小さな王子様との手紙。
私の小さな王子様、ラッザとの交流が少しずつ進められている。
私はお母さんとお父さんという、この国の英雄の娘だ。だから私が関わる人たちも基本的に両親の関係者ばかりである。
それ以外の自分の手でつかみ取った知り合いというのはあまりいない。だから私は……、こういう繋がりが作れることだけでも私は嬉しかった。
ラッザと手紙のやり取りをする。
文字を覚えたばかりのラッザは、私との手紙のやり取りが良い文字の勉強になるのだと言っていた。
「楽しそうね、メリッサ」
「マリッサ」
私がラッザにどんな内容の手紙を書こうかと頭を悩ませていれば、双子の姉のマリッサがやってくる。
私たちは双子で、二つの部屋を壁をぶち抜いて一つの部屋にした広い部屋で過ごしている。一応、扉で互いの部屋を区切れるけれど、私は特にマリッサと同じ部屋であることを嫌だとは思っていない。それはマリッサも同じ気持ちでいてくれているみたいで、大体扉はしまっていない。
私たちは仲が良い方だと思う。というより、私の家族は基本的に仲が良い。
お母さんが家族仲が仲良い方がいいって言うから。お母さんの言葉には私たち子供は逆らえない。だってお母さんは怒ると中々怖い人だから。
とはいってもお母さんは無茶ぶりもする人だけど、本当に暴君みたいなことは言わないし。
「私、お母さんとお父さん関係以外の人とあんまり関わったことないから、なんか嬉しいなって思ってるのよ」
「まぁ、お母さんもお父さんも強烈だもんね。私はジェズアルド様が居ればそれでいいけど。他の人からの目とかどうでもいいし」
「マリッサは本当にさっぱりしているわよね」
「ふふ、メリッサも恋をすれば分かるわよ。お父さん見ている限り、うちの家族って恋をしたらその人以外見てない感じしない? お父さんなんてあんなに綺麗で英雄なのに、全然他の人興味ないじゃん。ソルもさ、十一歳なのに冒険者として飛び出しちゃったし、なんか恋人でも連れて帰ってきそうじゃない?」
「恋かぁ……。私にはまだ分からないわね。でも恋をしたらマリッサみたいに夢中になれるなら楽しみだって思うわ」
「私もメリッサと恋バナしたいから、是非、好きな人作ってね!!」
マリッサにそう言われて、私はおかしくなって笑った。
私は兄妹が多い。
一番上がマリッサで、私が二番目。そして三番目は長男のラトで、十三歳。騎士になるんだって訓練しているのだ。お母さんとお父さんにラトも憧れてるからね。
次男のソルは十一歳だけど、「冒険者になってくる」とかいってお母さんがこれが出来るようになったらいいよっていう試練をさっさと終えて、もう旅立っている。
三男のマヒーユは、まだ八歳。四男のガジュはまだ五歳。そして一番下の三女のヤージュなんて三歳。
下の三人はまだまだこれから将来どうなるか分からない。
……ラッザとは弟の方が年が近いのよね。ラッザとマヒーユたちが仲良くなったら楽しいかしら。でも折角お母さんとお父さんのかかわりがない私の作った繋がりだから、しばらくは……私とラッザだけで関わりたいな。
先に仲良くなった私より、先にマヒーユたちが仲良くなったら寂しいもの。
そんなことを思いながら、私はラッザへの手紙のことにはなるべく家族のことを書かなかった。こんなに自分のことだけを書いている手紙なんて初めてだった。だから余計に何だか不思議な気持ちで、それでいてふわふわとした嬉しい気持ちになった。
ラッザはまだ子供で、それでいてお母さんとお父さんのことばかり気にしていない。多分……、ラッザもお母さんとお父さんのことは知っていると思う。だってそれだけ《炎剣帝》と《光剣》のことは知っていると思う
それでも知ったとしてもそのことを聞かずに、私のことを聞いてくれる手紙を書いてくれることが私は嬉しかった。
そういうラッザとの手紙だから私は楽しくてワクワクしているのかもしれない。
ちなみにこういう手紙のやり取りをしていることに、お母さんは凄く楽しそうにしている。
お母さんは私が楽しそうにしているのが嬉しいらしく、ラッザからの手紙を受け取った私を見て「メリッサは可愛いわねぇ」とかいってすりすりしてこようとする。
お母さんのことは嫌いじゃないけれど、そういう変態なところはちょっとどうかと思う。
「お母さん、変態だよね、本当に」
「ふふ、変態じゃないわよ? 可愛い娘と仲よくしたいだけよ? 手紙を受け取ってにこにこしているのが可愛いなぁって涎出そうなだけで」
「だからそれが変態なんだよ?」
「冷たいなぁ。でも可愛いから許す」
本当にもう、普段のお母さんを見ていると全然お母さんが《炎剣帝》なんて呼ばれているこの国の英雄には見えない。
茶色の髪と、茶色の瞳のどこにでもいるような見た目をしていて、戦う姿は本当に戦女神か何かのようで圧倒的なのに――普段はこうだから、ギャップが凄いと思う。
「メリッサ、その子と仲良くなったら是非家に連れて来てね。一緒に愛でるから」
私はそんなお母さんの言葉に思わず小さくため息を吐くのだった。




