メイドヴァ―ヴァンシー
ガラントたちは警戒しながら森の奥ヘ進む。
森の奥に鉄格子で出来た壁が見えて来た。
その奥にはこじんまりとした館。
外壁が高い。
多分、隠居か幽閉を目的として建てられているようだ。
その鉄格子で出来た門扉は軽く開かれている。
「ゾンビね」
入口には鎧を着た人影。
ゆらゆらと体をゆらしながら立っていた。
「どうするであるか?」
エドが胸の法印を手に持つ。
「……もう少し近づいてみよう」
館に慎重に近づく。
「うう」
「あれは……」
正面門の奥、館の玄関に小柄な少女の姿がある。
血の気のない白い肌。
うつむいた顔。
頭にはホワイトプリム。
両手を腰の前に重ねて立っていた。
「くっ」
白いエプロンドレスの胸の部分にはナイフで刺されたような穴。
エプロンが赤黒く染まっていた。
「まずいわっ」
「アレがいる」
少女が顔をゆっくりと上げた。
「メイド泣きオンナであるっ」
司祭であるエドが叫ぶ。
「てっ、撤退だっ」
血塗れのメイドが白い両手を口の横に当てた。
左手の甲には黒く変色したメイド紋が、空中に浮かぶ。
「やばいっ」
「イイイイいいヤアアアアアアアああああ」
大きく口を開け、メイドが泣き叫ぶ。
「”フィアー・バラッジ(泣き叫び)”であるっ」
ヴァ―ヴァンシーの上位メイド種の”泣き叫び”が空気の圧と共に辺りに広がる。
「くうううう」
「きゃああ」
「いやあああ」
抵抗失敗。
恐慌状態へ。
三人が耳に手を当ててしゃがみ込んだ。
「神よっ、恐怖をはらいたまえっ ―リムーブ・フィアー―」
前に掲げた法印から白い光。
エドの神聖魔法だ。
「はあっ、はあっ」
「ガラントッ」
ガラントがアリアを、エドがヴァネッサを抱え全力でその場から逃げ出した。
◆
ガラントたちは命からがら街まで帰りついた。
メイドヴァ―ヴァンシーのフィアーバラッジ(泣き叫び)を受けた三人は、恐怖のために一部、白髪になっている。
冒険者ギルドに報告に来ていた。
「出たんだ」
「貴族の館に、”闇落ちしたメイド”がっ」
「ヴァ―ヴァンシーであるっ」
「スクワイヤーゾンビも作ってた」
上位のアンデッドは死体からゾンビを作る能力を持つ。
ギルドの職員であるエリザベスに口々に言う。
「それは……」
貴族がらみの事件は気をつけなければいけない。
たまに、ご主人様を亡くしたメイドが、”闇落ち”することがあるからだ。
そしてクエストの難易度が一気に跳ね上がる。
調査依頼が、メイドヴァ―ヴァンシー討伐依頼にかわった。
「”闇落ちしたメイド”……ね」
「ルリさん……」
メイドとメイドラゴンナイトが静かに立ち上がり、ギルドのカウンターに向かった。




