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お父様との夕食

「お嬢様、夕食の準備が出来ました」

「あら、ありがとう。今すぐに向かうわ」



殿下とのお茶会から帰った後、しばらくして夕食の時間になった。



「あ、お嬢様……」

「どうかしたの?」

「その……今日の夕食は旦那様もご一緒されるとのことです」

「……………………えっ?」



侍女が放った言葉に、私は見事に固まってしまった。



(お父様が私と一緒に夕食を摂るってどういうこと?)



今までそんなことは一度も無かったのに。

お父様はまずあまり公爵邸へは帰って来ない。

帰って来たとしても、仕事が忙しいとして夕食は自室で摂るのが普通だ。



それなのに、今さら何故そのような行動を取るのだろうか。



(今になって私に興味が湧いたとか?)



どれだけ考えても分からない。

しかし、お父様が来る以上待たせるわけにはいかない。



「お嬢様、旦那様が食堂でお待ちです」

「すぐに向かうわ」



私は身支度を整え、食堂へと急いだ。




***



食堂へ入ると、お父様が既に席に着いていた。



(お父様……本当に来てたんだ……!)



父親と一緒にご飯を食べる日が来るとは、何だか信じられない。



「お父様、遅くなり申し訳ございません」

「……」



お父様は私をチラリと視界に入れただけで言葉を発することは無かった。

そんな父親の態度はいつものことなので別に気にしない。



私は礼をすると、お父様の向かいの席に着席した。



それからすぐに晩餐会は始まった。

二人とも一言も喋らないため、ナイフとフォークの音だけが食堂に響いていた。



(わぁ……何かお父様が食事してるとこ初めて見たかも……)



私は内心、食事どころではなかったが。

チラチラと目の前にいる父の様子を窺っている状態だ。



初めて見るお父様の食事姿は流石高位貴族というべきか、とても美しかった。



(娘の私よりも下手だったら内心笑ってやろうと思ってたけど……)



お父様の食事のマナーは完璧すぎて恐ろしいくらいだった。

流石フルール公爵閣下、というだけある。



「――セシリア」

「……は、はい!」



チラチラ見ていたら突然名前を呼ばれた。



(も、もしかして考えてることバレた!?叱られる!?)



内心焦っていた私に、お父様が訪ねたのは意外なことだった。



「セシリア、今日王太子殿下との茶会があったそうだな」

「……へ?」



ナプキンで軽く口元を拭いた父親が突然そんなことを言い出した。



「あ、は、はい!王太子殿下とのお茶会でした……」

「そうか、楽しかったか?」

「え」



私は再び言葉に詰まってしまった。

お父様にそんなことを聞かれたのは初めてだったからだ。

前世を含め、私はお父様と父娘らしい会話など一度もしたことが無かった。



「は、はい!もちろん楽しかったです!」

「そうか、それは良かった」



笑みを浮かべながらそう言った私に、お父様はただそれだけ返した。

会話を終えると、再び食堂の中がシンとなった。



(……何を考えているのか全く分からないわ)



私は食事を続けながらも、お父様の行動に困惑するばかりだった。




***




「……あの旦那様がですか?」

「うん、変な話よね。今までそんなこと一度も無かったのに」



お父様との食事を終えた後、私は使用人たちに夕食での出来事を話していた。

私の話を聞いた使用人たちも、驚きを隠せないようだった。



「きっとお嬢様のことを気にかけていらっしゃるんですよ」

「そうかしら?でも今まで気にかけてくれたことなんて一度も無かったわ。今さらそんなことされても困惑するだけよ。私に対して悪いとでも思ってるのかしらね。私は別にお父様の愛なんて望んでいないのに」



私の言葉に、使用人たちが何故か気まずそうに視線を逸らした。



「お嬢様、そんなことをおっしゃらなくても……旦那様はお嬢様を愛していらっしゃいます。たった一人の娘なんですから」

「……本当にそうなのかしら」

「はい、お嬢様」



しかし、前世であんな体験をしている私には到底信じることなど出来ない。

父は実際、バルコニーから落ちて死ぬその日まで私に無関心を貫いている人だったから。



「お嬢様、私どもはそろそろ仕事に……」

「あら、もうそんな時間?いつものことだけれど話を聞いてくれてありがとう。遅くまで引き留めてしまってごめんなさい」

「いえいえ、またいつでもどうぞ」

「そうです、お嬢様の話なら何だって聞きます!」

「ふふふ、そう言ってもらえるだなんて嬉しいわ」



話ではなく、ほぼほぼ愚痴のようなものなのに親身になって聞いてくれる使用人たちには感謝しかない。



「それでは、失礼します」

「ええ、お仕事頑張ってね」



それから私は、部屋から出る使用人たちを見送った。



そして、パタリと閉められた扉の傍まで寄ってそっと聞き耳を立てた。



「驚いたわ。まさか旦那様があんなことを言い出すだなんて……」

「そうね、お嬢様があんな風に感じてしまうのも無理はないわ」



案の定、使用人たちは部屋の外でお父様についての会話をしていた。



「奥様が亡くなってからは抜け殻のようになっていたのに……」

「ええ、あの日から何だか旦那様は旦那様じゃないみたいだったわ」



(お母様が亡くなってからお父様の様子がおかしくなった?)



私はそのまましばらく使用人たちの会話を聞いていたが、これ以上有力な情報は得られそうになかったため、盗み聞きをやめた。

扉から離れ、ベッドサイドに腰掛けた私は頭の中で情報を整理した。



まず、お父様は私の誕生日――お母様の命日になると必ず体調を崩すということ。

そしてお母様が亡くなってから様子が変になったということ。



(やっぱり彼らは私の知らない何かを知っているわ……!)



疑いが、確信に変わった瞬間だった。




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