気まずい二人の訪問者
宴会は全員が楽しく酔って、終わった。まだ終わりたくないと言っている冒険者もいたのだが、サクラを見るとそう言った人も全員が帰ろうという言い出していた。それもそのはずで、少女をあまり遅い時間まで外にいるのは危ないと考えたためであった。こうして、楽しい時間は終わりを迎えた。フローとラピスはサクラと一緒に自宅に戻ることにした。オブは結構宴会でも飲んだり食べたりしていたはずだが、それでもまだ足りないのか、残ってもう少し飲んでいくと言っていた。酒の入った木製のジョッキを片手に、サクラたちに手を振って別れを告げる。
「あまり飲みすぎないようにしてくださいね。体、壊しますよ」
「心配すんな。オレの体は酒が流れてんだ。どれだけ飲んでも死なないどころか、長生きするぜ?」
そんなことを良いながら、ジョッキを傾けていた。サクラは仕方ない人だと思いながらも、オブは最初からそう言う人だったと思いなおして、店を出た。
そして、フローとは途中で別れ、ラピスと二人で帰路を行く。ラピスはサクラのことをじっと見ていた。サクラはその視線に気が付いて、首を傾げて、彼女が話すのを促した。
「サクラさんは、凄いですね。冒険者として活躍もそうですけど、町でも凄い評判です。桃色の煌めき、なんて呼ばれています。私は、そんな町の憧れのような人とは都会えるほどではありません。それなのに、サクラさんは友達と言ってくれます。私なんかが、いいのでしょうか」
サクラにはあまり彼女が言っていること、心配していることの意味が分からなかったが、彼女が友達じゃなくなるなんてことがあるなら、きっと死んでもそれを止めようとするだろう。サクラはラピスの手を取り、両手で握った。
「ラピスは私の友達なのが、嫌なんですか」
「そ、そんなことは絶対にありません!」
ラピスにしてはかなり大きな声だった。
「だったら、いいじゃないですか。それに、私はラピスのこと、頼りにしてますよ。怪我だってしますし、一人じゃ生活もできないでしょうから。最近ようやく少し一人で出歩いても買い物なんかもできるようになりましたけど。自分の身の回りのことも何にもできません。魔石の使い方だってあんまりわかっていませんし。でも、もし私が一人で全部できるようになっても、ずっと一緒にいてほしいんです」
サクラは自分が感がていたよりも多くの言葉を話していた。しかし、それこそがきっと本心なのだろう。ラピスは彼女の言葉に少し頬を赤らめていた。ずっと隣にいてほしい、なんて、プロポーズの言葉みたいだなと、そう思ったのだ。しかし、そうして、ずっと隣にいていいのなら、そうしたい。それはラピスの願いでもあった。ゴーレムである彼女は自身に心臓がないのを知っている。そのはずなのに、妙に胸が苦しい。ないはずの心臓が、きゅっと軽く絞められている感覚。彼女は握られていない方の手で胸の辺りに手を当てた。そこに鼓動はない。しかし、それを確かめても、絞めつけられている感覚はなくならなかった。その感覚を残したまま、ラピスはサクラに握られた手に軽く力を入れて、彼女の手を握り返した。サクラは片方の手を離し、手を繋いだ状態で、自宅に戻っていった。
翌日、サクラの部屋にはラピスとオブがいた。二人は黙ったまま、サクラの寝顔を見ている。オブが来る前にラピスがこの部屋に来ていた。彼女は今日は来てほしいとは言われていない。彼女の判断でサクラの部屋に来たのだ。鍵がかかっているかと思っていたのだが、不用心にも鍵はかかっていなかった。ラピスは扉を少しだけ開けて、中にいるはずのサクラに声をかけたが、彼女の返事がなかったため、ゆっくりと彼女の部屋に入ったのだが、部屋の中心に敷かれた布団でぐっすりと眠っていた。彼女を特に用事もないのに、起こすのも忍びなく、部屋から出ようと思ったのだが、鍵のかかっていない部屋にサクラ一人を残すのも危険だと思い、彼女は部屋に残ることにした。彼女はサクラを起こさない程遠くで正座で待機していた。そして、それから部屋の扉を叩く音が聞こえた。サクラはそれでも身じろぎするだけで、幸せそうに寝ているため、ラピスが扉を開くと、そこには昨日の宴会でサクラと話していた大きな女性がいた。オブの方もラピスのことはよく知らない。彼女たちはサクラの友達という共通点はあるが、話したことは一度たりともないのだ。
「あー、何だ。サクラはいんのか」
「いますけど、眠っています。鍵もかけずに眠ってしまっていたので、彼女が起きるまでは留守を守ろうと思い、この部屋にいました」
「あ、ああそうか。わかった」
「サクラさんに用事があるなら、部屋で待たれますか?」
「そ、そうだな。上がらせてもらうぜ」
そんな変な会話の後に、今の変な状況に至る。なぜか、オブもサクラを起こそうとはせず、結局二人はサクラを起こさない位置に、二人並んで座っていた。




