#20 [人力]RTAの女王にとって城は庭[最強]
ちょーーーっとリアルが火の車すぎてつらい
「おっじゃましまぁ〜っす!」
第三階層の扉を解放、笑顔で竜斧槍を担ぎながらカチコミする冒険者シェリー。ここにサングラスと葉巻をつけて服装も白いスーツに黒ネクタイにすればもう完全にヤの人。……それは大概服装のせいな気がするが。
>邪魔すんねやったら帰って〜
>古典か?
>いつのネタだバカ
「あいよ〜」
コメントのノリに乗って手前の扉の方へと向き直るシェリー。悪魔に対して背を向けた形になる。正直余裕ぶっこきすぎて心配になるが……今更か。どれだけ用心しようがシェリーはガバるし。
>帰るな帰るな
>異変あったら帰っていいよ
>そっすね……
「……じゃあ帰れないっすね」
扉の取手に触れて思案。多分異変を発見した。本来ならば丸いところが例によって逆さ十字の形に変わっている。確信はないが──なんて背後から奇襲。
>シェリー!後ろ!後ろ!
>悪魔たんきてますね…
>ねぇ!小悪魔たそはどこ!?
「奴は死んだ!私が殺したからなハハハ!」
バックスラッシュをラウンドパリィ。矛を下弦の月にして刃を弾く。さらにドアに向かってジャンプし跳躍による三角跳び。
>うわぁぁぁぁん
>許せねえよ……
>悪魔ー!頼むー!シェリーを裁いてくれー!
「祈るなら神にしなって、カフェインの神とか、乱数の神とか……ヴァーサ様とか」
体勢を崩したままの卑怯な悪魔Aの脳天に天より降る竜が如き落下突き。柔い脳天から床まで貫いてワンパン。爆散するポリゴンの裏に隠れ追撃を回避。
>嫌です
>絶対にNO
>特に最後だけは遠慮します
>全部邪神じゃねえか!
「うるせぇ祟られろバーカ!」
そして床を滑走、股抜けして背後に登りカウンター・バック・スラスト。悪魔Bは思わず絶叫。
>ひでぇ
>コレが神の加護……
>寵愛じゃないすかね
「私は神にもモテモテってワケ!」
筋肉質な背筋を駆け上がり、首元に鋭い靴先をメテオ。悪魔Bを床面とキスさせて黙らせる。
>でも邪神から愛されてるってことは……
>祝いと呪いって似てるよね
>全てを理解した宇宙俺BB
>いらない
「もっと可愛くなってから出直せぇーいっ!」
落下の衝撃を石突載せ後頭部陥没。ついでにサクッと斧刃で首を刎ねればポリゴンになって手仕舞い。納刀し次の階層へ向かう。
>最早流れ作業じゃん
>実は雑魚だった…?
>なんだよそれー!
「いや……割とコレでも疲れるんだからね?私は喋りながらの方が楽に集中できるってだけだから」
染みついた配信者としての業か、あるいは元来の気質か。多方面に気を配っていた方が帰って楽になるシェリー。ドアの取っ手を異変と信じ奥の扉へ。
>お前先生向いてるよ
>oh…公営ブラック企業…
>企業か?
>ジョブという点では多分そう、部分的にそう
「や〜、いいよ私は配信者で。もう慣れてるし」
もちろん正解で進む先は第四階層。シェリーは襖を開いて部屋の中へ。今度の敵も相変わらず二体らしいが。問題発生。初手からおかしい。
>今開けたのって
>魔王城は日本にあった………?
>アイエエ!!??テングナンデ!?
>アカァァァン!?
「わーお、コレまた異変すぎて探す手間が省けるからラッキーじゃん」
床は木目で壁は漆喰、上は一般梁。奥扉から離れ左手には空飛ぶ天狗が一体。右には大角を持つ赤鬼が一体。スピード&パワーのタッグがシェリーの前に立ち塞がった。
>お前は何を言っているんだ
>シェリーのバカ!アホ!戦闘狂!
>もうだめだ、おしまいだ…勝てるわけがないよ…
「馬鹿野郎お前ら私は勝つぞお前らな、ぁぁぁ!!」
交戦は不可避。天狗、赤鬼、英雄の三巴の衝突。振り下ろされる棘金棒をフェイントで見送り、天狗の団扇より放たれた突風に煽られる。シェリーは敢えて受けることで一旦距離を取る。
>やられてて草
>飛んでら
>ぴゅーんww
「今の敢えてだって!!」
団扇の第二風が来る前に俊足で赤鬼の背面へ回って防風壁に。そして斧刃を後ろ手に構え居合の構え。予想通りならコレで殺れる。
>何その構え
>シェリーのニヤケ顔可愛い好き
>それはわかる
「へへ〜ん、ありがと……ねぇっ!」
天狗はシェリーへと再び扇ぎ突風を引き起こした。つまり金棒振り上げた赤鬼は不安定になって転倒。もちろんその先にはシェリーがいる。遠心力が乗った斧槍の前へ愚かにも腹を晒した赤鬼は横に帝王切開。産むのは自己の破滅か。
>ひぃっ
>そんな綺麗に切れる事あるぅ?
