表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シェリーの昆布巻き配信'sアーカイブっ!(ひきころ短編集)  作者: わけわかめ
1:『8層ダンジョン』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/26

#21 [頂上]RTAの女王vs魔物の帝王[決戦]

言い訳はしません


遅れてごめんね!!!!!!!!!!!!!




お詫びの9377字です


長くね?

 地味な第三階層、まるで将棋だった第四階層、放送事故の第五階層を抜け今や第六階層。半ばはとうに超え、此度のボスに期待が募る。

「みんな〜異変は〜?」

>今入ったばかりだが

>そんなにすぐ見つけられたら苦労はしない

>もっとカメラ回して

「はいよ〜」

 ぐるぐるぐるぐる視界(カメラ)が回る。まるでジャイアントスイング。視聴者らの三半規管(たいかん)が削られていく。

>びぇぇ〜〜っ!!

>ぉぁぁぁっ

>無理無理無理無理

「なははは。それで見つかったかな?」

 竜斧槍ぶん回し、間を見計らって中段上段下段の三連突き。腹部眉間膝小僧に矛を受けてしまい行動不能。ニヤついていた口角が苦悶に歪む。

>無理に決まってんだろ!

>……はっ、ここは魔界、私はシェリー?

>混乱ニキ配信面に堕ちてるよ

「それだけ好いてくれてサンキュー!」

 長く配信を見続けたものにはありがちなこと。ヘビーユーザーへ感謝のウインクをぶん投げる。唐突なファンサに期待していなかった視聴者に不意打ちダメージ。もちろん悪魔にも斬首を執行だ。

>おんぎゃぉ!?

>ヒャッハー!新鮮なシェリーのデレだー!

>\[ありがとうございます]/

「それじゃコレからも応援よろしくねぇ〜っ!」

 落下する首が接地する前に蹴り上げシャンデリアにシュート。妖しき紫炎に焦がされ名状し難き香りが漂う。ああ、なんだか楽しくなってきた。

>もうそろ終わりかねぇ!

>徹夜ワイ、深夜テンション

>もうどうにでもなーれ!

「あははははっ、まだまだ私の配信は終わらない!」

 二体目の悪魔が拳を振り下ろした(・・・・・・・・)。それに合わせたシェリーも竜斧槍を跳ねさせ刃をそっくり返す。

>配信終わるまで寝れないからはよ終わって

>まだだ…まだ終わらんよ…!

>たかがメインカメラにやられただけだ

「情熱的でいいじゃん、髪切った、ぁ!?」

 相変わらず武闘派がすぎる筋肉質な身体に鋭く尖った牛角(・・)を生やした悪魔がアダマントの鉤爪(・・)でそれを弾く。シェリーの身体が驚愕により硬直。どうしてこんなにも、悪魔というものは城砦のように堅牢なのだろうか……いや、待て。

>えっ

>あっこいつ異変だぁ!?

>悪魔達すーぐ姿変える

>アイツの動き、見えんかった……

「はぁぁ!?」

 動きが速い。しかも……血色の貴族服を纏っている。昔から赤系の存在は素早いと相場が決まっているが、隙を晒した冒険者にとっては尚の事。不可避な鋭鉤爪によって柔い防具など軽く破り捨てられてしまう。桃色の肌が衆人の目に晒される。変態が立ち上がった。

>シェリー!?

>腹いったぞ腹!

>脇腹美味しそう

「ぐ、ぅ、ぅぅぅ……!」

 なんとか即死判定(やりなおし)からだけは逃れたが、シェリーは文字通り身を削がれ後退。片腕もなくなり変わらず命の危機なのに違いはない。竜斧槍を前方に投げ時間稼ぎ。異変に対する対応が遅れた。

>安いもんだ…片腕の一本くらい

>えっここからどうやって戦うの

>お前の、負け〜〜っ!

「っし…!」

 片腕で選択するは恐竜の頭蓋骨。それは火山で戦った強敵(異変)EX武器(報酬)。そのカテゴリは──。

>…骨ぇ!?

