表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シェリーの昆布巻き配信'sアーカイブっ!(ひきころ短編集)  作者: わけわかめ
1:『8層ダンジョン』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/26

#14 [KAWAII]RTAの女王もたまには興奮する[強敵]

隔日ペースが安定してきた………

「ま、こんな感じでね」

 現在第四階層。執事ワイト2人とコックワイトをぶっ転がしたところ。やけにカラテの強い老執事達の拳を隠れ蓑にして突き立てられる調理の刃のコンビネーションは見事であった。ゆっくりと廊下を歩きながらシェリーはしたり顔。

>被弾はなしかぁ

>もっとダメージ受けろ♡

>痛がるシェリーは福祉だから

「嫌だが。それにしてもさー、なんか動きが強いよね」

>そうかな?

>速攻してるから分かりにくいがわかる

>あんな動きするアンデッド見た事ないや

 人型ということもあるのだろうが、このワイト達はここまでのダンジョン達と比べても動きが一段階強力だ。一体一体あたりの動きもさることながらコンビネーションも見事。さっきの戦闘も内心冷や汗をかくくらいには恐ろしかった。

「んー、なんだろ。SWORDのはモーションアクターさんが作ってるはずだから、人間らしさってのが残ってるんだけどね……」

 技術が進んだ今も3D世界(ゲーム)の作りは変わらない。空間(データ)に万物の基礎たる粒子(ポリゴン)からなる物質(オブジェクト)を、生命(キャラクター)を配置していくのだが……動作(モーション)は未だ役者(アクター)の出番が多い。

>そんな事わかるの??

>昔スラッシュの動き取らせてくれって言われたわ

>王様役楽しかったゾ…

>割とアクターいて草

「ね…wま、それでさ、人間以外のモンスターも大概アクターさんがやった動きがアセットを買ってきて入れるんだけど……」

 じぃーっと見つめてステンドグラスの柄が違う事を確認。シェリーは奥の方へと歩いていく。

「これ、AIでモーション作ってない?それも結構な深さ(・・)で」

>えぇ…

>なるほど、わからん

>今時普通にできるんじゃないの?

「いやー、昔のゲームなら簡単だったんだけど……ノンフィクションエンジンってさ、現実とほとんど同じだから重心維持させるのが難しいんだよ AIだと」

 シェリーも少し試したことがあったが自分で設定したほうが楽だったのでやめた。その結果がバレンタインの百虐殺配信事件だった。

>へー

>まぁ詳しいこと言われてもわからないんですけどね…

>な

「もっと勉強してよー、ゲーム作り配信とかしたいのに需要ないじゃーん」

 口を尖らせつつ第五階層に到着。今回も廊下の奥にはワイトが3体いるのが見える。

>嫌です…

>仕事以外で頭使いたくねえや

>ズブの素人よりシェリーの方が上手いやろ……

「そんなことないって、慣れたらあの程度誰でも………って」

 一匹目。いつもの怖い顔のコックワイト。二匹目。あからさまに強そうで強い老執事ワイト。そして三匹目……

「ショタメイドktkrッッッ!!!」

 三匹目は、身長はおおよそ150cm前後のメイド服の男の子。膝上までのミニスカートでホワイトブリムを頭に、髪型はウルフカット。けれどアンデッドらしくその瞳は濁っており、故人なのだということははっきりと見てとれる。

>うわ

>なんで出てくるんだよ

>でもかわいい…かわいくない?

 シェリーは叫んだ。息が荒い。目が血走っている。完全に危険人物。もしもショタメイド君が生前の意思を所持できていたのならドン引きの上お引き取り願いますと淡々と告げたことだろう。

>ちなみに異変扱い

>でしょうね

>最早シェリーが異変になってるからな

「かわいいねぇ、かわいいねぇ…!」

 もちろんそんなにも興奮してしまえば発覚は必至。戦闘体制に入ったワイト達はシェリーへと向かってくる。まずは老紳士の年季の入ったカラテが一撃。鉄さえも穿ちそうな一撃。

「見えてるっての!」

 けれどそれは学習済。アイスソードに滑らせた銀の短剣で正面から真っ二つに割り裂いた。そのまま肩まで接近し返す刃で首を刈る。残り二匹。

>銃弾の切り方なんよ

>石川シェリ衛門…

>語呂悪くない?

