小さな王子様とお弁当。
私はラッザに告白はしていない。
だっていきなり年上の私が大真面目に告白したらなかなか向こうからしたらびっくりすることだと思う。
でもラッザが私のことを好きになってくれたらいいなぁとは思っている。
そういうわけでラッザと剣の訓練をする時に私は手作りのお弁当を持っていくことにした。
私は料理は全然したことがなかったけれど、屋敷の料理人たちに習って準備してみたの。私がお弁当を作っているというのを知られたらお母さんがうるさそうなので、お母さんには秘密にしてもらっている。
ただマリッサにはすっかりばれちゃっていたけれど。
私とマリッサは双子で、だからこそなんというかわかりあっている面がある。
だから私がラッザに感じた恋心もマリッサにはバレバレで、私のことを応援してくれている。
マリッサは自分も年の差恋愛をしていて、そちらがうまくいくかどうかもわからないのに私のことも全力で応援してくれるのよね。
私はそうやって私のことを全力で応援してくれているマリッサのことが本当に自慢の姉だなと思っている。
「メリちゃんが作ってくれるお弁当はおいしいね」
そういってにこにこと笑ってくれるラッザを見ると本当に頑張って作ってよかったって毎回思ってならない。
だって好きだと思った人が私の作ったもので笑ってくれるだなんてとてつもないほどの幸福すぎるわ。
料理人たちが職業を料理人にしているのは、こうやって食べてくれる人が笑ってくれるからなのかもしれない。自分でお弁当を作ってみると本当にそれを仕事にするのが大変なことなのだと実感したので、私はより一層屋敷の料理人たちにも感謝するようになった。
元々、うちの屋敷で働いている人たちって基本的にお母さんの信望者しかいない。
お父さんが屋敷にやってきたころからずっとそうだったらしい。お父さんが名をあげてからはお父さんの信望者もいるけれど。そういう家の使用人たちは私が感謝するとすごくうれしそうにしているのよね。
「ラッザ、何か食べたいものとかあったら教えてね。私、作ってみるから」
「んー、思いついたら言うよ。でもメリちゃんが作ってくれるってものだけでも僕はうれしいから、何も特別なものなんて作らなくていいんだよ?」
そういって笑うラッザは、本当に惚れてしまったひいき目もあるだろうけれど王子様みたいだと思う。
ラッザは、ほかのだれかにとってはどう見えているかはわからないけれど私にとってはたった一人の王子様みたいなものだと思う。
こうして誰かを好きになるとその人のことが王子様に見えてしまうなんて……、前はマリッサが好きな相手の話をしているのを聞いて「恋ってどんなものだろう」って思っていたのに、今はすっかり恋愛脳というか……。
というかお父さんにもちらりと聞いたことがあるけど、お父さんもお母さんのことが大好きになったらお母さんしか見えなかったらしいし。私たちが好きな人に一直線なのってお父さんに似たのかもしれない。
まだ弟や妹たちはどういう人を好きになるかは分からないけれども、たぶん二股とかやらかしたらお母さんに半殺しにされることは間違いないのでバカをやらかす子は居ないと思う。あのお母さんはやると決めたらやる人だから。
それにしても私、ラッザになんでもしてあげたくなってしまっている。
恋は人を盲目にすると聞いたことはあるけれど本当だわ。私ってば、ラッザのことを散々甘やかしてしまいそうになっているもの。
なんだろう、なんでもやってあげたくなるみたいな。まぁ、流石にラッザが何もしなくなるような甘やかし方はダメだって自重しているし、マリッサにもダメそうなら止めてとはいってあるけど。
思えばマリッサも恋をした後は暴走気味だったわ。私はあの状況になっているのね!
でも心配はいらなかった。
私の小さな王子様は、私よりもずっと年下なのにそのあたりをちゃんとしていたのだ。
私がなんでもやってあげそうになると、すぐに不満そうな顔をして止める。人にやってもらおうじゃなくて、自分でやると決めたことはやるラッザのことが本当に私は愛おしく感じた。
正直、頭の中はなにこれ、やばいでいっぱいである。だって一緒に過ごせば過ごすほど、幸福だし、好きだって気持ちがあふれるし。
今の小さなラッザも可愛くてかっこよくて素敵だけど、大きくなったラッザはどんなふうになるんだろうかって妄想がはかどったりするの。
可愛くなってもかっこよくなっても、全然どんな風になってもラッザなら私は受け入れられると思う。マリッサには「好きな人の幼いころから大きくなるまで全部見れるとかずるい」とか言われたけれどね。マリッサの好きな人は十五歳も年上だから、その小さいころなんて見れないものね。
そう思うと、好きな人の成長をずっと見守れる私ってすごく幸せ! とお弁当作りもそれからはかどった。
「メリちゃんのお弁当は日に日にすごくなるね。メリちゃん、すごい。ありがとう」
好きな人が私の料理の腕が充実すればするほど笑ってくれるんだよ!
料理の腕が成長しないはずがないわよね!