>首握らられてて草

>なんか熱そう

「【旧融ノ砲哮(Big・Bang)】だってさ、コレ!」

 ──拳銃(ハンドガン)。親友の名称の由来に似たコレが撃ち放つは非物質(熱エネルギー)。脊椎のようなグリップを握り締め不敵に笑いウインク。迫る城砦の悪魔の眉間に狙いを定める。周囲の熱を喰らい、呑み、骨の顎門に蓄えていく。

>バレ様!?

>ふーん、ご友人じゃん

>……ビックバンに恐竜関係なくない?

>名前は気にするな

>なんで死なねえんだよぉぉぉ!!!

「そりゃあっ、私が……最強だから、だよっ!」

 今度は見えている。バックステップ、ただしナナメ。ただ速いだけの単調な動きなら少しズラせば問題ない。避けて、避けて、避けて。充填完了(フルチャージ)

>うおっ目が光った

>キラーン☆

>骨が光ったらそれはホラゲなんよ

「撃ち抜けぇぇ──っ!」

 解放(オープンファイア)熱線(ビーム)が悪魔の眉間を貫き進んで壁を焦がした。そのまま腕を振り下ろして焼き切れば真っ二つ。悪魔はポリゴンと化し、無事に鍵が開いた。

>ヒューッ!

>焼肉にもならんか

>ふん、ザコが

>お前は生き残れるのか?

>無理です……

「……っ、やっぱり痛い…」

 高揚が解け幻肢痛に襲われる。何も感じない感覚遮断よりもただの痛みの方が地味に辛い。左脇腹のあたりを押さえながら奥の扉をタックルで開け足早に次の階層へ。戻ってきた腕の調子を確かめてようやっと第七階層。

>今度は悪魔一緒!ヨシ!

>内装にも異変なし!ヨシ!

>前の二人がヨシって言ってるからヨシ!

「──ほんとかなぁ?」

 砲哮を収納、今度は金棒を取り出してみる。ああ、コレはアリサが好むヤツだ。手に伸し掛る重みでわかる。それと、使い方も。

>ホント

>ホント?

>ガチなんだ

>ガチなのかー

「ノリのいい視聴者は大好きだよ……オラァッ!」

 剣に戻った悪魔司祭は顔面スマッシュ。審判なんていないからデッドボールもホームラン。光の差し込む窓の外までひとっ飛び。異変じゃなければまだ楽だ。

>ワイもシェリーのガバ好きだよ

>[笑顔が素敵です]

>ネタになってくれて嬉しゅうわ

「はははもうガバって死ぬような姿は見せられないからねぇ〜っ!」

 振り抜いた金棒(バット)を手放し前へ俊足(スキップ)。懐に潜り込んで取り出したるは天狗の団扇。背から扇げば鬼さえも転ばせたコレを、足元から使ってみればどうなるか。

「吹き飛べぇい!」

 バサッ──バビュゥゥンッ!なんて物理法則の壊れる音を立てて吹き荒ぶ上昇気流が悪魔の角を天井に突き刺した。動けず焦ってバタバタと身体を捩らせるがなかなか抜けず。

>わ、わぁ…っ

>バグってんだろこれ

>使用禁止決定ww

「え、っと………竜よ 竜よ……」

 想定外の惨事に困惑しながら竜斧槍を構え詠唱開始。そのまま『竜衝(ドラグノヴァ)』をぶん投げ悪魔をポリゴンに変えた。これで扉が開いたのだが。

「異変……どこ?」

>悪魔の体がハリボテだった説

>ダカラフキトンダノカー

>結構重い音してたが?

 ここにきての地味異変。どこがおかしいのかなぁ〜、なんて首を捻ろうとシンプルな内装は変わらない。罅が入り崩れそうな天井と外れ落ちてきそうなシャンデリアを眺めて。

「……減ってないしねぇ」

>被りはないでしょ

>最初からになったら被ることはあるらしい

>確率は低いけどな

 心配になって数えたが、天井にしがみつくシャンデリア、に宿るキャンドル、に灯る紫炎の数は変わらない。装飾にも妙な箇所はない。

「確率が低いって聞くと私なら引くなっていう自信があるんだよね」

 例えばクソ乱数とか。ここで90%を引けばチャート続行、という場面で10%のリカバリー不可を引いて再走確定とか。デレチャートに入れるなんてあんまりない。疑心暗鬼になってくる。

