねえだろ……
>勝手に戦え!
現在彼女は9体のゾンビを薙ぎ倒し次元ダンジョン第三階層より飛び降りたところ。次の階層まではまだ遠いらしい。確かに森林、洞窟、墓地と全然違う場所が繋がっているのだから時間がかかって当然……でも次元断層なのだとしたら瞬間移動でもいい気がする。ゲームらしく。
「お前らもこのゲームをやって同じ苦しみを味わうのだ……ふっふっふ……」
>UZEEEEE
>嫌です…
>あんな魔王に勝てないので遠慮しておきます♡
落ちていくシェリーは星海を抜け、今度は青空の下に姿を現した。第四階層の相手は遺跡ダンジョンのボスだった巨大ゴーレム。
「今度の異変はなんだろなっと……ん……」
>光ったわね
>見つかったぁ……
>お?それ使うんだ
何かを思い出したらしいシェリーはミミックハンマーを出しつつマントにはミスリルブレイドと──黄金のツメ、古代金の鉤爪。この遺跡から盗掘ブツだ。ちなみにこの武器は二つで一つなのでマントの一枠で一対分のツメが現れている。
「ちょっと確認したくてね」
>確認とな
>まぁ確かにこの遺跡製だけどさ
>使えるのか……?
ゴーレムに通う魔力回路が励起。太陽が如きコアより出るエネルギーが黄金の装飾を走り頭部の瞳にまで到達。光り輝いてその巨体を動かし始める。
「ま、ハンマー一本あれば倒せるから大丈夫。それよりも……」
しかしシェリーは動かず古代金の鉤爪を顔の近くへと持ってきてゴーレムの身体と何かを見比べている。
>…?
>二度見、三度見、四度見…
>チラチラ見てんじゃねーよ
「このゴーレム、沢山装飾あるで、しょっ?」
振り下ろされた拳を斜め後ろに回避。切り返して前方へスキップ。ゴーレムの背面へ回る。
>綺麗だなって思う
>某レストランの間違い探しくらい沢山ありますね
>1000円ガチャしたくなってきたな
「また関係ない話してる……」
回路が少し変わっている、ならシェリーには理解できない。モーション変更系の異変でも……無理だ。一撃目を未遂の状態で止めて一撃必殺したから。けれどこの古代金の鉤爪、何かしらの意匠が彫り込まれているためゴーレムに刻まれているそれと非なるものがあれば推定異変として扱える。
>まぁ俺らはそういう存在だし
>賑やかしこそ我が役割……
>お前ら急に哲学的になったな
「私の思考をそうやって見出すのやめてよね〜…ったく……ってあ」
背中、同一。左肩、左腕、左掌、も同様。右ストレートを再び躱し懐へ。腹部──異変。太陽モチーフの8つトゲのまるまるお日様が9つトゲに変わっていた。わかるかこんなもん。
>ちょっと違う?
>あ〜……あ〜?
>何か、変……?
>わからん
>おまいらwよくみろww
>なら貴様は分かるのか?
>全然。
>なら煽るな!?
「うるせぇ〜っ!」
結論は出た。シェリーは跳んで、ゴーレムの胸部からさらに跳躍。浮遊する古代金の鉤爪の射程内に頭部を捉え、連続で引っ掻く。その間にミスリルブレイドも直上へ移動。ミミックハンマーも準備。
「いただきました、ぜぇ〜いっ!」
>回れ回れ回れ
>またワンパンされてる…
>コアなんて晒す方が悪いんだよなぁ
今度は俊足と滑走を併用した横回転でコアにミミックハンマーが衝突。太陽が崩れると同時にゴーレムの身体も壊れていった。
「ふぅ……なんとかなったね」
>今回は簡単だったな!
>じゃあお前もやれよ
>無理です……
>ボスに接近して観察自体が難易度高いんだぜ
「あははは。ま、今回も青の裂け目ってことで」
シェリーはウインクしながら正解の青へ飛び込んでいく。四度目ともなれば慣れたもの。遺跡のテクスチャも剥がれ周囲全てが星海に還っていく。
>チッ
>やり直してくれた方が画になるのに…
>お?クソロボか?
