#10 [氷原]RTAの女王の肉はそんなに美味しくない[襲撃]
ごめんなさい古戦場してた上寝落ちしてました
申し訳ねぇ
「はぁぁ……でっかぁ……」
両手剣をブンブンと振り回し、納刀。こちらは重量、重心共に文句はない。サードムーンはただ重さと威力を追求したジャジャ馬だったが、このミスリルブレイドはそれらを控えめにしつつ使い易さ…々特に受けと流しの難度を高める攻防一体の作りをしている。いや本来大剣はこうあるべきであるのだが、とにかく比較対象が悪すぎる。
>嬉しそう
>やっぱこれだね
>シェリーの顔がえっち
瞳孔が開く。舌舐めずり。頬が赤い。このゲームってそういうんじゃないと思う。一部の変態のせいで両手剣というカテゴリーが壊されている気がする。気のせいだろうか。
「この配信はR-15推奨だからって何書いてもいいんじゃねえからな!?」
>わかった
>倫理には気をつけます
>倫理にも穴はあるんだよな
「はいワンアウト」
>ぎぇーっ!
>草
>そらそうよ
また視聴者が死んだぞこの人でなし。だが補充はいくらでも効く。視聴者カウンターは増えていくばかりである。
「じゃ、ここもまたぶっ殺していこっか」
遺跡ダンジョンを後にして。Bランクに至ったシェリーの向かう次なるダンジョンは氷原ダンジョン。あったかい飲み物が欲しくなる。
>殺意ェ…
>まぁメイン武器手に入っちゃったしね
>勝ったな風呂入ってくる
「風呂から出る前にクリアしてやんよ〜……じゃないな。しってやんよ♪」
キャピっとピース。陽キャが如くイェーイと気分モリモリでダンジョンへ突入。氷柱が牙のように伸びているゲートを潜ればすぐに第一層へと到達s……
「寒っっっっっっむぅ!?」
……寒い。とにかく寒い。このダンジョンはひたすらに寒い。シェリーは体感温度は氷点下。凍てつく寒波がシェリーを襲い、心の熱を奪っていく。
>うわぁ
>風がビュービュー言ってるの聞こえますね…
>入浴ながら視聴ワイ、浴槽の中なのに極寒
「さっさと、踏破する……からなぁ……!」
視聴者の体温さえも奪われていく中、シェリーはとにかくダンジョンを観察。凍てついた氷床は雪で覆われていて綺麗だ。リアルではなかなか目の当たりにできない、文字通りの銀世界。
>フラグですねわかります
>まぁミスってほしくはないよなぁ
>適当なタイミングでガバっては欲しい
「……それにしても……けほっ」
クリエナエンジンを起動。心火を燃やし気を高め、断熱オーラを構成。……もちろんこれは自己暗示。シェリー咽せてるし。
>咽せ助かる
>今日の風呂上がりに使う
>ちゃんと水分とって
「それにしてもさぁ、ギラギラしてるねぇ」
空には白く輝く太陽。三つある岩ももちろん氷製。中には何かの生物が固まっているようにも見える。
「なにあれ……カエル?」
>ここのボスは氷の妖精だった…?
>カエルにしては大きくないか
>あれ溶けてきそう
「いやいや、それは……あるか」
カエル型のモンスターは大概出の早い狙撃攻撃と高い跳躍力を併せ持つため近接メインだとやり辛い。バレッティーナならすぐに片付けるのだろうが……たまに物理耐性も持っていることもある。つまり出てきてほしくない敵筆頭。無論一番はケルベロス。
>このダンジョン割と広いな
>ほぼ屋外だよね
>ねー
「しかもあっちは川だし。割とダンジョンっていっても作りは自由だよねぇ」
右手は流氷の浮かぶ川。流れは遅く、魚もそこそこ泳いでいる上、対岸遠くには白い熊が見える気がする。
>今度こそ水の中から怪物が……
>ねーよww
>一撃だけなら飛んできそう
「洞窟は二つ目だったからなかったけど、ここ5つ目だしねぇ……っと」
どうなるかはわからないよ〜なんて笑っていたら遂にエンカウント。今回の相手は白い毛皮の狼が3体。名をつけるならスノウウルフだろうか。
>野生の魔物があらわれた!
