#11 [数の]RTAの女王とバーゲンセール[暴力]
あぶねーっ……セーフ!!!!
「は〜っ……はぁ〜っ……疲れた」
シェリーは氷原ダンジョン第四階層に到達。フッカフカに積もった雪に足を取られまくったせいだろう。膝に手をやって力を抜き、荒い息をあげている。肉体は疲れないがゲームをする精神そのものは沢山の気候や異変に晒されている。流石のシェリーも疲労が溜まってきたのだろうか。
>白い息出てる
>青春だとよくあるよね
>手袋にはーはー息吐いてる女の子の絵好き
>変態ですね……
「私のことストーカーしてる?」
現役女子学生なシェリー。割とそのムーヴにし覚えがある。というか真冬の時期には日常的にやっている記憶しかない。テンプレシチュなのだから縁があって当然なのだが顔を赤らめ髪で顔を隠す。
>ストーカーじゃないよ 保護しているだけだよ
>通報しました シェリーは俺が守る
>シェリーコイツらは全員ダメだ!なに、後で追いつくさ
「纏めて死刑!」
>処刑台に出荷よー
>そんなー
>そんなー
>しょんなー
「これで少しでも平和になるといいなぁ……」
>訪れるのはディストピア定期
>市民、幸福ですか?
>はい!ウルトラシェリー様!
「じゃあもう私に逆らうなよ……さもなければあの狼みたいにするから」
スノウウルフ達はシェリーを発見。今度は一列になってシェリーに正面から襲いかかる。
>ジェットストリームアタック!?
>実在していたのか………
>実際されるとどうなの?
「見えにくいはあるけど──」
まずは横薙ぎ。爪を伸ばし跳んでシェリーを裂こうとしていた先頭のウルフ一匹だけが裂かれた。後続の2人は未だ無事。シェリーは振るった直後で隙だらけ。
「──斬れなくなった訳じゃないからねぇ──」
けれどそれを逆手に取り、氷床に刃を滑らせて加速。靴を氷に埋め込むようにし強く踏み込み。斜め上に振り上げて噛みつきをガード。そのまま刃で撫でて頭部切断。
>それはそうだけどそうはならんやろ
>な
>この環境でそれほどの踏み込みを…!?
「──この程度、コツを掴めば誰でも対処できるっ!」
からの牙突。即ち串刺し。スノウウルフの串焼きが完成、した途端ポリゴン爆散して制圧完了。次は異変探しなのだが。
「……ちなみに視聴者は異変見つけた?」
>いやわかんないっすね
>シェリーが偉そうになってるってこと以外はなにも
>もしかして魚死んでる?
カメラに向かって質問を飛ばしてみる。岩の数も配置も、左の氷壁にだって一見できる変化はない。川も一応見てはみたが相変わらず魚は泳いでいる。環境破壊はなかった。
「となるとさー、一つしかないよね、異変」
>なんすか
>まさか……俺たち
>ほな……
「消えるな消えるな。たぶんもう見えてるから、異変」
そう言ってシェリーは口元を指さし、はーっ、と息を吐いて見せる。相変わらずの白い息が見えるが……そもそも。
「寒いとはいってもこれまでなかったんだから異変でしょ」
ここまででカモメ、雪崩と二つの異変に遭遇したが息は白くならず無色透明だった。つまりこれは異変でFA。ダンジョンの異変も半分を越して段々と姑息になってきた。
>あっそっかぁ…
>せやろか
>ちょっと何言ってるかわからない
「分かれよ!!」
というわけで正解だったので先に進めば第五階層。今度は息は白くない。一通り確かめてからドヤ顔。
>うぜぇ
>市民、反逆していいですよ
>ヒャッハァ!下剋上の時間だ!
「不穏分子を発見、迅速な処理を」
ザ・シェリーは無機質かつ淡々とした声で告げた。
>待ってください!助けて!許して!
>駄目です
>残念です、レイヴン……
「もう全部燃やそうかな……」
本気の目でコメントを睨みつつ前進、しようと思ったが停止。みるからにヤバいことになっている。
「数多くなぁい……?」
>気のせいだって
>じゃあ数えてみなよ
「はいはい、じゃあ行くよ?ウルフがひとーつ、ふたーつ、みぃーつ、よーっつ、いつーつ、むーっつ、やーっつ、ここのつ!」
>最初から9頭だったヨシ!
>歯ごたえがあって結構だなヨシ!
>前の2人がヨシって言ってるから間違いなくヨシ!
「トリプルチェックされてるから安心だねヨーシッ!」
ヤケクソ万歳突撃でGO。ウルフの数なんて問題じゃあない。全て殺さなきゃ進めないのなら全て殺してやるのみだ。
「両手剣の味はどうかなぁぁぁぁぁぁっ!?」
>草
>かっこいいセリフ叫んだ時に限ってww
>これだからシェリー好きなんだよなぁ
俊足で接近し一気に2キル。しかしながら速すぎてスリップ。殺り残したウルフがシェリーに復讐を誓って襲いかかる。群れは強い団結力で結ばれているのだ。
「だぁぁぁっぶねぇ!」
逆にそのスリップに身を任せ群れからは一旦距離を取ることに成功。両手剣を床に刺してベク変。氷岩の後ろへ一時退避。
「思ったより滑ったんだけど!?」
>な
>まるで妖精のようだった
>うっ……トラウマが
「はいはいそんなトラウマは置いといてね!」
一息入れてスライディングで飛び出す。ウルフが一匹シェリーの頭上を掠めたので両手剣を縦に構え撫で切りに。
>シェリー危機一髪
>その体制からよく剣振れるな
>身体移動が本当に上手い
「もっと褒めてくれていいんだよ?」
>うるせえ!
