メイドインビレッジ
バサリ、バサリ
薄茶色の飛竜が、アレクとルリを乗せて飛ぶ。
「闇落ちしたメイド……」
「ルリさん……」
メイドのご主人様に対する愛は無限大である。
しかし、ご主人様が理不尽な理由で失われたり、ご主人様の浮気やそもそも相手にされなかった場合。
光側の存在であるメイドが闇に堕ちるときがある。
”闇落ちメイド”である。
ある王子様に懸想した紋付メイドがストーカー化し、それを防ごうとした王国騎士団を半壊滅させた事件は記憶に新しい。
ちなみに、ストーカーした紋付メイドは、”百八あるメイド殺法”を駆使して逃亡。
未だ捕縛されていない。
「……はあ……」
――自分もメイドさん、いやルリさんにストーカーされてみたい……
腰に回るルリの腕。
それを意識しながら身もだえるアレクを、ジラントが心底嫌そうな目で見た。
「?、なに?」
ルリの怪訝な声。
「いやっ、何でもないですっ」
慌てるアレク。
呆れたジラントが、飛行しながら器用に肩をすくませた。
今のアレクとルリの関係は、やっと手をつなげたという段階である。
◆
二人は、まず森の前の村を目指した。
ジラントは二人を乗せて街道に沿って飛ぶ。
辻馬車で三時間の所を約一時間で村についた。
「あれが、森に入る前の村ね」
「……ああ、だが、様子がおかしい」
「ええ」
朝に街を出て、大体今9時くらいか。
「……人気が無いわね」
「ああ」
村の大きさから大体二百人くらいの住人がいるだろう。
道にも畑にも人影が無かった。
「下りてみよう」
「ええ、動死体に気をつけましょう」
バサリ
村の真ん中にある広場に降りる。
その近くにある大き目の建物、多分村長の家だ。
「こんにちは」
ルリが家を訪ねた。
アレクは周りを見回している。
「物音ひとつしない」
――まるで墓場のようだ
アレクが思う。
玄関にはカギがかかっていたので警戒しながら裏に回る。
「あっ」
窓から中を覗くと人がうつ伏せに倒れていた。
ベットからずり落ちたようである。
「入りましょう」
「ああ」
二人は窓ガラスを割り、中に入った。
「これは」
村長と思われる男性だが、頭は真っ白な白髪と真っ白な肌に。
顔は恐怖に歪んでいる。
「一気に生命力を抜かれてるな」
「上位アンデットが使う、”生命力奪取”だ」
「”生命力奪取”……?」
「そう、生きてる人から生命力を奪い、それを使って仲間を増やすんだ」
大体、動死体一体につき、一人分の生命力を使う。
本人の生命力をその場で使われる場合が多い。
「でも、村に動死体はいなさそうよ」
「!」
「とりあえず見てまわろう」
村の家を見てまわった。
深夜に襲われたのだろう、村人はベットかその周りに倒れていた。
動死体は一体もいなかった。
「くうっ、まずいかもしれない、館に急ごうルリさんっ」
「?」
――二百人近い村人の生命力
「……奪った相手は、メイドだ」
「!!」
「じゃあそれを使う相手は……」
メイドであるルリには当然すぎる答えが思いついた。
――ご主人様に使う
「急ぎましょう」
二人はジラントに乗り森の中へ急いだ。




