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小さな王子様との出会い。




「お姉さん、どうしたの?」




 そう問いかけられ、顔をあげたらそこにいたのは茶色の髪の小さな少年だった。



 王城に訪れているということならば、この少年は貴族だろう。王族はお母さん関連で大体知り合いだから、王族ではなさそうだけど……。




「少し、考え事をしていて……」



 小さな男の子に何を言えばいいか私は分からなくて、そんなことを答えた。

 だけどその子は私の言葉に少し不満そうな顔をしていた。





「――お姉さん、何か言いたいことがあるなら言って大丈夫だよ。僕、誰かにお姉さんの悩み言ったりしないよ? 父上が悲しい顔をしている女の子には優しくした方がいいって言ってたんだ。だから僕、お姉さんの話聞くよ!」



 ――多分、この子は自分の父親にそういう言葉を言われたから、特に特別な意味もなく私の話を聞いてくれようとしてくれていただけなように見えた。

 だけれどもにこにこと笑って、そんなことを言うその少年に何だか私の心を動かされてしまって、ぽつりぽつりと本音を口にしてしまった。





 英雄である両親に比べて、私が普通であること。

 そのことで周りが私を期待しているけれど、それほどの結果が出せていないこと。

 悪気がないのは分かっているけれど、そう言われていることに何とも言えない気持ちになること。

 双子の姉が何も気にする様子がなくて、自分だけがその気持ちを感じていること。

 お母さんのことが好きだけど、嫌な気持ちも感じてしまっていること。

 そう言う風に悩んでいる自分のことに余計に、何ともいえない気持ちになること。

 自分にはこれといって、他の家族のように誇れるものがないこと。




 そういう言ってもどうしようもない悩みを口にした。だけど、誰にも口にしたことのなかったそういう悩みを誰かに口に出来ただけでも何だか私はすっきりした気持ちでいっぱいだった。





「ごめんね。突然、こんな悩みを口にしていて……」



 言ってもいいと言われたからと言ってこういう風なことを小さな男の子に言ってしまったことに私は少し凹んでしまう。だって、年上なのに情けないじゃない。



 だけど、その少年は私の言葉にも気にした様子はなかった。




「ううん! 大丈夫だよ。お姉さん。でもお姉さんは誇れるものがないなんて言うけれど、そんなことないと思うよ。だってお姉さん、とっても可愛いもん」

「……え、そ、そんなことないわよ!」



 私の見目は、お父さんに似て整ってはいるだろうけれども――でも家族の中ではそこそこだと思う。

 真っ直ぐに可愛いって、私の素性も知らないのに言われたことに私は思わず顔を赤くしてしまった。


 だって、この小さな男の子は私が誰かも知らない。

 ただ純粋にその言葉を口にしてくれているのだと思うと、ちょっと恥ずかしかったから。




「やっぱりお姉さん、可愛いと思う! 顔真っ赤だし!」


 ……この小さな男の子は、結構ませている男の子だなと思った。でも嫌な気持ちは全くしない。にこやかな笑みの男の子はそのまま続ける。




「お姉さん、僕ちょっと話しただけでもお姉さんはお姉さん自身が言うような人じゃないと思う」

「そうかな?」

「うん。そう思う! それでもお姉さんが自信を持てないっていうなら、僕が沢山お姉さんの良いところ探して、お姉さんに伝えるよ! 母上も言ってたもん。褒められたら女の子は素敵になるんだって」


 ……この子のご両親は凄く仲がよさそうだなぁと思わずその言葉に笑ってしまった。

 一生懸命、私のことを元気づけようとしていて、そして自分の言葉でそういう風に声をかけてくれている。



 そのことが何だか嬉しくて、そして何だかすっかり名前も知らないのに私はこの子のことが好きになっていた。





「ふふ、ありがとう」



 笑ったら、また「可愛い」って口にしてくれた。




 その後、私とその男の子は互いに自己紹介をした。私が自分の家名を口にしても、その子は反応も何もしなかった。それはお母さんとお父さんを子供だから知らなかったのか、それとも私が英雄の娘でもどうでもいいと思っていたのか――それはよくわからないけれど、それでもその態度が結構嬉しかった。





 ――その子の名前は、ラッザティラ・サガドフィア。

 男爵家の長男で、下に弟と妹が一人ずついるらしい。



 私とラッザはそれから交流をしていくことになった。

 ラッザのご両親は私が英雄の娘であることに困惑はしていたけれど、ラッザが楽しそうにしていたから私とラッザの交流を許してくれた。




 ……それが、私にとっての小さな王子様のラッザとの出会いだった。

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