>威張らなくていいから…

>もっと胸張ってほら

>なんか画面明るいんだけど

「……明るい?」

 と、周りを探している時に言われて気づく。確かに……明るい。特に外。壊れた窓から見える背景(バックグラウンド)は暗い世界のままに見えるが……試しに首を突っ込んでみると。

「……………天国じゃん」

 闇の世界が一転して光の世界。黄色い空に雲の浮かぶ花畑。天使が歌い踊る天の獄。遠くの木には何かが吊るされているような気がして……こちらを見られる前に首を引っ込めた。

>……

>今なんか裏の世界見えた?

>神様の趣味悪いっすネ…

>ランランラララランランラン

>ハンバーガーにするぞ

>ヒッ…

>多分そっちじゃないと思うんですけど……

「進もう進もう進もう関わっちゃダメなヤツだ今の」

 何も見なかったことにしてさっさと逃亡。奥の扉を解放。第八階層へ侵攻。ここまで異変がなかったが次はどうだろう。竜斧槍を担ぎなおす。

「まず悪魔は退散しないとねぇ〜っ!」

>じゃあまず回転鋸の悪魔をやっつけて頂いてもよろしくて?

>それは自分自身を消すことになるので無理だ

>ウロボロスのエクソシスト

>物騒で草

 いつも通り(not異変)な司祭悪魔Aが振るう逆十字剣を殴打。攻撃を弾き飛ばし隙を作ってからの三段突き、からのオマケで二段斬り。

「聖なる銀で消えちまいなぁーっ!」

>でもその銀って…

>殺人鬼の血で濡れてるわね♡

>逆に不浄まである

 片手でナイフ・ザ・リッパー投擲、顔面貫通でポリゴンへ還しつつ不動(アンカー)で司祭悪魔Bの斬撃を流し笑う。

「順に祓ってやるから大人しくしてなって♪」

>はい!

>待機列最後尾こちらで〜す

>あっ俺その看板もつよ

>この配信の視聴者は悪魔だった…?

 床面へ突き立てた竜斧槍を横に。矛を腹に突き刺して振り上げステップ、軸を合わせ斧刃を横に振り満月十字斬り。

「最後にぃ──よいしょぉ〜っ!」

>サヨナラーッ!

>ワッショーイ!

>ばよえ〜ん!

>テンション高いっすね皆さん

 続けて上段下段問わぬ横薙ぎコンボの〆に斬首執行。吹き飛んだ首も念の為に串刺し。第八階層より敵が消え失せた。

「さ〜て、異変探しの時間だけど……あるよね?」

>ないです

>そこになければないですね

>ああ!窓に!窓に!

「それはさっきやったでしょ…けふっ

 と言いつつ窓をぶっ壊して外へ乗り出す。相変わらずの澱んだ空気。息苦しくて人の住む場所ではない。即身体を戻しクリエナ補給。

>まーた咽せてる

>かわいい

>たすかる

「けふっ、けふっ……異変じゃないね、元に戻ってる」

>悪魔の所在地だからな

>居心地良かったらいかんでしょ

>エアコンついてそう

 竜斧槍を仕舞いナイフを回収。そして斥候(スカウト)のように壁や床を慎重に突いていく。石橋を叩いて砕きそうなくらい慎重だ。とあるリアル志向なローグライクダンジョンゲームだと必須技能。カジュアルなコレだと必要はなさそうだが。

>すげぇ地味

>なんでコレやってんだww

>ダンジョン探索って本来地味なんだなって感じた

「なんでこれやってるのって、……ん?」

 キンッ、キンッ、キンッ、キンッ──カンッ。キンキンキンキン。カンッ。

>今の巻き戻してくれ

>マジであったのかよ草

>罠だ!これは罠だ!