>コマンド
>自決
「馬鹿なの!?」
そんな命令には従わない。三方を囲むように同時に襲いかかってきたウルフらに対しシェリーは真っ向から立ち向かう。
>わんわんおー!
>おー!
>ここの視聴者いっつも敵応援してるな………
「狙って…斬るっ!」
構え。心を落ち着かせ、冷静に。うるさい声は蚊帳の外。無遠慮に射程内へと立ち入ったスノウウルフの首を、一閃。俊足を応用した辻斬りによわよわAIが対応できるはずもなくあっけなく胴体と首はおさらば。ポリゴンに還り消えていった。
>うーん、スキル。
>本当にコレバニラなんすか?
>シェリーリアルでも超人説出てきたな
「いやいや私普通の学生だからねぇ!?」
引き返し。振り向きざまに振り下ろし。兜を破られたウルフは地面に叩きつけられて爆散。残り一体。
>普通の学生はそんな強くない
>俺、バレっちは元軍人上がりのTS少女って信じてるから…!
>アリサは江戸転生のTSもののふ
「……じゃあ私は?」
その後。氷床に刺さった剣を引き抜き隙狙いの噛みつきをガード。カウンターとばかりに上へ蹴り飛ばし、渾身の一振りで出迎えて戦いを終わらせた。他の生物は見当たらない。
>野生の変態
>突然変異種
>猿人の先祖帰り
「おっまっえっらっなぁっ!私は可愛いさいつよ学生配信者だってのっ!」
怒りの顔で納刀。周囲のダイアモンドダストが薄まり先へ進めるように。なお、左方向は氷壁が聳え立っているので進行不可である。こちらはこちらで何か大きな生物が氷に埋まっているのか見えるが…‥気にしないようにしよう。目を逸らす。
「さぁさ、このダンジョンの異変は何かなぁ?」
>秘密♡
>面白い異変あるから死んで欲しい
>ファンの歪んだ愛情シリーズ
「ちゃんと応援してってば〜」
嘆きながら進んで第二階層。氷岩は三つ。氷壁は相変わらず高いまま。登れる気がしないし登っても意味はなさそう。
>好きだからイタズラしたくなるんだよ
>ちょっと男子〜
>シェリーちゃん拗ねちゃったじゃな〜い
>ウチ、アンタらも煽ってたの見てたで
「あ、マジレスはいいよ把握してるから」
あっさりと切り捨て前を見る。今度もスノウウルフは三体。特段変なところもなく、シェリーが近づいてくるのを待っている。
>ほなええか
>ひぇっ
>マークされてる…こわ…
「それじゃ倒そっか」
駆け出してからの不意打ちダッシュ斬り。一匹を先ずは討伐。横に跳んで後隙を消す。
>もうチャート組んだのか
>遊びどこ…ここ?
>多分まだ余裕ある
「反応遅いよねぇ!」
中段で薙ぎ払い、上下に真っ二つ。プレイヤーの強さがキャラの強さに直結してる上、異変でもなければ魔物そのものがこうして弱いため圧倒できるのはストレスフリーな攻略のためだろうか。最悪、装備に沼ったら何十何百と倒すことになるのだからこの程度の歯応えが妥当か?
>いや俺よりは早いし
>お前が早すぎるねん
>VR配信者にプロゲーマー、だいたいおかしい。
「そんなこと…‥ないよ?」
一応否定、はしない。心当たりを考えてみたが思い当たる節が多すぎて1秒で思考破棄。誤魔化し笑い飛ばしつつ昇り斬りでフィニッシュ。
>反応速度isジャスティス
>速度もあるけど反応大事
>老朽化したわしの脳じゃあ追いつかんよ……
「私もいつかそうなるのかなぁ……」
上を見上げながらシェリーは呟いた。白い太陽は相変わらず眩しいままで、リアルの瞳孔が焼かれる気さえしてしまう。進化した仮想世界の感覚に、浸っていると……不意に影がチラついて見えた。
「あれは……鳥か」
>こんな寒い所に鳥?
>ペンギンが空を跳べるだと!?
