アクアリウス 5
アクアリウスは宙を移動していた。サクラもフローも立ち上がるのがやっとだ。サクラはハサミを杖にして立ち上がり、何とか歩いている。しかし、その速度はアクアリウスに追いつけるような速度ではなかった。サクラは霞む視界の中、全身に痛みがあるのにも関わらず、諦めずに歩いていた。
ラピスは倒れ、荒い息をしているオブを見守っていた。彼女は何もできず、ただ見ていることしかできなかった。そして、彼女は何かの破片が近づいてくるのを見た。それが何かはわからなかった。しかし、この状況で近づいてくる者は敵と思った方が良いと思った彼女はオブの前に恐る恐る移動して、その欠片の様子を見ていた。欠片は彼女の前まで移動してきた。そして、欠片はラピスの顔の高さまで移動してきた。その瞬間、その欠片から、紫の何かが伸びてくるのを認識して、首を傾けて、ギリギリだったが回避した。ラピスはそれに焦ったが戦闘する力は彼女にはない。しかし、オブを守らないといけない。彼女がこれ以上攻撃を受ければ、死んでしまう。体の機能が停止してしまえば、いくら優秀な治癒師でも復活させることは出来ない。彼女は手に力が入る。そして、その手に握っている物を思い出した。それは鍵だ。頭に何も描かれていない鍵。その使い方を彼女は知っていた。目の前の欠片にその鍵の効果が出るかはわからないが、何もせずに壊されるよりマシと、彼女は考えた。
ラピスの目の前の欠片から再び紫の液体が射出される。ラピスはそれを体をくるっと少しだけ回転させて躱し、鍵の先端を向けて手を伸ばす。アクアリウスはそれが何かは理解していない。しかし、悪い予感がして、相手はそれを躱す。欠片は大きくないため、しっかり当てられる状況でないと鍵を差すことは出来ないだろう。そして、先ほどの間での戦闘を見ている限り、ラピスは自分が相手の液体に当たればかなりの傷を負うことが簡単に理解できていた。だから、今この状況でこの攻撃に当たるわけにはいかない。全員が倒れていて、逃げることもできない。だから、この鍵を何とか差して相手の力を鍵に封印するしかないのだ。彼女はそれだけを考えて、鍵を差すタイミングを伺っている。相手の攻撃をまだ何とか回避できている。それは既にアクアリウスが限界に達しているせいでもあった。体が瓢箪の欠片だけであるため、大量の液体を出現させることが出来ないのだ。ぎりぎりの攻防が繰り広げられていた。
ラピスはオートゴーレムであり、彼女の周りに魔気がある限りサクラやフローのように、体力切れになることはまずない。そもそも、彼女が動けなくなるほど魔気が薄い場所では生き物は生存することも危うい。町の中であれば、彼女は無尽蔵に動くことが出来る。魔法を使うことを視野に入れると、そう簡単な話ではないが、鍵を差し捻ればいいという条件であれば、彼女は回避し続ければいいだけだ。そして、彼女は徐々にアクアリウスに近づいていた。相手の攻撃を回避するたびに少しずつ前に移動しているのだ。相手もそれに合わせて移動しているが、それでもラピスは確実に相手との距離を詰めていた。彼女は無理に腕を伸ばそうとはしなかった。攻撃が来るかもしれないと思えば、手を引っ込める。彼女はただ冷静に自身と相手の動きを考えて、回避と攻撃を繰り返す。アクアリウスはその正確な動きに翻弄されていた。アクアリウスの体が完全な物であれば、すぐに気が付いたのかもしれない。正確ゆえに、読みやすい動き。だが、その動きに気が付かなければ、彼女を翻弄することは出来ないのだ。やがて、相手の攻撃回数が少なくなっていく。アクアリウスも精神的に参っているのは間違いなかった。そして、ついにラピスの持っていたアクアリウスの体に触れるどころか、突き刺さる。瓢箪の欠片は薄いため、鍵が貫通するかと思ったが、そんなことはなく、鍵の先端はいくら押し込んでも瓢箪の欠片を貫通することはなかった。アクアリウスはもはや観念したように、何も抵抗することもなかった。そうして 、ラピスは情に鍵を掛けるように鍵を捻った。その瞬間、瓢箪の欠片から光が出現して、それが鍵の中に吸い込まれていく。光は欠片から離れるのを拒むようにくっついていたが、それでも徐々に光は鍵の中に吸い込まれていった。そして、ついに光が治まり、アクアリウスの力、みずがめ座の力を封印することに成功したのだった。鍵の頭には波線が二本上下に並んでいるマークが刻まれていた。その鍵はラピスに幻影を見せた。それはサクラのように変身しているミラクルガールの姿。しかし、彼女が見た幻影の少女はサクラともフローとも違う服装をしていた。ラピスはその幻影が何を意味しているのかは直感的に理解できた。自分もサクラやフローと同じように変身して、戦うことが出来るのだと。しかし、彼女はサクラと肩を並べて戦いわけではなかった。いつでも彼女が帰ってきても一緒に迎えられるように、彼女の帰りを待つ。そして、たまに一緒に出掛けて彼女の笑った顔を見たい。そんなささやかな願いには、強い力は必要なかったのだ。だから、サクラやフローにこのことを言うつもりはなかった。