「あんな刀があったらどれだけ楽だろうねぇ!」

 さらに後ろへ俊足(ステップ)。鬼気迫るコックワイトの包丁刺しを回避。残心(ひといき)もさせてやくれない、これが廃墟ダンジョンクオリティ。

>バグの温床になりそう

>なんでも切れるvs破壊不能オブジェクト

>それでクラッシュする動画知ってるww

「あれは設定が悪いで、しょっ!今は優先度ちゃんと決めれば問題ない!」

 破壊可能と破壊不能が重なり局所的に事象崩壊が発生。それが伝播し世界がひび割れ壊れていく動画はVR黎明期から人気のコンテンツだ。綺麗なアセットの街が徐々に壊れていく風景はどこか哀愁を誘う。

「ってかきついきついきついショタメイド君強っよいんだけど!?」

 それはそれとしてシェリーは再び苦戦を強いられていた。老執事は技、コックが力とするならばメイドは速。すばしっこくてかつ隙を見せるとナイフを投げてきていたのだが……このショタメイド君は一味違う。

「こいつファーちゃんなんだけど!?」

>はぁ!?

 すばしっこくて、背が小さくて、指にナイフを挟んで襲いかかってくる姿は完全無敵を使っている時の英雄ファインダーそっくり。どちらも姿だけは可愛いのも同じ。

「とは、いえ、ね、えっ!」

 右ストレートに左フック、仕込み靴の蹴り上げ、と同時にコックの三枚おろし。ここに老執事がいたらヤバかった。ギリギリ対処できなかった。けど、この程度なら……

「OK把握、ここで蹴るっ!」

 ハンマーのようにショタメイドが拳を振り下ろしたのを見計らい、容赦のない回し蹴りを頭部に当て、飛ばす。身体が小さい分遠心力の乗った一撃は彼を窓の外まで吹き飛ばした。

>飛んだー!

>窓割れるんだ……

>外くっっっら

「わーお場外……」

 あとはコック一匹。流石に見慣れたのでタックルで対処。姿勢を崩したところで急速冷凍して叩き割った。

「これで終わりっと。異変だから進んでヨシ」

>はい

>カワイイけど強かったですね…

>異変が殺しにくるの好き

 ドアを開けて先へ。第六階層。今度のワイトは執事とメイド2人だ。部屋の位置関係も右に窓、左にドアといつも通り。少なくとも反転はしていない。

「まぁ異変探しって感じはしないけどさ」

 灯りの鬼火も微変わらず、ステンドグラスは色がハッキリ見えていて綺麗だ。紅いカーペットを一歩二歩と歩いて進む。

>戦ってる姿も好きだから嬉しい

>シェリーは脳筋。はっきりわかんだね

>他の配信者もっと間違い探しやってるのにな…

「うっそ人によってそんな偏りあるぅ!?」

 シェリーがあまりに強いからダンジョン側が全力で襲ってきているのかもしれない。あるいは(アカ)冒険記録(プレイ履歴)を参照しているのか。とりあえず異変を確認したので憂いはない。全力で潰す。

「はい投げナイフ効かなーい!」

>当たれよ…!

>よくできるなぁ

>俺は無理だぜ!

