盗賊討伐依頼 2
フローは男がテントの中に入っていったのを見た。テントの中では翼を広げても邪魔なだけなので、翼を閉じた。テントの中に入ると、布とクッションを組み合わせた寝床があった。そこで雑魚寝でもしているのだろう。それ以外は何もないはずなのに、男はどこにもいなかった。周囲を見渡してもどこにもいない。彼女が男を探していると、上から何かが落ちてくるのを感じた。しかし、回避するには時間が足りない。大きなテントと言っても、天井が凄く高いというわけではない。彼女は背中に熱と強い痛みを感じていた。
「っ!」
彼女が振り返るとそこには男がいた。彼女の剣のリーチの中にいるため、彼女はその剣を振るうが、相手は後ろに飛んだ。そして、テントの壁に足の裏をくっつけると、その壁に立っていた。テントの壁とは言っても、布製で、そこに体を支える能力はないはずだった。つまりはそれが相手の超能力というわけなのだろう。その超能力で天井に立ち、フローが下に来たところで落ちてきて、攻撃したのだろう。フローは背中の熱と痛みを気にしないようにして、男を睨んでいた。翼に傷はついていないものの、翼が揺れるだけで翼を支える筋肉が動いて、傷が開くのだ。彼女は今、激しく動けないというわけだ。攻撃するにも回避するにも、体を動かさなくてはいけない。体を動かすということは背中に生える翼が動くということだ。そして、そのせいで起こる痛みにどうしても動きが少し鈍ってしまうのだ。さらに、傷が開くと血が流れる。血を失っても死ぬ可能性がある。サクラはきっと本当にギリギリになるまで助けてくれないだろう。これは冒険者として一人前になるための依頼だ。助けてと言えば、助けてくれるだろうが、彼女にそんな情けない姿を見せるのは彼女のプライドが許さなかった。
「短時間で勝てば、いいだろう」
彼女の呟きは誰にも聞こえていないだろう。しかし、その呟きだけで、彼女は生きる覚悟を抱くことができた。好きな人が見ているのに、最初の任務で死にましたなんて情けないところは見せられない。彼女は持っていた剣を鎖で繋がれた鉄球にした。持ち手を振り回し、鉄球を相手に向けて投げつける。遠心力が乗った攻撃だが、直線的過ぎた。相手は簡単にその攻撃を回避し、テントの中を移動する。壁を走り、天井を通って、彼女の隙を伺っているようだった。フローはそんなことは考えず、鉄球を振り回す。テントの壁部分が破り、相手の行動範囲を狭めていく。天井に逃げれば、天井を破る。しかし、それでも相手は焦る様子はない。まだ何か隠し玉があるのかもしれないと警戒したその瞬間に、男は天井を蹴り、フローの真正面から向かってきた。彼女の正面で地面にピタリと止まり、相手の短剣が彼女を肩から斜めに振るわれる。フローは鉄球を繋ぐ鎖の部分でその攻撃を受けた。彼女は無傷ではあるが、どうしても動きが鈍くなってしまっている。動きが鈍くなってしまうと、そこに隙が出来る。相手は短剣を振った後、フローに回し蹴りを当てた短剣とは違い、鎖で完全に防げずに二歩ほど後ろに下がってしまった。その距離を一気に詰められ、短剣が連続で振り回される。相手の短剣に触れることが出来れば、彼女の超能力を使って分解することもできるだろうが、その短剣に触れること自体が難しい。動きを止めることが出来ればいいのだろうが、その手段を彼女は重い付いていなかった。
彼女の再構築の超能力は、フロー自身が知っているものにしかならない。それも彼女の手から離れれば、分解してしまうため、動物に使うようなネットは使えないと考えている。鞭も相手の動きを完全に封じることは出来ない。そもそも、捕まえたところで近づけば相手の短剣の餌食になるだけだろう。彼女は考えれば考えるほど、この現状を打開できる策を思いつけなくなっていく。それと比例するように、自分を含めた全てがゆっくり動くようになる。頭の奥が住んでいく。彼女は鉄球の鎖を握ったまま、その武器を棒に変えた。槍の刃部分をなくしたものだ。彼女の作った棒は手から肘くらいの長さまでしかない。しかし、短いことで取り回しがしやすく、短剣の動きにも付いてくことが出来るようになった。そして、相手の短剣の動きを理科視してきたところで、彼女も攻撃を挟んでいく。しかし、相手は彼女の攻撃も器用に避けてしまう。天井や壁に立てなくとも、その技術はすさまじいものだ。依頼が残り続けていたのは、きっとこの男が討伐できなかったからだろう。相手の短剣の連撃は未だ続いていた。防ぎきるにも限度がある。彼女も疲労しないわけはない。何か打開策はないものかと、彼女は澄んだ思考の中で改めて考え始めた。