「ロボットって怯みにくいから地味になりやすいんだよね……ヒットアンドアウェイでチクチクしなきゃだからさ〜。どこかに弱点作ってくれてたらいいんだけど」
>高い防護点を誇るぜ!
>じゃけん魔法で殴りましょうね
>魔法…?物理…?うごごご……
勝手に自爆し苦しむ視聴者にため息。世界毎にそこらの詳細な仕様は異なるが作るのは同じ人間なためかイメージは共有されている。金属製の体を持つモンスターはHPや防御が高い、といったように。あと打撃に弱い。
「逆に純物理じゃないと効かない奴とかいるし……………メタルとか」
>はい一閃
>魔神斬り
>ばくれつばくれつ♡
「私を殴るなーっ!」
そうして戯れあっているうちに再び視界が開けてきた。次元ダンジョン第五階層、今度は広い広い氷の大地の最奥部。ふわっと着地したシェリーの前で、大規模に組み上がっていくポリゴン。
「ふぅ…っ、寒い……」
>ひぇ〜
>カイロが欲しくなるな
>まぁ俺らが使っても意味ないんだけどな!ガハハ!
シェリーの肌を冷気が撫でる。感覚共有中の視聴者らも寒さに凍えて震える。雪が揺れる。雪山が震える。そして……耳が壊れる。
「うるせぇぇぇぇ!!!!」
>まーた咆哮してる
>なんでモンスターすぐ叫ぶん?
>威嚇やで
>プレイヤーを威嚇する作者の図
>ぎゃお〜っ、たーべちゃーうぞー!
「可愛いなおい…ってぇ!?」
組み上がったポリゴン──巨大なマンモスが鼻を振り上げ、叩きつけ。氷雪を舞わせてシェリーの視界を奪う。ただ振動だけが迫ってくる。
>何も見えねえ
>ホワイトアウト…
>まっしろしろすけ出ておいで〜♪
「出ないと命を頂くぞっオラァ!」
選ばれたのは竜斧槍。思考詠唱で宝玉を光らせたソレを向かってくる巨影にカウンターストライク。大きな大きなマンモスには致命的。これには後退、するがダメージは膨れ上がっていく。
「おお〜、効いてる効いてる♪」
>殴りたい、この笑顔
>守りたいだるぉ!?
>分かるとも!
「ありがとね〜♪」
>どういたしまして
>たまには可愛いのもアリか…
>万年可愛いだろあぁ〜ん???
>シェリー!後ろ!後ろ!
満面の笑みで手を振るシェリー、しかし彼女の背後から細身ながらも立派な牙が突き立てられてる。けれどこれは浮かせたミスリルブレイドで防ぎ逸らし本体は俊足、氷に矛をぶっ刺してベクトルを斜め上へ翔んでいく。
「見えてるよ、ありがとねっ!」
>感謝された!
>おめ
>こいつ……
>うらやまC
>なんで俺たちは褒められないんだ……
>いつも煽ってるからでは?
右側にミミックハンマー配置、ミスリルブレイドも併せ両方回転開始。ぶんぶんぶん回し威力増強。狙うは脳天一直線。
「よっしガラ空き対空ザコだな死ねぇぇぃっ、バスタァーッ!」
>急に口悪くなるじゃん
>これがいいんだこれが
>すっごい痛そうだゾ……
脳震盪、及び脳出血でマンモスはダウン。力が抜け倒れた身体は地面を揺らしたがそれまで。凝縮された体積が解けてポリゴンに還っていき、何れ消えてしまった。
「さーて終わり終わりっと。異変は……ん〜……なんだろ?」
>ないんじゃね?
>俺わかったかも
>お、言うなよ?
「教えてほしいなぁ〜っ♡」
>牙の太さ〜♡
>ああっ!くそっ!
