#18 [ドラゴン]RTAの女王は竜殺しを成す[スレイヤー]
ほら やっぱり長くなった
「………………」
第七階層。シェリーは凍りついた火山の中を凍えながらお散歩中。滑りそうになる床で転ばないように慎重に。
>クッソ寒い…
>マグマの中だったから尚更な
>これ殺しにしてるでしょ
「ほんとにね……おっと」
このダンジョンの空模様はマグマのちツララ。危険物だらけな事に変わりはない。少し油断すれば脳天から貫かれて死ぬ事だろう。流石は7つ目のダンジョンである。
>グッピーワイ、無事死亡
>生き返れ…生き返れ…
>グッピーニキザコザコですね〜♡シェリーもよわよわ〜♡
「ハハハ。私はさいつよだからぁ、こんなところで死ぬわけなかろ〜て♪」
煽りには煽りを返上し対岸到達。しかし折角待っていてくれていたリザードマン君らはこの寒さで冬眠中。本当に幸せそうな顔である。
>殴りてえなこの顔…
>処す?処す?
>マジでシベリアみてぇな気候してる
「…………」
武器は威力重視のミミックハンマーに変更。ハイライトが消え失せたシェリーの瞳はまるでゴミを見るような目。凍てつく殺意が見える気がする。
>ひっ
>ホラーだ
>メメントで草
「さぁ………死のうか……!」
ゆっくりと槌が持ち上がり威力を増していく。あとは振り下ろせばオーバーキル。戦場とは残酷なのだ。仁義なんてない。
>殺意マシマシで笑う
>こいつやっぱリアル殺人鬼やろ
>外国の方であらせられる?
「オルルゥァァ!!」
ドコォーンッ!リザードマンAは死亡!不意を疲れたリザードマンB、リザードマンCも反応できない!シェリーは追加ターンを獲得!
>ひでぇ
>脳天陥没…
>寝てるやつにはダメージ2倍だからな
「もう一回!」
動きの鈍いリザードマンBには素早さが足りない。右足を軸に強く踏み込んでかち上げアッパー。見事ホームランで天井に激突、死!
>たーまやー
>割れる氷が綺麗ですね
>サブターゲットを達成しました
「ハットトリックァ!」
腰を抜かし動けぬままのリザードマンCへ蹴りを入れて位置調整。情けなくギャンと鳴いた雑魚をセンターに捉えてインパクトッ!
>ぐちゃぁ…っ
>まるでミンチだぁ……
>メインターゲットを達成しました
>ナレーションニキすこ
「これで終わりっと。どーよ、カッコいいっしょ?
三匹ともポリゴン爆散させてEND。ハンマーを肩に担いでバチコンウインクwithピース。これぞ討伐者表示。
>\[容赦なくてカッコよかったです]/
>いいぞいいぞー
>もっとスプラッタでもいいのよ?
「なははは。それは制限受けるからね〜、期待にはお応えできないかな」
笑いながらシェリーは通れるようになった洞穴へ飛び込んだ。温度も高くなってきた。冷蔵庫から水風呂、そしてぬるま湯、熱湯からの沸騰通り越して灼熱激辛麻婆豆腐。口の中に激痛の走るヤツ。もちろん異変ではなく元の温度に戻っただけである。
「ふぅーっ、これだよこれ!ほんとさっきから温度差激しすぎるって!」
>グッピーニキそろそろ生き返ったかな?
>元気よ 雲の上泳ぐの気持ちいい
>し、死んでる…!?
第八階層へ到着。灼熱の火山ダンジョンに戻ったからかリザードマンはイキイキとしているし、もちろんマグマに触ったら死ぬ。異変を探さねば進めないのもいつも通り。
「さてさて、異変は何かなぁ」
>進んだら死ぬ異変
>リザードマンが増える異変
>溶岩の潮が上がる
ハンマー担ぎながら前進。一歩二歩三歩。武器変更をサボって進む。なんだか変更するタイミングを失ったのだ。
「あはは。全部嫌だねえ…っ!?」
>何の揺れぇ!?
>ビックリしたぁ!
>びぇーっ!?
ここで地鳴り。体幹一発崩壊で転倒、槌を支えにして回避。ギリギリで堪えた。地形ダメージで死ぬなど誉がないもの。
>癖で非常食食いかけた
>草生える
>備えになってねえ
「なになになになにぃ!?」
震源地は──上。天井に埋まる化石が揺れ動き、生命の息吹を取り戻さんと足掻いている。シェリーは最大限警戒しながらも変わらず飛んで襲ってきたリザードマンをブッ殺す。連続で踏み台にし空中にいればコケることはないから。
>お前が"何"だ
>動きがおかしい
>配管工か?
「割とこれ難しいんだけどね!」
殺さないように加減しながらの連続踏みつけコンボ。逃げている間にも化石は周囲の溶岩を取り込み、肉として自身の身体を再生。そして……落下。今度は地響きを起こして威嚇する。
『GAOOOOoooo────!!!!』
「るせぇなぁーっ!」
>どっちもどっちぃ
>対抗して叫ぶの癖なんか?
