#15 [冒涜的]RTAの女王の判決は瞬獄殺[真実]
どうして文字数が膨らむんですか?
第七階層。相変わらず色素が寂れていて、ステンドグラスの華やかさだけが浮いている廊下が続く。後二つ進めばこの廃墟ダンジョンの最深部に辿り着く……間違えなければ。
「今度は……何もなさげ?」
>ぽい
>この後ウルトラクイズ始まったんだよな
>間違えたら即死なんですがそれは
「金は命よりも重い。間違えたら死ぬのは当然でしょ?」
他は揺らめく鬼火の灯にメイド執事コックの三セット。よく殺りあったセバスさん(仮名)にはいい加減顔を覚えて欲しいものだが知っているからこそ戦いたいのだろう。互いにチューチューと殺意が充填されていく。
「ま、間違い探しは落ち着いてからってことで」
>それisそう
>安全確保が第一
>しかし何も起きないはずがなく…?
>思わせぶりなのやめろww
早速目標をセンターに入れて俊足。たった一歩でドアを抜き、二歩もすれば廊下の半分を越す。観戦していたネズミだってこれには驚き巣穴の中へ。最早邪魔するのはないと三歩目。次で纏めて五月雨が如く切り捨てる。
「さ──ァ!?」
ドバァァァッッッンンッッッ!!!
>!?
>うるっっっ
>鼓膜の破れる音ってこんな音なんだ
>予備は買っとけよ
>鼓膜破壊常習ニキいくら鼓膜に使ったん?
「ちょまっなになへぶぅぁぁっっ!?」
シェリーは突然の壁破壊に足をミスってズサァーッと顔面着地。機能を停止した脳髄の上には点線でできた円が周回するように光っているように見える気がする。
>シェリー.mp4は機能を停止しています………
>動画ファイルだたのか
>……これ大丈夫か?
グチャリ、ベチャ、ベ、ギボギ。肉が喰らわれる音、骨が割れ折れる音がする。聞きなれた金属音が伴わない食事への違和感に、一時朦朧としていた意識がはっきりとしてくる。
「いったたたぁ……」
>おかえり
>大丈夫?配信できる?
>変な動きするからやで……
「あはは、ごめんごめん。それで……」
>志村ー!後ろー!後ろー!
>なんで戦わねえんだよ
カメラに向かって苦笑い。スカートを払って立ち上がり身体を伸ばし振り返る。スタート地点から見て左奥、三つ目のドアが吹き飛んでいる。なるほど先ほどの音は何かが部屋の中から飛び出したのが原因なのだろう。
「えっ……と……キメラァ!?」
それは獅子の顔に山羊の角、馬の脚と蛇の尾を持つ化け物。即ち合成獣。ヌエとか言ったやつは正体不明のUFOと交通事故を起こすのでご注意の程を。
>まーたこいつ強敵階層引いてるよ
>やっぱりアドベンチャーじゃないか!
>間違い探し要素どこ…ここ…?
「間違い探しは森林で終わったよ」
>最序盤で草
>草超えて森
>モーリーファ…なんでもないです
だって戦ってばっかりじゃん、なんて叫びをぐっと飲み込んで武器を構えなおす。ちょうどキメラも腐った血肉から精気を吸い終え、新鮮な食材に対して舐めずさる。
『Grrrr…………』
>王の眼光
>にらみつける
>シェリーの攻撃……上がってね?
「おーおー私はエサってか?アハハハッ……」
プツン、とシェリーの何かがキレた。ストンと肩から力が抜けて、ダラリと武器が垂れ下がり、目の焦点が合わなくなる。
>待って怖くなってきた
>奇遇だな、俺もだ
>ちょっとトイレ行ってくる
「はぁーーっ……」
チャキン。頭が項垂れたまま、切先を目の前の敵に向けて。ただただ、息を吐く。
「……ぶっ殺すッ!」
俊足と滑走の併用、キメラとすれ違いにアイスソード&鉄剣を装備しながら回転斬り。氷結と斬撃を織り合わせた連撃がキメラの身体を砕だだだだいていく。
>ウワーッ!三半規管アタック!
>スキルでしか見たことねえ動きなんだけど
>ほんそれ
「もう一回ッ!」
床に対して跳躍。回転を織り交ぜて跳んだシェリーは横回転。キメラの背中で空中乱舞。それを咎めようと伸びてきた蛇も巻き込まれてタコさんウインナーに。
>草
>部位破壊できるんだこれ
>尻尾切った尻尾!
