美しさのための闘争心 5
「いい加減にしてほしいね。もう負けは決まってるんだ。負けを認めて、どっか行ってくれないか」
魔法を組み合わせた連撃を何度か受けて、受けていない攻撃も何とか防御出来ているという状況でも、彼女は立ち続けていた。ラピスもオブももう彼女を見ていられない。しかし、連撃の中、彼女は相手の液体を回収していた。連撃の中に少量ではあるが、何らかの液体を使っていたのだ。それを回収して、槍の輝きは増していた。しかし、まだ足りないのか、槍は光るだけで威力が上がったとか、何らかの技が出るという様子がない。そのため、アクアリウスもそこまで警戒していないのだ。槍が輝いているとわかるほどに光った時は、相手も警戒していたのだが、何も起こらないと見てからはそこまで警戒していない。何らかの罠である可能性も頭の隅にはあるが、それも可能性としては低いと考えている。なぜなら、使用者自身の焦りが顔や行動に出ているからだ。アクアリウスが距離を詰め、サクラの正面で、濁った緑色の液体をぶちまけた。彼女は回避しきることが出来ず、槍を前に突き出した。しかし、槍はその液体を回収しなかった。既に限界まで吸収しているということなのだろうが、それが今と言うのは中々都合が悪い。槍が回収できなかった濁った緑の液体が彼女の足にかかる。彼女はその部分に熱すぎる熱を感じていた。その部分を見ると煙を上げて、彼女の衣装を焼いているように見えた。焼いているというよりは腐食しているというのが正解なのかもしれない。彼女は足を抑えていた。立とうと思っても、立てない。足に力を入れることが出来ない槍で体を支えて立つのがやっとだ。少しでも動こうとすれば崩れ落ちるだけだろう。アクアリウスがゆっくりと近づいてきた。相手を睨んでみたが、相手は意に返していない。何もできない相手に睨まれたところで怖くはないのだ。
そんな相手は、彼女の目の前で吹き飛ばされた。
「てめぇ、いつまでも、調子乗ってんなよ。オレらがいること、忘れてんじゃねぇよ……!」
オブが政権突きの姿勢で立っていた。彼女の超能力が相手にヒットしたのだろう。それももろに当たったのだ。そのせいで、相手は壁に叩きつけられていた。壁が崩れ、土埃が舞っている。その中から、カラカラという音が聞こえた。その瞬間、煙がふわりと動いた。
「オブ姉、逃げてくださいっ!」
サクラがそう叫んだが、その言葉がオブに届く前に彼女は吹っ飛んでいた。アクアリウスと同じように壁に叩きつけられて、土煙が舞い上がる。その中から、オブの姿は見えない。少し待っても、彼女が出てくることはなかった。
「な、そんな、オブ姉っ!」
「ったく、ほんとうぜぇ。だが、これで邪魔しそうなやつはいなくなったな」
ラピスの戦闘能力は明らかにオブより低いのは誰が見てもそう見えるだろう。そして、オブのような愚かでも勇んで何かしようという性格でもない。邪魔と言っても、オブのような本当の意味での邪魔は出来ない。相手の言う通り、サクラを殺すための邪魔ものは、相手の視界の中にはいなかった。
「まだ、死んでないんです。死んでないなら、足掻いて見せます。諦めるのは死んでからでいいんですから……」
「威勢だけは変わらないな。だがな」
サクラの目の前に立ち、辛そうに中腰になっている彼女をアクアリウスは見下ろしていた。アクアリウスは彼女の頬に拳を叩き込んだ。サクラはなすすべなく、地面に倒された。槍も彼女の手から離れてからからと転がり、鍵に戻って地面に落ちた。サクラの心が折れかけていた。口ではなんとでも言えても、死を目前に恐怖が心を支配しかけていた。彼女は自身の言葉でなんとか正気を保っていると言ってもいいだろう。彼女はこんな状態でも魔法を使った。それは火の玉の魔法だ。三つほどその火球を出現させて、相手にぶつけよとしたが、全て躱される。その後も、水の魔法で相手を吹っ飛ばそうとしても効果はなかった。風の魔法も土の魔法も、相手の魔法で防がれる。いよいよ、打つ手が無くなってくる。
「エクス――」
死の恐怖に負けそうになった彼女はエクスプロ―ジョンを打とうとしたのだが、その前に彼女は再び、けっとばされる。地面を転がり、呻きながら空を見た。青い空、白い雲が少しだけある。元の世界と変わらない空。ゾディアックシグナルに挑むには力が足りなかったのだ。悔しいとは思う。
「最後はあっけないな。あれだけの力を持ちながら、ここまでとは――」
相手は何かを言っていたはずなのに、その言葉の続きが聞こえない。
「なんだよ。また、って誰だ、あんた」
「サクラの、ミラクルガールの仲間だ」
白い翼に、ワンピース。白い髪がひらりと舞っている。そして、その人物は落ちていた鍵を拾った。




