盗賊討伐依頼 3
フローは相手の短剣を棒で軽く弾く。そのまま相手の手首の辺りを棒の先端で思い切りついた。しかし、相手は短剣を離さない。短い棒では威力が乗りきらないのだ。しかし、長くすれば相手の攻撃を捌くことは出来ないだろう。フローは大抵の戦闘は剣で勝ってきた。鉄球を使ったのもサクラと戦ったあの日が初めてだ。そして、彼女はそれ以外の武器の使い方はあまりわかっていない。そのため、再構築でその武器を作ったところでうまく使うことは出来ないのだ。
彼女は視野が狭まっていることに気が付いていない。彼女の戦闘方法に魔法の選択肢が出てこないのだ。彼女がそれに気がつけば、勝てる可能性があるだろう。彼女は相手の攻撃を捌くことしかできていない。この状況が続くということは単純に体力勝負と言うことになるだろう。そして、こういう戦闘に慣れていないのはフローの方である。戦闘が長引けば、長引くほどフローが何らかのミスをする可能性が上がる。そして、一つのミスで彼女が負けるのは明らかだ。
サクラはその戦闘を冷静に見ていた。テントの入り口の辺りから中を覗くようにして見ているのだが、サクラもこのままだとフローが負けるだろうと予想していた。そして、既にいつでも手を貸せるように変身までしていた。テントの外で変身したため、フローは気が付いていない。そもそも、彼女にはそんな余裕はないだろう。サクラはいつでも飛び出せる状態だが、できる限りフロー自身の力でどうにか勝ってほしいという願いもある。それのせいですぐにフローの前に立つことが出来ないのだ。ずっと手を握り飛び出したい衝動を抑えていた。
「いい加減、諦めなよ。僕らは不滅なんだ。僕らを潰そうとした冒険者は数十人いた。でも、全員返り討ちにあってもらったよ。君たちも同じ道を辿ることになる」
「……悪いが、私は諦めが悪いらしいんだ。そのせいで、堕とされたんだが」
「そう。ならば、そろそろ終わりにしよう」
相手はフローを蹴り飛ばそうとしたが、それを棒を横にして攻撃を防いだ。しかし、衝撃までは抑えることは出来ずに、バックステップでその衝撃を和らげる。しかし、相手との距離が空いてしまった。棒はそこまで届かない。相手は終わりにすると言ったのだ。防ぎきることが出来れば、勝てるかもしれない。しかし、それを防ぎきれるのかはわからない。相手が短剣の先を彼女に向けた。
「風よ、フライエッジ」
彼の詠唱と共に、薄緑色のナイフの像が浮かび上がる。その数は三本。彼女はその魔法を見て、自身の行動の選択肢に魔法があることを思いだした。そして、彼女に魔法を使うのは悪手であった。それを知っているのはその場ではサクラだけだっただろう。
魔法のナイフは彼女に近づいて、一回ずつ振られるだけで消えた。速度は速いが回避できない程の速度ではない。
「水よ。アクアエッジ」
続けて相手の周りに水でできたナイフが五本、出現する。風のナイフと同じように一回ずつ振るわれるだけで、魔法は消失する。そもそも、魔法は起動、過程、結果をイメージすることで魔法が発動する。そのため、長い時間魔法を維持するというのは難しい。そのため、ナイフの魔法は一振りしかできないのだ。そのまま直線で飛ばすよりは軌道が読めないというだけだ。よく見ていれば回避は難しくない。しかし、連撃と言うのが彼女を追いつめる。既に背中の傷の痛みが麻痺し始めている。痛みを感じることが出来なくなるといよいよ、体力も底まで来ていると考えた方が良いだろう。
「土よ、クレイエッジ。火よ、ファイアエッジ」
続けて、合わせて十の魔法のナイフが出現する。先ほどまでとは違い、赤と黄のナイフが同時に振られていく。彼女はそこで両の掌を向き合わせた。
「風よ。輪を広げ、魔を祓え。ウィンドフロウっ」
彼女がそう唱えると、向き合わせた両の掌から風がフローを中心に広がる。その風に煽られた魔法はかき消えた。十のナイフは全て、消失した。相手にとってはナイフの魔法こそが切り札なのだ。それがこの程度で終わるわけがない。
「風よ、水よ、土よ、火よ。チェインカラーエッジっ」
相手の周りにいくつものナイフが出現する。そのナイフの先端は全て、フローを狙っている。フローはその程度の魔法では怖がることもない。ウィンドフロウが相手の魔法を全て消失させてしまった。魔法をかき消すような魔法を使う者が居なければ、その無数とも思える魔法を回避、防御するのは難しいことだっただろう。しかし、根本的にその魔法が消えてしまっているのだ。攻撃する前に魔法が無効化されている。フローは相手のナイフの魔法以外にも何か手段があるのかと警戒している。サクラと戦った時のように、いきなり読めない行動をされるかもしれないと警戒したが、相手は懲りずに魔法のナイフを出現させ続けているだけだ。相手の表情をよく見れば、すぐに相手がそれ以上の手段を持っていないことに気が付いただろう。誰にでも効くと思っていた魔法が効かないのだから、焦りも顔に出ていた。フローは武器を鉄球に還る。その鉄球を遠心力を使って相手の胴へ向けて飛ばした。焦る相手は既にその鉄球にすぐには対処できず、ギリギリで回避した。鉄球を引いて、鉄球の軌道を変えた。相手の視界外にあるその鉄球はそのまま相手の背中に思い切りぶつかる。骨が砕けると思えるほどの衝撃と痛みが相手に襲い掛かる。抑えきれない衝撃が相手の体から空気を押し上げた。
「ぐっ、がはっ!」
相手は前に倒れ、それ以降は動かない。鉄球がフローの足元に転がってくる。相手の魔法は既に出現しなかった。フローはようやく勝利したのだ。




