プロローグ
「マリアージュ様は本当に素晴らしい英雄ですね」
「メリッサ様もマリアージュ様の娘なのですから……」
私の名前は、メリッサ・フロネア。
この国の英雄である《炎剣帝》マリアージュ・フロネアと、《光剣》グラン・フロネアの次女である。
私は英雄の娘として生を受け、そのこともあり沢山の期待を背負っていた。
それは私の両親がそれだけ他にない存在だったから。特に私のお母さんは、幼いころから頭角を現していた英雄だった。
その期待を背負い、私は悩むことも多かった。
私の双子の姉であるマリッサは、幼い頃にとある騎士に惚れて、それで毎日楽しそうにしており、私のように悩んだりはしていない。
――お母さんはお母さん、お父さんはお父さん、そして私は私だもの。
そんな風に言い切ったマリッサは眩しかった。
お父さんもそうだけど、好きな人が出来たら一直線なのが私の家の家族なのだと思う。マリッサも恋をせずに、そればかり考えていなければ私のように悩んでいたかもしれない。
……私だけがこうして悩んでいる。そう思うと何だか何とも言えない気持ちになる。
私は魔法も剣もそれなりに出来る。その中で魔法の方が得意だ。
だけれども私は周りが期待するほど、お母さんとお父さんの娘として頭角を現しているわけではなかった。
「ねぇ、お父さんは……お母さんがあれだけ凄い人だから、悩んだりもした?」
「そうだね。俺も悩んだことは当然あるよ。マリアージュは凄い人だから。俺はマリアージュに育てられたから、色んなプレッシャーもあったし。それでも俺はマリアージュの傍に居たかったから」
お母さんは本当に何も考えずに、自分の好きなようにしていて英雄になった人だった。だからきっとお母さんに聞いてもどうしようもない。
お父さんのそういう言葉に、やっぱり私の家の人たちはそう言う恋をすると一生懸命になるんだなと思った。
――今年十四歳になる私は、まだ誰かを好きになったことはなかった。
伯爵家の娘で、英雄の娘で――そういう肩書があるからこそ、私に近づいてくる人たちは結構いる。私の見た目はお父さん譲りで結構整っているし、その辺も周りが近づいてくるのも当然だった。
お母さんが「政略結婚とかはさせないから、好きな人と結婚したらいいよ」ってそんな風に言い放っていたから、好きな人と結婚は出来るだろう。……だけど恋も分からない私はどういう人と結婚するのかさっぱり分からない。
そんなことを考えていたある日のこと。
――私はお母さん達と一緒に王城にきていた。
私は《炎剣帝》の娘だから、沢山の噂をされている。お母さんには敵が多い。お母さんに憧れている人達と同じぐらいお母さんのことを疎んでいる人だっているのだ。
――私たちは、そういう悪意を昔から知っている。私とマリッサは攫われそうになったこともある。だから自衛するための術も手に入れている。
悪意がなくても、私がマリアージュ・フロネアの娘だというのに結果を出していないことに色々と言われたりする。
そのことに私はもやもやする。だって私は、お母さんとは違う。
お母さんは本当に異常なほどの力を持ち合わせている。それでいて性格に関しても凄く前向きで、全く持って後ろ向きな考え方になることもない。自分というものをもっているから……誰かに何を言われても何も気にしない。
お母さんはちょっと変態気味だけど、そうやって自分自身を持っている人で、真っ直ぐでとてもかっこいい。だから私はお母さんに対する憧れのような気持ちは抱いている。
だけれども、そういうお母さんに対する羨ましさとか、もやもやした気持ちとかそういうものを確かに抱いてしまっていた。
そう言う気持ちを感じている自分のことが何だか嫌だとそう思ってしまっている。
そういうもやもやした気持ちを感じながら、王城の庭園の一角でぼーっとすごす。
――そういう風にしていたら声をかけられた。
「お姉さん、どうしたの?」
座り込んでいた私が顔をあげれば、そこには一人の少年が居た。
――それが私にとっての運命の出会いだった。
女騎士が~のマリアージュとグランの娘の次女の話です。