寝て起きたら弟子に攫われた
正真正銘の初投稿です。ちょっと描きたくなったから短編で書いてみました。面白いのでしょうか(書くとわかるんですが面白いかどうか自分だと分からないもんですね…)
どうしてこうなった。
男は困惑していた。むしろ困惑せずに入れるものか。と開き直れるほどには困惑していたし、混乱していた。
何故僕は運ばれている。
何故僕は縛られている。
何故、何故。
いろいろな疑問は浮かぶか一言でまとめるとしよう。
何故僕は弟子に縄でぐるぐる巻きにされて運ばれているのだろうか。
「アハハハハハハッ!楽しいですね!師匠!」
何故弟子はこんなにも気分高揚としているのだろうか。少なくとも僕は何にも楽しくないのだが。
生後数ヶ月だったあの子を拾い育て始め、6年前までは可愛らしく後ろをちょこちょこと付いてきて、一緒にお昼寝したりご飯食べたりして平和に過ごしていたはずだったのに。
6年前に魔術学院で魔術を学びたい!といってキラキラとした目をしていた弟子を送り出したら、6年経った今日、僕を担いで楽しそうに野を駆けていた。
少しばかりの抵抗としてジタバタとしてみるとする。
「わわわっ!?師匠危ないですから、暴れないでください!落としちゃいますよ!」
そう思うならばおろしてくれ。そして願わくば僕を元いた場所へ返してくれ。
そんな願いは叶うはずもなく、ぎゅうっと担ぐ力を強めながらも速度は緩めることなく進んでいく。
とりあえずそうだな。これを見る人がいたらどうか笑っておくれ。
僕は今、弟子に寝込みを襲われて攫われたらしい。
「……どうしてこうなった」
だがまぁ…色々思うことはあるが楽しそうな弟子を今は眺めているとしよう。
何もできないし…。いい天気だなぁ…。
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しばらく担がれていると日が沈み夜が近づいてきた。魔物が活発に動き始める。
「ふぅ…今日はここで野宿ですね!」
宝物のように大事に僕を降ろす弟子を僕はジト目で見つめる。
「うっ…その…怒って…ます?」
「……そうだね。寝て起きたら縄で縛られて運ばれて怒らない人が友人にいるならのならば是非とも教えてほしいかな?」
「うっ……」とかがり火のそばでしゅんっとしていて、僕との距離も6年前に比べれば僅かに遠い。
「その……ごめんなさい…」
「そのことはいいさ。それより? 急に帰ってきたかと思ったらいきなり攫われたわけだけど、僕はいったいどこに連れていかれる予定なんだい?」
「あ!その、えっとですね?」
6年前のように弟子の隣に腰掛け、目的を問う。場合によっては即座に逃げるなり説得なり色々考えないといけない。
「その…師匠……」
「ん?」
「私と…私と一緒に…講師をやってくれませんか!!」
「………へ?」
ポカンとする僕を他所に私を攫った理由をしっちゃかめっちゃかに話し始めた。
「………えーっとつまり…纏めると、
まず学院を今年卒業する。
そして、理事長から講師職にならないかと推薦を受けてやってみたいって思った。
でも、僕のところに戻りたいっていう思いがあって悩んでいた。
そしたら理事長が僕も連れてきたら一緒に採用するって話をして僕を学院まで攫おうとしていた。
ってことでいい?」
「はい!」
「はい!じゃないんだけどなぁ……」
元気よく返事をする弟子はかわいい。なんて思いながらその頭を撫でつつ僕は大きなため息を吐く。
我ながらこの弟子は一度決めたら突っ走ろうとする癖がある。それは美徳でもあるが悪癖でもある。今回は悪癖として働いた形だろう。
「はぁ……」
「うっ…やっぱり怒ってますよね…」
「この話、僕が拒否したらどうするつもりだったんだい?」
「えっと…でも講師もやってみたいってのは本当だから、多分結局街までは攫った上で私が師匠を養います!!」
いや、それはダメだろう…。流石の僕でも弟子に生活を依存させるわけにはいかないというか……。いやしかし、魔術学院で講師なんて正直……。
などと悩んでいると、横から服の裾を引っ張られた。
「師匠…師匠は私にいろいろなことを教えてくれました。森での生き方、魔術のことも私が知りたいって思ったものはなんでも師匠は教えてくれました。師匠がいろいろなことを教えてくれたからこそ、私は学院でも優秀な成績を収めて理事長に講師として認めてもらえるほどの実力を身につけることができたんです。でも、私を育ててくれた師匠はずっと森の奥で人と関わらずに一人っきりで過ごしてるということが私はずっと辛いんです。……だから師匠、お願いします。もう我儘なんて言いません…。講師になってほしいなんてわがままも言いませんから…。せめて、せめて、私と一緒に街に来て暮らしてください…!」
涙ながらに語る弟子を見ながら思う。
きっと、心配だったんだろう。不安だったんだろう。森の奥深くに置いて行ってしまった僕のことが。そして何より弟子自身が一人になって寂しかったのだろう。
「……はぁ…」
「っ!」
ため息をついた僕に肩をびくりと震わせる。怒られると思ったのだろうか。断られると思ったのだろうか。
僕は弟子の、いや、娘の頭にぽんと手を置いて笑う。
「仕方ないね。娘にここまで言わせて断るわけにはいかないだろう」
「…じゃあ!」
「ただし、講師の件はひとまずお試しだ。私の実力が学院の求めてる力量であるかどうかはやってみないとわからないからね」
「〜〜っ!はい!はいっ!!」
感極まってわんわんとなく、いつの間にか僕よりも大きくなってしまった娘を抱きしめながら、僕は笑う。
仕方ないだろう?気まぐれとはいえ、育ててしまったんだ。親としての愛情も、師としての愛情もある。そんな僕が突き放せるわけないだろう?
弟子に攫われる師匠なんているわけねぇよなぁ!?なんで攫われてるの??
この後普通に魔術講師になりますし色々やります。
初めて描いたのでなんとも言えませんが反応良ければ連載版にして続きを頑張るかもしれません(亀さんですけども