>深すぎんだろ…
「ハハハ柔い柔い!」
反撃の金棒は床に矛を突き立て半円状に回避。硬直の隙に回した矛を今度は瞳へ──
「チェストァァァ!!!」
>さすがでごわす
>やったか!?
>まだ天狗がいるんだよなぁ
「ああそうだねぇ!」
赤鬼は無事ポリゴンとなって爆散した。ならば次なる獲物は矛先のさらに先。十手と団扇を振るい空を飛ぶ天狗。まるで羽虫。位とかは知らない。
>こいつ団扇しかやんねぇな
>お?芋砂か?
>あまりに…あまりにカス戦法…!
「戦えやボケぇ!」
流石のシェリーもこれには叫ぶ。射程外からの攻撃は戦争法違反だと声を張り上げて抵抗。手始めに銀細剣を投げ、銀短剣を投げ。しかし団扇で返してくる。
>遠隔攻撃相殺はクソわよ!
>ほんとさぁ…弓打っても魔法撃っても切ってくるやべーやつがさぁ…
>それはアリサ
「いや全然違うだろうが!?」
竜斧槍を右手にし左手へ魔術杖をセット。二つをクロスし両方の宝玉を輝かせる。
「求むるは火、撃滅の焔なり」
>おいおい同時行使かよ 燃えるな
>それ大体のゲームでスキル必要じゃないすかね
>こいつほんま技のデパートやな
これは複製派生の技術、重唱。分裂に近しいがその本質は読んでの通り複数内容の同時詠唱。
「『火球』!」
>やっばーい♡
>火がボコボコしてるの笑う
>まるで太陽だな
火球で生んだ大いなる炎に、竜衝にて起こした波動を付与。1にnを足して殴る分裂と違って重唱は掛け算。
「燃え尽きろクソ天狗ゥゥッッ!!」
>私怨たっぷり♡
>燃え燃えきゅん(心停止)
>シェリー煽りたくないよこういうの見ると
重なった魔法が風を無視して天狗を追尾して飛んでいく。天狗は飛び回って回避しようとするがコレは不可避。旋回の折に追い付かれヒット。重なり炸裂火球と化したソレは天狗を幾度となく燃やし燃やし燃やしシェリーのストレスと怒りと鬱憤とetcを爆散爆散爆散。つまりは……
「たーまやー」
鍵が開いたのだ。実績[飛車角落とし]も獲得、EX武器もさらに獲得。武器が増えすぎて笑えてくる。
>呑気がよ
>やったのはお前定期
>みんなそうやって燃やしてきたのね!
>派手にやるじゃねえか
「私を悪人に仕立て上げるのやめてもらっていい?」
>お前魔術師に向いてるよ
>マギビルドの動き指南動画もくれ…頼む…
>カッコよくて憧れますしね…
「や〜……私のは参考にしない方がいいよ本当に」
特にオンゲで使うとBANされる技ばかりなのが問題。無闇に広めるとヤバいグレーゾーンを平気で配信中使用してるが解説までするとクビが飛びそうで怖い。つい気分が乗って使ってるが冷静になるとこわ──クリエナ美味しいヒャッハー!
「よーし前進むぞ前に!」
襖蹴り飛ばし前へ。前へ。第四階層を後にして第五階層。元のゴージャスかつエビルな雰囲気。流石に連続で大型異変はないようだと安心していたところで女の声。
『あらァ……カワイイ子ね コンバンワ♡』
「…………」
>シェリー無言で真顔になってて草
>スッと武器構えてんのマジ殺人鬼
>ちょっと興奮した
室内、室外、ともに異変ではない。それが確定した。それだけは確定したのだが。今回も『敵』が変わっているようだ。扉の片方へ実際豊満な体を押し付けている淫靡な美女。ハート型の尻尾がゆらりゆらりと揺れる。立派なツノが髪を梳く。巨大な三対の翼がはためく。しかも……額のティアラのような紋様と装束が輝いている。
『ンン……いけずねェ……乗ってくれないのかしら』
「……………プラ」
>キレだこれ
>鼓膜ニキ鼓膜ちょうだい?
>すまん俺コレで在庫切れた
項垂れ、何かを呟き始めた。ぶつぶつ、ぶつぶつ、ぶつぶつと。配信者とは思えないムーヴ。しかし見えなくなってしまったシェリーの瞳に何かよろしくないものが宿っている気がして訓練された視聴者は対ショック体勢に入った。そして微かになるカカカカカカカという何かを突く音。
『あらァ、やっと話してくれたわねェ……ふふっ、プラトニックなのがお好きなの?恐ろしい顔をしているのに、可愛らしいトコロもあるのね。大丈夫、ワタシは優しくシてあげるから♡』
「──ンプラ……」
>いや静かじゃん何言ってんの?
