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ミラクルガールは星の力を借りて  作者: ビターグラス
16 悪に沈む
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悪に沈む 4

 フィムストたちを助けた男の噂はギルド内で広がった。しかし、その噂を聞いても、その男を知っている人はいないようだった。その男自身も町の中で見るようなこともなく、単純に旅人でたまたま近くにいただけと言う結論になった。フィムストは命の恩人である彼にお礼をしたいと考えていたのだが、それも叶わないようだ。あの男性がこの町にいるとすれば、サクラと同等かそれ以上の冒険者になるだろうとも思った。




「騒々しいと思ったら、例の天使だったか」


 フローはサクラや他の人とほとんど会わずに何をしていたのかと言えば、彼女は森の中で鍛錬のために様々な魔獣と戦闘を繰り返した。おかげで、ギルド内の依頼の一部、森の中に出現する強い魔獣と言われている魔獣の討伐が彼女によって達成されていた。そして、この日も彼女はギルドの依頼と自身を鍛えるために森の中にいたのだが、彼女の前に町では見たことのない人物が現れた。その男はライオン獣人だった。銀色の体毛に包まれた体には明らかに鍛えたとわかる筋肉が全身についていた。体毛と同じ瞳が彼女をじっと見ていた。


「アクアリウスを倒したようだな。その力、俺に見せてくれ」


 獣人の上半身には何もつけておらず、パンツも戦闘には向いていないような緩いものだ。腹の辺りを紐で縛り、ズボンを落ちないようにしている程度で、服と言うのは粗末なものだ。明らかに戦闘するための格好には見えない。と言うか、日常生活でももうちょっとまともな格好をするだろう。服はそんな風だが、腕には体毛と同じ同じ色の腕輪を食めていた。どこにこだわっているのかわからないが、それが獣人の武器出ないとは言えない。そして何より、そんな恰好であるにも関わらず、フローでも理解できるほどの強者のオーラが出ていた。彼女は今、強くなるためには手段を選ぼうとしない。そのため、彼女も剣を構えて、臨戦態勢になった。それが戦闘をするという意思表示であるということは相手も理解してるようだ。相手の口角がぐっと上がり、この戦闘を楽しもうとしているのがよくわかる。


「レオ。俺の名前はレオだ」


「フローライト・キャロル」


 その名乗りの後、一拍置いて、レオが彼女に突っ込んでいく。武器も持っていないため、相手は拳で戦うようだ。そして、その拳が彼女に向かって伸びていく。彼女はそれを身軽に回避したが、単純なパンチだけの攻撃ではなかった。彼女の避けた先に既に次のパンチが向かっていた。彼女はそれを理解していても、すぐに体は動かない。何とか剣で受け止めようと剣を出すが、殴られた剣は彼女の手から離れていき、空中で空気に溶けた。


「この程度じゃないだろう。本気で戦わないと、殺してしまうかもしれない」


 相手の言う通り、彼女はこのままでは戦闘と呼べるものになる前に、痛めつけられるのはわかり切っていた。


「ミラクルガール! コール! トーラス!」


 彼女はおうし座のマークが描かれた鍵を胸に差して、開錠するように鍵を捻る。鍵は光になり、彼女の体を包んだ。そして、彼女の体から光が弾けると、ミラクルガールの服を着けていた。全体的に水色を基調としたマーチングバンドを彷彿とさせるような衣装。腰の辺りに大きなリボンを付けて、手には白い手袋を着けている。


「それが、ミラクルガールの力か。手加減できないな」


 相手の笑みは怖いものになっている。それだけ、彼女のミラクルガールとしての力をみたかったのだろう。アクアリウスもゾディアックシグナルの中では弱いというだけで一般人と比べれば、段違いに強いのは間違いないのだ。それを新米の冒険者二人にやられたというのだから、その力を見たいというのは獣人の中では当たり前の思考だった。そして、その力が目の前に来たのだから、戦うのが楽しみだという感情が抑えきれないのだ。


 フローは変身して、すぐに地面に落ちていた枝を拾い、それを鎖の付いた鉄球へと変えた。その鉄球を相手に向けて、真っ直ぐと飛ばす。相手はその鉄球を素手で抑えようとしたのか、手を伸ばす。その手に触れる前に、鉄球を進路を変えて、上に移動して、相手の手をすり抜けて、相手に向かって飛んでいく。それは確実に相手の頭に当たっていた。彼女もその手ごたえはあるのだが、相手にダメージを与えたという手ごたえは全くなかった。


「ほう。やはりミラクルガールの力凄まじいな。しかし、力を自分の物にできていなければ、意味がないのだがな」


 フローはそんなことを言われなくともわかっていた。ミラクルガールになりたてだということを言い訳にしようとは思っていない。そのための修行だ。この力に慣れて、力を使いこなすための鍛錬なのだ。彼女の目標は、変身せずとも森の奥から出てきた強力な魔獣を倒せるようになることだ。目の前の獣人はそんな魔獣は比べるべくもなく、強いことはわかっている。フローは自分より遥かに強いことも理解していた。だからこそ、この戦闘を受けたのだ。少しでも強くなるためのヒントや経験を持って帰るために。

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