 開戦は仁義なきナイフ投擲×2。シェリーは両手を振り上げナイフを弾き、前方に俊足(スキップ)。あまりに自然に多様しすぎて視聴者の誰も突っ込まなくなってきた。慣れは怖い。

「か、ら、のっ!」

 老執事ブロックは左の短剣を突き出し胸部へ。そのまま押し倒してヘッドクラッシュ。ナイフが飛んできたので今度は姿勢を低くし滑走(スライド)。飛び出したネズミくんは神回避。

>それ卑怯

>偏差撃ちワイ、絶叫

>狂わないで

「ガラ空きだぜーっ!」

 メイドワイトの弱点、丸見えの足元を切断。姿勢を崩させた先にナイフの鋒を置いて貫通。振り抜いて残り一匹。頭をずらして三本目も回避。

>ァァァァァァ

>スナイパーニキ、ファインダーでも撃ってて

>なんでウチなんよ

「あんまり逃げないで欲しいかなぁ!」

 ナイフ補充の間隙を縫って接近。アイスソードでスカートごと切り裂いてあとは省略。カチリ、とドアの鍵が開いた。

「さて、今回の異変はどこでしょうか!」

>もう見つけてるし

>しらそん……

>走者っていつもそうですよね!視聴者のことなんだと思ってるんですか!?

 少なくともワイトではない。そして横の扉は開いていないし蜘蛛の巣は張ったまま。故に明確な異変なのは…ステンドグラス。

「ちょっと割ってみよっか」

 ミミックハンマーでパリンと一発。重く暗い雲は何処かへ。空が晴れ、陽光がシェリーを照らす。というかさっきまで暗かったから目が痛い。

>明るぅい!

>庭園いいねぇ…

>本当は栄華を誇ってたんやろなあ

「どうしてこんなことに……」

 薔薇園に噴水、生垣とベンチ。訓練場らしき土床の場所も見える。本当ならこんなにも綺麗な屋敷だったのだろう。

>これもアリサの仕業だ…

>絶対許せねぇ!

>通りすがりの狂戦士だろあれww

「アリサが魔法使ったらアレルギーで死にそうだけどね…w」

 昔アリサに魔法を使わせてみたら狙いがつかないどころか自分にぶつけて自爆していた。ならばと球を飛ばさない付与魔法は詠唱がカミカミでうまく唱えられない。しかも段々不機嫌になっていったため急遽ケーキを奢ることに。学びは得られたがそこそこの出費をさせられた1日だった。閑話休題。

>アレルギーで笑う

>パッシヴ至上主義者か…

>バフなんぞ使ってんじゃねえ!

「いやバフは使ってるでしょ……咆哮とか」

 その分殺しの動作(ルーティン)に組み込まれているスキルの扱いはお手のもの。そこらはリアル武芸者の年の功といったところか。

>そういやあれバフか…

>逃げればゼロ、進めば一つ、殺せば全部

>万能だなその構文

「それじゃ私も進もっか」

 アリサがこれみたら殴ってくるだろうなぁ、と微笑みながら未来の自分の予言を的中させ、シェリーは更に奥の第7階層へと進んでいくのだった。

Tips,アリサとシェリーについて その1



2人は親友ということもあり、2人とも剣の扱いに長けているものの方向性は違っている。


アリサはああ見えても剣一筋。細かい力加減や剣の振り方、足捌きなど身体操作の技術面に優れている。これはリアルのアリサがそう強い力を持っていないから。その分ゲーム内では攻撃力(パワー)が担保される上行動を仕様(スキル)に合わせればバフが乗るため嬉しくってテンションが乗る。つまりゲーム中のアリサは常にテンションブーストモードなのだ! 勝てるかんなもん。


翻ってシェリーはリアルの剣術自体は割と素人、なのだがゲーム内では剣を好んでよく使っているため剣を中心としつつ他の要素……魔法やアイテム、スキルなどを多用する戦法に長けている。ある意味実用的な剣術の極地とも言える。変な動かし方をした方がバグやグリッチを誘発出来て有利とかなら遠慮なくやるくらいには外道剣なのがシェリーである。汚い。汚いぞ主人公。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