>若いってすごいわねぇ
>再生医療ポット買っといて正解だったぜ
けれど新規の視聴者は反応が遅れ。ふらり、と顔を上げたシェリーの阿修羅の形相にビビり散らかしもう助からない。スゥ…と空気を吸い込んで。グン、と姿勢を低くし。
『ほら、何か言ってみて?ワタシはなんでも受け入れてア、ゲ──「コンプラヤベェだろうが馬鹿ァァァ!!!!」ェェェ!!??』
>お"っ"
>ぐ……っ、致命傷で済んだ
>勝った………僕の勝ちだ
見事な猿叫が炸裂。視聴者の鼓膜が死に、相対する女悪魔も竦み上がって行動不能。爆発的推進力の溜まった俊足一発で距離の半分を詰めた。
「竜よ竜よ古の鼓動を響かせよ」
『待ってカワイイ子ちゃんもっとお話ししましょう私アナタと話す時を待っていたのだから』
>詠唱早ぇww
>俺なら噛んじゃうね
>舌噛んだら食事判定になるかな
>こっわ
何か言ってるが無視。どうせ倒すべき敵だから。殺意に満ち大回転する竜斧槍、女悪魔はなんとか淫靡な笑いを保とうとするが引き攣った口元は隠せない。
「『竜衝』ァァァァァァ!!!」
『きゃぁぁぁぁ!!??』
>誉とかないんか?
>浜で安売りされてたよ
>全部買い占めてくるわ
なんとか身体を捻り逃れようとするが目論見は潰え竜斧槍の一振りが着弾。何度も炸裂する刃撃が乙女らしい悲鳴を誘い響かせる。
『痛い、痛いわぁ、でも……カ、イ、カ、「もう黙れお前ェェェ!!!」んん〜〜っ♡』
>変態でちー!!
>幻滅しました シェリーのファンやめます
>とばっちりで草
流石は強敵扱いか、『竜衝』により幾度となく衝撃を喰らっているもののまだ耐えている。更なる殺意を込めて追撃を贈るも同様。嬌声と共に軽減し耐えて艶めかしくなるばかり。効果があるのか怪しくなってきた。
「その口からァ、ぶっ殺すゥッ!」
『んぁ〜んっ、ふぉくておっきぃわぁ〜っ…♡』
>絵面
>ちょっと離席します
>おうティッシュ忘れんなよ
配信にダイレクトアタックしてくる敵にはやはりこの手。そもそもの発声機能を真っ先に潰す。ヒットストップで動きの鈍い女悪魔の口内へ矛をぶち込み掻き回す。美味しそうにそれも受けるが喉の奥まで深く行けと力を更に更に込めていく。
「ここかぁ、此処が弱点かぁ…っ!?」
『いひぃわぁ、あははぁっ、もっともっとぉ…っ♡』
>騙されるなシェリー!
>こいつ本当に効いてる?
>HPゲージねえからな……
錯乱しつつあるシェリー。対象年齢が上がりそうな喉奥を抉るブッ刺しプレイを続行。抵抗という抵抗をしていないからかなんかもうヤケクソ気味の暴走モードに達している。
『ぁは、だめ、もういくわ……ぁ♡』
「だらっしゃ、ぁぁァァッッ!!」
>絵面が終わってる…w
>
伝家の宝刀GORIOSHIにより女悪魔はポリゴンになって強制爆散。鍵が開いた。ちなみに今度は実績もEX武器の解放もなかった。けれどシェリーは拳を天に掲げて勝鬨。形はどうであれ勝利は嬉しいものだ。
「はいワタシの勝ちィィ!!なぁんで負けたか来世までに考えておくことだなぁ〜〜っ!!」
>そうか…シェリーとは、この世界とは……!
>賢者ニキおかえりスッキリした?
>いまかんがえてたことぜんぶわすれた!
>馬鹿野郎!!!
>この猿殺処分でいいかな
>逝ってヨシ!
>[構いませんよ]
「私も気になったのにぃ!?」
この配信が物語上にしか存在しないなどありえはしない。もし思ってしまっても気のせい。シェリーは皆の心の中にいるのだから。尚それに彼女らが気づくことは永遠にない。
>でへへ
>褒めてねえよ
>絞殺斬殺銃殺茹殺溺殺電殺焼殺埋殺薬殺撲殺オファニエ殺、好きなのを選びな
「ねぇ一つ私の手を煩わせるのあるんだけど…」
>気のせいじゃないっすよ
>ほら、シェリーのファンサって直に殺してくれることだし
>お前ら調教されすぎだろ……
もちろん選ばれたのはオファニエル。そしてしばらくの後、シェリーは内装の確認を終えて次の階層へと進むのだった。
Tips ノンフィクションエンジンのグリッチ その8
重唱
オフゲの民の間でまことしやかに伝えられているという伝説の技術……という大層なものでもなく、単純な話オフゲ限定の技術なため。複製と分裂の合わせ技にも思えるが『効果の合算』という点がコレらと異なる点。一部RTAでは前提技能になっている。というのも高防御力のボスに対し毒を叩き込みたいがbs付与には最低でも1ダメージを与えなければいけない。この時に『固定ダメージ』と『毒付与』の効果を持つ二つの魔法を重唱することで低レベルでも強引に毒付与が可能になるのだ。