>夢の翼を得たんでしょ
観察した所そこまで大きくはない普通のカモメ。ギャァーギャアー喧しい鳴き声からもそれっぽい。昔鳥の鳴き声のパターンで現在の乱数がわかるゲームがあったので調べたことがある。それはともかく第一階層にはいなかった。
「じゃあ異変ってことで」
>せやろか
>そうだが???????????
>察しが悪い
去っていくダイアモンドダストの中を進み第三階層。けれど今回の異変は一目見ればわかる。
「粉雪……」
>ねぇ
>コメントまで白く染まりそう
>お前ら何年生まれなん?
しんしんと降りしきる雪がシェリーを出迎える。体感温度がさらに下がったが気合いで耐えて平常に。冷凍庫でもしばらくは我慢できるし。
「ちょくちょく古代人いるよねー。いや古代文明が今まで続いてるのかな?それか雪の中で冷凍保存されてた?」
そんなわけで地面は割とふかふか。俊足もうまく働くかどうか不安なので使うべきではないだろう。雪に混じって見つけにくくなっているスノウウルフを注視して不意打ちを警戒。
>もっと積もれ……
>ゆーきーやこんこん
>あらやこんこん
>降っても降っても……
「ガバが積もるぅっ!」
積もるぅ、積もるぅ、積もるぅ──。
>……やまびこ?
>なんかやばい音してきたぞ
>ニブニブニブニブニブニブニブ
「待って待って待って待って」
コメントに載せられ叫んでしまったが凶。反響した声は積もりに積もった雪を揺らし、氷に共鳴し、そして、地面を滑らせた……つまりは雪崩だ。
「うっそぉ!?」
左の崖上に積もった雪がシェリーを押し潰さんと迫り出してくる。あと数秒もすればこの下層は飲み込まれてしまうだろう。
>ガバった!第三部、完!
>それ俺らの負けフラグ
>お願いです神様シェリーを負けさせてください…!
「お前らぁぁぁっ!?しかも動きにくい!!」
突然な裏切り。しかもこの降雪量でシェリーは足が雪に取られて思うように動けない。俊足は無理、跳躍も硬い壁がないので論外。
>>[推しが必死で足掻いている姿が一番生を実感する]<
>鬼畜おじ
>独立変数っすよあんた
「ま、に、あ、ぇぇ……!」
崖上の雪が落ちて雪崩となるまで猶予はない。なんとか、なんとかあそこまで辿り着ければ助かる、かもしれない!
>デスカウント増えたら教えてね
>死神か?
>悪夢の方かもしれん
「これ、で──」
遂に、落下。バケツどころかプールの水をひっくり返したかのような雪の大瀑布が降り注ぎ、崖下は押し流されるのみ。スノウウルフ君はシェリーに向かっていたが容赦なく死んだ。
>殺ったか!?
>でもメインカメラ動いてますよ
>あっ、ふーん……
しかしシェリーの配信カメラは未だ第三階層のまま。氷壁を背景に氷岩に埋もれた雪を映すのみ。十数秒、その風景が続いたが。
「──っぶねぇ!」
ニョキっなんて効果音をつけたくなる再登場を遂げシェリーは生存。カラクリは簡単、流れる雪のほとんどを氷岩でガード。埋められること自体には武器で簡易なシェルターを作り動ける空間を確保しておいたのだ。
>チッ
>死ん…でねぇ!
>こんなので死ぬわけないんだよなぁ
「そうだぞお前らー、好き勝手言いやがってよー」
恨み節を視聴者にぶつけつつ雪穴からは脱出。幸いにも、敵は先ほどの雪崩で死んでいる。足を取られて再び雪の下まで沈まないようにだけ気をつけて、シェリーはさらに先へと進むのだった。
Tips シェリーの武器評価 両手剣編
私は好きだよ?
両手剣。
いや使いやすいのは双剣っちゃ双剣なんだけど、あれかなり攻撃偏重なところあるからさ。初見のモンスターなら両手剣がいいかなーとは思ったりするかな。
いや両手剣は両手剣でも大剣は別だから。あれは浪漫の塊だし浪漫を実用にしてるアリサがおかしいだけだって。私も変なレギュのSW走る時強引にチャートに組み込んでネタ作りとリフレッシュに使ってたりはするけど基本は両手剣まで!!!!