>親友と同じだね
現れたのは溶岩肌の恐竜。前時代の敗北者。しかしこの場では溶岩の支配者。周囲のマグマを取り込んで強くなっていく。
『oooooooAAAAAAA──!!』
「あっゲロビだこれ!?」
>知っているのかシェリーさん!
>骨格は違うが岩竜だからな…
>黒鎧の方では? 今赤くなったけど
取り込んだマグマから熱を吸収、凝縮、放出。開かれた顎門から蒼白い超熱線が放たれ、触れた第八階層のあらゆるものが融解していく。まぁ、見るからに即死だろう。火柱より熱そうだし。
「ぉぁぁぁぁっつぅういがぁぁぁ???」
リザードマンを一際強く踏んで宙返り。背後が蒼白に染まる。それを撫でた白銀の髪がちりりと焦げた。
>大丈夫!?
>うわー、うわぁ…
>これはキツい
「よぉぃ、しょおっ!」
『GOAANN!?』
首を振って強引に消化。地を這うようにしゃがみ、俊足と滑走併用。懐へ文字通り滑り込んでホームラン。溶岩の肉が砕け白骨がチラ見え。あれが弱点だ。
>やったぜ。
>パワフルぅ!
>ミミックたん可哀想…
>泣いていいよねw
「おらぁぁっ!」
勢いそのままエクストラアクション、追撃の昇竜撃。竜には竜をぶつければいい。丸見えな骨に真芯をぶち当てれろ!
「割れろォォォッ!!」
『GAAAaabuuuuu!!??』
ミシ、ミシ、ミシリッ。入った罅は連鎖し、繋がり、解けて。長年眠り続けた末起き上がった老竜は、風化した自身の肉体に裏切られたのだ。果報は寝て待てとは言うが過ぎたら餓死するもの。
「ふぅ〜っ……終わり終わりっと」
最後、頭蓋が地面に落ちたところで実績【骨折り得のくたびれ踏破】を獲得。EX武器にも恐竜の頭蓋が増えているのを確認、手を叩いて一息。
>おつ
>でもこれボスじゃないってマジ?
>何が来るんですかね……
「さぁ?もう何がきても驚かないかなー…けふっ」
なんせ7つ目のボスだしね、なんて笑いつつも第八階層を後に。洞穴の中は相変わらず熱い。けれどそれは蒸し暑くなくカラッカラ。クリエナを補填し武器はアイスソードと鉄剣へしれっと変更。準備はこれで終了。
>咽せ助かる
>生きがい
>お前らはどうやって生きているんですか?
「私の切り抜きないと命が危ないよね〜……」
ジト目になりながらも辿り着いた火山ダンジョン最深部。広い、広い開けた空間でできたこの最深部は例えるならば天然の闘技場。岩一つない円状の足場の周囲はマグマに覆われており天井には垂れ下がり固まった溶岩がちらほらと。しかも怪物の口のように開け見える奥の壁は、黒く重い火山灰の雲で埋め尽くされている。全くもって平穏ではない。
>穏やかじゃないですね
>まぁそこに寝てるのが寝てるのだしな
>リザードマンかな?
>失礼だぞw
「いや〜……カテゴリ被ってないかなぁ、コレ」
そして中心で余裕の居眠りをかましながらも王者の余裕すら感じる佇まいのボスは……赤竜。混じりもののない純粋な竜。先の恐竜が前座になるのも納得の雰囲気。
>キミも失礼だな
>まぁ倒せばどっちもポリゴンだしヘーキヘーキ
>倒すのが大変だっつってんの!
「ま、怖気てちゃ始まらない。ブッ殺すよ」
なんて踏み入れた途端のムービーシーン。締まらない。
「……………」
>露骨に顔が嫌そうで笑う
>まぁ仕方ない
>お?マグマの嵩上がってる?
再びダンジョンが揺れる。しかし此度の震源は地下深く、先の恐竜など比ではない『火山』そのものが起こす揺れだ。赤竜が起き上がりに咆哮を上げれば噴火しマグマが広がって退路が断たれた。背水ならぬ背マグマの陣だ。
「逃さないっての?いいじゃん気に入った」
>かっこいいな…
>ここまで速攻ばっかりだったから少しは期待してますよ
>上からで草
操作権が戻ったシェリーは慣らしに腕を回しつつ観察。姿はオーソドックスかつ細身な方の西洋竜。近いのは禁忌のアレか。長い尻尾に大きな翼が特にそう。特徴的なのは首の付け根にも見える上腹部から生える異常発達した逆鱗──逆角だろうか。あからさま弱点ではあるが容易く狙わせてくれるはずはないだろう。
「そんじゃ、ドラゴンスレイRTAはっじめーるよーっ!」
>やったぜ
>レギュはよ
>なんでもありだろ
初段、羽ばたいての鉤爪アタック。ただの払いのけレベルの児戯だが人サイズで測れば致命傷。少しのステップで範囲外に入って回避。
「攻撃判定スッカスカで助かった!」
>反応してるんだ
>しかも最低限……
>俺ならダイブ回避してた
「格好の的だよそれ!」
次はテイルスイープ、愚かにも逃げすぎた者どもを狩る選別の薙ぎ払い。もちろんシェリーは背面跳びで回避。着地後すぐに平面跳躍で尻尾へ追従。
>いつもなら反応するがこれにはな…
>ガチ勢か?
