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#1 [森林]RTAの女王がゴブリンごときに負けるわけがない[探索]

なぜひきころを書いているか、私にもわからん。

ただ一つ、わかるとするならば。


ニコ動が死んでるせいで何もする気が起きなかったからである。

生き返れ…生き返れ………

「シェリーの昆布巻き配信はーっじまーるよーっ☆」

 バチコンウインクにキラッとポーズ。テンションアゲめで名乗り口上を上げるのは銀髪赤目の(自称)美女のシェリー。二つ名はRTAの女王、あるいはガバの女王や壁を走る変態等々。

>今回は何するの?

>秘密って書いてたから気になるんだが

>知らんのか?

>ウチ以外が知るわけないやろ

>ファインダー=サン!?

「気になるよねぇ〜、じゃあ早速どーんっと!」

 シェリーは横の壁を殴打。ガラガラ音を立てて崩れた先にあったのは最近話題のタイトルである『八層ダンジョン』の文字。

「これはいわゆる間違い探しゲームでさ〜、なんかすごい流行ってるんだって?」

>アホほど流行ってる

>模倣ゲー多すぎて笑う

>シェリーが流行に乗るなんて珍しいこともあるもんだ

「そりゃ私だって乗るよ。ファーちゃんにやれって言われただけだけど」

 参考までに配信の割合がSWシリーズが過半数を占め、他タイトルのRTA(だいたいちょっと古い)で残りの8割。残った割合が幾らかはどうでもいいが、とにかくシェリー"が"普通の配信を行うのは珍しいことなのだ。ただし季節配信は除く。

>シェリはんそれは言わん約束やろ?

>えぇ…

>まだ数分と経ってないのに反故にされてて草

「あ、そうだったっけごめんごめん。まー隠すことでもないしいいでしょ?」

>シェリはんの口は軽うて走りやすそうや

>ちくちく言葉

>こわ…

「……」

 そこまで言わなくていいじゃん……と呟きながら地面をいじいじ。背景がファンシーだからか謎の哀愁が際立つ。

>ちょっと傷ついてますね…

>三角座りしてるの可愛い

>おぱーいがむぎゅっと…

>効いてる効いてるww

 しかしお構いなしにコメント欄は煽ってくる。こめかみに浮かぶ青筋を爆ぜさせる勢いで立ち上がり、シェリーは宣う。

「じゃあ八層ダンジョン始めるよ!!!!」

 アイコンに右ストレート。撮影スタジオは砕けてポリゴンへ還って、代わりにダンジョンの入り口()が形作られていく。

「へぇ〜……ダンジョンそのものも8種類あるんだ」

>そうだな

>だから配信の回数が多い

>話題が長続きするねんなー

 ストアページによるとこの世界(ゲーム)に於いてプレイヤーは冒険者となってダンジョンを攻略し、冒険者ランクを上げていく事が目標らしい。ちなみに初めたてなシェリーのランクは現在最低のFランク。つまりクソ雑魚よわよわ冒険者。

「で、意外なのがこれキャラメイクないんだね。パブリックアバターそのまま使えるんだ」

 黒いドレス風コートを靡かせくるっと一回転。ふわり舞う裾が可愛らしいが全く冒険者らしくない。

>ここも配信向けだよなー

>マルチプレイもあるしね

>かわいい、けど冒険者スタイルがいいなぁ

「…スパチャしたら考えよっかなぁ」

>あくどい

>こんな事が許されていいんですか!?

>自然な乞食、俺でなきゃ見逃しちゃうね

>\\[はい!冒険者スタイルで!]//

>[お願いしmまって俺より先にミーシャさんが赤スパ飛ばした]

「…………マジか」

>こわ…

>こんのアマ……

>[早く!早く!!]

>スパチャ連打してる…

>こいつの財源なんなの?

>しら そん

>多分石油の土地の民

「…‥わかったよ…………ちょっと待ってて……」

 清満薫子(ミーシャ)の事を把握してしまっているシェリーは誤魔化し笑い。コンソールを開いて衣装変え(トランスフォーム)。風を纏い姿を隠してしばらく。

>お?

>ありがたやー

>衣装替えの演出好き

「冒険者シェリーだぜぇ〜っ!!」

 風が吹き去れば配信用のドレスコートはマントに代わっていて。中に隠された赤と黒のライトアーマーを露わにしながらサタデーナイトフィーバー。

>キャーシェリサーン

>キャーシェリサーン

>ふぅ……

>はえーよ

>\\\[流石]///

>また赤スパしtいやなんか額高くね?

「なーっはっはっは!どうだい視聴者諸君ッ!カッコいいだろこの姿ッ!」

 ひらひら旗めくマントはもちろん自力(マニュアル)。3時間と少しの練習で、どうにか習得した変態演出を苦でもないと高笑い。これにはファインダーも苦笑い。

>そっすね

>もっと高笑いしろ

>ガバれ

>このあとめちゃくちゃ沼った

「沼らねえから!!」

 コメント欄から売られた喧嘩を言い値で買いつつゲートの前へ。最初のダンジョンは森林ダンジョン。躊躇なく足を踏み入れていく。

「いや〜、ワクワクするな〜」

>これは命知らず

>流石Fランク

>この後帰らぬ人になったんだよね…

「は?」

 しばらく歩けば森林ダンジョン、1層目。

「ふ〜ん……」

 木々が規則正しく立ち並ぶ一本道。先も後ろも霧で阻まれうまく見えない。茂みには野苺、前にはゴブリンが三匹が屯っている。

「鹿もいるじゃん、可愛い」

>割とそれっぽい

>雰囲気いいなこれ

「……で、アレは倒すべきなのかな?」

 カチリ、と腰に下げられた柄を握って臨戦体制。一歩、二歩、三歩とゴブリンの方へと歩いていく。

>ありゃいつのまに

>まぁ…武器はしょぼいが

>銅の剣で笑う

「流石にね」

 ゴブリンらも気づいたのだろう。グギャグギャと笑って哀れな冒険者(シェリー)を殺さんと棍棒を舐め、弓を携え、石の手斧で首を叩く。戦闘を察知したかリスが抱えたドングリを捨てて逃げ去っていく。