 床を埋めるタイルの一枚から空の缶を突くような軽い音がした。周囲のタイルをもう一度突いてみるが明らかに異音。目を閉じて感覚を研ぎ澄ませると……微かに風が吹いている気がする。

「本当に違うとは……」

>すげぇw

>あー、俺が意味不明な引き返しになったのコレか

>なるほどな……

 本人も驚いているが行動は素直。ミミックハンマーを取り出してタイルを破砕。簡単に砕けて地下へ向かう階段が露わになった。

「じゃ降りよっか」

>おっけー☆

>次で最深部だな

>待ってろラスボス シェリーがいくぞ

「他力本願だな〜」

 呆れるような声と共に階段を降りていく。コツン、コツン、コツンと靴音を立て降りていく。闇に誘われるように。深淵へと堕ちていくように。今の彼女が冒険者でよかった。英雄だったら肉々しい胸部装甲に溶岩の脚部装甲、岩の手甲と自然派フックショットとバラバラなごった煮ファッションwith超絶騒音戒天鋸(オファニエル)というどちらが魔王かわからない見た目故に。なんで通報されないか謎。やはり顔か。顔なのか。

「……長いな」

>桂ぁ、今km!?

>大体0.046kmだな。丁度今二百段降ったとこ

>数えてて草

「ありがとね…っと、扉見えてきた」

 三段飛ばしでトントントン。少しぶりの床で身体を伸ばし装備を確認。身体に不調はなくクリエナ補給は成功。コンディション・パーフェクト。オールグリーン。

「カチコミいくよ」

>シェリーと相乗りする覚悟はできてるぜ

>勝利を信じて!

>そんな装備で大丈夫か?

「ふっ──大丈夫だ、問題ない」

 コメント欄にサムズアップ。この上ないドヤ顔を見せつけて扉の中へシェリーは消えていった…。

>死亡フラグやめてください

>この後やり直したんだよね

>ラスボスに勝てるわけないだろ!























『よく来た冒険者よ』




『吾輩が魔を統べし王たる"魔王"である』



 

『吾輩は、待っておった』



 

『其方のように勇敢果敢かつ剛力無双な者を』




『もし吾輩の味方となれば──』




『──この世界の半分をやろう』




『どうだ、吾輩の味方にならんか?』




「死ね」

 返事はシンプルに。俊足(スキップ)並びに『竜衝(ドラグノヴァ)』。紫の壁床に赤のタペストリ、悪魔の黒石像が並ぶ玉座に坐して笑う美丈夫の下へ駆ける。

>ムービー長い!

>待ってなんか耳が変…

>夜のASMRのお姉さんみたいな聞こえ方する!

>わかるけど分かりにくい言い方すなー!

『呵呵!愚か者め!身の程を思い知るがいい!』

 対する魔王は黒いコートの影から鎖を伸ばし、いくつか黒球を生み出した上で周囲に漂わせ魔法弾を連射。シェリーの一撃が致命に入るのを防いだ。

>イケボすぎて濡れた

>今日はかんかん照りですよ

>無知祖母シチュ好き

「思い知るのはテメェの無力さだってーの!」

 攻撃拒否(アタックキャンセル)されたシェリーは竜の力を宿す斧槍を八面六臂もかくやとばかりに振り回し、全方位から飛んでくる小弾をパリィし続ける。もしここに英雄アリサがいたらパリィコンボでやっちゃえバーサーカーだったがいないのだから仕方ない。弾幕を貼って逃げる魔王を追い続ける。

>逃げんな卑怯者ォ!

>遠距離ないのに……

>いやあるだろ

「テッテレ〜っ!」

 左手に頭蓋骨をお呼び出し、熱充填を開始すると同時に上へ投擲。小弾幕に潜み飛来する鎖は適当な武器を巻き付かせ対処。竜斧槍の動きが止まらないように注意を払う。そして戻ってきた頭蓋骨、から伸びる脊椎部分をキャッチ。狙いを定めトリガーオン。

「【旧融ノ砲哮(Big・Bang)】ッ!」

>ばーんばーん!