>こんなに強いの??
「私はガチ勢だって、のぁ…っ!?」
懐に入られた赤竜は羽ばたき上へ。風圧をもろに受け尻餅をついたシェリーはそれを見上げる形に。するとなるほど空間中央で口を開いてエネルギーを貯めているらしい。
>死だよ!
>ノーミスクリアしろって厳しくなぁい?
>ダメージを受けていいゲームなんてヌルすぎるぜ
「それ自分がやる立場になってからも言ってみろよ!!」
ストレスをバネに立ち上がって全力疾走、外周に向けて退避。その間にもドラゴンは頭角一対と逆角からなる三点を底辺にし錐状の充填機構を作っていく。
「最初からクライマックスじゃん!!!」
>手加減なんてない
>侵入者に相応しい最期を見せてやる
>ひっ
赤竜が地脈から力を吸わんとするからか地上にいるはずのシェリーにも物理的な余波が飛ぶ。見るからに危険そうな天井の溶岩達が落ちてくるのだ。しかも瓦礫となってシェリーの行手を阻む始末。
「ちょいちょいちょい攻撃できないのは卑怯だろ降りてこい卑怯者ぉーっ!」
>こわ…
>ボコボコよ
>コレ当たったら死ぬな
『極融ノ雫』。臨界に達した熱エネルギーの一雫が地面へと零れ落ち──。
──音も、空間も、何もない『白』で埋め尽くされた。
「っぶぅぅぅねぇぇぇ………!?」
>生きてる!?
>なぜ生きている…
>あ、瓦礫がなくなってる
しかしシェリーはギリギリ生存。閃いたシェリーは瓦礫の裏へと身を隠したことで即死の熱波を耐え切ったのだ。クリエナがなければ心臓が吹っ飛んでいた。
「ああもう済ました顔で降りてきやがって後悔しやがれ…っ!」
バサリ降りてきたドラゴンは澄まし顔、愉悦の眼差しでシェリーを見下す。コレには緊張などできるはずもなくあるのはただの逆上のみ。双剣を構えたシェリーは余裕綽々の腹に駆けていく。
「ブッ殺すブッ殺すブッ殺すァ……!」
>ファインダーさん、ブッ殺す無限耐久ASMRください
>ん
>いいのか…
>要求言ってみるものだな
計算完了。腕を左右対象に広げ逆角へまっしぐら。余裕ぶっこく赤竜は回避すらしない。即ち──。
「つぅっぶれろぁぁぁぁっっっっ!!!!」
>シェリーの絶叫は健康にいい
>はぁ、はぁ……
>興奮してる患者おるな
──死。双剣の腹で逆角を全くの同着で挟み叩けばあら不思議。二撃が四、八、十六、三十二、六十四から百二十八。攻撃が攻撃を呼び攻撃が連鎖していく。コレもノンフィクションエンジンが故の技術が一つ連打。一点を挟むように同じ攻撃をぶち当てるとヒットのダメージ処理がバグり全身へと広がっていくのだ。もちろん巨大である赤龍には効果抜群、馬鹿みたいなヒット数へと変貌した二撃は赤竜をぶっ殺すに値した。
「はい終わりーっ、思ったより弱かったね?」
>そらそうよ
>まぁ八層は割とサクサク系のゲームだし…
>いやなんか今エフェクトおかしくなかった?
「ははは。気のせいでしょ」
これにてドラゴンを討伐完了。隠されていた宝箱の鍵が開いた。もちろん即開封。中身は……異形の斧槍。竜の意匠が強く出ており先端には宝玉も嵌っている。例えるなら"ぼくのかんがえたさいきょうのぶき"。
「…うーん、ううん…?」
>微妙な顔ですね…
>まぁ槍だしな
>シェリーは斧も使わないような
「いや斧槍はまた別ジャンルだから。好きな人の前で言ったら殺されるよ」
>へへへサーセン
>反省してま〜す
コメントをジト目で睨んで斧槍を回収。これで火山ダンジョンを踏破し再びのランクアップで英雄にまで成り上がった冒険者シェリーは、そのままいつもの空間へと戻ったのだった。
Tips, ノンフィクションエンジンのグリッチ その7
連打
挟み込むように同箇所へ全く同じ衝撃を同時に与えるとダメージ処理がバグり複数ヒットする。ただし対象が大きくないと効果が薄い。