>じゃあ華麗にウルフを倒してみせろよ
>ただのインテリ脳筋なんだよなぁ
>……それは凄いのでは?
身体を起こしたシェリーはニヤケたしたり顔でカメラに振り返った。ウルフらもすでに攻撃態勢。このままいけば正面衝突確定。
「じゃあ纏めて殺っちゃおうか!」
シェリーは前方に走り出し、そしてほんの少しだけ跳んだ。
>……ん?
>足跡ついて無いっすネ…
>まーたシェリーがゲーム壊してる
地面から足がギリギリ離れているような、離れていないような。そんな少しだけ地面からズレた位置に着地。厳密には違うがとにかく落下が止まって。
「いっくよーっ!」
駆け出した速度も、着地した高度も、両方を維持したまま並行移動。上半身は切先を後ろに向けていつでも振り抜けるように。
>何が始まるんです?
>一撃必殺
>ゲームバランスは最初から壊れてるしちょっとくらい壊してもバレへん
>ホンマか?
射程内に入った。剣を横まで振り抜き維持された速度を重ねてウルフに叩きつけるのみ。
「スライドブレイクッ!」
ヒットストップなどなく。ミスリルの刃は容易く毛皮を切り裂いて滑り抜けた。せめてド派手な爆発などあればよかったが、死後に残るのはポリゴンだけだ。哀れな死体は空に登って消えていく。
>特撮か?
>大昔にありましたね……
>クソダサい名前だったことだけは覚えてる
「どうどう、凄いでしょ!?」
まぁ例によってこれもノンフィクションエンジンならではの技術。その名も滑走。地面からわずかに離れている座標に足裏を全くの平行の状態で運ぶと、しばらくの間接地と非接地の状態が重なりアバターの等速直線運動を引き起こすのだ。
>ごめんプロのニッチな技見せられても反応に困る
>もっと洗練されたかっこいい動きを求めてました
>\[はい]/
「えへへー、ミーシャありがとねー。みんなも勉強するように!」
>いやどす…
>変人の真似が俺たちにできると思うな
>走者は山じゃ取れないんだぞ ちゃんと育てろ
この滑走は跳躍が使えるゲームなら(原理が似ているので)大概使えるので試してみたらこの始末。このゲームは悉くの技術を使えるようだが……そもそもこれらの技術は知らなければ対策が難しい。変にバグって世界崩壊しないだけ幾分か優秀である。
「ま、それはそのうちにねー。じゃ、先進むよーっと」
気持ちばかりの血振りを済ませ納刀。テクテクテクと歩き出す。滑走は止まれないのでここぞという時にしか使うべきではない。練習中に止まれなくって頭をぶつけたことは今でも秘密だ。
>へーい
>しょうがないにゃぁ、ファインダーちゃん今の撮ってた?
>編集中や。
「仕事早くていつも助かりますファーちゃん」
感謝を捧げて第六階層。やっぱり異変。シェリーが今立っている位置はまだ雪が積もっているのだが、先に進むための道にそんな手心は一切ない。
>床ァ!
>どうみても氷だね…
>ツルッツル滑りそうwww
だって鏡面のように輝く氷になってるのだもの。近づいたら自分の姿まで反射した。幸い空模様は曇り気味。太陽まで反射してシェリーの瞳をぶっ壊してくることはなかったようだ。
「いや岩増えて……まさかねぇ…」
>何か心当たりが?
>奇遇だな、割と俺もだ
>こういうの普通屋内でやらないか
敵が見当たらないことをこれ幸いと進み、床の氷を踏んでみた瞬間。シェリーの身体は前に滑りだし、正面から氷岩にぶ激突。くっきりとヘディングの跡が残されることに。
「ああああこれやっぱりじゃん氷の抜け穴ァ!!!」
叫ぶ。こればかりは色んな意味で嫌。しかも今回は見下ろし視点の2Dではなく自身の視点からの一人称。進むたびにぶつからないといけないのは心にくる。だって怖いし。
>なんそれ
>シェリーが苦手なパズル系のダンジョン
>把握
「パズルしたくないから代わりにウルフ三十匹出してよぉぉ……!」
性根が脳筋なのでシェリーにとっては大量の雑魚を殺す>>>(越えられない壁)>>>パズル、なのかもしれないん
>こうなるのか…
>シェリーの苦しめ方、理解しました
「うるっさい!!私はやればできるつよつよ配信者なんだってこと、見せてやるから──!
……結局、シェリーはこの階層から進むため、30分以上滑る氷の道を滑り続けたのだった。
Tips,ノンフィクションエンジンのグリッチ その5
滑走
走る際、両足をギリギリ接地判定にならない位置に運ぶとほんの少しだけ状態を保存して平行移動する。
例:イメージはリンクのスライド類。実際の使用例は電車切り。




