二つの魔獣討伐 4
サクラの周りには大量の魔獣の死体が並んでいた。死屍累々という光景がそのまま広がっていた。その中心で、サクラは辺りを見渡して立っていた。さすがにこの数を倒した彼女は疲れた顔をしていたが、それでもまだ戦えそうだ。フローもそこそこ疲れている。
「サクラ、一旦戻ろう」
サクラにそう声を掛けたのだが、彼女は森の方を見ていた。フローも彼女の視線を向けている方を見た。最初はそこには木々が生えているだけだと思った。しかし、その木に生えている枝の様子がおかしいのだ。小刻みに揺れているというか、風もないのに、その動きをするのはおかしい。木の枝に似た何か。フローはナチュレに聞いた討伐対象を思い出す。苗木のような見た目だが、苗木ではないのだ。木の枝に擬態でもしているのかと思ったが、そう言う雰囲気ではない。フローの頭の中に冷えた感覚が出てくる。それは彼女の危機を表していた。危機的な状況になると、冷静で残酷であるだけの自分が出てくるのだ。それは、自分自身を守るために必要なことだ。フローはそれをなんとなく理解しつつも、その感覚が嫌いだった。サクラに会う前の、駄目な自分なのだ。
「サクラ、逃げよう」
「無理ですね。どれだけの数が居るのか、どこに居るのか。それもわかりません。うかつに、森の中に入れば餌食です。このフローが広げた空間の中でしか相手できませんよ。討伐対象ですし、相手するしかありません。不意打ちされなかっただけ幸運でした、ってことにするしかないですね」
サクラも平気ではなかった。先ほどの戦闘で、魔法もかなり数を使った。動き回って、体力も消費した。変身しているとは言え、長時間戦闘すれば疲れるのは変わらない。しかし、逃げ切れないなら戦うしかない。
「わかった。サクラとならまだやれる。では、もう少し続けるか」
二人は戦う覚悟を決めた。彼女たちの準備が整うのを待っていたかのように、その瞬間に、木の枝の上から枝が飛んでくる。苗木もどきの魔獣、アプサプリングは一匹ずつ出てくるわけではなかった。そこにいるアプサプリングがそれぞれのタイミングを計っているのか、それともただ本能のままに動いているだけなのかはわからないが、何匹かが同時に府t理に攻撃しているのは間違いなかった。その動きは先ほどの魔獣と戦った時と比べ物にならないほどに素早い。サクラは余裕を持って回避して、次に備えることが出来ているが、フローはサクラと同じようには動けない。彼女は天使だ。空での行動ならサクラより強いかもしれないが、地上では空と同じような動きは出来ない。さらに飛びたくても今は飛べない。翼を広げ、動かす時間もこの状況にはない。翼を広げようものなら、本当にただの的になるだけなのだ。それでもフローは攻撃をぎりぎりで回避していた。それもいつまで続けられるかわからないような危うさがあった。サクラはフローを気にしていた。そのギリギリで回避しているため、いつかは攻撃を受けることは明らかだった。
「フロー、空を飛べれば少しは楽になりますか?」
「え? まぁ、地面よりは自由に動けるが、この状況では飛べないだろう」
「わかりました。囲いを作りますから、空に上がってください」
フローの返事を待たずに、サクラは土の壁で彼女を囲んだ。フローは一瞬戸惑ったものの、すぐに翼を広げて、その囲いから空へと上がった。しかし、意識をフローにやったため、サクラには隙が出来ていた。その隙の間にも相手は攻撃を止めることはない。サクラに接近するアプサプリング。しかし、その魔獣を既にフローは視界に収めていた。
「風よ! ウィールウィンドキルッ!」
フローの周りから影が吹き、その風はサクラの元に一瞬で到達する。その風が彼女の周りを回り、風の壁を作り上げた。その壁が出現したところで止まることのないアプサプリングは壁に突っ込んで、みじん切りになった。風の壁に切り刻まれたのだ。サクラに向かっていった何匹かのアプサプリングは風の壁に突っ込んで、切り刻まれていた。フローの唱えた魔法は本来、誰かを守るための物ではない。対象を風の渦に閉じ込めて、出ようとしたものが体を切り刻まれるという、相手を拘束する魔法なのだ。しかし、それは外からも何者も入れないというのと同じだ。サクラが体勢を立て直したところで、風の壁は消失した。そこまで長い時間出現していたわけではないが、体勢を立て直すには十分な時間だった。サクラは向かってくる魔獣を回避してはそこら辺に適当に土の銃弾を放つ。一発ずつ売っているわけではない。フローのいない場所に、ショットガンのように球を散らばるように放つ。その攻撃で魔獣は徐々にその数を減らしていた。しかし、動きが素早いせいで、全ての弾丸を当てるというのは難しい。それに回避しながらだと余計難しいのだ。彼女はそれでも攻撃を続けるだけだ。