>お?ハンティングの時間か?
「抵抗してみろよクソ野郎!」
回転終了、思いきや攻撃は止まず。ただの獣に対空性能があるはずもなく。ただただシェリーの蹂躙が続くのみ。正面に降り立ったシェリーへと伸ばされた前足は、鉄剣によって絨毯に縫い付けられる。
>抵抗するための手が封じられてんだよなぁ……
>普通に痛そう
>速攻で武器変更してて笑う
「ほらほら綺麗にしてやんよっ!」
銀の短剣が帰還、アイスソード共に顔面にクロスアタックし視界をぶっ潰せば隙だらけ。もう一度武器変更して現れたのはミミックハンマー。くるりとぶん回してから顔面にフルスイング。
『キャフゥンッ!?』
>きゃぃんで可愛い
>ライオンってな、猫科やねん
>……これ犬の鳴き声では?
>キメラだからね、しかたないね
「っしゃぁぁいっ!」
ついでに嗅覚も死んだ。情けなく啼いてばかりのライオンの口内に、アイスソードを咥えさせて──
>わぁ美味しそう♡
>アイスバーみたい
>これ何味?
>ソーダやで
「──インパクトッ!」
単純。柄をぶっ叩くだけ。人力パイルバンカーは牙を、喉を、内臓を、貫いてカッ飛んだ。部屋の中へ突き刺さったそれには見事に赤い味付けが施されていて……原材料さえ知らなければ美味しそう、に見えないこともない。
>これ痛いんだよな
>痛覚オフでも吐き気するから嫌い
>たまにえげつない攻撃してくるゲームあるよね……
>意訳:シェリーは無慈悲
「はぁ、私をキレさせた方が悪いよね」
手をひらひらと振ってアイスソードの方へと歩いていく。これまでドアは開かなかったのに部屋の中も当たり判定は用意されていたらしい。少なくともこの階層は、だが。
「んー…檻が壊れてる。それに部屋の中央の魔法陣と……本、か」
>貴重な考察要素さん!?
>こんなゲームに考察とかあるぅ?
>あってもなくても同じようなもんじゃろ……
「まぁ読んでみよっか」
手に取ってパラパラと開いてみる。こういうアクションがメインなゲームには珍しくキチンと中身は凝られているようで、読めるページが現れた。
「ふー、ん……へぇ……そっ、かぁ……………あははははははっ………」
ページを捲るたびシェリーの瞳から光が消えていく。代わりに口角が吊り上がり、黒い波動を纏うように。多分気のせい。
>怖い怖い怖い怖い
>ごめんもう一回トイレ行ってくる
>今入ってるから別のところ行って
>NOOOOOO!!!!
「……殺そう」
本の内容は簡単。このダンジョンの成立経緯。幸せな家庭であったこの屋敷の持ち主と家族達は、とある日の夜に訪れたリッチにより被人道的な実験の生贄にされ非業の死を遂げた。もちろんシェリーが何度も倒した従者達もその実験の産物。永遠に働き偽りの主人を守り続けるだけの従者へと身も心も貶められてしまった。ただそれだけ。
>はい?
>今更言わな……あっいやなんでもないです
>うす
タイマーセット。黒い空気はシェリーの腕を、身体を、脚を覆い、綺麗な銀髪も髪も心なしか揺らめいて見える。
「ダンジョンボスぶっ殺しRTA始めるよ。レギュはなんでもあり。第八階層は慣らしがてら切り飛ばすから安心して」
>最初からじゃないのか…(困惑)
>突発RTAだからね、仕方ないね
>まだ目的がしっかりしてるだけマシ定期
第七階層のドアを蹴飛ばして第八階層。今度の異変は……簡単。ステンドグラスが禍々しい悪魔の柄へと変わっていた。ならばやることは単純、ワイト共を眠らせてやるだけ。
「ちょっと慣らしするね。求むるは──」
>何やってんだこいつ
>王の財宝
>シェリーは英雄王だった…?
>SWORDの頂点立ってたし、多少はね?
足は俊足を連続発動、そして手は装備追加。アイスソードと鉄剣の他、左に短剣、右に魔導杖が現れる。どう足掻いたって持ちきれない。けれど。
「──『火球』」
空に浮いている魔導杖は火球を放ち、誰も触れていないはずの銀の短剣はコックの首を斜めに裂いた。もちろんシェリーは正面突破。突き出された老執事の拳を紙一重で回避しながら滑走で皆を葬り去る。
>……?
