殿下とのお茶会
私の誕生日から数日後のことだった。
私はこの日、殿下とのお茶会のために王宮へ登城していた。
正直、お茶会の誘いが来たときは驚いた。
呼ぶだけ呼んですっぽかすつもりなのかと思ったりもしたが、殿下はきちんと時間通りにお茶会の席に現れた。
しかし、目の前の殿下は相変わらず不機嫌そうだ。
私から目を逸らしていて、席に着いてから一言も話さない。
(…………これなら何のためにここへ呼んだのよ)
そんな殿下の態度に少しだけムカついた。
しかし私はこれでも前世で一応淑女の鑑とまで呼ばれていた女だ。
決して顔には出さない。
(……だけどこのまま、というわけにはいかないわね)
私はそう思い、テーブルに置かれた紅茶を一口飲んでから穏やかな笑みを携えて言った。
「殿下、この間は素敵な贈り物をありがとうございます」
私は今日、誕生日のとき殿下に贈られた髪飾りで髪の毛を留めている。
「……あぁ」
私がお礼を言うと殿下は一度だけ私を見て、またすぐに視線を逸らした。
相変わらず無愛想な人だ。
「……適当に選んだものだ。深い意味はない」
殿下が私から視線を逸らしたままそう言った。
「そのわりには殿下の瞳の色と似てましたけど?」
私が笑いながら指摘すると殿下は顔を真っ赤にした。
「ッ!…………たまたまだ」
少し怒ったような口調になる殿下に私は苦笑いする。
殿下との関係は前世に比べたら少しだけ改善されたのかなと思う。
今世では良い友人になると決めているのだから、それをやり遂げなければいけない。
だけど改善されたとはいえ、まだまだ私は彼に嫌われたままである。
(…………友達のことを嫌うって変よね。だって私はマリアンヌ様たちのこと大好きだもの)
私はお茶会の最中に考え込んだ。
(…………殿下に私を好いてもらうためにはどうすればいいのかしら)
そもそも何故嫌われているのかすら分からないのに、好かれることなど出来るのだろうか。
私はそう思いながらも殿下に好かれる方法を必死で考えた。
そしてあることを思い出した。
(…………あ、そういえばもうすぐ殿下の誕生日パーティーがあるわね)
オルレリアン王国では普通、貴族の子供が誕生日を迎えると邸でパーティーを開く。
私の場合はお父様がそういうのに無関心だからやっていなかったというだけで開くのが普通だ。
私は今世では殿下の誕生日パーティーには出席していたが贈り物をしたことはなかった。
前世では何回も贈っていたがことごとく無視され、今世では使用人達に「婚約者としての義務も果たさない人に贈る必要はない」と言われていた。
だけど今年はそうもいかない。
私がプレゼントをもらってしまった以上返すのが礼儀だ。
(贈ると言っても一体何を贈ればいいの?宝石とかに興味は無さそうだし……)
私は殿下が何を好むのかを全く知らない。
聞いたところで本人は教えてくれそうにもない。
私はそう思いながらも目の前に座る殿下をじっと見つめてみた。
(…………やっぱりイケメンだわ)
私が二度目の人生を生きてからもうすぐ二年が過ぎる。
その間に殿下も私も成長した。
彼はもうすぐ十四歳だ。
背がだいぶ伸び、声も低くなった。
それでもまだまだ前世の殿下よりかは幼いが。
成長した殿下はオルレリアン王国で一番美しいとまで言われるようになる。
(子供の頃からこんなに美しいなら、まぁそうなるわよね)
私は殿下の顔を見てうんうんと頷いた。
「……?」
殿下は私の視線に気付いたようで、視線がぶつかった。
「何だ?」
「あ、えっと……」
(ど、どうしよう……)
殿下の顔を凝視していたことがバレたようだ。
しかし気が動転していて上手い言い訳も思いつかない。
(……もういっそ、気になっていることを正直に聞いてみようかしら?)
私は思いきって本人に聞いてみることにした。
「――殿下、殿下は何か好きなものとかありますか?」
私のその質問に殿下は一瞬だけ驚いた顔をした。
しかし、すぐにいつもの顔に戻り口を開いた。
「何故そんなことを聞くんだ?」
殿下が怪訝な顔になる。
何か企んでいると思われただろうか。
「あっ、いえ……特に意味はありませんが……婚約者ですから殿下の好みなどを知りたいと思いまして……」
私は無理矢理笑顔を作ってそう言った。
殿下はそんな私の顔をまじまじと見つめた。
「…………俺の誕生日プレゼントのことで悩んでいるのか?」
ギクリ。
(な、何で分かったのよ!私ったら、そんなに顔に出ていたのかしら……?)
殿下に考えていたことを当てられて落ち込んだ。
前世であれほど王妃教育を頑張ったのに。
感情が顔に出るだなんて王妃失格だ。
固まる私に殿下は冷たく言い放った。
「もしそうなら、その必要はない。俺はそんなもの求めていないからな」
「え!?」
私はすかさず殿下に反論しようとした。
「ですが、殿下……!」
「――さっきも言ったが、俺がお前に贈り物をしたのに深い意味はない。だからお前が贈り物を返す必要は一切ない」
殿下は私を見てハッキリと告げた。
「……」
そのとき、殿下の隣にいた侍従が殿下に耳打ちした。
「殿下、そろそろ……」
「もう時間か?分かった」
殿下はそのまま席を立ち、私もそれを見て慌てて立ち上がる。
「もう時間のようだ。お前は寄り道せずに公爵邸へ帰れ」
「はい、殿下……」
それだけ言うと、殿下は侍従を連れて部屋を出て行ってしまった。




