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お父様

「旦那様が帰ってきただって……?」

「一体どういうことだ……?仕事があるのではなかったのか……?」



私だけではなく、使用人たちもかなり驚いているようだった。



「みんな、パーティーは一旦中止よ。すぐにお父様のお出迎えの準備をしましょう」



私たちはパーティーを一旦中止し、すぐにエントランスへと向かった。

この邸の当主が帰ってきたのだ。

使用人たちはもちろん、娘である私もお出迎えをしなければいけない。



(…………どうして急に帰ってきたのかしら)



こんなことは初めてだ。

いつも私を一人ぼっちにしてどこかへ行ってしまうのに、何故今日は帰ってきたのだろうか。



そう思うと同時に少しだけ悲しい気持ちになった自分がいた。



(……私があれほど帰ってきてほしいと望んだときには、帰ってきてくれなかったくせに)



つい心の中で悪態をついてしまっていた。








エントランスへ行くとお父様が立っていた。

いつものように無表情で、何を考えているのか分からない。



使用人たちが一列に並び、頭を下げる。



「お帰りなさいませ、旦那様」



私もそれに続いて頭を下げた。



「お父様、お帰りなさい」



これはただのお出迎えだ。

私はこのとき、いつものように何事もなく終わると思っていた。



しかし、ここで予想だにしないことが起こった。

お父様が頭を下げた私の前で足を止めたのだ。



(…………………!?)



頭を下げているため、前は見えないが私の視界にはしっかりとお父様の靴が入った。

頭を上げていいのかも分からない。



(…………何なのかしら?)



しばらく待ってみたが、お父様はずっと私の前で立ち止まったままだ。

そこでおそるおそる顔を上げると、お父様は私をじっと見下ろしていた。



「……」

「……」



お互いに一言も話さない。

ただ視線を合わせているだけだった。



久しぶりに向き合ったお父様は、なんだかお父様じゃないみたいだった。



疲れているのか、虚ろな目をしていて顔色も少し悪かった。

目の下にはクマもある。

あまり寝れていないようだ。



仕事がそんなに大変だったのだろうか。

たしかに公爵家の当主としての仕事は決して楽なものではないだろう。



(………体調が悪くなったから帰ってきたのかな?お父様は普段から休憩もあまり取らないようだし)



そう思わざるを得ないほど、目の前にいるお父様は疲れているように見えた。



「…………お父様?」



私が声をかけてもお父様は言葉を返さない。

ただ私を見つめているだけだ。



周りの使用人たちもそんなお父様のことを驚いた顔で見ている。



「…………セシリア」



長い間黙っていたお父様が私の名前を呼んだ。

お父様に名前を呼ばれるのは久々だった。

それ以前に、普段はお父様との会話すらない。



「はい」



目を逸らしてしまいそうになるのを必死で抑え、返事をした。



「……」

「……」



二人の間を再び沈黙が流れる。



結局のところお父様は私に何かを言いかけたが一言も喋らず、その場をあとにした。



お父様がいなくなった後、緊張が解けたのか使用人たちが口々に言った。



「今日の旦那様はなんだか変だったな……」

「あぁ、旦那様じゃないみたいだ」

「疲れているのか?毎年この日になると体調が崩すが‥‥・」



そこで私は、一人の使用人が発した言葉に驚きを隠せなかった。



(毎年この日になると体調を崩す……?)



そんなのは初めて聞いたからだ。



今日が何だというのだろう。



今日は私の誕生日だ。

でも、ただそれだけである。



それ以外には何も……



「――ッ!!!」



私はそのとき、あることに気が付いた。



(そうだ、今日はお母様の命日…………!)



お母様は私を産んだと同時に亡くなったため、今日が命日ということになる。

私の誕生日であるということ以外には、それくらいしか思い当たる節は無い。



そこで私はふと前世を思い出した。



(そういえば…………)



前世も今世もお父様は私の誕生日であるこの日だけは、必ずといっていいほど邸に姿を現さなかった。

まるで意図的にそうしているかのようだった。



(……自分の妻が亡くなったことを気にしているのかしら?いや、でもお父様はお母様に興味がないはず。だとしたら何故なの……?)



私はお父様の行動の真意が分からなかった。

元からどこか掴めない人だとは思っていたが、今日は特にそうだ。



いや、ただ私が前世でお父様のことをあまり見ていなかったからかもしれない。

幼い頃はお父様に愛されたいと思っていたが、途中からは無理だと悟って諦めたのだ。



(愛を求めた対象が殿下に変わったのよね……)



お父様と同じように、殿下のこともそんな風にキッパリと諦められればよかったのにと思う。

そうすれば、あんなに辛い思いをすることもなかったからだ。



(……………とにかく、殿下に恋をしてからの私はあまりお父様を見なくなった)



私は前世のお父様との記憶があまりない。

幼い頃のことはよく思い出せないし、成長してからは話すことなどほとんどなくなったからだ。



正直、お父様のことは今世でもよく分からない。

しかし、一つだけ確信していることがあった。



(…………私の知らない、何かがある)



おそらく前世の私は何も知らなかったのだろう。

いや、知ろうとしなかった。

何だか知ってはいけないことのような気がしたからだ。



正直、今でも何かを知ることが少しだけ怖いと思っている自分がいる。

世の中には、知らない方がいいこともたくさんあるのだから。



(…………私も、変わらなければいけないわね)



真実を知る覚悟が必要になってくるだろう。

――それがたとえ、どれほど残酷なことだったとしても。




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