>ごめんシェリーってリアリで超能力者?
>なんか今物理演算が狂ってたような
「OK使える」
最深部への鍵が開いた。ポリゴン爆散した3人を踏まぬように気をつけつつ前へ、前へ。 光のない闇の中でも全く黒く暗く目立つシェリーの姿はまるで死神のよう。
>説明????
>もうなんでもいいや
>ごめんシェリはんさっきのはウチもわからん
「……前に行けない」
質問には答えない。けれどシェリーはたどり着いた。このダンジョンの主人の前へ。しかしシェリーは謎の壁に阻まれ進めない。なるほど近づいてくるあたりこの骸骨魔術師には人語を話せるまでの高度なAIを積んでいるのだろう。
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ。
>ねぇ シェリーがまた怖くなってる
>なんだ可愛いな!ヨシ!
>お前の目は節穴か?
>待ってこの突く音何?
『クケ、ケケケ 貴様 よく見れば愛い顔をしておる ナ カカカ 貴様を殺し 我が愛人として飼ってやろ──』
ムービー終わり。
『──ぉごぉ!?』
俊足。ただしいつもの数倍の速度。数mの距離をたった一瞬で詰め、左手に握った銀の短剣で殴打。怯んだところに下からアイスソード。1mほど距離を取って。再び装備を追加。上にミミックハンマー、正面に前にレイピア。左右には一旦手放したアイスソードと銀の短剣。そして足元には魔術杖。
>なんだこいつ
>一周回って神々しい
>なぁシェリはんこれなんやのって
「求むるは火──!」
口では高速詠唱をしながら飛び出す音は細剣への指示。シェリーは両手を上に、ミミックハンマーの柄を握りしめて振り下ろす。しかし思考の中は左右の剣らを振り回すことだけを考えている。これら全く同じ時間に存在しながらも全て真。
>俺も腹話術使おうかな
>俺昔試したら厳重注意されたからやめとけ
>経験者ニキェ…何者?
「──『火球』!」
故にこれらの攻撃は全て成立。専用セリフを与えられていたはずのリッチーは物言う前に斬られ切られ貫かれ、焼かれた上に……叩き潰される羽目に。
『ま、待て 我が──』
>インガオホー?
>相手が悪かったな!
>鉄拳制裁!
「死ね クソ外道ァ!」
最後。揺れることしかできず、虚なる瞳で命乞いをした骨の魔術師は、女王の鉄槌によって砕かれ散った。廃墟ダンジョンクリアである。
>一瞬五撃
>抜録冠世
>眼光剣影
>故女王也
「──ふぅ。タイマーストップっと。1分切ってるなら上々かな」
シェリーは凶悪なる魔術師を倒したことでエリートを超えてレジェンドへ至った。これがもしリアルならかなりの飛び級冒険者だがそれだけシェリーが強い、ということでいいのだろう。多分。
>俺こいつ苦労したのに…
>無限湧きの正攻法は速攻だったか……
>多分さっきの速度は制作者側の想定超えてると思うんですけど
そもそも本来ならこのリッチは時間経過と共に大量のワイトを召喚し武器に盾に使い捨ての爆弾にしてくるゴミカス魔術師なのだ。しかもやけに体力が多いので鬱陶しいことこの上ない。それを全てすっ飛した結果がコレである。とはいえ勝利すれば問題なし。鍵の空いた宝箱を蹴り上げてオープン。
「ふーん……」
中身は鏡のように磨き抜かれた金属製の武具。持ち手は革で出来ており、衝撃吸収の効果がありそう。ただし、これは……
「盾じゃん」
>そっすね
>シェリーが盾使ったところ全く見たことねえな
>苦手なんでしょ
「まぁ使い所がねー……」
死ぬ前に殺るガン攻めスタイル故に微妙な表情。とはいえシェリーは盾を回収し、数秒後にはいつもの空間へと戻っていったのだった。
Tips ノンフィクションエンジンのグリッチ その6
分裂
思考、行動、操作、受け入れられる入力全てで違う攻撃を全く同時に実行すると全ての結果が適応される。簡単にいえば複製の発展版であり、排他処理がうまくできていないゲームでしか使えない。分裂を実行しているアバターを遠くから見ると分裂しているように見えるのでこの名が付いた。技術通り越して半分違法技なので大概のゲームでは使えないし封じられている。