>こいつほんとは敵だろ
「全員敵に回ったら纏めて叩き潰すから安心してね〜♪」
>ひぇっ
>許してクレメンス…
>悪魔は嫌だ悪魔は嫌だ悪魔は嫌だ……
第五階層も視聴者を信じ青い次元の裂け目へと飛び込むシェリー。どうやら正解だったようで次の行き先は廃墟……らしいが。
「……あはっ」
>ごめん悪魔じゃなくても怖いや
>六個目は廃墟だった…あ
>今の状態だとどうなるのかなぁ…w
「いや〜、生かしてはおけないから、ねぇ…?」
シェリーの脳裏に殺しの算段が浮ぶ。どうやって瞬殺するか。一言も喋らせず、不快なるリッチを叩き潰すか。もしかしたら異変かもしれないが関係ない。あの顔を思い返すだけでストレスのあまりニヤつきが止まらない。
「ふふふふ……はははははっ……!」
>ほんとはこいつが魔王だろ
>勇者魔王説はやめろ
>俺もソレ好きなの
そして星海を抜けたシェリーは扉の前に降り立った。見覚えのある扉だ。これを開ければ戦闘開始なのだろう。今回は準備時間があるようでチャート短縮が捗る。さらっとコンソール操作でタイマーセット。
「一瞬で走るから見逃すなよ?」
>はぁい
>了解でぇす
>\\[目薬挿しました]//
装備は魔術杖と竜斧槍を持ち、浮遊させるのは銀のレイピアとアイスソードに決定。単純手数が増えたから分身は不使用でいく。
「さぁ……振り切るぜッ!」
>あっこれは死にませんわ
>死亡フラグへし折りさん!?
>なぜか死なないシェリーにそっくり
扉を蹴り破りボスエリアへ。目前にはローブを纏った骨の魔術師が居る。けれど二回目故か、再現故か、ムービーはスキップ。耳障りだった声を聞かずとも──
「竜よ 竜よ 古の鼓動を響かせよ 『竜衝』ッ!」
──重唱で自動追尾多段被弾火球を放てるから。文字で書くと尚この技術のクソさが理解できる。
『妾──ァァッ!?』
「なんだこのアマ!?」
>草
>女子になってる…w
>女子(推定ババア)
もちろんヒット、しかし名乗りを上げようとしたクソのあげた絶叫は甲高い女の声でできていた。完全に異変。けれどここにいるということは同じ所業をやっている、ということ。シェリーの手が止むわけもなく。ブンブン回るミスリルブレイドをブーメランのように横から、銀レイピアは真正面から最高速度で射出。脆い骨格は質量で砕かれ、軽い頭蓋は清浄に貫かれた。そして近づいたシェリーはアイスソードを両手で持ち直上に構えて肉薄。
「なんでもいいが──テメェらの研究は永久凍結だぁぁぁ〜〜っ!!!」
『ッッッゥゥァァァッ!!わら、わわらの、わわわらわわわわが、わららららぁ………っ………!!』
「悪霊退散悪魔退散。禁術は使ったら恨み買っていつか破滅するから禁術なのにね」
>普通に呪いとかじゃないんですかね…
>物語だといつも勧善懲悪でやられてるけどさぁ
>ちょっとメタいですよシェリさん
聞くに堪えない断末魔をあげリッチは消滅。散っていくポリゴンもシェリーは悉く祓ってこれで再誕することはないだろう……今のように青か、赤か、飛び込む選択を間違えない限りは。
「ま、異変ばっかりだからこそさらっと現れる異変なしに引っ掛かっちゃうのが怖いんだよね このゲーム」
>それな
>ないな!って言った時に限ってやり直しになった時の悲しさ
>涙拭けよ つ紙やすり
>スリスリ 肌がぁぁぁっ!
「引っ掛かってんじゃないよ、も〜っ…w」
当然シェリーは青の裂け目を選んで身投げ。火山のドラゴンへ向けて落下していくのだった。
Tips シェリーの変な癖
実はシェリーは自分の冷蔵庫を持っている。マシンの排気でどうしても暑くなる室内対策……というよりはクリエナのため。プレイ中も冷えたクリエナを飲めるよう、そして小休憩中も下に降りなくてもすぐに補充できるように。
ただその冷蔵庫の中身はかなり整頓されている。左奥から右手前に期限が短い順で並べられ、ジュース缶も同じように。しかも冷やす系のスイーツ及び摘みも期限が奥から手前へ降順になるように入れられている。
しかもその上にあるスナック菓子類も期限順に並べられ……と、食べ物の期限をすごく気にするという癖。
まぁこの短編集ではリアル描写はあまりないはずなので関係ない小話である。