「じゃ、殺ろっか」

>なんすかその動き

>知らん

>いつものキモい動き

 まずは俊足(スキップ)。ノンフィクションエンジンならではの()を利用した技術(グリッチ)。前に進もうとしながら地面を突く事で加速度を溜めて──

「よっせいっとっ」

 ──踏み込み、解き放つ。一歩で首を、二歩で切り上げ。三歩で蹴り上げてからの串刺し。

>ワンターンスリーキルゥ…

>???

>あれ?8層ダンジョンにスキルとかあった?

>ない…ですね……

>そんなんチートや!チーターや!

「あのさぁ、みんな私に対しての信用なさすぎない?」

 爆散して空に登っていく遺骸(ポリゴン)を見送りながらジト目で視聴者(コメント)を睨む。こればっかりは言い逃れできない、ような気もする。

「つい……普段の動きが出ちゃっただけだから」

 これらの技術(グリッチ)流石にレッド寄りのグレーな技なので普段の配信(RTA)では自重している。というかレギュレーションの最後に記されている『不具合の使用禁止』とはまさにこの事。オフの日にはバカほど使っているのでこういう緩い趣味配信(プレイ)の時はちょくちょく出てしまう。そういう点ではまだまだ未熟。ちなみに使っていた上で親友の狂戦士(アリサ)跳弾の射手(バレッティーナ)はいい勝負をしてくるのは内緒。内心キレてる。

>つまり普段はチーター…?

>シェリはんはちょくちょく変な動きするで

>えぇ…

「まぁこれが私だからね」

 なおファインダーには煽るためにしか使用していないものとする。

「それじゃ次に進もっか」

 灰色の霧の中へ足を踏み入れ数歩歩けば第二層。先程と変わり映えしない木々の並びに野苺の茂み。ゴブリンは屯しているし鹿が気配を察知して逃げていくのが見える。

「異変があったら、進め。なかったら、引き返せ。だよね?」

>イグザクトリー

>その通りでございます

>魔物を倒せなかった場合1からやり直しだけどな

「大丈夫大丈夫、そんなヘマはしないから」

 再び俊足(スキップ)。軽快な足取りでゴブリン三匹を斬り落とし、冷静に周りを睨む。

「木の本数…ヨシ。植生も変わらないし、あとは…………」

>なんも変わってなくね?

>な

>最初からムズイ

「……いやこれ簡単でしょ。異変だよ異変」

 手を振りながら霧の中へ踏み込んでいき、無事3層到達。正解である。

>何処が違うの??

>知らね

>オレも見逃しちゃったね

「地面、ドングリ落ちてなかったでしょ」

 先ほどの1階層(おてほん)では、リスはシェリー達に驚いてドングリ落としたまま逃げたはず。それなのに倒した後にどんぐりの一つも転がっていないのは十分な異変(・・)である。

>細かっ…

>わかるかそんなもん!!!!

>お前ら節穴すぎて草

「はいはい気を取り直して3層目だよー……っと!」

 矢を弾く。視界の端、4匹目(・・・)のゴブリンが放ったソレを銅の剣で返し、追撃もろとも返り討ち。

「ねぇファーちゃん、これアクションゲーじゃないの?」

>ジャンルは間違い探し風ダンジョンアドベンチャーや

>要素が渋滞してる

>訳がわからないよ…

「割とひどくないかなこれ。死んだらやり直しでしょ?」

 青白いポリゴンが消えていくのを見送りながら呆れ顔。最初のダンジョンから殺しに来てるなー、なんて思いながら前へ。

>初見殺しの異変です……

>対処は簡単だけどよそ見から気づかないで

>警戒しといて死んだオレが馬鹿みたいじゃないか!

>ソレは馬鹿だろ

 第四層。相変わらず木々が並んで野苺の美味しそうな森の道。ゴブリンがヤクザが如くこちらを見ているがいつも通り。近づけばリスが落とし物をして逃げ出した。鹿も関わりあいになりたくないと去っていった。

「あー、これ異変ないな」

 俊足(スキップ)で飛び出して回転切り。ゴブリンは青白くなって消えていく。

>判断が早い

>天狗おるな

>お前は腹を切れ

「いやだって。木の本数枝の位置も同じだし」

 指差し確認ヨシ、ヨシ、ヨシ。気になっていた点を一通り調べたら引き返してみる。

「こーれで間違ってたら恥ずかしいけどね」

>いつも女の子としては恥ずかしいからセーフ

>そんなこと言うなよ!

>そうかな…そうかも……

「ギャリ?」

>ごめんなさい

>ゆるして

>いつもカッコいいです

「よろしい」

 カッコつけて引き返すシェリーの姿は、いっそ清々しいものだった。

Tips:ノンフィクションエンジンのグリッチ その1

俊足(スキップ)

前に進むという意思を持ちながら地面を高速で突く事で加速度を蓄積。踏み込んで解放する事で高い初速を得て動ける。

別名:綺麗なケツワープ

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