>ビーム!だろここは

>ビュゥム

>語呂悪っ

 超熱線が魔王の身体を貫き燃やす。高そうだった服が燃えていき筋肉モリモリマッチョマンの変態ボディが丸見えに。そして被弾してしまった彼は何が面白いのか笑い始めて。

『愉快愉快愉快!ここにくるだけあって相当な手練のようだな。ここからは吾輩も楽しませてもらうとしよう──ゆめゆめくたばってくれるなよ』

 指パッチン。弾幕を打ち出す黒球(ビット)が倍増、シャランラ舞う影鎖も増加、手中にも髑髏の大鎌を生成した。ここからが本気というわけか。

>かっこいい

>明らかに強そう

>さすまお

「あぁ近づいてきてくれて助かった!」

 魔王はグン、と一つ踏み込み突進。シェリーと二歩半の位置へ来たあたりで引き寄せるよう右手で大鎌を振るう。影に隠した左には闇の攻撃魔法。もちろん周囲は弾幕で埋め尽くされている。

「じゃあコレだなっ!」

>超スピード!?

>見えんかった…

>傲慢な悪魔居るな

 敢えて(・・・)左前方に全力俊足(スキップ)想定されている(人範疇の)速度を超えた瞬間の移動で背後を取り、回避後の着地狩りを無効化。コンボを崩すのなら初段から。前提の崩れた仮説は現実を持てない。

「背中ガラ空きですよ〜っ、王として恥じゃあないんですかぁ〜っ!?」

>でもお前女王じゃん

>王の決闘

>誉ない王とかすぐ革命されそう

 武装チェンジ、両手剣(ミスリルブレイド)。反応される前に背中をぶった斬ってそのまま逃亡。ヒットアンドウェイはソロプレイの鉄則。※ただし何事にも例外はあります

『呵呵呵呵!強者との力比べでの傷など何処に在りとも誉也!汝にも与えてやろう!』

>楽しそうだなこの兄ちゃん

>さらっと会話してるけどAI乗ってる?

>このキャラ単体と遊びたい

 千切れたマントを吹き飛ばし、魔王はゆっくりと振り返って大鎌を構えた。鎌先へ赤黒い魔力が収束する。巨大に、凶悪に、苛烈なまでに極まった死神の刃と成る。

「ばっかじゃねーの!?」

 攻撃範囲は部屋全体。もちろん威力は推定即死。そして発動も──たった今。

『"死ノ宣告(ハーヴェスト)"』

「ぎゃぁぁぁぁあ〜〜っ!!!」

>悲鳴助かる…………

>ありがたや

>これで今日も……くつろいで熟睡できるな

 シェリーは地面に斧槍突き立てた反動で天井まで跳躍、シャンデリアを踏み台にしてさらに上、天井に張り付く。そこまで逃げても髪先を死が撫でた。背筋にも黄泉の冷たさが走った。

「発動早い即死技は卑怯だぞバカぁ!」

『やりおる 流石は冒険者だ それでこそ好敵手というものよ!』

>なんかライバル認定されてて草

>コレはコミュ成立ですわ…

>15の悪魔あたりかな

「いらねぇ〜〜っ!竜よ 竜よ 古の鼓動を響かせよ!」

 天井蹴って急速落下、CT空けた『竜衝(ドラグノヴァ)』詠唱。竜斧槍大回転でぶっ潰す。

『来い!』

>ここがお前の死に場所だ

>武器なんて捨ててかかってこい

>俺は優しいぞ?

「『竜衝(ドラグノヴァ)』ぁぁ〜〜っ!!!」」

『フゥゥゥ…ッ!』

>…生きてる!?

>小さいからヒット数少なかったんか?

>あぁ……

 振天なる一撃が魔王の脳天を貫く。なのに白い犬歯が視界から消えていない。ポリゴンになど変わっていない。下手に構えた鎌は相変わらずそこにある。

『遠慮なく死ぬがよい──"深淵ノ楔(タルタロス)"』

 魔王の影が広がる。床が溟く染まっていく。触れた場所から染まって消えてしまいそう。なんか塗りつぶしツールみたい。多分コレも即死。

>ヒッ

>インクマスィ~ン…

>うるせえベーコンスープ食わすぞ

「逃げるんだよバーカ!!!!!!!!!!!!!」

 綺麗じゃなくなった顔面を蹴っ飛ばしシャンデリアに帰還。流石に身体は触れても大丈夫だった、けれどもまだダメージが足りないのか。弾幕こそ消えて助かったが降りられないのなら戦いにくいことこの上ない。

「──『火球(ファイアボール)』、いやダメだ効いてねえ」

『温いわァ!』

>背水防御型ですねクォレは…

>はいクソボス

>ふざけんなァ!

