トップ冒険者の伝説 6
治癒能力の高い熊もハサミの貫通した腹の傷をすぐに治すことは出来ないようで、熊が動くとその傷から血が流れだしていた。熊はそれを気にせずに、サクラに向かって走り出す。しかし、サクラもその突進は既に見た攻撃だったため、簡単に回避できた。さらに超能力を使い、運動能力の上限を上昇させているため、先ほどより簡単に回避できた。さらに、そのまま攻撃する余裕まであった。彼女は回転しながらハサミの刃を相手の背中に何度かぶつける。そんな力の入らない斬り方のせいで、深く肉を抉ることは出来なかったが、熊の背中には痛々しい切り傷が出来ていた。さらに、サクラはその傷がすぐには治っていないことを確認できた。若しかすると腹部を貫通した傷が治っていないために、その傷を治すことが出来ないのかもしれない。もしくは治癒能力の限界が来ている可能性もある。どちらにせよ、勝負の流れは確実にサクラに向いている。それでも、今度は油断しないように気を引き締めた。彼女は着地と同時に熊の方を見て、火の玉を作り出す。それを熊の胴体に幾つもぶつけた。もはや、熊は素早く動くこともできず、その魔法全てをぶつけられ、顔をサクラから背けて怯んだ。サクラは更に踏み込んで、前に出た。彼女は止めを刺すためにバラバラのハサミをくっつけた。ハサミを熊に向けて、開いた。そして、ハサミが淡く光った。
「ミラクルサンライトシザースっ!」
彼女の口が勝手に動き、開いたハサミが相手の相手の胴を捕らえた。そのままハサミが勢いよく閉じて、相手の銅が真っ二つになった。彼女が振り返り、閉じたハサミの先端を地面に差すと、彼女の後ろの熊が爆発した。血が飛び散ることはなく、激しい風が彼女の髪を激しく揺らすだけだ。サクラが熊を確認すると、切断したはずの体はくっついている。しかし、既に熊は絶命していた。さすがの彼女も連戦で精神的に疲れてしまい、その場に腰を下ろして息を吐く。討伐したカニと熊を見て、自身の戦闘の結果を改めて確認した。ミラクルガールの力が無ければ確実に勝てなかっただろう。変身を解かずに座りこんで休憩していたが、この森の中で休み続けられる場所はなかった。しかし、それは魔獣ではなかったのだ。それは矢だ。彼女に当てるつもりはなかったのか、彼女の目の前に一本の矢が突き刺さっていた。彼女は驚いて、立ち上がる。辺りを見回しても草木しか見えない。近くに人影も見えない。どこから射られたものなのか、全く分からない。その一本以降、矢が飛んでくることはなかった。彼女はその矢を回収して、倒したカニと熊の一部を切り取り、討伐の証にした。カニも熊も一人では持って帰ることは出来ないため、魔獣軍団と戦った時と同じく他の冒険者の手を借りることになるだろう。そうして、彼女は森を出るまでは他の魔獣を警戒しながら、森を抜けてギルドに戻った。
「この矢が、あなたに向けて射られたもの、ですか」
ギルド内。既に彼女は変身を解いていた。そして、魔獣の一部と一緒に矢のことを聞こうと、ナチュレに持っていたものを提出した。魔獣の一部は回収され、すぐに回収隊の募集依頼が貼りだされた。前と同じく、サクラのことを応援している冒険者が名乗りを上げて回収隊を作った。後はサクラが護衛と案内をするだけなのだが、肝心の彼女は受付でナチュレに捕まっていた。彼女が提出した矢はちゃんと見れば、少し特殊なものだった。その矢には羽が付いていないのだ。それでも、その矢が近づてい来るのをサクラは感知できなかったのだ。それほどの速度が出ていたのは間違いない。
「そうですか。あの冒険者が近くにいるなら、魔獣の討伐をお願いしたいところなのですが」
「その、それだけ強いってことですか」
「そうですね。サクラさんよりも強いかもしれません。少なくともサクラさんやフローライトさんと肩を並べる程度には強い人でした」
「そんな人がいたんですか。なんでいなくなったんです?」
「わかりません。突然、ギルドに来なくなったのですが、何か事情があるのでしょう」
サクラは自分やフローよりも強いかもしれないというその人物が気になっていた。もしその人が自分たちの味方をしてくれるなら、ゾディアックシグナルとの戦いも楽になるかもしれない。
「その人の名前は教えてもらえないですか」
「彼の名前はサジタリウスです。もし会うことがあれば、ギルドに顔を出してほしいと伝えてください」
それで話は終わりだと言わんばかりに彼女は席を立って、サクラの受けた依頼の処理をし始めた。まだ魔獣の本体は来ていないが、サクラがこの魔獣たちを討伐したことは本当だろうと既に処理を始めているのだ。しかし、サクラは反れどころではなかった。サジタリウスは星座の一つだ。つまりは、この強力な冒険者はゾディアックシグナルのメンバーなのだろう。それほどの強さの人が敵であるとわかってしまったのだ。もし戦わないで済むならば、そうしたい。そして、森の中で矢を射られたのは警告なのかもしれない。これ以上、邪魔をするなと言っているのだ。だが、サクラはそれでもこの町の為、と言うかこの町に住む好きな人達のために、この町に何かするなら守ろうという意志は変わらなかった。そうして、決意を新たにした彼女は回収隊と共に魔獣の回収にいった。