 影は広がっていく。壁にまで至って、登る。どうやらここも安全地帯ではないようだ。千日手など認めてやくれやしない。

「んんんんん………【旧融ノ砲哮(Big・Bang)】」

>とりあえずの削りが物騒

>突き出しかな?

>まるで個人料理屋だな

>ただの直喩じゃん

『呵呵ッ!ただ揺れておるばかりでは吾輩は倒せんぞ!』

「知ってるわバーカ!」

 考えろ、考えろ。弱点はどこなのか。竜は逆鱗があった。ならば魔王にも何かあるはず。例えば……心臓。広がる黒の中で胸部の奥に赤いナニカがチラ見えした。

「はい真っ赤ぶっ潰すァ!」

>即断即決

>判断が早い

>刹那の殺意

 選ばれたのはミミックハンマー。謎に過労死しそうなのにしてない社畜武器。強い衝撃(ノクバ)といえばコレ!

「ッラァァァァァァ………!!!!」

 潰す。叩き潰す。絶対潰す。全体重、全信念、魂を賭けた一撃。拳の殴打も乗せてダメ押し。連打連打連打。

『グ、ァ、ァァァ……呵呵呵呵呵呵ァァァ………ッ!』

 しかし魔王とてただ死ぬわけにいかぬ。大鎌を手放し影を祓い手の内に魔力を収束。殺意の変わらないただ一つの攻撃(魔法)。圧縮、圧縮、魔力を圧縮。我が身諸共吹き飛ばす事を厭わず……

『"終曲(デッドエンド)"ォ──ッ!』

「はい回避」

『は?』

>草

>ひどい

>あのさぁ…

>魔王がこいつ信じられねえって顔してる

>だ、駄目だ…まだ笑うな…こらえるんだ…し、しかし…

>シンセ界の神は心臓麻痺してどうぞ

 ……ただしモーションが長すぎるのでみてから回避余裕でした。あっさりと手放して地に伏せ球を回避。さよならミミックハンマー、おかえり竜斧槍。

「じゃあねっ♡」

 最後の一撃は、切ない。心臓を矛先で貫いて戦闘終了。敗北した魔王は絶叫の内に霧散していって……玉座の前に宝箱が現れた。あとはアレを開ければ魔界ダンジョンはクリアだ。

>かわいい

>助かる

>哀れだなぁ、魔王君

「じゃさっさと開けてゲーム終わろっか」

 階段をタタッと上がり蹴り開ける。中身は──赤いマントであった。

「なんでぇ?」

>戦えんのか?

>武器ガチャ失敗

>闘牛でもしろってことなのかもしれない

 コレにでシェリーは魔界ダンジョン踏破。魔王を討ち果たしたことにより冒険者ランクも最大の勇者(SSS)ランクへと昇格。実績も次々と(・・・)獲得する中、シェリーはいつもの空間へと戻っていくのだった……。











 【実績[八大ダンジョンを踏破せし者]を獲得しました】


 【実績[勇者に到し者]を獲得しました】


 【実績[道を違えぬ者]を獲得しました】






 【全ダンジョンの完全踏破を記念して 新たなダンジョンが開放されました!】






「えっ」

>は?

>まだあんの?

>すみませんそれ聞いてねえが

>今ので終わりでいいじゃん!

>ラスダンじゃないぞよ もうちっとだけ続くんじゃ

「なんだよそれぇぇぇ!!??」

Tips 八層ダンジョンのとあるレビュー


[違和感]★★★★☆

八層ダンジョンという題名なのに実際のダンジョンはボスのいる九層まである。でもダンジョンは8つ。ならボスも含めて8層までにすればよかったのに わざわざボス階層を作る意味がわからない あと魔王強すぎ 十回死ぬまで難易度変更ないのクソゲー。


このレビューは役に立ちましたか?

♡×81


返信

>ダンジョンは8つ

森林から魔界までのダンジョンを通常難易度かつノーミスでクリア(完全踏破)すると隠しダンジョンが出現しますよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